大石裕一

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大阪府立大学工学部数理工学科卒業。iOSアプリ開発専門の(株)フィードテイラー代表取締役。IT企業ながら残業禁止で副業を推奨する考え方に注目を集める。ハフィントンポスト日本版で副業についてブログ執筆中。代表アプリは天気予報アプリの「そら案内」など。100%子会社のSYNCNEL(株)では法人向けファイル共有サービスを開発/販売している。

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テクノロジーは手段にすぎない。技術に振り回されるな


――日本の電子書籍業界の問題点はどこにあると思いますか?


大石裕一氏: 私は出版の専門家ではないのでわからないんですけど、日本語による出版物というコンテンツを、電子と出会わせて、どうしたいのかっていうビジョンが業界にないと思うんです。日本という国と一緒だと思うんですけど、将来的にどうしたいのかが全然わからない。EPUB3.0がドラフトからきちんとした仕様になりましたと言っても、急激に進んだのかというとそういう感じは全然ありませんし。いまアナログに持っている本はどうするのかというソリューションが何も与えられていないんです。それで、「自炊屋、いい加減にしろ、違法だ」みたいな声を業界声明として投げていたりするわけじゃないですか。結局、ユーザー不在なのではないでしょうか。ユーザーが何を望んでいるかっていうことと、読書の電子化で何がしたいのかということを考えていないような気はするんですよね。電子化をやらなければいけないから、仕方なしにやっている感じがぬぐえないのだと思います。

――電子書籍の話題といえば、「紙vs電子」といった対立の構図が描かれることが多いですが、紙の本はどうなっていくとお考えですか?


大石裕一氏: 本を読んでいる人たちは、結構アナログのままでいいっていう人もいるじゃないんですか。私も一部の書籍についてはアナログのままの方が、むしろ良いです。どちらかというと大型の雑誌とか配布物、定期刊行物系は紙よりも電子の方が良いと思っています。でも、そういう人たちがいるっていうことも、あんまり知らないか真剣に考えていない気がするんです。決して本好きな人が全部アナログを否定しているわけではないんです。デジタルに何を求めているかというところを、きちんと分析せずに語っているだけのような気がするんですよね。

――そういった現状を、技術でカバーするような解決点、突破口というのはあると思いますか?


大石裕一氏: 多分、技術ではないんだと思います。技術は、こういうものを作るっていうビジョンがあって、それを実現するために必要な道具という観点なんですね。うちのプロダクトの発想も全部そうです。ビジョンがないところに新しいテクノロジーをかぶせても解決しないと思うんです。何をしたいのかが不透明なままEPUB、EPUBと言ったところで何も確立しないんです。何かいまEPUBが救世主みたいな感じでとらえられたりするじゃないですか。でもそうじゃないっていうことに気づかれたほうが良いと思います。日本には新しいテクノロジーで作ったから良い、と考える企業が多い気がします。Android対応洗濯機とか最たる例ですよね。ユーザー不在の議論がまん延しているんだろうと思いますね。



PDFとEPUB、新しいリーディングの可能性


――EPUBについて、ブログで「全部PDFで良いじゃないか」というご発言をされていましたが、あらためてEPUBについてのお考えをお聞かせください。


大石裕一氏: さんざん批判していますが、私はEPUBを全否定しているわけではなくて、EPUBにも興味はあります。技術のバックグラウンドを考えたらEPUBっていうのはこういうリーディングを提供すべきでしょう、ということを考えて何かを作ると面白いかなとは思っています。私はページにとらわれたEPUBの概念に批判的な考え方をしていて、それであればPDFでスキャンしたものでいいです。ページという概念をなくしたEPUBのとらえ方っていうのはありますよ。特に技術書なんかはその方が読みやすかったりします。O\'Reillyさんとかがそうですけど、HTMLでダーッと長いページを単に公開しているような電子書籍コンテンツのサンプルの提供の仕方もあります。EPUBが行こうとしている方向はページの概念に囚われない読書体験の世界なんじゃないかなと思っています。

――Book+の今後も含め、PDFでのリーディングに関して新たな展開は考えていますか?


大石裕一氏: 最初にお話したエンタープライズという観点では、弊社は国産のPDFエンジンというのを持っているというポジションにありますから、他社さんよりも良い企業向けPDFのビューワーを作れるという自負があります。それを広げていきたいと思っています。コンシューマー向けの話では、PDFをベースにしたソーシャルリーディング的な世界を、技術的な検証も含めて模索してみたいと思っています。みんながそろってPDFを持っているという状況にして、コンテンツの一意性を担保すればPDFベースでソーシャルリーディングができるんじゃないかっていう構想はあるんですね。難しくて、なかなか進んではいないんですけど。理想は、著作権違反にならないように、例えば日経ビジネス最新号を自分で裁断、スキャンして、iPhoneやiPadの中に取り込んで、クラウドと連携して、そこで何月何日号と検索をすると、その号のメタデータは既にクラウドにあって、それを自分の持っているPDFとひも付けるみたいなことをしてやると、同じようにスキャンして何かしらのブックマークを付けた人のデータが自分の手元のPDF上に表示されるというユーザー体験ができたら面白いなあと思っているんですよ。PDFがページで構成されて、何ページ目に何をしたっていう情報がきちんと伝わればそれで良いと思っているんですね。

――Book+もこれから進化が期待できるということですね。


大石裕一氏: いまは、安定性を増すとかバグフィックスばっかりをやっていますが、Book+が完成しているとは思っていません。メジャーバージョンをアップするような大きな機能拡張を、新たな読書体験の提供ツールと位置付けて進化させたいなあというBook+2的な構想はあります。われわれもまだわかっていないところもあるので、試行錯誤しながら、「こんなものできちゃったんですけど」という出し方ができれば面白いかなとは思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『開発者』

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