堀田隆介

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スキャンしたコミックや雑誌をiOS上で読むためのアプリ『ComicGlass』を開発、iPhoneアプリ有料総合1位獲得を獲得。この他にも、子供と一緒に寝てしまうのを防ぐ『添い寝アラーム』、「鉄道唱歌」の歌詞をいつでも参照できるようにした『鉄道唱歌』、インターネット接続に使っているGlobal IPアドレスを表示する『Global Address』など。
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ComicGlass

スキャンしたコミックや雑誌を快適に閲覧するためのアプリです。PDF形式、ZIP形式のファイルをそのまま閲覧できます。

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「自分で使ってみて、使いやすいように」が
アプリの基本コンセプト



スキャンしたコミックや雑誌を、iPhoneやiPadで手軽に読むことができるアプリ「ComicGlass」が、ページ送りの速さ、文字や絵をきれいに表示する「画像最適化機能」などで高い評価を得て、人気を集めています。開発者である堀田隆介さんに、プログラミングとの出会い、ComicGlass開発のきっかけ、アプリ開発に対する想い、電子書籍の未来に関するお考えなどをお聞きしました。

ComicGlass開発のきっかけは、漫画の自炊から


――まずはComicGlassの開発に関してなど、お仕事の近況を伺えますか?


堀田隆介氏: プログラミングは趣味で、本業は別にあるんです。学生のころから趣味で日曜プログラマーみたいなことをしていまして、ComicGlassはその流れで作っているんです。こういうソフトを作る人は、趣味でやっている人がほとんどだと思いますよ。

――差し支えなければ、本業について伺ってもよろしいですか?


堀田隆介氏: 自動車関連のエンジニアです。基本的にはソフトウエアのプログラムというよりは、設計みたいなことですね。あまり詳しくは言えないんですが、ちょっと前までは、アルゴリズムというか、信号処理みたいなことをやっていました。入ってきた信号を加工して、アウトプットする部分です。

――とはいえ、ComicGlassが与えた影響を考えると、趣味以上のものになっていると思うのですが、開発のきっかけはどういったことだったのでしょうか?


堀田隆介氏: もともと漫画が好きで自宅に本がたくさんあったので、スキャンをし始めたんですよ。それでパソコン用のコミックビューアーを作ろうと思ったことがきっかけです。当時、パソコンの画面も小さくて、できるだけその画面を有効に活用しようというソフトを作ったんですが、iPhoneが出た時に、「こんなにサクサク動くんだ、これは使える」と思って、アプリを作ったんですね。

――漫画は何冊くらいお持ちだったんですか?

堀田隆介氏: 1000冊以上はあって、スキャンするのが大変なのでほとんど捨ててしまったんです。でもどうしても取っておきたいものは、スキャンしましたね。家を建てる時に、場所ってすごく大切だなと思ったんです。本を置くために部屋を作ったら、ものすごい金額がかかりますよね。そう考えると、どんどん処分していかないともったいないなと思って。この部屋を作る時に、本棚がないというイメージがあったので、できるだけ本を買わないようにして、買ってもスキャンして捨てるように気をつけています。今はまだいっぱいにならずにすんでいますね。たまに、過去に処分した絶版になっている本を、古本で買ってスキャンすることもあります。

――古本を探す際は、古本屋さんに行かれるんですか?


堀田隆介氏: Amazonのマーケットプレイスが一番効率良く発見できますね。古本屋さんに行って自分の読みたい本を探すのは、なかなか困難ですので。Amazonだとへたすると定価より高いのもあったりするんですけどね。

――今でこそ「自炊」などと呼ばれて広く行われていますが、スキャニングの苦労はありましたか?


堀田隆介氏: やっぱり時間がかかって、面倒くさい。最初はできるだけページ数が少ない本や、雑誌の一部分を、普通のフラットスキャンで丹念にスキャンしていったんですけど、今は富士通のScanSnapというドキュメントスキャナーを使っています。

ユーザーの意見も反映。もっと速く、読みやすいアプリを。


――ComicGlassはどれ位の期間で作り上げたのですか?


堀田隆介氏: iPhoneのプログラムを作ったのは、このアプリが初めてで、8ヶ月位はかかっていると思うんですが、1日あたりの作業時間は短いんです。最初のバージョンは、もともと自分が使えれば良いかなという位で作って、公開するかどうかも決めていなかったんですけれど、公開してみたら評判が良かったので、色々な方の意見をもらって改良していったら今のようになりました。

――ユーザーの意見を参考にしたのはどういったところがありますか?


堀田隆介氏: 自分の知らないようなことがたくさんあったので、ユーザーに教えてもらうことがいろいろありましたね。例えば、iPhoneは横にすると画面が回転しますが、回転をロックするっていうのは基本中の基本だったらしいんですけど、実は知らなかったんです。寝転んで読む人が結構多いみたいで、自分はそういうことはなかったんですよね。当時、本体はロックできなかったので、アプリをどうしてもロックする必要があったんですね。だから最初のころのユーザーさんにはお世話になりました。メールを頂いたり、「2ちゃんねるでたたかれてるぞ」みたいに言われて、サイトを読んでみたりとか。

――2ちゃんねるなどの意見もチェックされているんですか?


堀田隆介氏: 最近は心が折れるのであんまり見てないですけれど(笑)。2ちゃんねるよりもAppleのレビューが一番怖いですね。ちょっと口には言えないですけど、いろんなこと書いていただいて。良いこともたくさん書かれていて、非常に役立つこともあります。もっと返事ができたらなと思うこともあるんですけれど。

――あらためて、ComicGlassの力を入れた点や、特徴などをご紹介いただいてもよろしいですか?


堀田隆介氏: これは最初のバージョンからなんですけれども、ページ送りをとにかく早くしたかったので、バックグラウンドで次のページを読んでおいて、すぐめくれるようにして、読んでる時にストレスがないようにということを、一番のコンセプトとしてやっていますね。

――今までのPDFリーダーなどに、煩わしさを感じられていたのですか?


堀田隆介氏: 昔リーダーは特に、ページを送ってから読み込み始めるんですよね。あと、当時iPhoneって解像度が悪くて、非常に見づらかったので、できるだけ小さい画面でもきれいに見えるようにというところをこだわって作りました。

――ほかにも見開きページを分割して表示可能にするなど、iPhoneで読む際に利便性の高い機能を備えていますが、そういった機能をつくったのはなぜでしょうか?


堀田隆介氏: 最初のころは普通のスキャナーでスキャンしていて、本が見開きになっていましたので、分割して自分で使えるようにしていったり、ユーザーからよく出る意見を取り入れて改良していきました。



アプリはまだまだ発展途上。今後も改良を続ける。


――開発にあたって技術的に苦労した点はどういったことでしょうか?


堀田隆介氏: iOSバージョン5が出た時に、Appleの仕様が大きく変わって、それに合わせるのに非常に苦労しましたね。Appleから、「こういう風に仕様が変わるから、合わせてくれ」って電話がかかってきたんですよ。

――堀田さんに直接電話があったのですか?


堀田隆介氏: はい。すごい容量を使うアプリだからだと思いますが、アプリ内にバックアップデータがたくさんあると、破たんしてしまうのであんまり置かないでほしいということで、直してくれという話が来ました。審査に通らなくなってしまうので、直さないといけないんですけど、直すと不便になってしまって。それをどう回避するかというのが、一番苦労したところですね。

――当初、公開を考えていなかったとおっしゃいましたが、有料で公開するにあたり、苦労したことはありますか?


堀田隆介氏: サポートが大変です。無料で交換していた時は、とりあえずダウンロードしたけど、使い方がわからないという人がたくさんいて、説明を全て読んでもらうために有料にしたのですが、お金をもらう以上はやっぱりサポートをきちんとしないといけない。わかっていないと使えないところがあるんですよね。そこが一番苦労するところですね。使える人が使えば良いか、という感じで始めてしまったので。

――今後のアップデートの予定としては、どのようなことを考えていますか?


堀田隆介氏: 今のバージョンが4.8で、4.9を作っているところなんですけども、まだまだできてないところがたくさんあります。今取り組んでいるのは、当初は、外出先で読むことを考えていたんですけど、家の中でも読まれることが多くて、自分も家の中で読むようになったので、ダウンロードしなくても読めるということを考えています。あとは漫画以外に使えるようにしたいですね。小説などはもう優れたビューアーがあるんで、今さら僕が何かすることはないんですけど、例えば参考書とかに使えるようにしたいなって思いますね。スキャンしたいものって、漫画と、技術書とか参考書が多いと思うんですよね。

――小説などテキストだけのもの、あるいは漫画と比べて、参考書などにはどのような機能が必要なのでしょうか?


堀田隆介氏: 例えば、「ここまで覚えた」というチェックを入れたりすることができたら良いなと思っています。

「遊び」から始まったプログラミングの道。


――プログラミングを始められたきっかけを幼少期にさかのぼってお伺いしたいのですが、小さいころからコンピュータへの興味があったのでしょうか?


堀田隆介氏: そうですね。ファミコン世代なので、ファミコンのゲームを作りたいなというところに興味を持って、遊んでいたっていうのが最初ですかね。本格的にやり始めたのは、大学になってから。ほとんど独学でした。本はあんまり読んだことはないですね。とにかく作りたいものを作るという感じでやってきました。

――最初のプログラミング体験はどのようなものでしたか?


堀田隆介氏: ふたつあるんですけど、N88ベーシックっていうのと、MacintoshのHyperCardっていうものです。あれが高校生位のときに一番遊んだツールですね。本当に最初は幼稚なもので、全然技術もないし、アイデアがあるわけでもないので、本当に内輪で遊んでいただけですね。

――初めて使われたマシンは覚えてらっしゃいますか?


堀田隆介氏: もともとは父がMacが好きだったようで。Macintosh IIsiというマシンですね。

――ご自分がプログラミングなどが得意だと感じられたのは小学生位のころですか?


堀田隆介氏: いえいえ。楽しいと思ったのは高校生か大学生位ですね。自分は全然勉強ができない子で(笑)。遊んでばっかりいたのが、たまたま良い方向に行ったんでしょうね。

――プログラミングする上で、心がけていることや、大切にしていきたいことはありますか?


堀田隆介氏: 基本的に実用性っていうところが自分にできる唯一のところです。あまり高度な技術を使うことはできないんですよ。日本の製造業っぽいんですが、細かい改善の積み重ねで、自分で使いやすいように、ちょこちょこ変えていけば、自分と似たような人には使いやすいかなあという感じになってくるんですね。本当はもっとシンプルで、アイデア一発勝負で「すごい、このアイデア」っていうかっこいいことをやりたいんですけど。

添い寝アラーム、カメラ用アプリ、アイデアは「必要」から。


――実用性というお話がありましたが、子供と一緒に寝てしまったときに、自分だけが起きるための「添い寝アラーム」は、まさにそういった観点で作られたアプリでしょうか?


堀田隆介氏: そうですね。子供が今3歳なんですけど、寝かしつけてる時に、一緒に寝てしまうんですね。そうするとComicGlassの開発ができないんですよ。これはまずいなと思って作ったんです。

――添い寝アラームの反響はいかがでしょうか?


堀田隆介氏: 結構コンセプトが面白かったみたいで、色んなところで取り上げていただいて。ダウンロードの数は全然ComicGlassにかなわないんですけど、レビューサイトなどで面白いって言ってもらえたので満足しています。

――今後、作ったら便利だな、と思われるアプリはありますか?


堀田隆介氏: カメラが好きで、フィルムカメラを使おうかなと思った時があったんですが、露出が合わせられないんですね。露出計を使うんですけど、重いじゃないですか。だからiPhoneでできたら良いなということで、露出計アプリというのを作ろうと思っています。iPhoneはカメラが付いていますよね。カメラをかざすと内部のパラメーターが自動的に変わりますので、それで露出を逆算するアプリなどはあると思うんですけど、ちょっと物足りないかなというところがあるので、使いやすいように作ろうかなと思ってますね。本当に自分が作りたいなと思ったものを作って売っている感じで、脈絡がなくて、全然戦略的じゃないですけど。

――既に世の中に似たようなものがあっても、物足りないなとか、もう少しこうだったら良いのにというのがきっかけになることが多いのでしょうか?


堀田隆介氏: 大体そうなんですけど、いつもリサーチ不足ですね。ComicGlassを作る時も、ほかのアプリを全然調べずに作り始めてしまって。やっと完成したと思って知り合いに見せたら、「○○があるじゃん」って言われて。でも作ったから良いかっと思って、続けていましたね。

電子書籍は普及する方向しかない。仕組みの整備を。


――電子書籍のデバイスがたくさん登場していますが、堀田さんご自身はどのようなデバイスを使われていますか?


堀田隆介氏: 外出先で使うことが多いので、iPhoneですね。家でもずっとiPhoneで、自分のアプリで見ていたほうが楽だったりするので、iPadも僕はあんまり使わないんですよ。あんまりほかのデバイスは使わなくなりましたね。

――電子書籍によって、大きく生活が変わったり、読む環境が変わったりということはありますか?


堀田隆介氏: 漫画を読むようになりましたね。一回読まなくなったんですよ。家で読む暇がなくて、しかも電車の中で大人が漫画を読んでいるのはちょっと恥ずかしいじゃないですか。

――ちなみにここ最近で読んだ漫画でも本でも、面白かった作品はありますか?


堀田隆介氏: 最近読んだ本は『うさぎドロップ』(祥伝社)という漫画ですが、最近知って読んだら、すごく面白かったですね。ただ、まだスキャンしてないんです。大きな本はちょっと値段が高いんで、スキャンするのがためらわれるんですよね。

――とすると、紙と電子を同時に発売されたほうがありがたいというお考えもありますか?


堀田隆介氏: そうですね。現状だと、電子書籍をどこで買っていいのかわからないですよね。もっと便利にならないと、スキャンしたほうがましかなっていうところがあります。普通の人はスキャンはなかなかできないと思うので、そういう意味では電子化していくのは良いとは思うんですけど、電子化そのものよりも、どういった仕組みになっていくかってほうが重要なんでしょうね。

――電子書籍の可能性は、今後も広がっていくと思いますか?


堀田隆介氏: 今始まったばかりですから、普及する方向にしかいかないと思います。特に漫画なんかは大人が読めるようになるかと思います。多分大人になると漫画って読まなくなりますよね。本棚に置きづらいとか、外で読むのは恥ずかしいとかがあると思いますが、もっと電子書籍でカジュアルに読むことも増えるのかなと思っています。ライトユーザーの方であれば、一回読めば良いとか、はやりのものが読めれば良いというときは電子書籍が良いですし、逆にヘビーユーザーの方も、本棚がいっぱいになるので、電子書籍が要るのかなと思っています。完全に紙がなくなるとは思わないですけど、長期的に見れば普及していくんじゃないでしょうかね。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『開発者』

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