多くのアプリが 「自由研究枠」で開発された。
――インフォシティは一般ユーザーに向けたアプリでも人気を集めていますが、会社として良いソフトを開発するために心がけていることはありますか?
岩浪剛太氏:
うちの1つの枠組みとして、仕事が空いた時は自由なものを作っていいというのがあるんです。その「自由研究枠」で色んなものを作っています。半分くらい倫理的にまずくて公開できないんだけど(笑)。自由研究の成果を学芸会で発表するみたいな感じですね。
――例えば2ch等の掲示板ユーザー向けの「Balloo!」や「BB2C」等のアプリでは、説明書がなくても感覚的に使えるユーザビリティが評価されましたが、どのようなお考えで開発されたのですか?
小山忠義氏: BB2Cでは、頻度の少ない機能は多少使いにくいところに押し込んで、頻度の高い機能を、目をつぶっていても実行できるようにしました。僕はバイクに乗るんですが、バイクの操作って、シフトなんかも足で上下させて、1と2の間にニュートラルがあって、というのは考えてみるとおかしいんですけど、慣れれば便利ですよね。そんな感じの操作を狙っていましたね。
――今、開発の現場では頻度の分析などはユーザビリティエンジニアなどに分業化されていますが、完全に小山さんお一人で開発されたのでしょうか?
小山忠義氏: そうですね。これがいいかなと思ったアイデアを人に作ってもらうと、駄目だった時にいろいろ面倒じゃないですか。でも自分でやれば「一晩無駄にしたな」くらいで済みますからね。ただ、BB2CもbREADERもアイコンばっかりで説明もほぼないんですけど、もっとガリガリに説明を付けて、ユーザはただここを押せといわれたから押しました、みたいな感じで使えるものにした方がもっと利用者のすそ野は広がるのかなっていう気が最近はちょっとしています。でも1日に何時間も使うアプリがそれだと、ちょっとうっとうしいですよね。
電子書籍にテキストファイルの利便性が残ってほしい。
――bREADERのお話が出ましたが、電子書籍アプリを開発されたきっかけもお聞かせください。
小山忠義氏: bREADERは、BB2Cを作ったのと同じころ、iPhoneを触り始めてすぐに、青空文庫アプリを作ってみようということで、とりあえず作ったんですが、もうかる手段がないということでいったんお蔵入りにしたんです。後で、有料のものも売れているってことで、多少の売れ行きはあるんではなかろうかということで、改めてやってみようという感じです。
――お蔵入りになっていたということですが、岩浪さんがbREADERに可能性を見い出したのはどのような部分ですか?
岩浪剛太氏: 「Peece.TV」っていうYouTubeとかをダウンロードできるソフトを出してみたら、発売して3日か4日目くらいから10日間連続、売り上げが1位だったっていうことがあって、有料もいけるっていうことでお蔵入りしていたアプリも出していったというのがあります。それとbREADERの大きなテーマがもう1つあって、EPUBを縦書きにする機能をいれて作ったことです。EPUBが縦書きになるよっていう話は当時からあったけど、実際縦書きができたのが2011年の10月です。bREADERは、それより前から縦書きにしていたということですね。
――bREADERの開発で最も苦労されたのはどのようなことですか?
小山忠義氏: 他のEPUBはみんなWebKit、あるいはdominoエンジンとかを使っているけど、bREADERは全部スクラッチで書いたことですね。CSSのパーサ、SVGのレンダラーにしても全てスクラッチです。Appleの支給品コードなんて全然使ってなくて、完全に無視して作りました(笑)。
――bREADERは動作から見て、標準のコンポーネントを一切使ってないことが明らかですよね。お一人で書くんですか?
小山忠義氏: そうですね。「1ピクセルずれている」というのを直していって。
岩浪剛太氏: 本当は仕事が空いた時にするものなので、人をアサインするなんてもってのほかですよ(笑)。
――アプリ開発に携わる中で、電子書籍の将来はどのようにご覧になっていますか?

小山忠義氏: 僕の興味の対象は昔からテキストなんです。ですから電子書籍という形できれいにパッケージングされてマークアップされたものは、僕から見るとむしろ退化しているんですよね。コンピューターは長い間非力で文字しか扱えなかったので、テキストが発達しました。テキストベースでコミュニケーションできるし、検索もできる。編集も簡単だし、どんな環境でもそれに合わせて読みやすく表示し直したりできます。それが失われていくのは止められない流れなのかもしれないですけど、僕はマークアップでは自由度が高くてデータとして扱いやすいものは、やっぱり不可能だと思うんですよね。今あるような電子書籍の流れだったら、スマートフォン用とiPad用の2種類のフィックスドレイアウトのポストスクリプトなりjpegなりを用意して済ませてしまえばばいいっていうことになる。世の中の本流はWebKitを使ってCSSで指定された通りにきっちり表示していくっていう風になるでしょうから、これはもうテキストではなくて、多少リフロー可能な電子出版物ですね。僕はそういうものには、実は全く興味がなくって、テキストがいつまでも生き残ればいいなと思っているんですけど、商業的にはどうなんでしょう。僕から見ると、電子書籍のために、今まではテキストであったものが段々侵されていってしまうという感覚です。
小山には、世界的なレベルのスキルがある。
――小山さんがご自分で使う際の使い勝手が開発のきっかけになるのでしょうか?
小山忠義氏: 「自分で使うものしか作らないぞ」みたいな感じはありますね(笑)。
岩浪剛太氏: だから開発が遅れちゃって、社長としては、困ったなぁという感じです(笑)。
――小山さんの今後の構想はありますか?
岩浪剛太氏: それは聞いてみたいですね(笑)。
小山忠義氏: 今後のことはちゃんと考えたことがないんですよね。飽きっぽいんですよ(笑)
岩浪剛太氏: モチベーション高く持たせるのが僕の仕事なんだけど、僕も同じノリになっちゃって、反省中なんです。でもドスンと大ヒットするようなものをひそかに狙っています。
小山忠義氏: コミュニケーション系で大当たりとか、最近よくあるパターンっていうのもいいかなと思うんだけど。
岩浪剛太氏: ぶっちゃけていってしまうと、小山には世界的なレベルのスキルが本来あると思います。もう付き合って長いですからね。そのスキルをどこまで遊ばせておくかっていうのが課題になっています(笑)。
小山忠義氏: 「自分は使わないけど、あればいいな」っていうものも、どのようなものが便利なのかをちゃんと考えて作ればいいのかなとは思うんですけど、いかんせん自分で使わないものだから(笑)。なんとなくこうかなという機能をおざなりに付けるというのは、書いても面白くないし、嫌だなという感じになってしまうんです。自分ではやらないこともできる様になった方がいいんでしょうけど、それは多分無理なので、今まで同様自分自身で何かはまれるものを考え出して、それを作るのがいいのかなと思っています。
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 小山忠義 』