BOOKSCAN(ブックスキャン) 本・蔵書電子書籍化サービス - 大和印刷

世界中の本好きのために

池田紀行

Profile

1973年横浜生まれ。事業会社、マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、ネットマーケティング会社クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。キリンビール、P&G、トヨタ自動車などのソーシャルメディアマーケティングを支援する。宣伝会議、JMA(日本マーケティング協会)講師。『ソーシャルインフルエンス』『キズナのマーケティング』(アスキーメディアワークス)『ソーシャルメディアマーケター美咲Ⅰ/Ⅱ』『Facebookマーケティング戦略』(翔泳社)など著書多数。専門分野においてメディア取材や連載など、各種メディアでも活躍中。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

電子書籍で、本との「出会い」の演出を



気鋭のマーケターである池田紀行さんは、マーケティング、プロモーションにおけるソーシャルメディアの有用性に着目し、様々な企業にコンサルティングを提供しています。マーケターとして、またビジネス書の著者としてのキャリアに自らの読書体験が大きく影響しているという池田さんに、読者として、書き手としての本への想いをお聞きし、ITに関する見識をふまえ、電子書籍の可能性について分析をしていただきました。

~人類にオドロキと感動を!~企業文化の背景と込められた願い


――代表を務められる(株)トライバルメディアハウスでは、「人類にオドロキと感動を!」というキャッチフレーズが掲げられていますが、どういった意味が込められているのでしょうか?


池田紀行氏: 今はコンサルティング会社と言われることが多くなりましたが、もともとはプロモーション会社でした。誰かを幸せにできるようなプロモーションがやりたいということで当初に、夢は大きくということで「人類」という言葉を使ったのが始まりです。できる限り多くの人たちを幸せにして、社会に対して大きな影響を持てる会社にしていこう、という考えが根底にあるので、他の会社とは少し違う文化がある気がします。

――独自の文化とはどういったものでしょうか?


池田紀行氏: 皆が高いホスピタリティの精神を持っています。この前、「トライバルナイト」というお客様感謝会を初めてやりましたが、その時も、お客様から「自分たちをもてなそうという気持ちが溢れていて、すごくうれしかった」と言っていただきました。今スタッフが50人くらいで、コンサルファーム出身の人間もすごく多いし、エンジニアも増えてきていますが、人を喜ばせる文化は、ずいぶん根付いていると思います。

本ってこんなに面白いものなのか


――本は小さな頃から読まれていましたか?


池田紀行氏: 小さい頃は小説などの本を読む習慣が全くなくて、マンガばかり読んでいました。だから、僕の初めての読書体験は、22歳で大学を卒業して、最初の会社に勤めていた頃でした。

――どのようなきっかけで本を読まれるようになったのでしょうか?


池田紀行氏: 働いて半年ほど経った頃、東北で拠点の立ち上げをやってくれと言われて、家族や友人とも離れて1人で仙台に赴任した時、すごく時間があったんです。その頃から「将来は社長になりたい」と思っていたのですが、世の中のことを全く知らずに会社を作ってもすぐにつぶれるだろうから、経営の勉強をしないといけないと思って、『Big Tomorrow』という雑誌に広告が載っていた中小企業診断士の学校に申し込んで、仙台から東京の学校まで新幹線で通いました。診断士は受験する人たちが多様で、僕は当時23歳でクラスの最年少でした。最初に入った会社は平均年齢が20代で、ほとんどが新卒のプロパー。女性が職場の9割を占めていました。「男の背中」を見せてくれる先輩がほとんど会社の中にいなかったんですが、診断士の学校には、社会人の大先輩がたくさんいました。その中に、今でも親交の深い3歳上の先輩がいたんですが、その人がものすごい自己啓発オタクで、「紀行、この本を読んだか?」「これを読め、その次はこれ」と勧められて読んだ本の印象が、今でも僕の中に強く残っています。



――どのような本が印象に残っていますか?


池田紀行氏: トム・ピーターズの『ブランド人になれ!』や、『セクシープロジェクトで差をつけろ!』、それから落合信彦さんの『「豚」の人生「人間」の人生』などにはすごく影響を受けました。落合さんは「20代から貯金して将来に備えるなどというのは、豚の人生で、稼いだ金は全部自己投資に回せ」ということを言っています。当時は、月に10万円ずつ貯金していたんですが、それからはその貯金分を全額本代に回して、年間100万円分以上の本をむさぼるように読んでいました。仙台から帰った後は、中野で18㎡位の狭い部屋に1人暮らしをしていて、その部屋にはシングルベッドと、天井まで届きそうな本棚の中に本が1500冊くらい納まっていました。

――本のどのようなところに惹かれたのでしょうか?


池田紀行氏: それまで全く本を読んだことがなかったので「本ってこんな面白いのか!」と思ったんです。診断士の勉強と遅すぎる読書体験を通して、初めて勉強の楽しさを知ることができました。知識欲というか、世の中の広さ、色々な考えなどに刺激を受けて、わくわくしてしょうがなかったので、診断士の勉強にも没頭しました。自己啓発の本には「20代までにこれをやれ、30代までにあれをやれ」といった本がありますが、僕は心配性なので、20代のときに、30代、40代の人向けの本を先回りして全部読んでいました。

主体的に、前へ、前へ


――マーケティングの本も、その頃にたくさん読まれたのでしょうか?


池田紀行氏: ものすごくたくさん読みました。理論書から始まり、ブランドマーケティング、商品開発、マーケティングリサーチ、店頭や流通のメカニズムまでとにかく幅広く。診断士資格の学校でも、マーケティングの理論は勉強していましたので、さらに深堀していた感じです。僕が本を通して今の仕事の足場となる知識を吸収して、それを身につけることができたと思うのは、23歳から28歳の頃だと思っています。本で学んだことを、とにかくすぐに目の前の仕事に活かしてみる、ということを意識的に行っていました。僕の仕事人生のバイオリズムを折れ線グラフで書くとすれば、明らかにこの5年間で異常に上がっていると思います。

――その5年は勉強に打ち込んだ感じでしょうか?


池田紀行氏: うちの社是に「トライバルメディアハウス20訓」というのがあって、その中に「人の2倍働き、人の2倍遊ぶ。全てが仕事で、全てが遊びである」というものがあります。僕は20代の頃は「世の中で一目置かれる存在になるためには、マーケティング業界で頑張る人たちをごぼう抜きしていかなければいけない」と思っていたのですが、マーケティングは理論だけでは良いプランニングはできないわけです。消費者の考えを学ぶには、はやっているものに対する肌感覚が必要なので、遊ばなくてはいけないし、女の子を口説けなければ、人の感情の機微も分からない。その頃は眠ろうと思って寝たことがほとんどなくて、ドアを開けっ放しでスーツのまま床に倒れて、うつ伏せのまま朝を迎えたことも多かったです。とにかく全力で仕事をしているか、全力で勉強をしているか、全力で遊んでいるかという生活でした。

――その頃は、コンサルタントとして身を立てたいというお気持ちはありましたか?


池田紀行氏: 診断士の勉強をしているうちに、将来の目標が「社長になること」から「コンサルタントになること」へと変わっていきました。でも、25歳だった僕は、どうやってなればいいのか分からなかった(笑)。だから、当時のアンダーセンやボスコン、マッキンゼーなど、有名なコンサルファーム20社くらいに履歴書をアポなしで持って行ったんです。当然、全滅しましたけど(笑)。失うものなんて何もなかったので、怖いもの知らずだったのか、馬鹿だったのか、アポなしで履歴書を持って行くことにも尻込みすることはありませんでした。「Nothing to lose」が僕の座右の銘です。1冊目の本を書いたのも、出版社30社に、企画書を送ったのがきっかけでした。女の子を口説くのも同じなのですが、僕の場合、ただそこに突っ立っているだけで女の子から「あなたのことが好き!」なんて告白されることは絶対にない。何もしないで本を書いてくれ、うちの会社で働いてくれ、などと言われることはないんです。いかに自分が主体的に、相手を口説き落とすか、チャンスをつくり、ものにするか、ということでしか道は拓けない。その行動によって状況が上昇するか下降するかは分からないけど、確実に前には進むだろうというのが僕の考えで、すごく大切にしていることなんです。とにかく、行動あるのみ。前へ、前へです。

考え方が変わるからこそ、生きる意味がある


――その後、マーケティング会社、コンサルティング会社などで活動されてから、会社を立ち上げたのですね。


池田紀行氏: いまの会社をおこす前、29歳のときに、マーケティングコンサルとして独立したことがあります。事業はそれなりに順調でしたが、当時の僕は、このまま一生1人でやっていこうと思い、バイト1人雇いませんでした。自分以外の人生を背負うということが、小心者の自分にはできなかったんです。それから、コンサル時代の先輩に誘われて33歳のときに、ネットマーケティング業界に転職してきました。

――それから、いまの会社を立ち上げ、今度は社員を増やしていこうと思われたのはどうしてだったのでしょうか?


池田紀行氏: 見えざる手に導かれて、というのが正直なところです(笑)。今の会社は7人で始めたのですが、紆余曲折がありながらも次第に優秀なスタッフが増えて、現在は50人を超えるところまできました。今は、もっともっと世の中にポジティブな影響を与えられる存在になりたい、と思っているところです。正直言って、当時の自分の感覚から考えたら想像できない規模になっています。固定費を考えても毎月何千万円ですし、社員には家族もいますから、10年前の自分ではとても背負いきれないと思ったでしょう。僕は、人からよく「池田さんって超ポジティブだよね」と言われますが、本当はネガティブなのです。ネガティブというより、心配症。心配だからこそ、ありとあらゆるシミュレーションを立てて、何があっても大丈夫、と安心できるまで伏線をはっていくんです。これでどうだろう、こっちはどうだ、とあらゆる方向から検討してぐるっと1周すると、ほかの人からはポジティブに見えるみたいです(笑)。最近は、自分の思考が1周したらどうなるか、ということが分かってきたところもあるので、考えなくても「やってみなきゃわからないんだから、とりあえずチャレンジしようよ!」といった考えに変わってきました。

――行動を続けることで考え方にも変化があったということですね。


池田紀行氏: 僕は「それをやったら自分が自分じゃなくなる」という言い方が好きじゃないんです。その言葉には、今の時点で自分は完成されている、というニュアンスがあるように思います。でも、それでは成長できないし、自分の考えが変わらないんだったら、生きている意味がない。価値観や思想や信条も、今のものよりも変えた方がより成長する、自分のことをもっと好きになるといったように、良い方向に向かうのであればどんどん変えていけば良いと僕は思っています。その点で、僕は人や本との出会いが、どのような考えや価値観を持って毎日の意思決定をしていくかという意味で、僕に大きな影響を与えてくれていると感じています。

目標を意識して、本を血肉にする


――読書とは池田さんにとって、どのような行為でしょうか?


池田紀行氏: 何かの本に書いてあった「生きるために水を飲むような読書」という言葉が、僕は大好きです。人は水を飲まないと生きていけないけれど、飲んだらおしっこで出てしまう。でも、どうせ出てしまうのだったら、飲まなくても良いか、といえばそうではない。読書も同じで、僕も読んだ本を全部覚えているわけじゃないし、本を開いてから「そういえばこれ前に読んだな」ということもある。でも、どうせ忘れてしまうのだから読んでも意味がないというのは、違います。赤線を引いたり、付せんを貼ったり、Evernoteにまとめたりして、ポイントを忘れないようにするという読書術もありますが、それよりも「読んだ時にピンとくること」が大切で、それは、その時の血肉になっているはずなんです。その時に必要なものをその本から吸収し、それから1ヶ月くらいはその本に影響を受けながら仕事をしたり、意思決定をする、ということの連続の中で僕は成長してきたのだと思っています。ベストセラーだけど心に刺さらなかった、という場合もありますし、誰も注目していない地味な本でもタイミングさえ合えば素晴らしい本になる。だから「自分の人生を大きく変えた本は?」と聞かれると困ってしまいますが、今まで読んだ本は、飲んだ水の1滴と同じように、全て僕に影響を与えてくれていると思います。

――本を血肉にして、行動につなげるための心構えのようなものはありますか?


池田紀行氏: 「意識的に生きる」ことではないでしょうか。むかし夜のニュース番組で、「あなたは今幸せですか」という質問を新橋や銀座の人たちに聞くという特集があったのですが、皆、「え?いま幸せか?うーん、考えたことなかったな…」といった感じなんです。当時の僕は、それを見て、「えー!ありえないー!」と驚いたことを覚えています。今幸せかどうかを考えたことがない、などということはありえないと僕は思います。意識的に生きてれば今自分が幸せなのか、不幸せなのか、幸せになるためには何が足りていないのか、どうやってその目標を達成するのか、ということを自然に考えるはず。今欲しいものはこれ、したいことはこれ、ありたい自分はこうだ、というピラミッドが、ある程度頭の中でイメージできるはずです。僕は、数値的、定量的にいつまでに何をするといったことを、若い頃からずっと習慣づけてきました。イメージ画像を部屋に貼ったり、手帳に書いたりして、夢や目標が長期記憶の引き出しの奥に入らないように、短期記憶のテーブルの上に出続けているよう、意識しています。その結果、意識的にイメージし続けている目標は、だいたい達成していると思います。

読者に伝わる表現を模索している


――どのようなことを心がけて本を執筆されていますか?


池田紀行氏: 僕が書いているのはビジネス書なので、マーケティングの現場で悩んでいる方々が読んで「なるほどな」で終わらずに「行動や仕事の仕方が変わるようなもの」を書きたいと思っています。あるべき論や理想論ではなく、自分にもできると思えるように、わかりやすく噛み砕いて書くことを大切にしています。自分が分かっていることは往々にして人も分かっていると錯覚してしまいがちなのですが、分からない人もいます。だから、書きながら「ここわかりづらいだろうな」という箇所は、丁寧に説明をしながら少しずつ前に進めていくことに気を配っています。『ソーシャルメディアマーケター美咲』という本もそういうコンセプトで書いた本です。

――『ソーシャルメディアマーケター美咲』は、漫画表現などが効果的に使われていますね。


池田紀行氏: ソーシャルメディアマーケティングは、読んでもイメージがつかみづらいことも多いので、読者の頭の中にくっきりとしたイメージができて、ちゃんと実務に活かせるよう本にしたい、という想いがありました。そのためには、手段は問いません。表紙がマンガだと馬鹿っぽいとか、ハードカバーの方が権威性がある、なんて声も聞きますが、僕の場合、「読者に伝わるかどうか」を最も重視していますので、その辺はあまり気にしていません。

――新しい本の形として、電子書籍についてはどのようにお考えになっていますか?


池田紀行氏: 僕が本やブログを書くのは、できる限り多くの人たちに、自分の伝えたいことが伝わってほしいからで、電子書籍の登場は、その手段が1つ増えたのだという考えです。

――電子書籍として読まれること、あるいは紙の本をスキャンして読まれることに抵抗はありませんか?


池田紀行氏: 紙の本でもスマホでもタブレットでも、読者の方が一番便利ないしは快適に読めるデバイスなりシーンなりで、僕の書いたものに触れていただけるのであったら何でもOKです。極端な話、ページを破いてカバンの中に入れて、その1枚が自分の中で消化できたら、ゴミ箱に捨ててもらっても構いません。むしろそのくらいの方が著者冥利に尽きます。

ソーシャルメディアとしての電子書籍


――本と出会う場、買い方などにも変化が出てくるでしょうか?


池田紀行氏: 本屋さんというのは、すごく良い刺激のある場ですよね。本は、編集の方と著者が、いかに手に取ってもらうかと、一球入魂でタイトルや装丁を考えています。本屋に行くと、本と向かい合って、興味がある、ないを一瞬で判断するわけですが、それはすごく良い体験というか脳の刺激になると思うんです。自分が今何に興味があって、興味がないのかということを外的な刺激によって気付かされる。いつも行く本屋さんだと動線が決まってきてしまって、目的の棚まで最短距離で行ってしまうことも多いのですが、いつもなら行かないようなコーナーに行くことも大事で、そういう時に新たな発見があったりもします。そういった新しいキッカケが電子書籍の世界で作られると良いですよね。Amazonでも、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というレコメンドがありますが、そこに過去の購買データを基にしたマッチングだけでは見えてこないものを、演出できるとすごいことだと僕は思います。普通なら絶対この本に興味は持たなかったけれど、読んでみたら「なるほど!」と多くの気づきを得ることがある。電子書籍が、今までにはない本と人の関係をつくれたら、全く新しい世界ができるんじゃないかと思います。

――電子書籍にはソーシャルメディアとしての可能性もあるということでしょうか?


池田紀行氏: そうですね。人間の興味は難しいもので、意識していないと、テレビCMはスルーされるし、雑誌の広告も目に入らない、ネットで検索もしてくれない。でも、仲の良い友だちが、TwitterやFacebookでタイミングよく投稿していたりすると、新たに興味がわくこともある。ネットの広告は、ラストクリックといって、最後にクリックして買ってくれた流入経路が評価されます。そんな中、ソーシャルメディアは、一番最初の興味のとっかかりをつくるファーストクリックを生んでいるんじゃないか、という仮説があります。最初に興味を持ってもらう、出会いを作るというソーシャルメディアの可能性と、本が組み合わさると、より人生が豊かになるんじゃないかと思います。
どういう趣向や好み、価値観を持っている人が、どのような思いでどんな本を読んだのか、あるいは、どこで読むのをやめてしまったのか。そういった、いわゆるビックデータから、最適なレコメンデーションができると、とても面白いんじゃないでしょうか。あと、読んだ後に「この本は素晴らしかった」「途中でやめちゃった、なぜならば」といったものが、簡単に記録できていくと、より精度が上がるような気がします。



待たれる「編集者2.0」の出現


――本の作り方、編集の仕方も変わってくるのではないかと思いますが、編集者はどのような存在だと思われますか?


池田紀行氏: 僕は昔から編集者さんとのご縁には恵まれているんです。読者の視点に立って、「こういう風に書きましょう」とか、「順番を入れ替えましょう」などといって、別の視点を与えてくれたり、視野を広げてくれます。僕は編集者がいなかったら、今までの本は全て出版できなかったとすら思っています。だから、僕の場合、著書は全て編集者の方との共著といった感覚があります。
今、Amazonでは、自分で電子書籍が出せるようになっていますが、皆が書けるようになるほど、編集されたコンテンツの価値はむしろ上がると思っています。本屋に並んでいる本ですら全部読めないのに、この忙しい日常の中で、誰なのかも知らない素人が書いた本を読んでくれる人なんて少ないですよね。読まれる本や文章は、プロの編集によって成る。だから、編集者の価値はより一層上がっていくと思います。

――電子書籍の編集者には、今までの編集者と異なる資質が求められるでしょうか?


池田紀行氏: LINEの執行役員である田端信太郎さんが、昔は情報を「噛む」時代で、今は情報を「飲む」時代だとおっしゃっていて、「まさにその通り!」だと思っています。10年前の新聞やブログの時代なら、まとまった文章を10分くらい読んで、噛んで情報を咀嚼してくれたけど、今のニュースフィードやタイムラインの時代は、ものすごいスピードで情報が流れて行くので、どんな良いことが書いてあっても、噛まなきゃ飲み込めない文章は読み始めてすらもらえません。目に入った一瞬で「おもしろそうだ」「自分に関係がありそうだ」と思ってもらえ、クリックした後は30秒~2分くらいで1つの情報を飲み込めなきゃダメ。そのように、情報の取得に対する態度が変わってきている中で、「飲む編集コンテンツ」を作れるプロフェッショナルはますます必要になって行くと思います。例えば、本は200ページ、10万字という噛む情報の典型ですが、10分の1の1万字で値段が150円という形態もあるかもしれません。流通コストや印刷コストなどが下がって、電子書籍ならば固定費や在庫コストがほとんどかかりません。編集の手間は、1冊作るのに10分の1にはなりませんが、飲むコンテンツを作ることに長けた編集者と著者が組めば、新たな電子書籍のマーケットが立ち上がっていくかもしれません。情報の取得環境に合わせた「編集者2.0」という感じの人が出てきたら、150円の電子書籍で300万部売る、なんていう次世代のヒットメーカーが出てくるかもしれませんよ。

――読者が良質なコンテンツを選ぶことの難しさもあるのではないでしょうか?


池田紀行氏: 今のネットはPV至上主義だから、とにかくクリックされることが重要とされます。だから、「何々をするための6個の法則」などベタな釣りタイトルが多いわけですが、みんなそのうち学習します。読者が釣りタイトルや釣り記事にだまされなくなり、既存のレビューシステムの弱点(一部の強い意見に全体の評価が引っ張られてしまうこと)が解決されたとき、本当の電子書籍の未来が広がっていく気がします。

――ご自身の、今後の作品の構想をお聞かせください。


池田紀行氏: 僕は本に育てられました。だから、これからも、読むだけじゃなくて、書く側でもありたい。自分の人生を変えてくれた本というものを通して、恩返しをしていきたい、そんな気持ちです。これからも、自分が感じたこと、体験したことを形式知化して、人に伝えるということを続けていきたいと思います。2014年1月に、共著で新刊を出す予定がありますが、いずれはマーケティング以外の本も書きたいと思っています。いま英語を勉強しているので、1年後には『40歳から英語がペラペラになる方法』という電子書籍を80円くらいで売っているかもしれません(笑)。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 池田紀行

この著者のタグ: 『チャレンジ』 『コンサルティング』 『ソーシャルメディア』 『マーケティング』 『変化』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
ページトップに戻る