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世界中の本好きのために

桑原水菜

Profile

千葉県生まれ、東京都在住。中央大学文学部史学科卒業。『風駆ける日』が1989年下期コバルト読者大賞を受賞しデビュー。代表作『炎の蜃気楼』シリーズ(コバルト文庫)は漫画・アニメ化もされている。現在、角川書店の電子雑誌『小説屋sari-sari』において『西原無量のレリック・ファイル まだれいなの十字架』を連載中。その他の代表作に『赤の神紋』シリーズ、『風雲縛魔伝』シリーズ、『シュバルツ・ヘルツ—黒い心臓—』シリーズ(コバルト文庫)、『イルゲネス』シリーズ(マッグガーデン)など。

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本を仕事にすることには、代え難い高揚感がある



桑原水菜さんは、大胆な舞台設定と、魅力的なキャラクター、読者をぐいぐい引き込む描写の巧さを持つ作品の数々で、熱狂的なファンを獲得する小説家。大人気シリーズ『炎の蜃気楼』幕末編を完結、脱稿直後に行われた当インタビューでは、桑原さんの創作の原動力である、歴史をはじめとする広範な物事への好奇心、そしてその興味を満たす本の存在について、様々なお話を伺うことができました。

目に映るものは、全部ネタになる


――早速ですが、桑原さんの近況を伺えますか?


桑原水菜氏: 20年来やってきた『炎の蜃気楼』は幕末編の続編が先日出ました。遺跡発掘を題材にした『西原無量のレリック・ファイル』シリーズも連載中です。複数シリーズを同時進行中なので、頭が幕末や現代、はたまたアンコールワットなどを行ったり来たりしています。

――小説の舞台が幅広いので取材は大変ではないですか?


桑原水菜氏: 時代も場所も違うので下調べは忙しいですが、作品ごとにカラーが違うので、かえって気分転換になると言いますか、新鮮な気持ちで向き合える気がします。その時代やその場所から得られる刺激が、好奇心を持続させて、モチベーションも保てている感じです。

――京都に取材に行かれた際は、カメラにトラブルがあったそうですね。


桑原水菜氏: 私がうっかりカメラを忘れてしまいまして。担当さんが2つカメラを持っていたので1つお借りしたのですが、2日目まではちゃんとデータも残っていたのに、3日目に伏見へ寺田屋などを見に行った後、ふと気づいたらきれいに消失してました。担当さんは前にも伏見でデータ消失したそうなんですが、何かあるんでしょうか(笑)

――執筆は外出先で行うことがありますか?


桑原水菜氏: 外では書きません。必ず家で書きます。馴染んだデスクトップのPCでないと集中できないので。外は安らぎの場です。煮詰まると散歩やジムに行き、考えを巡らす時間を作るようしています。いざ執筆、となっても、気分が乗らない時は手元のPSPで頭の体操をします。が、ほっとくと延々やってしまうので「10分だけ」とか「デュエルは2回まで」とか自らに取り決めを(笑)。ゲームが終わってから「さあやるぞ」みたいな感じです。

――その「10分だけ」といった取り決めは守れますか?


桑原水菜氏: あまり(笑)。できるだけ規則正しくありたいのですが。ただ世間の午前中に仕事をしたいと思っても、私の中の午前中が1時間ずつずれていく。時間に縛られない物書きには密かに多いらしいんですが、起きる時間が1時間ずつ後ろにずれていって、24日で1周する。まっとうな社会人としてはこれじゃ駄目なんですが、ずれ方だけは規則正しいんです(笑)。

――ウェブサイトでは、新幹線、遺跡、恐竜、仏像と幅広い趣味について書かれていますね。ゲームも含めて様々な趣味が創作に活かされているのではないでしょうか。


桑原水菜氏: すみません、節操がなくて(笑)。でも、それが生かせる環境にあるのもありがたいです。すべてを物書きの題材にできてしまうので、目に映るもの全部ネタのような感じです。

スポーツでは得られない、創作の魅力


――桑原さんは小さなころから、読書など文科系の興味が強かったのでしょうか?


桑原水菜氏: むしろ真逆で、バレーボールや少林寺拳法などをやってました。肉体系です(笑)。家で読書などはしない方で、図書室で借りる本もそれほど多くはなかったですが、書くことは好きでした。作文を書きなさいと言われたら喜んでやっていましたし、小学校時代は漫画を描くことも好きでした。漫画と言っても、落書き帳に鉛筆でコマを割ってという感じですが、夢中で描いてました。

――今、そのころのご友人から「作家になると思った」などと言われたりしませんか?


桑原水菜氏: そういうことを言ってくれる友人はたまにいます。「さもありなん」みたいな。ただ、小説を書くとは思っていなかったみたいで「漫画家になると思った」と言われます。

――創作にひきつけられた理由はなんだったのでしょうか?


桑原水菜氏: 思春期の時の鬱屈した気持ちや、部活の人間関係などのストレスを吐き出す場所として創作をやっていた記憶があります。それはスポーツではできないもので、心の自由を確保できる場所として、小説や漫画などを書いていたんだろうなと思います。子どものころからずっと手になじんでいたので、一番エネルギーが出しやすかったというのもあったのかもしれません。



――そのころは作品として、どのようなものを書かれていたのですか?


桑原水菜氏: 当時読んでいたものからの影響が強かったです。二次創作とは違うんですが、模倣したオリジナルものが多かった気がします。当時夢中になった高千穂遙先生の『クラッシャージョウ』や『ダーティペア』などを真似てSF物を書いてみたり、学園物を書いてみたり。歴史をネタにした忍者の子孫の話みたいなのも。

――当時の作品はまだ残っていますか?


桑原水菜氏: 実家の奥深くにはあるかもしれません。「桑原さんの中2時代」が、ありありとバレてしまいますから、そのまま封印しておきます(笑)。

「職業としての作家」を意識した大学時代


――大学は、中央大学の文学部史学科の方に進まれますが、歴史への興味が強かったのでしょうか?


桑原水菜氏: そうですね。中学時代に、お寺や仏像に興味を持ったんです。日光で輪王寺の大きな仏像を見て「なんと世の中には雄大なものがあるんだ」と感動しまして。その後、修学旅行が奈良、京都でしたので、もう「仏像祭り」に(笑)。「こんな仏像だらけの素晴らしい土地が日本にあったのか」と興奮しました。それとやはり本。司馬遼太郎病にかかりました。女子の仲のいいグループの子たちと新撰組を名乗って大はしゃぎしてました(笑)。山越えたところに史料館があったので自転車で行ったりして、そんなことをしてるうちにだんだん素地ができあがっていったんだと。

――大学ではどのような勉強をされましたか?


桑原水菜氏: 日本史に興味があったので、勉強できればうれしいなとは思っていたんですが、ゼミの先生から「創作物が好きで歴史学の世界に来た人たちは、その考えを捨てろ」、「(小説に描かれた)龍馬が好きで歴史を研究するということはあり得ない。物語と学問は区別しなさい」とばっさり。私は歴史にこめられたドラマが好きで来たのに、それを否定されてしまったので、ショックでした。おそらくその先生は、そういう柔らかい学生たちが多すぎて嫌気がさしていたんでしょうね。学問は文献をコツコツ調べて、実証して、事実関係について分析するところから始まるんです。私は真面目な学生では全然ありませんでしたが、歴史を研究するためのアプローチは勉強できたかなと思います。

――創作も続けられていましたか?


桑原水菜氏: バイトをする以外は書いていたという感じです。大学時代に作家を目標にし始めて、腕試しでコバルトに投稿し始めました。書きたいまま書き流すのではなくて「話を作る力」「人に読ませる力」を身につけたいと。

――本格的に作家を志したのはどうしてだったのでしょうか?


桑原水菜氏: 単純に自分の執筆物をたくさんの人に読んでほしいという顕示欲でした。それと、私はあまり人付き合いが得意な方ではなかったので、できれば家の中で自分の世界に没頭しながら食べていけたら、と。前向きと後ろ向き、両方の動機で、職業としての作家を意識し始めました。

思春期とプロフェッショナリズムのはざまで


――デビューのきっかけはどういったことでしたか?


桑原水菜氏: 応募して2回目ぐらいに「読者大賞」という読者審査員による賞が新設されまして。その栄えある第一回受賞者に。運もよかったと思います。本当の苦労はコバルトに作家としてデビューしてからでした。力が及んでないうちにデビューしてしまったという気持ちがずっとあって、文章力もないし、構成も行き当たりばったりで、とにかくプロとしての力をつけなければいけないと必死でした。あと、たまたまデビュー作でちょっと人気が出てしまって、その作品で二次創作をする方々がたくさん出てきて、同人誌を送ってくださったり同人作家さんに友達ができたり、と間近に触れ合う機会があったのですが、皆さんすごくレベルが高かったのです。この世界を作った原作者として負けてられないなとイヤでも奮起しました。
人気が出てくるとやはりいろんなことを言われますから、パワーで負けてはいけないというのもあり、追い立てられるように書いていった気がします。今は割と「自分は自分、読者は読者」と区切りをつけられるんですが、デビューしたてのころは境目もあまりないですし、読者の熱いパワーをぶつけられて、自分だけじゃ受け止められないという感覚がありました。まだ20歳そこそこだったので、読者の思い入れの強さと向き合うのが結構きついところでした。

――プロの作家として開眼するきっかけはあったのでしょうか?


桑原水菜氏: なかなか自信はつかなかったです。自分はプロ作家だと言い切れるようになったのは『炎の蜃気楼』が完結したあたりからで、それまでは本当に、読者の厳しくも熱い目線と切磋琢磨してました。

――葛藤の中で書き続けてこられた原動力はどこにあったのでしょうか?


桑原水菜氏: エネルギー源は、自分の小説に対する半端ではない執着です。書いているうちに掘り出されてくる自分の内面、ずっと抱えていた劣等感、コンプレックスのような10代20代では消化できなかったものを、小説に入れ込んでいくことで乗り越えてきた面もあります。思春期の延長でありながらプロでもあるという、ある種抜き差しならないところが、不思議なパワーになっていたのかなと思います。書く動機もひとつではありませんでした。コンプレックスを乗り越えるための手段だったころもあるし、純粋に自分以外の対象を描ききることでもあったでしょうし。歴史にしても、うわべの流れからは見えてこない人の気持ちや真相などが、書くことで見えてきたりするので、それを覗き込むために書いているんじゃないかと思うこともあって、一口では言えないですが、小説が表現しうる可能性自体が、自分を駆り立てていたのではと思います。

紙の肉体、テキストの魂


――桑原さんは電子書籍についてはどのようにお考えでしょうか?


桑原水菜氏: 今、連載をしている媒体が電子書籍の雑誌なので、ツールが増えるのはすごくいいことだなと思っています。ただ、やはり本としての愛着というのはそれとはまた別のところにありますので、シチュエーションごとに使いやすい方で読んでもらえれば。

――紙の本への愛着はどのようなところにありますか?


桑原水菜氏: 本は肉体だと思います。電子書籍はそこから文章が移し替えられた霊魂のような感覚があります。ちょうど『蜃気楼』がそういう話なので、「なるほど、この魂がここに入ったのね」という感触はあります。

――「蔵書」としての電子書籍についてはどのようにお考えでしょうか?


桑原水菜氏: 私も資料をたくさん買っていると家の中が本であふれてしまうのですが、それ自体がお宝であり、また積み重ねなので、なかなか処分はできないんです。それでも処分しないといけない時には、電子書籍に変えてみるのもいいのでは。よく、掃除している時に、昔の本を読んでしまって全然進まないことがありますよね。しょっちゅうは読まないけれど、手に取れば読みふけってしまう。特に子ども時代に親しんだ本や漫画は、一度処分したらもう二度と手に入らなくなるので、せめて中身だけでも、という思いをかなえてくれるのは電子書籍だと思います。検索機能だとか、電子書籍ならではの使い方、今までできなかったことができるようになるのも、楽しみです。紙の本と電子書籍が共存してやっていくのが一番いいのではないでしょうか。リアル書店さんは大変なご時世だと思いますが、書店があって初めて私たちの本が読者に届くわけですから、それがなくなってしまう状況はいかがなものかと思いますので、うまく折り合いがついていければいいですね。

本の山の中で、次回作を構想


――書店には足を運ばれることは多いのですか?


桑原水菜氏: はい。自分が書いてるジャンルには近寄らないんですが(笑)。近くに丸善さんができまして。歴史書のコーナーなどではツボをついてくれる本にちょくちょく出会えるようになりました。ネットだと検索しないと出てこないようなものが、バーッと並んでいて、気になったものから手に取れるのはやはりリアル書店さんです。ネットは興味のあるものの周辺しか「おすすめ」されませんが、書店ではそぞろ歩きしながら見てまわるだけで、全然知らなかった世界に出会えます。ふと目に付いた『世界の艦船』で最新の原子力空母を知る。「お、ちょっと面白そうじゃん」とミーハー心が騒ぎます。宝探しの楽しみのようなものがあるかなと思います。

――書店での本の選び方はありますか?


桑原水菜氏: もう、興味のあるものをとにかく手に取るということです。資料を買いにきたはずなのに、「お」と思えば関係ない本でもレジに持って行ったりします。定価を聞いて「え、桁が違う」みたいなこともたまにありますが(笑)。

――冒頭のお話にもありましたが、広範な興味が作品を生み出すことにつながっているのですね。


桑原水菜氏: そうですね。いつか役に立つかな、と。だから仕事場はどんどん本に浸食されてます。本棚があまりないので、床に積み上がっている。「あの本は3つ目の山の真ん中辺りにあったはず」と頭の中に地図ができているので、よけい片付けられなくなっていく。そしてだんだん山が高くなっていく(笑)。本にこもる気迫に囲まれて、気は休まらないのですが、これからも「本=仕事」という感じなんでしょうね。

――最後に、今後の展望を伺えますか?


桑原水菜氏: 漫画原作のほうが一段落しましたので小説に集中したいと思います。来年頭に始まる『炎の蜃気楼 昭和編』でシリーズは完結することになっています。あと『西原無量』シリーズも連載終了後に単行本化する予定です。他にも単発作品をいくつか。自分が闘える得意分野を見定めた上で、メイン読者である女性向けだけでなく、今後は、男女問わず読んでいただける作品にも取り組んでいきたいと思います。「桑原さん、こんなのも書くんだ」と驚いてもらえると嬉しいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 桑原水菜

この著者のタグ: 『女性作家』 『歴史』 『書店』 『小説家』 『趣味』

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