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嶋浩一郎

Profile

1968年生まれ。1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。01年朝日新聞社に出向。若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02年から04年に博報堂刊『広告』編集長を務める。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画、現在NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。カルチャー誌『ケトル』の編集長などを務める。 著書に『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』(祥伝社新書)、『ブランド「メディア」のつくり方―人が動く ものが売れる編集術』(誠文堂新光社)など。

Book Information

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全ての変化は辺境から生まれる 嶋流「ムダのススメ」


――嶋さんのエネルギー源は。


嶋浩一郎氏: ぼくは「なんで」から始まる、知りたい欲求がエネルギーの源になっています。今の世の中は、短時間で作業したり、一直線に答えに向かったり、どんどんムダがなくなっています。それは面白くない。たいていムダの中から発見があります。全ての変化はムダから生まれます。

バイオミミックス(生物模倣)というのがあります。フクロウの羽から新幹線のパンタグラフを作る。毛虫の体毛からマジックテープやベルクロを作る。「これ何かに使えないかな?」って考え方は思考の飛躍ですよね。

パンタグラフの研究をするために鳥を見るのは、普通の感覚だと無駄と言われます。けれども余計なものから、イノベーションは生まれるんです。ビール工場のベルトコンベヤーを見た人が、回転寿司を思いついたのもそうです。余計なことをいっぱいしなければと思います。

またまたハガキのお話で恐縮ですが、色々な雑誌を読んだり、色々なものにインスパイアされないとハガキのネタは書けません。余計でムダな情報が、すごく役に立ちます。雑誌、雑学、雑談、そういったムダなものがすごく重要です。

ポラロイドという会社では、Miscellaneous Laboratory(分類不能研究所)というのがあったそうですし、ベル研究所ではそれが何の役にたつのかわからない研究が多数行われていました。
Googleは「仕事の10%は他のことをしていい」と言っています。単純に「良い会社だね」という文脈で語られますが、他のことをさせておいたほうが、イノベーションが起きるということが分かっていて、意識的にムダを摂取していると思うんです。

ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授は「破壊的イノベーション」を提唱していて、21世紀の経営者の重要なスキルは関係ないもの同士を結びつけることと言っていますが、イノベーションは、バイオミミクリーのように、ムダから起きることだと思います。

――ムダが世界を変えていく!と。


嶋浩一郎氏: 「ムダ。バンザイ!」です(笑)。書店は、ムダに出会える最高の場所です。ネットが効率よく情報に出会う場所なら、その対極にあると思います。一直線に目標にたどり着こうと思う人は、収益が伸びるための本とか、泣くための映画とか、やたらとコンテンツに価値をつけたがりますが、コンテンツなんて基本ムダ。全部ムダで、役に立つかどうか分からない。旅と一緒。誰と出会うか分からないし、嫌なことも起きるかもしれない。けれど、きっとムダと出会えたほうが楽しいと思います。



――嶋さんの「ムダのススメ」とは。


嶋浩一郎氏: 自分が接したムダの中から新しいアイデアを思いつくことがあります。同時に、どうしたら世の中にムダが増えるか、どうやって人を巻き込むかと考えます。関係ないもの同士が結びつけば、すごいパワーが生まれるんです。

名古屋の人は、そういう順列組み合わせの大家です。ヴィレッジヴァンガードも名古屋生まれだし、CoCo壱番のメニューやスガキヤのラーメンフォーク、あんかけスパゲッティも名古屋です。関係ないものと関係ないものを結びつけさせたら、名古屋人はかなり世界に誇るべきクリエーションを持っていると思います。だから無駄なものを引き出しにたくさん持っていると、その順列組み合わせが高速回転していくわけです。名古屋人がムダなことをし始めたらやばいですよ(笑)。

だから、みうらじゅんさんが修行と名乗ってEXILEのコンサートに行ったり、松田聖子のディナーショーに行ったりするのも、よく分かります(笑)。ぼくも、ずいぶんムダなことをしています。今週は毎日冷やし中華を食べ続けるとか。なんのためと言われても、まだ何が起きるか分からない。

そんなことが、フィルムアート社の『天才たちの日課』という本に書かれています。アーティストや文学者達がどんなことを習慣にしていたか、例えば散歩が好きな人が意外に多い。これもムダとの出会いだと思うんです。

ぼくも散歩はよくします。降りたことのない駅にすぐ行きます。そして三つ発見したら帰ってきます。新しい人々の新しい動きとか、そういう散歩の時に気付くことが多いです。

何かについて調べようと思ったら、そのことと関係ないことをたくさんやりながら、近づいていくのが良いんじゃないでしょうか。散歩したほうがいいし、旅に出たほうがいいと、ここで声を大にして言っておきます(笑)。

人と映画を見に行く時も、絶対に自分の好きな映画は見に行きません。相手に選択権をゆだね、あえて連れ去られる状況を選びます。みうらじゅんさんのように、わざわざEXILEに行くことはできないけれど、絶対自分が見ないアニメのDVDを無理やり借りてきて、1日こもって見るとか……高度経済成長が終わって、イノベーションが必要な今こそ、みんなムダなものに行ったほうがいいと思います。やっぱり「ムダ、バンザイ!」です。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 嶋浩一郎

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