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世界中の本好きのために

辻野晃一郎

Profile

1957年、福岡県生まれ。慶応義塾大学大学院工学研究科修了、カリフォルニア工科大学大学院電気工学科修了。ソニーにてVAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等のカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月に退社。翌年、グーグルに入社し、その後、グーグル日本法人代表取締役社長に就任。2010年4月にグーグルを退社し、アレックス株式会社を創業、現在に至る。 著書に『成功体験はいらない』(PHP研究所)、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』(新潮社)がある。

Book Information

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日本を変える、世界に仕掛ける



ソニー株式会社、グーグル日本法人の代表取締役社長を経て、2011年にアレックス株式会社を設立された辻野晃一郎さん。グローバルスケールの人材育成や日本発ビジネスの支援をされています。インターネットの力をフルに活用して、積極的に日本を世界へ発信していくことを目的とした斬新なオンラインプラットフォーム、ALEXCIOUS(アレクシャス)もオープンするなど、常に当事者として奔走されています。「成功体験に足を引っ張られてはいけない」と語る辻野さんの想いとは。

当事者として走り続けたい


――アレックス株式会社について伺います。


辻野晃一郎氏: 以前から、「いつか事業を起こそう」と考えていました。ただ、起業に関してはビギナーですから、この4年間は思った通りになんかいかないし、失敗だらけでした。それでも、やっていることそのものには確信があるから、私は前に進んでいけるのだと思います。自分の信念は、何も変わっていません。「なぜこれをやっているのか」という点に関しては何のブレもありませんが、「どうやってそれを実現するのか」ということを考える。色々なことをやって、色々なことを学んで、うまくいっていないのならば「じゃあ次はどうしようかな」といつも考えるのです。

――ずっと当事者であり続けているんですね。


辻野晃一郎氏: 当事者として体を張って奔走した人と、どこか遠くから眺めている人では全然違います。遠くから眺めているだけでは、分からないことばかりです。この間も、ネットで変な人に絡まれましたが(笑)、どこか遠くから眺めて、人がやったことに対して石を投げているだけです。頑張っている人だったら、私に絡んでいる暇なんかないはず。でも、残念ながらそういう人たちが多いなと感じます。

今、企業でも、自分は何もしないでうまくいったらもてはやし、うまくいかなかったらボロクソにけなすという、評論家のような人がすごく増えていると思います。だから、私のやりたいと思っていることは、傍観者ではなくて行動する側にポジションを変えるように仕向けること。行動する側にとはいかなくても、行動する人を、少なくともバッシングするのではなくて、応援したり支援したりするような、そういう土壌を作っていかなければいけません。それが、私がクラウドファンディングなどをやっている理由です。本などを書いているのも、そういうことの大切さを、世の中に対して伝えるという使命感のようなものがあるからなのです。

「日本」に対する思いの欠落。教育を変えなくてはいけない



辻野晃一郎氏: 今おこなわれている教育の一部分が、日本をだめにしたと思っています。「日本は悪かったよね」で終わるような教育をする人が多いからだめになってしまったのだと私は思います。戦後教育の罪です。平和ボケして憲法も読まない、ものを考えない国民が増えているように感じます。戦前の方が大所高所で国家観や歴史観をきちんと教育していて、深くものを考える人たちを育てていたと私は思うのです。それが戦争で負けて、検閲が入るようになって、イデオロギーがぶつかり合うような中で、当たり障りのないことだけを教えて、子どもにはあまり深いことを教えなくなりました。近代史は受験に出さないから学校でも教えていない。でも、近代史や現代史は1番大事です。韓国やドイツなどは、その2つをよく勉強しています。

歴史というものを学ぶ本質は、“未来を作る”というところにあります。戦争においての加害者と被害者、どちらの立場も日本は経験しているので、そういうことに正面から向き合って議論する場を、子どもの頃から作らなければいけないのです。この間、終戦記念日の特集番組を見たのですが、8月15日がどういう日かを知らない若い人がたくさんいました。ドイツなどは、ほとんどの国民が、戦争をやったということを知っています。同じ敗戦国でありながら、教育のレベルの差がわかります。このままいくと日本は、恐ろしいことになるのではないでしょうか。

――戦前の教育を受け、国家観を持った人たちが、世界に出て成功してきた歴史があります。


辻野晃一郎氏: SONYがまさにそうです。戦争で負けたことによる喪失感や絶望感が根底にあって、そこから「なんとか日本を復活させなきゃいけない」という、その国家観というか、国民としての使命感といったものがあった。だから井深さんや盛田さんはSONYを興して、あそこまでの大きさに育て上げたわけです。その根底には揺るぎない「日本」というものに対する強い思いがあった。でも今は、教育においても、大事なところを避けて通ってきているから、強い理念やパッションを持っている人が育たなくなっています。

でも、日本のサッカーのように、色々と苦労しながらもやっていけばいい。時間はかかるかもしれませんが、少しずつ変えていけばいいのです。だって、昔はワールドカップにさえ出られなかった。今は、試合にはなかなか勝てなくても、出場できるというところまできている。だから、もう一息なんです。

成功体験が、時には足を引っ張る


――何事にも夢中になるのは、昔からですか。


辻野晃一郎氏: 昔、学校で学研の『学習』と『科学』という雑誌があったんです。私は『科学』が届くのが楽しみで、生物や機械の話、そして必ず付録が付いていて、工作したりしていました。精密なものを作るのが大好きで、微細なプラモデルなどをよく作っていました。昔はミリタリー関係のプラモデルが多かったので、戦車や軍艦、飛行機などをよく作っていましたね。外装の色塗りだけじゃなく、内装まできちんと作りあげたものもあります。メカニズムが本物に近い模型が好きでしたね。ご飯を食べるのも忘れて、怒られながらも夢中になってやっていましたね。ただ昔のことは、あんまり覚えていないんです。前向きなので(笑)。

――『成功体験はいらない』にも、その想いが込められているように感じます。


辻野晃一郎氏: 1冊目の本『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』を書いた時は、「今までの人生の棚卸しと、それから今後やっていこうと思っていることをきちんと整理しよう。どうせ整理するんだったら、本を書いて整理しよう」と思って新潮社から本を出したのです。それが2010年でした。その後、2冊目、3冊目の本のお話がきたのですが、まだ起業したばかりで、書いている余裕なんかありませんでした。でもPHPの編集者が本当に熱心で、「今の辻野さんにしか発信できないメッセージがあるはずです」と何度も言われました。
それで根負けして、お話に応じることにしたのです。

――編集者の熱意によって、生まれた本だったのですね。


辻野晃一郎氏: そうですね。私は、起業した後に自分が感じてきたことも含めて整理しようと思って書きました。成功体験というのは人間にとって、もちろん大事です。成功体験が自信につながって、さらに大きなチャレンジにつながっていく。そういう意味では、成功体験がないと人間というのはなかなか自信が持てない。ただ、逆説的に聞こえるかもしれませんが、成功体験は、すごく注意しないと人生の足を引っ張ることもあるのです。例えば、iPS細胞でノーベル賞をとった山中先生は、受賞後コメントを求められ、「これはもう終わった過去のことです」とはっきり言いましたよね。ああいう姿勢が大事だと思うのです。名誉や栄誉とか、多くの賞をもらうとか褒められるというのは、それは過去のことに対してのものなので、それで舞い上がっているようでは、あまり見込みがないように私は思うのです。

――満足して振り返る時点で、止まってしまうと。


辻野晃一郎氏: ええ。謙虚にチャレンジを続けていくということは資質として大事だと思います。特に今は、指数関数的にコンピューターの能力などがどんどん高くなっていますよね。2045年問題(※2045年にはAI=人工知能が知識・知能の点で人間を超越し、科学技術の進歩を担う技術的特異点が訪れるという説)などもあって、もう今日、明日の延長線上で明後日のことは語れません。PCはとっくに過去のものなのに、いつまでもPCとしてのVAIOをやり続けていたように、今のSONYは、過去の延長線上でしか発想していないように感じます。VAIOはSONYが築き上げた大きな成功体験。私自身もコアメンバーとしてVAIOを成功させましたが、私にとってはPCビジネスという、もうとっくに終わってしまった産業の中での過去の成功体験なのです。

今は、たとえば2045年を見据えて、未来から遡って、「どのようなハードウェアを作らなければいけないか」、という視点が必要です。自分の踏んできたステップや、過去の成功体験の延長線上に未来を探しても、もう通用しないと思います。これだけ変化の早い時代においては、10年後、20年後、30年後という未来を自分なりにイメージして、それから今の行動を決めるということをやっていかないと波に乗れません。そういうことをやれなかったから、家電産業、半導体もだめになってきたわけだし、これからだと自動車もだめになっていくのではないかと、私は思っているのです。

――自動車も、洗礼を受けますか。


辻野晃一郎氏: これからの車は、今までの車とは全くの別物になっていくし、すでにそういったものをテスラモーターズやGoogleが作っています。これからの車の中核技術となるものは、人工知能になるかもしれませんね。テスラモーターズの車は、積んでいる電池が発火したりすると、ソフトウェアをダウンロードして応急措置をするのです。そんなことをしている自動車メーカーは、他にはありません。過去の延長線上で考えていたら、到達できない部分ですよね。すでに、車そのものの定義が変わっていっているわけです。

俯瞰することが大事


――技術だけでなく、我々の概念も進化が必要なのですね。


辻野晃一郎氏: 人間は、手元でやっていることで精一杯になりますよね。でも、1人で存在しているわけではないし、周りとの関係性において意味を持つわけです。例えばどこかの会社で働いていたら、その会社の世間との関係性が、自分の存在に影響を与えている。さらにその会社は、世の中全体との関係性の中で成立している。だから、常にその関係性において自分を定義していかないと基本的に何の意味もないし、やっていることの目的を見失うことにもなります。

日本人は、もっと全体を俯瞰するということを日常的にやっていくことが重要だと思います。例えばシリアやイラクの問題なども、決して日本と無関係ではありません。なぜ今、世界中でああいった戦争がどんどん増えているのかというのは、今の自分、あるいは3年後、5年後の自分に必ず影響を与えるものなのです。他人事など、1つもありません。関係ないと思っても、今はリアルタイムで世界中がつながっています。だから、シリアやアフリカで起きた問題も、明日には自分に跳ね返ってくるようなものとして捉えなければならないのです。

――社会や技術の変化に伴い、新たな問題も出てきているのでしょうか。


辻野晃一郎氏: これまでは年功というのがベースにあって、役職に就くと給料がどんどん上がっていったわけです。でも今は逆の企業もあります。SONYはこの間、役職定年という制度が導入されて、年功も廃止されました。これから、あらゆるところでそういうことが起きると思います。大企業に勤めていれば安泰ではないし、突然給料が減ることもある。どんどんそういう流れになっています。だからこそ、「どうやれば自力で食っていけるのか」というのを、本当はもっと真剣に考えなければいけないのです。コンピューターやロボットがどんどん進化していくと、労働集約的な仕事だけではなくて、弁護士や医者のような仕事もいらなくなるわけです。

――人間でしか出来ない、と言われたものもシステム化されていくのですね。


辻野晃一郎氏: すべてではありませんが「これは人間の仕事だろう」と言われてきた仕事でさえも、なくなっていくと思っています。今は盤石の大企業でも、5年後、10年後にどうなっているかはわかりません。富士フィルムは奇跡的に化粧品で再生していますが、業態としてこの先なくなっていくような分野の企業や、人力でやらなくて済むような分野は存続できなくなっていくわけです。そういうのを予測して、今からそういう時代に備えて、知恵やたくましさを身に付けておかないといけないのです。

ネット時代のキーワードは「直接」


――本の業界もいろいろな変革が起きています。


辻野晃一郎氏: 電子化の流れは、なかなか進まない時期もあったかもしれませんが、最近は一気に進んでいるんじゃないでしょうか。読者にとっては窓口が増えるわけだし、本も読まれなくなってきていて、そういった流れの中で、できるだけ多くの人たちに読んでもらうためには、紙と電子媒体の両方で広まっていくのはいいことだと思います。私の本も電子書籍になっていて、私自身も利用しています。iPadとiPhoneを使っています。

インターネットの時代になって、やっぱり「直接」ということが大事になってきた。物販でいうと直販。だから書籍もできるだけ、間に中間搾取するような人たちを入れないようにした方がいいと思います。直接読者と作者がつながっていくような関係がインターネットのいい面ですから。

例えば先ほどの話にあった、テスラモーターズは元々、直販なのです。でも全米の車の代理店販売組合のようなところが政府に働きかけて、テスラモーターズの直販を禁止しているわけです。利権、既得権を持った人たちというのは常に存在していて、その人たちが変革を邪魔するというのが、世の中のパターンとなっています。だけどそこを乗り越えていかない限りは、変革は起きません。本に関しても古い習慣で凝り固まっている部分があるから、色々な人たちが少しずつ変えていこうとしているのです。Googleも同様です。

新しい技術とともに、変わる概念


――「本」は、どのように変わると思いますか。


辻野晃一郎氏: いずれは「本」というのは、なくなるかもしれないと考えています。今はiPadやiPhoneなど、自分の肉体とは別のデバイスを手に持って使うというような使い方ですよね。それが、その次はGoogle Glassのようにウェアラブルになって、両手を他のことで使いながら、メガネの先に像が結ばれていて、そこで本を読んだりすることができるようになるかもしれませんよね。そこまでは電子書籍の出番かもしれません。でもその先にあるのは人工知能。データやプログラムが脳細胞の中に働きかけるといった研究もあります。

例えば眼球がなくても、直接脳の中に信号を送って、撮像デバイスが作った像を結ばせることができれば、物理的には目は見えないけれど、見えるようになるわけじゃないですか。それが目の見えない人を救う1つの方法となるかもしれません。これから10、20年の間に、そういう時代がくる。だから本もそういう形で、直接、脳の中に情報をインプットするという手段ができれば、今のような本の読み方はなくなるかもしれません。1冊まるごと直接データを脳の中に入れて、脳がそれを認識することによって読書が完了するわけです。

――新技術にどう対応していくか、今後の課題ですね。


辻野晃一郎氏: コンピューターやインターネットによって、明らかに人類は進化しています。自分たちが創造したものによって、エンパワーし続けているのが人類の歴史。江戸時代などには、そういったものはなかったわけだから、情報量でいうと比べものにならないぐらいの情報をGoogle検索1つで引っ張ってくることができるのです。知識量、情報量という意味では、人類は進化を遂げました。さらにテクノロジーがどんどん進んでいくから、そのスピードも上がっていますし、その活動を補うためのエネルギー需要もどんどん増えています。

しかし化石燃料などは、一旦使ってしまうともう戻らないし、石油も「いつかなくなる」と言われています。それで今は、シェールオイル・シェールガスのように、岩盤にしみ込んだ原油を採取するというようなテクノロジーが進んできています。でもこのまま進むと、いつか地球が崩壊するかもしれません。つまり、人類は滅亡に向かって加速していっているのです。モラル、教育水準の低い人たちが、経済至上主義で勝手なことをどんどんやっています。昔だったら国内で留まっていたような問題が、今は世界の問題となってしまっています。

――世界的な課題解決に、日本の経験が役立ちそうですね。


辻野晃一郎氏: はい、日本は「課題先進国」と言われています。日本は今まで、公害の問題から始まって、人類が経験しなければいけないような難題に一通りぶち当たって、それを解決してきた。行きついたのは平和主義。色々な意味で、日本はロールモデルとなることができる国ですし、それを世界に伝えていくことが大事な作業だと私は思うのです。

あと、自分と同じ世代にも、セミリタイアとかリタイアモードになっている人たちが多いので、そんな人たちにも「自分にもできるんだ」というような勇気を与えたいですね。あと、若い人たちがもっとチャレンジするように、自分の感じてきた色々なことを、伝えたいと思っています。

――これから先、どのように変わっていくか楽しみですね。


辻野晃一郎氏: はい、日本から世界へ向けて発信したいと思います。ただ、今は小さな会社を興して、自分の問題意識でやっているだけですし、展望を描くのは何か評価してもらえるような結果が出てきてからの話だと思います。まだまだです。株主や顧客、社員もいるわけだから、その人たちに対する責任をきちんと果たすということ。それをきちんとやっていかない限りは、何も語る資格はありません。その延長線上に新しい事業の基盤というのをきちんと作りあげていきます。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 辻野晃一郎

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