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世界中の本好きのために

辻野晃一郎

Profile

1957年、福岡県生まれ。慶応義塾大学大学院工学研究科修了、カリフォルニア工科大学大学院電気工学科修了。ソニーにてVAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等のカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月に退社。翌年、グーグルに入社し、その後、グーグル日本法人代表取締役社長に就任。2010年4月にグーグルを退社し、アレックス株式会社を創業、現在に至る。 著書に『成功体験はいらない』(PHP研究所)、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』(新潮社)がある。

Book Information

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成功体験が、時には足を引っ張る


――何事にも夢中になるのは、昔からですか。


辻野晃一郎氏: 昔、学校で学研の『学習』と『科学』という雑誌があったんです。私は『科学』が届くのが楽しみで、生物や機械の話、そして必ず付録が付いていて、工作したりしていました。精密なものを作るのが大好きで、微細なプラモデルなどをよく作っていました。昔はミリタリー関係のプラモデルが多かったので、戦車や軍艦、飛行機などをよく作っていましたね。外装の色塗りだけじゃなく、内装まできちんと作りあげたものもあります。メカニズムが本物に近い模型が好きでしたね。ご飯を食べるのも忘れて、怒られながらも夢中になってやっていましたね。ただ昔のことは、あんまり覚えていないんです。前向きなので(笑)。

――『成功体験はいらない』にも、その想いが込められているように感じます。


辻野晃一郎氏: 1冊目の本『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』を書いた時は、「今までの人生の棚卸しと、それから今後やっていこうと思っていることをきちんと整理しよう。どうせ整理するんだったら、本を書いて整理しよう」と思って新潮社から本を出したのです。それが2010年でした。その後、2冊目、3冊目の本のお話がきたのですが、まだ起業したばかりで、書いている余裕なんかありませんでした。でもPHPの編集者が本当に熱心で、「今の辻野さんにしか発信できないメッセージがあるはずです」と何度も言われました。
それで根負けして、お話に応じることにしたのです。

――編集者の熱意によって、生まれた本だったのですね。


辻野晃一郎氏: そうですね。私は、起業した後に自分が感じてきたことも含めて整理しようと思って書きました。成功体験というのは人間にとって、もちろん大事です。成功体験が自信につながって、さらに大きなチャレンジにつながっていく。そういう意味では、成功体験がないと人間というのはなかなか自信が持てない。ただ、逆説的に聞こえるかもしれませんが、成功体験は、すごく注意しないと人生の足を引っ張ることもあるのです。例えば、iPS細胞でノーベル賞をとった山中先生は、受賞後コメントを求められ、「これはもう終わった過去のことです」とはっきり言いましたよね。ああいう姿勢が大事だと思うのです。名誉や栄誉とか、多くの賞をもらうとか褒められるというのは、それは過去のことに対してのものなので、それで舞い上がっているようでは、あまり見込みがないように私は思うのです。

――満足して振り返る時点で、止まってしまうと。


辻野晃一郎氏: ええ。謙虚にチャレンジを続けていくということは資質として大事だと思います。特に今は、指数関数的にコンピューターの能力などがどんどん高くなっていますよね。2045年問題(※2045年にはAI=人工知能が知識・知能の点で人間を超越し、科学技術の進歩を担う技術的特異点が訪れるという説)などもあって、もう今日、明日の延長線上で明後日のことは語れません。PCはとっくに過去のものなのに、いつまでもPCとしてのVAIOをやり続けていたように、今のSONYは、過去の延長線上でしか発想していないように感じます。VAIOはSONYが築き上げた大きな成功体験。私自身もコアメンバーとしてVAIOを成功させましたが、私にとってはPCビジネスという、もうとっくに終わってしまった産業の中での過去の成功体験なのです。

今は、たとえば2045年を見据えて、未来から遡って、「どのようなハードウェアを作らなければいけないか」、という視点が必要です。自分の踏んできたステップや、過去の成功体験の延長線上に未来を探しても、もう通用しないと思います。これだけ変化の早い時代においては、10年後、20年後、30年後という未来を自分なりにイメージして、それから今の行動を決めるということをやっていかないと波に乗れません。そういうことをやれなかったから、家電産業、半導体もだめになってきたわけだし、これからだと自動車もだめになっていくのではないかと、私は思っているのです。

――自動車も、洗礼を受けますか。


辻野晃一郎氏: これからの車は、今までの車とは全くの別物になっていくし、すでにそういったものをテスラモーターズやGoogleが作っています。これからの車の中核技術となるものは、人工知能になるかもしれませんね。テスラモーターズの車は、積んでいる電池が発火したりすると、ソフトウェアをダウンロードして応急措置をするのです。そんなことをしている自動車メーカーは、他にはありません。過去の延長線上で考えていたら、到達できない部分ですよね。すでに、車そのものの定義が変わっていっているわけです。

俯瞰することが大事


――技術だけでなく、我々の概念も進化が必要なのですね。


辻野晃一郎氏: 人間は、手元でやっていることで精一杯になりますよね。でも、1人で存在しているわけではないし、周りとの関係性において意味を持つわけです。例えばどこかの会社で働いていたら、その会社の世間との関係性が、自分の存在に影響を与えている。さらにその会社は、世の中全体との関係性の中で成立している。だから、常にその関係性において自分を定義していかないと基本的に何の意味もないし、やっていることの目的を見失うことにもなります。

日本人は、もっと全体を俯瞰するということを日常的にやっていくことが重要だと思います。例えばシリアやイラクの問題なども、決して日本と無関係ではありません。なぜ今、世界中でああいった戦争がどんどん増えているのかというのは、今の自分、あるいは3年後、5年後の自分に必ず影響を与えるものなのです。他人事など、1つもありません。関係ないと思っても、今はリアルタイムで世界中がつながっています。だから、シリアやアフリカで起きた問題も、明日には自分に跳ね返ってくるようなものとして捉えなければならないのです。

――社会や技術の変化に伴い、新たな問題も出てきているのでしょうか。


辻野晃一郎氏: これまでは年功というのがベースにあって、役職に就くと給料がどんどん上がっていったわけです。でも今は逆の企業もあります。SONYはこの間、役職定年という制度が導入されて、年功も廃止されました。これから、あらゆるところでそういうことが起きると思います。大企業に勤めていれば安泰ではないし、突然給料が減ることもある。どんどんそういう流れになっています。だからこそ、「どうやれば自力で食っていけるのか」というのを、本当はもっと真剣に考えなければいけないのです。コンピューターやロボットがどんどん進化していくと、労働集約的な仕事だけではなくて、弁護士や医者のような仕事もいらなくなるわけです。

――人間でしか出来ない、と言われたものもシステム化されていくのですね。


辻野晃一郎氏: すべてではありませんが「これは人間の仕事だろう」と言われてきた仕事でさえも、なくなっていくと思っています。今は盤石の大企業でも、5年後、10年後にどうなっているかはわかりません。富士フィルムは奇跡的に化粧品で再生していますが、業態としてこの先なくなっていくような分野の企業や、人力でやらなくて済むような分野は存続できなくなっていくわけです。そういうのを予測して、今からそういう時代に備えて、知恵やたくましさを身に付けておかないといけないのです。

著書一覧『 辻野晃一郎

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