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黒川伊保子

Profile

1959年長野県生まれ、栃木県育ち。奈良女子大学理学部物理学科卒業。 大学卒業後、コンピュータメーカーにてAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。脳機能論の立場から、語感の正体が「ことばの発音の身体感覚」であることを発見。AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である『サブリミナル・インプレッション導出法』を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した、感性分析の第一人者。 近著に『家族脳: 親心と子心は、なぜこうも厄介なのか』(新潮文庫)、『シンプル脳育術』(エクスナレッジ)、『キレる女 懲りない男: 男と女の脳科学』(ちくま新書)、『いい男は「や行」でねぎらう いい女は「は行」で癒す』(宝島社新書)など。

Book Information

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親の役割を考えた日。私の子離れの日


――鋭い洞察力をお持ちの息子さんについては『恋するコンピュータ』にも登場していますね。


黒川伊保子氏: そう、色んなエピソードがあるの。
彼が二歳の頃、私が「ゆうちゃんは、ママのお腹に来る前、どこにいたの?」と尋ねたら、「忘れちゃったの? ゆうちゃんは木の上に咲いた。で、ママと目が合って、ここに来たんだよ」なんて言ってくれましたね。ドラマだったら、こんな素敵なことを言ってくれる幼児は早死にしちゃう…神様に連れて行かれちゃったらどうしようとおびえたけれど、すくすくと大きくなり、息子は今バイク乗りになって、地球何周分も走っています。

――活動的ですね。


黒川伊保子氏: ときどき、「一人息子をバイクに乗せて、よく平気ね」と言われるのですが、もちろん平気じゃありません。バイクに乗る彼を送り出していく時は、「せめて加害者にならないように」と、最悪の事態を覚悟して出します。私の心は、いつだって、少しずつ血を流していますよ。
でもね、最初にこの子を冒険の旅に出した時、「男子の母」として覚悟を決めたんです。この日の明け方、息子が怪我をする夢を見て目覚めたので、むりやり止めたかった。けれどね、「心配だから、行かないで」と言えば、優しい息子はきっと行くのをやめるに違いない、けれど同時に冒険心をも失ってしまうだろうと、直感的に思ったのです。だから、震える手を背中に隠して、笑顔で息子を送り出しました。息子が出て行ったあと、玄関で体育座りをして、声を上げて泣きました。それを乗り越えられたあの日が、私の子離れの日だったと思います。

――親の役割は、失敗させないことではなく、「何かあっても大丈夫だよ」と思わせてあげることなのかもしれませんね。


黒川伊保子氏: そうですね、若者はいつの時代にも大人から見れば痛い思いをするとわかっている旅に出る。でも、そのことは脳の成熟には不可欠で、親としてはどーんと構えるしかありません。最初の目論見が失敗しても、必ず、さらなるステージが用意されているのが人生ですから、それを伝えてあげたいですね。

自分の名前も、考えるきっかけ


――言葉の研究へと興味がわいてきたのは、いつ頃だったのでしょうか?


黒川伊保子氏: 自分の名前も一つのきっかけでしたね。伊保子という名前は珍しい名前なので、もしかして「イホコ」というのは、どこかの国のでは良くない言葉なのか?と思って、色々と調べたこともあります(笑)。でも、よく考えたら、この名前はすごく発音しにくいのです。フランス人やイタリア人も「は行(H)」を発音できませんし、日本人の場合も「ホ」という音を発するためには肺の中の空気を一気に口の外に持っていくので、横隔膜がグッと上がるのです。その後の「コ」も結構、息を使うので、両親が私を叱る時、「伊保子は、まったく伊保子は」と2回言うとヘトヘトになるから、その後の怒りが少し散漫になっているように感じました。それに比べ、弟は「ケンゴ」だから、力が入る音ばかりだったせいか、両親も名前を呼ぶたび、怒りがヒートアップしてきているような印象を受けたんです。

それを見て、「この世には人の気持ちをほどく音と、気持ちを盛り上げてしまう音があるんだな」と、幼いながらに気づいたのです。私は昔から、発音する時の唇に当たる息や、喉を擦れる息などの触感がとても好きでした。そういった語感の研究がしたかったので、文系志望でした。ところが、高校の国語の先生に、「人の心を柔らかくしたり、硬くしたりする語感といったような学問は聞いたことがない。学部もないよ」と言われてしまいました。そこで「物理効果なんだから物理学科に行こう」と考えなおし、高校2年の担任の物理の先生が大好きだったこともあって、物理学科に転向したのです(笑)。でも、高校の理系進学クラスでは50何人のクラスに女子がたったの6人しかいなかったのでちょっと居心地が悪く、「大学は絶対に女子大に行こう」と思いました。

当時、女子大で物理学科があったのは国立大の2校だけでした。それで奈良女子大に行くことにしました。しかしながら、物理学は思ったより難しくて、習得するのに必死。それと、大学時代は競技ダンスに夢中になって、大会に出たりもしました。そのため、語感の研究のことなどすっかり忘れ、4年間楽しく過ごしていました。

感覚は「真理」、で選んだ人生の選択


――ダンスも黒川さんを語る上で欠かせないようですね。


黒川伊保子氏: 実は、大学4年の時に、プロへの転向を考えた一瞬がありました。後に競技ダンスの日本チャンピオンになる人と同期で、レッスン場も一緒でした。彼のパートナーだった年上の女性がわけあってダンスを続けられなくなり、予定していたイギリス留学にいけなくなった時に、先生から「彼と一緒にイギリス留学してくれない?あなたならプロになれると思うわ」と言われたのです。私は行くかどうかすごく悩んで、祖母に相談しました。すると祖母は「この世で一番好きなことは、仕事にしちゃいけない。嫌な時にも我慢しなきゃいけなくなるから、好きではいられなくなる日がくる」と言いました。それで、ダンスの道へは進まなかったのです。祖母は面白い人で、「人の汚いところをずっと見聞きするような仕事は、尊い仕事かもしれないけど、うちの一族には合わないから医者と弁護士になるのだけはやめなさい」とも言っていました。私も「なるほどな」と思っていて、息子が小学校5年の時に、「ママは僕に何になってほしい?」と質問をしてきた時には、祖母と同じことを答えましたね。祖母と私と同じ血筋であるならば、息子の性分にも合わないだろうと思ったのです(笑)。

――そこで就職先に富士通を選ばれたのは?


黒川伊保子氏: 音が美しかったのです。「富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ」という名前の発音、「ソーシアルサイエンス」と言葉を発する時の舌の上を滑る空気の触感が気持ちよかったので、それが理由で入りました。私は面接でも「私は自分の会社名を名乗る時、これしか名乗りたくないんです」と言いました。ちなみに、「この人と結婚しよう」と思った理由の一つにも、夫の「黒川」という苗字が、「研究者っぽくてカッコイイかも」と、結構気に入っていたという理由もあります。私は言葉だけで生きているという感覚もあって、大事なことは全て言葉で決めているような気もします。今は、その感覚を汎用化して、企業のネーミングのコンサルティングをさせていただいているわけです。私にとっては、好きなことをやっているだけ。だから世の中は、本当に懐が深いなと思っています(笑)。でも感覚というのは脳の原初的な反応なので、一人の人間にとってのぶれない真理は、多くの人にとってもそうなのです。だから、「好きでたまらない」は大事にした方がいい。好きでたまらないものを極めよ、とは、スティーブ・ジョブスも言っていますよね。

著書一覧『 黒川伊保子

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