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世界中の本好きのために

松谷明彦

Profile

1945年、疎開先の鳥取県で生まれる。東京大学経済学部経済学科、同学部経営学科卒業。大蔵省主計局調査課長、主計局主計官、大臣官房審議官等を歴任。1997年より現職。2004年東京大学より博士(工学)の学位取得。2010年国際都市研究学院を創設。専門はマクロ経済学、社会基盤学、財政学。著書に『人口減少社会の設計』(中央公論新社)、『「人口減少経済」の新しい公式』『2020年の日本人』『人口流動の地方再生学』(日本経済新聞出版社)、最新刊に『人口減少時代の大都市経済』(東洋経済新報社)がある。

Book Information

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本は体系的で長期的に影響力がある唯一のメディア


――社会的な提言をするための手段として、本とはどのような存在ですか?


松谷明彦氏: 学者ですから、学会で発表する、学会誌に論文を出すというのが、社会的な提言をするためのオーソドックスな手法です。ただし、この場合には学者しか見ないので発信力としてはかなり弱い。『エコノミスト』や『東洋経済』などの経済誌への寄稿は、発行部数が多いのでインパクトはありますが、その時の人々の関心事であるなど題材が限られる上に、持続的ではないんです。例えば私のところに、講演や、執筆の依頼がきますが、その際「あの本を読みましたので」と言われる人は、本を出して何年経ってもいます。ところが、「雑誌のあの記事を読みましたので」という人はほとんどいません。新聞も、日経の経済教室なんかで書いた後1、2ヶ月くらいの間は、その関係の執筆や講演の依頼がきますが、それっきりです。雑誌や新聞はスペースが限られていますから、言いたいことの何分の1も書けないし、雑誌は1週間経ったら買えません。より正確に私の考え方をまとまった形で知っていただきたいと思えば、必然的に本に精力を集中して書くということになります。

――雑誌や新聞などでの発言には、どのような利点がありますか?


松谷明彦氏: 雑誌、新聞というのは即効性があります。今日伝えたいんだ、ということは本では無理です。新聞は毎日ですし、雑誌だって1週間ですから、今起こってることに対してすぐに警鐘を鳴らしたいということならば、本は雑誌、新聞に敵わないところもあります。しかし、もう少し中長期的な問題で、人口減少問題のように必ずしも正確な認識が行われていなくて、どちらかというと誤解されている部分が多いことに関しては、まずは正確な認識をしていただかないと議論すら展開できない、そのためには、まとまった量の情報や考え方をじっくり提供する必要があり、必然的に本にならざるを得ないという感じがします。雑誌もテレビも、それぞれにとって一番適切な形での情報の提供がありますが、やはり本にしかできないこともあります。体系的なまとまった考え方を長期に亘って示し続けることは、絶対本にしかできないことです。人間がどう変わろうと、絶対本はなくならないと思います。

付加価値があれば、電子書籍は確実に紙を超える


――電子書籍についてはどのようにお考えですか?


松谷明彦氏: 電子書籍も、本と同じようにいつまでもずっとあるものですし、印刷の手間がないので、早期にまとまった形で伝えることができるという利点もあります。ただ、電子書籍で200ページ以上あるものを読むのは苦しいのではないでしょうか。インターネット上の情報は割と短めのものが多いですから。でも、今の人は電子書籍だから長いのが不向きっていうことは、もうないのかもしれません。書き込みをしたり、付せんを貼ったりすることも可能かもしれませんし、時代も変わっているのだと思います。私たちは本の時代に育ってから電子が出てきましたが、元々電子がある状態の場合では全然違うと思います。電子書籍がどういう形で発展していくのかはまだ模索の段階ですが、電子書籍で育った人がどんどん増えてくると、紙の方が特殊な分野になっていく可能性があります。

――研究者の世界では、電子書籍にはどのような可能性がありますか?


松谷明彦氏: 今の段階では、専門的な知識や、専門分野となると、電子書籍はほとんどありません。これからの課題だと思います。学者はコンピュータを使うのに慣れており、学会誌ではすべて、電子媒体で原稿をもらって、WordやExcelも入ってるわけですから、PDFに変換して、引用、転写を楽な形にしようと思えばできるはずです。
ただ、画像として取り込むだけだと電子媒体の良さがでてきません。専門書の場合、例えばグラフをクリックすると元データや計算式が出て来ると便利ですし、引用文献をクリックするとリンクされているというのも、研究者としてありがたいですね。著作権の問題があってなかなか大変なのでしょうが、付加価値がないと紙の本を超えられない気がします。書いた本人がデータをどのように加工したか見られたくないということがあるかもしれませんが、別の人が元データを使っても、同じ結果が出てくるということでないと分析の客観性が疑われます。学者も考え方を転換すれば、確実に紙を超えるし、逆に電子媒体でなければ認められないとなってくるかもしれません。厚い本を持ち歩かなくていいとか、本屋に行かなくても買えるというのも便利でしょうが、付加価値というところまでいくためには、まだ乗り越えなければならないものがありそうです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 松谷明彦

この著者のタグ: 『大学教授』 『経済』 『考え方』 『研究』 『教育』 『クリエイティブ』 『メディア』

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