限られた人生で、納得できる仕事を
――今後の展望をお聞かせください。
藤井良広氏: 来年、定年を迎えて65歳になります。その後どうしようかということは、まだ全然決めていません。環境金融やCSRの世界をもっと書きたいとは思っています。それと、今年度から環境省で環境金融関連の新しい研究会が始まり、そのメンバーをさせていただいています。同研究会は来年度ぐらいには少し方向性を作れると思っています。そのためには、国内だけじゃダメなので、インターナショナルで考えています。アメリカでバランスシートに環境価値を載せる標準化作業を展開している非営利団体があるので、その団体ともコンタクトして、彼らの手法を何とか日本の経済社会に定着させられないかとも考えています。またロンドンでは、Climate Bondという気候変動対策資金の債券を発行して、金融市場から地球環境保全に必要な資金を広く調達する市場の創設を真剣に考えている人たちがいます。そうした市場を日本やアジアにも広げていくような仕組みを作れないか、というのもテーマです。
もう1つは趣味の本。山登りが好きで、イギリスに行くたびに登っているのですが、海外には面白い歴史を持った山がたくさんあるので、それを紹介してみたいと思っています。
――藤井さんのモチベーションはどういったところにありますか?
藤井良広氏: この歳になると、自分がやったことが社会にとってプラスになるかどうかを意識します。自分がジャーナリズムでやってきたこと、それから大学に来たことの意味を考えて、これはやった方がいいんじゃないか、このテーマは本に書いた方がいいんじゃないか、こんなサイトをやった方がいいんじゃないか、このセミナーは出た方がいいんじゃないか、そういうことを意識して仕事を選んでいます。
時折、若い人が、「会社の指示で動かないといけないので、自分の思い通りにならない」と相談しにきます。でも、意に添わないところでも、そこで自分が何を吸収し、何を貢献できるかを考えることが重要だと思います。どの職場、社会でも、人並みではなく、人並み以上に活動しないと、結局、自分がやりたい世界になかなか辿り着けない。懸命に抗って、目の前の課題や仕事をさばいて、ようやく自分が本来やりたい領域に辿り着き、そこで自分の納得できることをするという機会は、普通の人間にとって、一生の間で何回あるか、ということです。限りがある人生の中で、自分の能力にも限界がある中で、それを少しでも超えようとしてがんばることで、幾ばくかの結果が出る。でも、やっぱり壁は大きいということに気づく。それが人生なのかもしれません。
(聞き手:沖中幸太郎)
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