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世界中の本好きのために

藤井良広

Profile

1949年、兵庫県神戸市生まれ。1972年大阪市立大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。欧州総局ロンドン駐在記者、オックスフォード大客員研究員、経済部編集委員などを歴任。主に金融問題を担当。2006年、上智大学環境大学委員(地球環境学研究科)教授に就任、現在に至る。中央環境審議会臨時委員などを兼務。専門は環境金融論。CSR経営論、EU環境論。主な著書に『金融で解く地球環境』(岩波書店)、『金融NPO』(岩波新書)、など。最新刊に『環境金融論~持続可能な社会と経済のためのアプローチ~』(青土社)がある。

Book Information

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電子メディアでは編集力が問われる


――電子書籍はお使いになっていますか?


藤井良広氏: 正直まだ使っていませんが、私の本はいくつか電子書籍になっています。私は情報を伝えるメディアはなんでもいいと思っています。最近は新聞も、日経は電子版で読んでいて、紙の新聞はほとんど見なくなりました。時間があれば紙の方がゆったり読めるのですが、情報をただ得るだけだったら電子媒体が欠かせないです。本はたまって重くなって困るので、いずれ電子書籍は利用しようと思っています。ただ、今はそこまでたどり着いていません。

――電子書籍にはどのような可能性があるでしょうか?


藤井良広氏: 自分の知識の場になることです。本には自分で色々と書き込みをしますが、電子書籍の場合、それを自分だけでなく、ほかの読者や研究者らとディスカッションしながら知識を広げていくということができるのではないかと考えています。

――ヨーロッパなど、出先で原稿をかかれることも多いと思いますが、執筆に必要な情報はどのように管理されていますか?


藤井良広氏: 海外では、原稿はすべてノートパソコンで書いています。紙のメディアは必要なものに限定して持って行きます。論文なども必要なコピーだけをファイルして持参しますが、実際はあまり使いません。電子媒体の場合の課題は、一覧性が無いという点です。しかし、その分データそのものが軽くなるので、マネージできている感じです。手元の情報が多過ぎると、かえって整理できないという点もあります。よく学生が論文作成で陥るのは、情報を集め過ぎることです。自分のテーマとコンセプトがしっかりしていれば、情報をしぼることができます。自分に必要な論文やファクトだけを最小限集めて、使うということが大事です。それには、編集力が要ります。この点が編集をやっていた人間と、そうじゃない人間で全然違うところなのです。

――出版不況などと言われて久しいですが、本の未来はどのようになっていくでしょうか?


藤井良広氏: 出版も紙でずっときたわけですが、中身の情報はどんどん新しくなっていっています。ということは、情報自体への需要が低迷したり、情報産業自体が不況に直面しているのではない。社会に必要とされるメディアが変わってきているわけです。現在は、出版や新聞などの従来型メディアと、新しい電子媒体が混在している。情報を需要する側の視点で、現在の状況を整理することが、出版界の1つの役割になるんじゃないでしょうか。例えば、歴史を越えて優れた評価を得る書籍もあります。その古典のどこが優れているのかが分かれば、100回も200回もセミナーを聞くよりも価値があります。出版社がそういうプレゼンテーションをメディアとして展開していけるか、ということです。たとえば、古典のダイジェスト版を作って、「あなたの人生の指針になるのはひょっとしてこの古典なのではないのか」ということを多様なメディアを使って示すような、知的な作業を奨励する仕事が出版社にはできるのではないでしょうか。

切れ味しだいでアクセスは跳ね上がる


――新聞も購読率が下がっていると言われていますが、どういったことが原因だと思われますか?


藤井良広氏: 新聞社が今ダメになっているのは、主義主張の無い、ファクト主義だからです。もちろん正しい情報を伝えるのは重要ですが、事実をメニューとしてポンと出されただけでは読者は分からない。例えば消費税は上げるべきだ、と書くとします。その時に、ただ単に上げろと言うのではなくて、論理的に主張する。また別の新聞は、それは消費税でやるべきではないという論理を出す。読み手の方は、いくつかの提案を読んで、こっちの方が分かりやすいと選ぶわけです。そういったように、どちらに軍配を上げていいか分からない時に、メディアには判断を含めた情報を提供していくということが、今求められているのです。そうした判断力を磨くには、記者だけではとても間に合わないため専門家も必要です。ただ、専門家も多種多様です。研究者としては優れているけれど、考え方が偏っている人もいる。そうした多様な情報や意見・判断を整理するのが編集者です。売れるからということだけではなく、この問題はこうしたら、社会がより良くなるんじゃないかという、エディターの一種の勘みたいなものですね。政府の政策も、「そこは間違っている」と言っていいんです。かつては、朝日ならこうだ、読売ならこうだ、などと、新聞を選ぶことによって、その新聞の編集方針に親和感を持ち、信頼性が生まれました。それを選べなくなってくると大変なことになります。どんな時代でも、誰かが、ある程度のエディティング機能を発揮していくべきだと思います。今の社会に流れている膨大な情報を、個人個人が独自に判断するのは、とても無理です。

――情報があふれる中でこそ、エディティング機能が必要になってくるということですね。


藤井良広氏: 人間は、神や仏じゃないから絶対的なことは分からない。Aさんが言っていることと、Bさんが言っていることのどちらが正しいのか、あるいは足して2で割るか、そういう読み手の読解力を助ける情報の出し方というのがエディティング機能です。そうした機能に長けてるメディアに読者のアクセスが殺到する。一般的に新聞社が電子媒体で流す記事は、新聞の延長なので見出しが不十分なものが多いと思います。私もサイト(Finance GreenWatch)を運営していますが、一般に流れる情報に、読み手の判断に資する言葉を加えるだけで、アクセス数が全然変わってきます。電子媒体の世界は、そうした判断に関する加工が必要だと思います。

――藤井さんのサイトではどのような記事にアクセスが多くなりましたか?


藤井良広氏: ヒットする情報は、1日に40000件近いアクセスがあることもあります。それまで、大体、一日当たり1000件未満だったのが、ある日、1800件の表示が出ているので「今日は多いな」と思ってよく見たら、実は18000件でした。その後、さらにヒットして40000件のアクセスが2日続きました。何がヒットしたのかと思ったら、ちょうど東京オリンピックが決まった後で、猪瀬さんが、「東京の放射線量はロンドンと変わらない」とか、安倍さんが「状況はコントロールされています」とか言ったことについて、「それは違う、やっぱり東京は放射線量が高い」と、政府発表のデータを元に分析した記事を書いたのです。直ちに健康被害が起きるレベルではなくても、相対的に比較すると、明らかに東京都の月間の放射能の降下量、下水汚染の線量は福島を除く他の県よりも高い状態が今も続いています。膨大に溢れている国や自治体の検査データの中から、重要なデータをピックアップし、その意味を調べて、読者が欲しているタイミングに、分かりやすい見出しで流したことが大ヒットにつながりました。その後のアクセス数もレベルアップしています。

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この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『大学教授』 『原動力』 『教育』 『環境』

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