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世界中の本好きのために

岩村充

Profile

1950年、東京生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行入行後は営業局・総務局・ニューヨーク駐在員などを経て、日本公社債研究所開発室長、日本銀行金融研究所研究第2課長、日本銀行企画局兼信用機構局参事を務める。1998年より早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。2007年、研究科統合により早稲田大学大学院商学研究科(ビジネススクール)教授、現在に至る。主な著書に『入門 企業金融論』(日本経済新聞社)『電子マネー入門』(日経文庫)『サイバーエコノミー』『企業金融講義』(共に東洋経済新報社)『貨幣の経済学』(集英社)『貨幣進化論』(新潮選書)などがある。

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響く言葉が見つかったら、本を閉じる


――読書に関するお考え、読書スタイルなどをお聞かせください。


岩村充氏: 私は本が嫌いで(笑)、文学作品を除くと1つの本を最初から最後まで読み通す忍耐力をあまり持っていません。研究書や論説書などは1つの本の中で、気に入った概念や言葉が出てきてしまうと、その先は読みません。強烈に響く言葉や考え方が提示されると、そのことを軸に自分が何を考えるか、という自分の考える世界に入ってしまうんです。衝撃的な概念が見つけられなかった有名な本の方がむしろ最後まで読んでいます。つまらないな、という感想を得るためですが(笑)。逆に、面白そうな小説などを読む時は途中でやめることができなくなること必至なので、期限のある仕事をしている最中に、力の強い作家の作品を読み始めることは絶対にしないです。お仕事の方に障りますから。

――『貨幣進化論』では、マルクスなど様々な引用がありますね。


岩村充氏: マルクス主義の貨幣観として、『ゴータ綱領批判』を使ったと思いますが、この本は昔読んだことがあって、そのとき彼は労働価値説を主張したとされているけど、むしろ時間価値説だなあ、と思った記憶があったんで、今回は改めて探し出してきて引用しました。ですから、この本も最後の最後まで読んで深く考えたかというと、そうでもありません。研究や著作のために参照する本っていうのは、実は最後まで読んでいないことが多いです。

――最後まで読み切ることよりも、自分の実になるか、ということが重要だということでしょうか?


岩村充氏: 自分も本を書く立場の1人なので、最後まで読んでもらえるように一生懸命書いていますけど力及んでないと思います。上手な作家さんなら、最後まで読ませるように書けるのでしょうが、私は下手ですから無理ですね。上手な人、例えば百田尚樹さんや浅田次郎さんは本当に上手で、読み始めたら途中で別のことができなくなっちゃう。夜1時ごろ読み始めて朝まで眠れなくて、翌日は「やっちゃった~」って後悔ということも多々あります(笑)。仕事の本はネタ探しに読んでいるので、1つネタが見つかって、その後に自分の関心と本の内容がずれてきちゃったりすると、その後はあんまり読まなくなっちゃうんです。

良い本は、細く長く残って欲しい


――電子書籍についてのお考えをお聞かせください。


岩村充氏: よく売れている本は電子書籍にしなくていいと想います。売れていない本、あるいは手に入りにくい本を電子書籍にするべきです。私は自分の本で、ウィクセルという人について書きました。彼の代表作は、『利子と物価』ですが、この人の本は、自分が分からないことは分からないとはっきり書いているので、読んでいて気持ちがいいんです。『貨幣進化論』には彼のお葬式についてまで書いてしまったほどです。時は1920年代、共産主義運動が盛んで、国際共産主義運動とカトリック教会は、猛烈に対立していました。ウィクセルの葬儀には、その両方が集まり一緒に彼の死を悼んだのです。彼にはイデオロギーの違いを越えて愛される素直さがあったのではないでしょうか。

でも、その『利子と物価』の翻訳はもちろん絶版で普通は手に入りません。ですから私は、その『利子と物価』の翻訳があることを知ったので、それをAmazonの中古で探して買ったんですけど、こういう本を翻訳しておいてくれた人は立派です。私は外国語が苦手ですから、自著で引用する時、翻訳が出ているかどうか必死で調べるんです。英語のものでも翻訳と読み比べて自分の誤解に気付くことが少なくありません。ですから、あまり売れないはずの本をきちんと翻訳してくれる人を私は尊敬しています。著書の参考文献で原書のみをあげて翻訳をリファレンスしない人がいますが、そうしたやり方を私は好きではありません。個々の翻訳の出来については、外国語の堪能な人から見れば、それはいろんな議論もあると思うのですが、それでも最初に翻訳した人の熱意と苦労を忘れてはいけないと思います。
やや話は変わりますが、『貨幣進化論』で引用した本に、ウィリアム・バーンスタインの『豊かさの誕生』という本があります。本当に良い本だと思うのですが、出版後数年でもう絶版になってしまいました。その本はとても内容豊かなだけでなく500ページ近いハードカバー本で図版も豊富、それなのに定価3200円という安さなのですね。本が安く手に入るのは有難いことですが、行き過ぎると問題が生じます。この本も3200円という値段の何倍かの定価を打っておけば、出版社もそれなりの採算が取れて長く店頭にあったはずだろうに、とも思うのですが、こうした質の良い本を細く長く供給するというのはこの頃では存在しないビジネスモデルになっているんでしょうね。そこまで考えると、本を少しでも安くすることと、その本を細く長く世に送り続けることを両立させようと考えるのならば、本の電子書籍化は優れた方法論になると思います。

――電子書籍は本を安くするもの、というイメージを持つ方もいるようです。


岩村充氏: 知の共通基盤というのは、細く長く供給され続けるべきものだと思うんです。だから、電子書籍という技術を使って、紙の本では商業的に維持しきれないマイナーな思索を、きちんと保存して、長くみんなが使える状態になるといいと思います。評判になった本が、あっという間に絶版になってしまうのは、知の基盤という考え方からは問題です。
いずれ私の本も売れ行きが落ちれば絶版になるんだろうと思っていますが、書き手の立場からはほどほどの値段で世に残しておいて欲しい。細くても良いから長く存在していて欲しいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 岩村充

この著者のタグ: 『大学教授』 『経営』 『ビジネス』 『研究』 『教育』 『研究者』

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