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岩村充

Profile

1950年、東京生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行入行後は営業局・総務局・ニューヨーク駐在員などを経て、日本公社債研究所開発室長、日本銀行金融研究所研究第2課長、日本銀行企画局兼信用機構局参事を務める。1998年より早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。2007年、研究科統合により早稲田大学大学院商学研究科(ビジネススクール)教授、現在に至る。主な著書に『入門 企業金融論』(日本経済新聞社)『電子マネー入門』(日経文庫)『サイバーエコノミー』『企業金融講義』(共に東洋経済新報社)『貨幣の経済学』(集英社)『貨幣進化論』(新潮選書)などがある。

Book Information

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日銀時代に知った情報技術の可能性


――日本銀行に務められていたそうですね。


岩村充氏: 日本銀行には23年9ヶ月在籍していましたが、日銀時代に、今教えているような話に関与していた仕事をした期間はあまり長くありませんでした。日銀の業務の適法性・合法性を管理する仕事をしたり、銀行との調整、お役所との調整、それから研究部門に回ったり、さらにはシステムの開発を4年間やったりしていたんです。結果として「なんでも屋」の人間ができ上がってきたということです。

――早稲田大学で教壇に立つことになった経緯をお聞かせください。


岩村充氏: 日本銀行のシステム部門や研究部門にいた当時、電子マネーに関連して暗号理論とかセキュリティ技術に関与していました。そうすると、自分の名前で論文を書くことがあったんです。かつての日銀は、比較的そういうことには寛容で、自分でやっている業務そのものは書いてはいけないのですが、自分が直接関与していないものについて個人の思索を文字にすることは、一定の許可を得ればOKでした。結果的に、日本銀行には珍しい分野に妙な専門性のあるスタッフがいるように、世間からは見えたのだと思います。早稲田大学でビジネススクール設立の動きを最初にしたのが1998年、アジア太平洋研究科にビジネススクール部門を作った時ですが、ちょうどITバブルが頂点に上り詰めようとする時代で、情報と企業経営などを語れる先生を早稲田さんが探して、私が網にかかったということだと思います。私自身も金融での仕事には、やや疲れが出てきていたころでしたから、早稲田に移った直後は金融論や金融政策論あるいはファイナンスなどという講義は担当せず、情報社会論とか情報経営論という科目を担当することになりました。

――暗号やセキュリティについては早くから興味をもたれていたのでしょうか?


岩村充氏: 公開鍵暗号というのが登場した時には衝撃を受けました。その時は別の仕事をしていて、技術が登場した1970年代からは約10年ほども遅れて知ったんです。私の父親が数学の先生で、「今、こういうのが面白いよ」とサラッと教えてくれたんです。私はあまり父親の言うことを聞かないし、父親も数学を教えてくれたことは1度もないんですけど、暗号についてまとめた学術情報誌の『数理科学』の特集号を渡されて読んだら、これが本当に刺激的でした。金融の実務を意識する人間にとって、とても重要そうだということに気が付いたんです。
特にRSA(公開鍵暗号の1つ)は数学的に簡潔にして見事で、私のような経済学部の卒業生でも理解できるような理論体系だということに衝撃を受けました。ただそれ以降、暗号技術は精緻化の方向に進んで、世の中のものの考え方や仕組みの根底を動かすようなブレークスルーはないような気がしてきたので、90年代に入る頃からは、やはり金融論とかファイナンス論の世界に関心が戻ってしまいました。

計算よりも「基本的な考え方」を教える


――多彩なキャリアがあるだけに、書かれる本の分野も多いですね。


岩村充氏: 確かに暗号理論のことを書いたこともありますが、その一方で、金融政策の話の本もありますし、ファイナンス理論の話のものもありますから、まあ要するに「ごった煮」状態ですね。でも、そうした「ごった煮」が面白いと言ってくれる人もいますから、これは有難いことです。例えば『コーポレートファイナンス』という本は、教科書モードで書いたものですが、間にはマクロ金融の話を少し書いていたりして、本文よりそっちの方が面白いなどと言ってくれる人もいます。喜んで良いのかどうか分からないですが(笑)。

――『コーポレートファイナンス』はどのような読者層を想定されたのでしょうか?


岩村充氏: 経営陣候補生はファイナンス理論をどう理解するべきかというコンセプトで書いています。アメリカのファイナンスの教科書は、バンカーや証券会社、財務部門のスタッフに教えるための本で、内容的に盛り沢山で百科事典的には極めて便利なものですが、企業の経営陣候補生を養成するのが役割のビジネススクールで細かいことや計算技術を教えてどこまで役に立つのかというのが私の思いでした。ですから、私自身は、ファイナンス理論の基本はどこにあるのかということをざっくりと書くようにしました。

――『貨幣進化論』では、経済成長の観点から世界史的な考察がありますね。


岩村充氏: 『貨幣進化論』の中で強調している点は、人類社会で経済成長が始まったのは19世紀初めと、意外なほど早いということです。世界史には、人類社会はギリシャ、ローマ、古代中国からずっと成長し続けているという前提があります。でも成長は普遍的な現象ではなくて、むしろ停滞の方が普遍の現象です。長い人類史的にみると、経済成長は時々ズドンと起こって、わりとすぐに終わるものなのです。だから今の経済や金融の状態の状態を異常だと考えないほうがいいという思いが、『貨幣進化論』の根底にある問題意識です。



これは現在の日本にとって重要な話で、デフレとか停滞の状態が異常なのか。もしもこれで普通の状態であったら、そこに無理矢理カンフル剤を与えるというのは良くないことです。アベノミクスや異次元緩和というのは、成長は当然で停滞は病気という前提があるようですが、成長というのは何か理由があって起こり、理由が一巡すると消えるものです。19世紀以降の経済成長というのがなぜ起こったのかということを、もう少し深く考えたほうがいいと思います。

著書一覧『 岩村充

この著者のタグ: 『大学教授』 『経営』 『ビジネス』 『研究』 『教育』 『研究者』

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