周りの全てのものから学ぶものがある。
――最近読んだ本で印象に残っている本はありますか?
村尾隆介氏: ビジネス書ばかり読んでいる人は漫画を読まない人が多いので、僕は職業漫画を勧めたいと思っています。その職業だけに特化した漫画が今は多く、内容も細かい。『匠三代』という漫画がありますが、真面目な家作りしかしないというポリシーを持った小さな建築会社の、ファミリービジネスの話なのですが、これを通じて家作りや小さなハウスメーカーのあり方などを僕は学びました。『とろける鉄工所』という鉄工所の漫画も読みました。僕は今、鉄工所のコンサルタントなどをやっているんですが、スムーズに仕事に入れているのは『とろける鉄工所』を僕が熟読しているからかもしれません。鉄工所の日々の生活が綴ってあるんですが、作業中に飛び散る火のことを「スパッタ」と呼ぶことを知りました。「火の粉、大変ですね」と言うのと「スパッタ、大変ですね」と言うのでは大きな違いがあって、「こいつ、知ってる」と目の色が変わるんです。
――漫画も密接に取材されているので、参考書という感じですか?
村尾隆介氏: まさしくそうです。弁護士漫画、獣医の漫画、医者の漫画。僕はドクターのお世話をすることもありますが、麻酔医だけに特化した『麻酔科医ハナ』という漫画があってそれを読むと、麻酔医の苦労が少し分かったりします(笑)。最近、活字で読んだのでは、大前研一さんの『最強国家ニッポンの設計図』です。彼はコンサルタントをされながら、国づくりのことをたくさん提言されている方で、大前さんの本は僕は全部読んでいると思います。もう1つは、ビジネス書ではありませんが、町山智浩さんの『教科書に載ってないUSA語録』という本です。アメリカのニュースなどで出てくる最新のアメリカの言葉から、世界の流れを読み解くという内容で、学ぶところが多かったです。それを読むとアメリカのビジネスの動向も分かりますので、英会話の本と捉えず、ビジネス書として読んでほしいなと思います。
――村尾さんにとって周りにあるもの全てが勉強の材料になるという感じですね。
村尾隆介氏: よくセミナーや講演でも、「初めての土地に行った時、タクシーの運転手さんと話して、何が困っているのか、この土地で最近何が問題なのかを聞いてくれ」という風に言っています。
本は薬。だから共有する。
――村尾さんにとっての本というのはどんな存在ですか?
村尾隆介氏: ビジネス書やノンフィクションの本というのは、「薬」だと僕は考えます。人がふと立ち止まって本を手に取るのは、その方が悩んでいるキーワードが帯やタイトルに書いてあるからなのです。ドラッグストアで「最近目が乾く」という人が「渇き目、ドライアイに」という表示があるものを手に取る。ドライアイを治すためにそれをレジに持っていくのと同じです。何かしら困りごと、悩みがあって、それを解消したり軽減したりするため、もしくはそのヒントや治る糸口を見つける手段の1つが本だと思うので、僕は、本をプロデュースする時に「書店と薬局は似ているのだから、自分の半生記や自分の好きなことを書くのはやめてほしい」と言います。自分が持っている薬を「本」という形で差し出す。それを棚に置いてもらうという製薬会社だと自分のことをそう位置づけていますし、逆を言えば、本は、自分が悩んでいたり、元気がない時に元気をもらう存在だと思っています。
――本を書く時はどのような思いで書かれていますか?
村尾隆介氏: ノウハウなどは隠していいと言われることもありますが、僕のように小説家ではなく、本業がありながら執筆をしている人間にとって、本を書くことは、自分が知り得ていることを、必要としている人に差し出していくという、社会貢献活動でありシェアだと思っています。自分がここまで溜めたノウハウを「いったんここで公開します」という気持ちで書いています。根本に本は「薬」だという考えだから、出し惜しみしたら効能もありません。
同じチームで2冊以上出版する。
――村尾さんにとっての理想の編集者とは、どのような人でしょうか?
村尾隆介氏: 僕は、一出版社、一編集、一営業。同じチームで必ず2冊以上出すというのをポリシーにしています。でも、同じ会社から前と同じチームでもう1冊出すためには、1冊目が商業的にも成功していなくてはいけないのです。ですから、基本的には一番最初にお会いした時に、「この人とは2冊以上出せそうだ」と感じた人と仕事をするようにしています。長い文章を書いていると書き詰まりますから、そういう時にブレスト役を務めるのも編集者だと思っています。編集者の中でもブレスト役がうまい人とそうでない人がいます。「ほら、あの映画のあのシーン」「ありますね」というような会話が繋がる人が、ブレスト役として僕は最適だと思っているので、最初の初対面の時にそういう会話の盛り上がりがあるかどうかを重視します。
――そういう意味では、その編集者というのは「一緒に走る」存在ですか?
村尾隆介氏: もちろん男性の編集者もいますが、僕は編集者は恋人だと思っているところもあるから、女性の編集者に担当してもらうことが多いです。少なくとも数年は運命を共にしていくので、プライベートでも会って食事をしたいなと思うかどうかという点も重要なのです。あとは、表紙やイラストなど少なからずデザイン面もありますので、そのセンスも必要です。持ち物や着ている物で、だいたいその人のセンスが分かりますから、そのセンスが自分と合うかどうかというのも考えます。
著書一覧『 村尾隆介 』