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世界中の本好きのために

結城浩

Profile

1963年生まれ、関東在住。 数学を題材にした青春小説『数学ガール』シリーズ(ソフトバンククリエイティブ)の作者。2013年7月から新シリーズ『数学ガールの秘密ノート』を刊行。数学、暗号技術、プログラミングの入門書を数多く出版し、そのいくつかは英語、ハングル、中文繁体字にも翻訳されている。
【公式サイト】 http://www.hyuki.com/

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自分も電子書籍のユーザー、読者がスキャンして本を読む気持ちがよく分かる


――たとえば読者が本屋さんで買った結城さんの本を電子化して、電子媒体で読むことに関して、何か思いはありますか?


結城浩氏: 私も電子媒体で本を読みますので、抵抗はまったくありません。私はScanSnapで自炊もしますし、ブックスキャンも利用しています。電子化した本は現在800冊くらいあります。そのうちブックスキャンで電子化したものは100冊くらいでしょうか。電子化した本がなければ、私はいま仕事ができないです。ノートパソコンを持ってスタバに行って『数学ガール』を書いているときに「あの参考書にこういうことが書いてあったな」と思い出したら、PDFを検索して読みます。電子化した本は普通に仕事の道具になっていますね。

――電子書籍の魅力や可能性についてもお伺いできればと思います。


結城浩氏: 電子書籍という言葉は意味がずいぶん広いと思います。いわゆる自炊したものの話は含めるのか、アプリ形式はどうか、ウェブは入れるのか、メルマガはどうか。意味の範囲が広いですよね。もっとも、私は電子書籍だからどうこうという気持ちはあまりありません。書き手としては「読者のチョイスが広がるのはうれしい」という気持ちが一番大きいです。私はいつも読者のことをイメージしていたい。電子書籍をめぐる環境はまだまだ過渡的です。たとえばDRMをどうするか。読む機械は何を使うか。電子書籍のフォーマットはどうするか。プラットホームを作ろうとしている側の人は何とか大きなビジネスにしようとするでしょう。でも電子書籍をめぐる状況がどう変化していったとしても、エンドポイントをしっかり把握していることが大事ではないかと思います。つまりは書き手と読み手ですね。書き手は、途中にある特定のチャンネルのどれかにコミットしすぎるのは正しくないと思います。どういうことかというと、紙でなければいけないとか、電子書籍は絶対だとか、フリーこそが至高とか、DRMは必須とか…そういう偏りはどうかなと思います。未来を予測するのは難しいですが、プラットホームやメディアは、書き手と読み手を適切につないだものが生き残ることになると思います。

中古書店も図書館も、自分の本を宣伝してくれる貴重な媒体


――中古書店についてはどうお考えですか。


結城浩氏: 書籍が中古市場に出て、さらに再買い取りのようにぐるぐる流通していると、著者に一銭もお金は入りません。それはまさにその通りです。でもよく考えると、間接的にはそうではありません。なぜかというと、中古市場も重要な宣伝媒体だからなんです。たとえば、『数学ガール』の本やコミックスに中古書店で出会う人はいるわけです。それは図書館で出会うのと全く同じです。つまり私は一銭もお金をかけていないのに、本を読みたい人に宣伝してくれているといえなくはない。

――そういう捉え方なのですね。


結城浩氏: Twitterで「『数学ガール』の本が高いなあ」というツイートを見かけると、私は「ぜひ図書館をご利用ください」とリプライすることがあります。図書館で借りても返さなくちゃいけない。学校の図書室で読んだけど卒業した後に読み返したくなる。そのときに「『数学ガール』はやっぱり買うか」という人はとても多いです。書き手として私が心がけているのは「繰り返し読みたいという本を作ろう」ということです。どんどん湧き出て流れ出すように面白い本を作りたい。そしてその流れをみんなに見つけてほしい。それで「うわっ、こんな面白いシリーズがある。結城さんという人が面白い本を書いている」と気がついてほしい。そのためにはきっかけが中古書店だろうが図書館だろうがなんでもいいんです。
『数学ガール』の翻訳本は、初めの2章を無料でPDFで読めます。私も『数学ガール』の前身となったPDFを無料で読めるように公開しています。そうすると何が起きるかというと、既に読んだ人が友達に「試しにウェブで読んでみたら? 面白いよ」と紹介できるんです。読んだ本が面白かったら友達に勧めたくなるものですよね。

――必ずしもお金の問題ではないわけですね。


結城浩氏: もちろん、誰も書店で本を買わなくなるような状況は困りますが、合法的な範囲で流通しているのであれば、あまり必要以上に目くじらを立てるのもどうかなという気はします。

――図書館にすら置いてほしくないという方もいらっしゃる中で、やはり自分が書いたものが広まってほしいというのは、書き手として本来の希望ですね。


結城浩氏: 自分が書いたものを読んでもらいたいというのは確かにそうです。もちろん「図書館に置かないでほしい」「中古書店で買わないでほしい」という書き手がいらっしゃるのは理解できますし、そのような方々を非難するつもりはまったくありません。でも、私個人としては自分の著書に関してそうは思いません。さまざまな経路を使って私の本に出会ってほしいと思います。

中高生に読んでもらうためにも、多次元なメディア展開は重要


――流通の経路としての電子媒体の可能性というのはどうお考えですか?


結城浩氏: 電子媒体はもちろん非常に重要です。たとえば、今度から始まる『数学ガールの秘密ノート』シリーズは、ウェブで連載していたものを本としてまとめたものです。内容は中学生や高校生を対象にしているんですが、ウェブでの決済の都合上どうしてもクレジットカードが必要になってしまい、対象読者とはちょっぴりずれてしまいました。ですから、毎週最新回が公開されるたびに時間指定で無料で読めるリンクをTwitterでツイートしています。読者さんの中にはそのリンクを楽しみにしてくださる人がいます。また「ウェブでも読んだけど、紙でじっくり読みたいです」という方もいます。そういう意味でも多次元なメディア展開というのは、とても大事かなと思います。読者が読むチョイスを増やすということですね。

――最後の質問になりますが、今後の展望を伺えますか?


結城浩氏: メインの『数学ガール』のシリーズは、少し間があいても継続して出版したいですね。『数学ガールの秘密ノート』シリーズは、ずっと続いているウェブ連載をまとめて、だいたい一年に二冊のペースで続けていきたいと思っています。さらにずっと先の新しい展開としては、数学とはまったく別の「物語」を書いていきたいという思いもあります。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 結城浩

この著者のタグ: 『数学』 『考え方』 『可能性』 『古本屋』 『プログラマー』 『図書館』

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