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世界中の本好きのために

常見陽平

Profile

1974年宮城県仙台市生まれ。北海道札幌市出身。
一橋大学商学部卒。氷河期時代の就活を経て、株式会社リクルート入社。とらばーゆ編集部、トヨタ自動車との合弁会社などに在籍。 2005年に玩具メーカーに転じ、新卒採用を担当。その後、株式会社クオリティ・オ ブ・ライフに参加。企業の新卒採用や、大学のキャリア教育や就職支援のコンサルティングを行う。2012年同社退社、フェロー就任。また、HR総合調査研究所 客員研究員に就任。現在は執筆・講演等で活躍中。一橋大学大学院社会学研究科修士2年にひっそりと在籍中。専門分野は就活、転職、キャリア論、若手人材の育成、若者論、サラリーマン論、社畜論、ノマドワーク、仕事術など。

Book Information

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電子書籍は、読者の立場で考えるべき



常見陽平さんは、リクルートの転職情報誌の企画担当やおもちゃメーカーの新卒採用担当として培った、雇用や若者のキャリア形成に関する見識から、独立後には就職や教育、若者論などに関して積極的に発言され、自らの見解を世に問い続けています。著述家としても著名で、ネットメディアでの発言も多い常見さんに、ご自身の仕事観、読書体験、電子書籍をはじめとする電子媒体の可能性についてお聞きしました。

普通の人の働き方を書きたい


――常見さんは雇用や働き方についての発言が注目されていますが、最も伝えたいことはどういったところにありますか?


常見陽平氏: 自分の問題意識は、「普通の人の生き方、働き方」です。連載を持っている「The Workaholics」や「NEWSポストセブン」「アゴラ」でも、やはり普通の人が普通に働く幸せを具体的なデータやファクトを使って語ることにこだわっています。僕は目新しいことを書いているわけじゃないんですが、当たり前のことの合理性を伝えたいと思っています。世の中には色々と変えないといけないことがありますが、本当に変えるポイントがどこか、具体的に何が問題なのかが、かなり飛躍して伝えられているし。刺激的な題材の方が受けるから、あおっている人もいますしね。

――働くことについては多くの人が興味を持つテーマだけに、メディアでも多く取り上げられますが、これをめぐる言説についてはどうご覧になっていますか?


常見陽平氏: メディアの「はたらく論」って、よっぽどすごいスーパービジネスパーソンと、ワーキングプアの問題に代表されるような、かわいそうな人に振れがちなんです。僕もワーキングプアは問題として取り上げていますし、逆に「すごい人を育てろ」というのも分かる。日本のエリートは中途半端なので、エリートはエリートで育成するのは大事だし、世の中にとって必要です。でもやはり、普通の人の働く幸せについて、あまり語られていない。普通のサラリーマンがくすっと笑えることや、世の中の理不尽な出来事を少しでも解決していきたいということが、日々僕の考えているテーマです。自分の一言で人一人の人生や、世の中が変わる可能性が何ミリかはあるわけだから、責任を持とうと思っています。やはり謙虚でありたいし、膨張したくない。成長と膨張の違いをすごく意識しています。

メディアに出ている人がすごいとは限らない


――常見さんは、スーパービジネスパーソンを目指す人を指す「意識高い系」について言及されていますね。


常見陽平氏: 自分自身が意識高い系のビジネスパーソンだった時代が、30代前後の時にあったんです。異業種交流会に行ったり、ビジネス書をたくさん読んだりしたんだけれども、何か変だなと思った。「結局目の前のやることって、自分の仕事だ。上司や取引先に納得してもらわないとダメだ」という当たり前の事実に気づいたし、ビジネス書の著者たちが事実をとても「盛っている」ことにも気づいた。メディアに出ている人に対して、「こんな意見が正論として通るのか」とか、「この人がロールモデルって言われるんだ」ということは、ものすごく冷めた目で見ていますね。

――ビジネスの成功者のお話は虚勢を張っている部分もあるのでしょうか?


常見陽平氏: 著者や起業家の人たちの気持ちもよく分かるんです。「自分はすごい」っていうことを言い続けるか、周囲に言わせ続けないと信頼を勝ち得ない。でも、それはくだらないと僕は思います。僕は、論争しても、自分が間違っていた点については「間違っていました」と正直に言うし、いつも「教えてください」というスタンスを大事にしています。そうしないと誰も幸せにならないと思う。実は、世の中に僕なんかが出るのは申し訳ないなと思っているんです。もっと謙虚に頑張っているすごい人がいっぱいいる。例えば研究者でも、教えるのがうまいか下手かはともかく、まじめに研究している方はたくさんいらっしゃるので。

――必ずしも表舞台に出る人だけが「すごい人」というわけではないと。


常見陽平氏: 特にビジネスパーソンで何か大きなことを成し遂げた人は、社長か管理職か、ヒット商品の仕掛け人くらいしかメディアには出てこない。実際の仕事は普通の社員が動かしていたりする。その事実に気づいてくれよということなんです。若くして世に出たブロガーの記事を見ていると、普通のビジネスパーソンで教養のある人に書かせた方がよっぽど面白いだろうなと思うことがよくあります。

著者の肩書はプロレスのチャンピオンのようなもの


――組織の中で個人が埋没してしまうということもありますか?


常見陽平氏: はい。ネット上の実名発信問題については、それは企業社会の問題でもあって、企業ブランドをつけた状態で世に出にくいっていうのも事実なんですね。やはり会社のしがらみというのがあって、僕も会社員時代に著者デビューをしてたんで、そのころは面倒なことがいっぱいありました。当時おもちゃメーカーで人事をやっていたのですが、陰口をたたかれたくないので一生懸命働いて、空いている時間で執筆していましたが、そういった時にも、「本に会社の名前を出すな」とか、「本を書いてる暇があったらもっと働け」と色々言われて、「小さい世界だな」と思ったものです。リクルート時代の先輩や同僚からも「あいつは会社にいた時は大したことなかった」とかいまだに言うんです。本当にくだらないなあと思いつつ、世の中、そんなもんですよ。



――すごい人のロールモデルが表に出ないと若者も戸惑ってしまいますね。


常見陽平氏: ビジネスパーソンとしてのすごさとか、著者としてのすごさは測定するのが難しい中で、皆が背伸びをしなくちゃと思っているから、ずれるんですね。比べてしまう気持ちもよく分かります。名刺に載っている社名が気になるとか、役職がついているかどうかを見てしまう。僕はまだタイトルなどを取ったことがないので、「無冠の王者」なのですが、僕をバカにしてきた人に対して理解してもらうために、また、今まで応援してくれた読者のために、タイトルも必要かなとたまに思ったりしますね(笑)。

本当に良い本はじわじわと評価される


――本の世界では「何万部突破!」といった部数が肩書になることもあるようですね。


常見陽平氏: 何万部売ったというのは確かに偉いのですが、発行部数ですからね。実売何冊という表記はあまり見たことがない。あとは「何とか書店で第何位」とか。友人がある日そういうランキングに載ったんですけれど、同じ会社の人が、1つの書店に駆けつけて皆で買ったらしい(笑)。著者もいい加減な世界で、社長であればわりと簡単に著者になれたりしますし、実際に自分で書いていなかったりしますしね。ただちょっとフォローすると、完全なゴーストライターってのは良くないと思いますが、口述筆記っていうのは手法としてはありかと思います。編集者の方が、口述筆記の方がその人の本音が出ることがあるってことを教えてくれたんです。自分で書いていると恥ずかしくて書けないこともありますからね。インタビューで色々世間話をしながらエピソードを編集・校正した方が本が良くなることもあるようです。

――本当に実力のある著者とはどのような人でしょうか?


常見陽平氏: すごい著者ってどういう人だろうかと、僕もよく考えます。世の中を動かしているかどうかとか、学術の世界とか含めて支持されるかどうかとか、出版社が頑張らないで売れるかとか(笑)。売れた本と売った本があるじゃないですか。部数刷って棚作って売れたかのような事実を作るんじゃなくて、自然に売れていくような本がいい。例えば、ニルヴァーナの「ネバーマインド」。赤ちゃんが泳いで釣り針のお金を追いかけている有名なジャケットのものですね。あのアルバムの売れ方は、ビルボード初登場178位くらいだったはず。当時僕は高校生だったのですが、何か音楽雑誌で人気がじわじわと上がっていって、最終的に全米ナンバー1になった。半年位かかったんじゃないかと思います。ああいう形でナンバー1になったら良いなと思ったりします。

――ロングセラーでずっと売れ続ける本もありますね。


常見陽平氏: 日本の書籍では、例えば『思考の整理学』は、リバイバルヒットで大増刷しましたし、木下是雄先生の『理科系の作文技術』という1980年前後に出した本は毎年、新入学新学期シーズンに東大の生協と京大の生協でベスト10に入る。大前研一さんの『企業参謀』もずっと売れ続けています。ああいう息の長い本は、本当に良書だと思います。そういう認められる本を書きたいですね。
同世代では、僕は稲泉連さんと速水健朗さんをとても尊敬していて、稲泉さんは、とにかくすごい取材をするし、文章がうまい。大宅壮一ノンフィクション賞を最年少受賞していますからね。『仕事漂流』もすごく良くて、一字一句大事に書いているなと思います。速水健朗さんは1つ年上なんだけど、やはり1冊1冊掘り下げてよく調べてまとめているし、冷静と情熱の両方の視点を持っていて文章も面白い。
僕が最近出した本では、『僕たちはガンダムのジムである』とか『自由な働き方をつくる』とか。『「意識高い系」という病』も継続的に評価されているでその可能性があるのではないかと思っています。白河桃子さんと共著の『女子と就活』も。じわじわと評価されたいですね。

読書と音楽に明け暮れた青春時代


――常見さんは幼少期に、どのような読書をされてきましたか?


常見陽平氏: 幼いころから本が大好きで、母親は僕が欲しいと言った本があったら、必ず買ってくれるか図書館で借りてきてくれました。家や学校にあった図鑑をしらみつぶしに読んだりしていました。学研の学習漫画や江戸川乱歩が大好きで、江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズは多分、全部読んだと思います。
中学校2年生の時に筋肉少女帯がデビューして、オーケン(大槻ケンヂ)がオールナイトニッポンの一部に大抜てきされたんです。そのラジオがとにかくぶっ壊れていたのですけど。オーケンが面白い本を勧めてくれるんです。その時江戸川乱歩にはB面があるんだっていうことを知りました。幼いころに読んだ『少年探偵団』シリーズだけではなくて、『パノラマ島奇譚』とか『屋根裏の散歩者』とか『人間椅子』とか、エログロな乱歩があるんですよね。オーケンに勧められるままに読んで、すごく面白かった。同じ著者でもこんなに違うのかというのもあるし、エログロなんだけれども、そういえば少年探偵団にもそのにおいがあったということも両方感じたんですね。

――そのころから本を書きたいと思われていましたか?


常見陽平氏: 幼い頃からずっとです。特に影響を受けたのは、小学校後半から中学校入るあたりで、今で言う宝島社なんですが、「JICC出版局文化」みたいなものに触れた時でした。ちょっとロックっぽかったりとか、反社会っぽかったりとか。夢中になって読みました。あと『別冊宝島』で当時、オタクの本とか色々出ていて、そういう本のルポが面白かった。あのころ、ちょっと世の中を面白おかしく、かつ変な角度から掘り下げていきたいと思って、中学校位から社会学を勉強したいなと思っていたし、物書きかジャーナリストになりたいと思っていました。いや、その前も幼稚園の頃から七夕の短冊に「さっかになりたい」とか書いていましたけどね。

――学校ではどんな生徒でしたか?


常見陽平氏: 高校入ってドロップアウトしました。公立のものすごい進学校で、自由な高校だという話を聞いて、「東京の大学へ行きたいから僕はここに行くんだ」と思って、勉強して受けたらたまたま受かった。でも入って挫折しました。やはり天性の才能があるやつと金持ちが世の中にはいるということに気づいたんですよ。中学校まではあまり、天才、金持ちって可視化されない。それに、自由な学校って聞いていたけれど、結局皆受験、受験で嫌になりました。その後音楽と読書にはまる高校生活を送りましたね。
その時は受験勉強って茶番だと思った。全部暗記だし、皆同じ記述的な行動してて、バカじゃないのって思ったんです。だから、授業中は寝るか本を読んでいました。その代わり、図書館にある岩波新書は新しいのが入る度に読んでいましたね。後に教育のことも勉強して、受験には意味があるってことに気づいたんですけど、それと別冊宝島を読んで、物書きになりたいと思ったりしていました。あとは音楽ですよね。当時、バンドブームだったっていうのもあるけど、もう小学校の時から音楽が好きで、ラジオをとにかく聴いていて、CDのレンタルをしたり、たまに買ったりして、ロックな文化とか歌詞に触れていました。ロックを聴いてたから英語は得意でしたよ(笑)。

合理性と「あおり」が同居する文章の面白さ


――一橋大学に入学されてからも、文章を書くことへの想いは強まっていったのでしょうか?


常見陽平氏: あのころは『噂の真相』と『朝日ジャーナル』に影響を受けました。高校3年生の時に『朝日ジャーナル』が休刊になって、リアルタイムではあまり読んでいないけど、総集編が大学1年生か2年生の時に出たんです。それをアルバイトのお金で買いました。かなり左よりではあるんだけれども、これが時代を動かしてたメディアなのかと思って。書かれている内容に魂を感じたんですね。『噂の真相』も当時熱くて、反権力、反体制的なスキャンダリズムの追求というのは大げさで、今思うと笑っちゃう部分もあるかもしれないけれど、とにかく魂を感じました。
あと物書きとしては、大学のころにプロレス研究会に入って、会報誌を2年の時に作って学内ではやらせた。すごいくだらない、「誰々選手と誰々選手が乱闘」とか、そんなあおりなんだけど、くだらないことで皆が熱狂していくっていうことを学びました。中には堅いオピニオンものもやってみたりとかして、面白かったですね。世の中とプロレスしている気分でした。
今ネットのニュースだとか、本を書いていてもそうだけれど、こんなまじめそうな人がこんな下品なことに反応してくれるんだとか、逆に、下品な話題でも根っこの堅いところに反応してくれる快感っていうのはありますね。堅いのかいい加減なのか、自分でもよく分からないんですけど。

――ビジネスに関する見識については、やはり社会人時代に培われたものでしょうか?


常見陽平氏: 転機になったのは、社会人6年目、7年目の時、トヨタ自動車とリクルートグループとの合弁会社に出向して名古屋に行って、広報担当をしたんですね。そこで学んだことは、ひとつは世の中ってこういうことをニュースにするんだとか、こんなプロセスでニュースになっていくんだっていうのを学べたことと、その時の上司がメガバンクから転職してきた京大卒、MBAホルダーというエリートだったんだけど、めちゃくちゃ腰が低い素晴らしい人だった。その人から「ビジネスパーソンは、間違ってても良いから、AかBか意見を言って、その根拠を言え」ということを教えられたんですね。僕はそれ以前、しかられたくないがために、オプションをA、B、Cと提示して、上司に「決めてください」ということが多かった。そうじゃなくて「AかBかちゃんと決める。その代わり感情だけで言っていったらバカだということになるから、ちゃんとデータとファクトとロジックでやりなさい」という当たり前のことを徹底的にやらされた。そこで、論というのはどうすれば通るかが分かった感じでしたね。

――冒頭におっしゃった、話を「盛る」ことなく合理的に語る方法を学んだのですね。


常見陽平氏: 例えば、安易にアメリカに留学しようとか、ノマドワーカーになろうとかって危険だと思います。冷徹にまず現実を見ること。若者の雇用についても、皆髪を黒くして、リクルートスーツを着るという就活が嫌だとか、けしからんとか言うけれど、あれが100年続いてるということには何らかの合理性があるかもしれない。合理的じゃなければ変わっていくし、実際この10年くらい色々変わっています。だけど、変わってるようで、根っこの部分は変わってないところも多い。そういうことについて、「本当はどうなんだろう」という視点は大事だと思ったりします。

電子コンテンツへの期待と悩み


――常見さんは電子書籍は利用されていますか?


常見陽平氏: タブレットはiPad2を持ってるんですが、今は妻の検索専用機になってます。僕自身電子コンテンツでは、日経と朝日の電子版くらいですね。メルマガで購読しているのは大学のプロレス研究会の後輩でもある中川淳一郎君のくらい。研究でいうところでは、海外の論文をPDFで買えるので結構買っています。電子書籍は昔勝間和代さんの本をネットで買ってみたんだけど、それ以来買っていないですね。あと電子コンテンツでは、毎週『キン肉マン』が更新されるのを楽しみにしています(笑)。

――電子書籍の可能性についてはどうお感じになっていますか?


常見陽平氏: 率直に電子書籍の可能性があるかないかで言えば、あると思いますよ。電子書籍なら、Amazonで在庫がなくなったり、売り場に行ってもないとか、海外にいるんだけど買えないとかいう時に便利だなと思います。時間があって読み物が欲しい時、電子書籍は便利ですよね。あとは今日も学術書を持ち歩いてるんですけど、重い。こういうのを持ち歩けるんなら楽だなと思います。とはいえ、やはり僕にとって読みやすいのは今のところ紙の本ですね。日本の本は装丁を含めてすてきです。

――常見さんは電子メディアでのご発言も多いですが、書き手として電子書籍等に期待はありますか?


常見陽平氏: やはりコンテンツと値段が釣り合うかですね。物書きの立場で「食えるか」どうかの危機感は正直あります。今、自分の書いたものの換金化をどうやるのか悩んでいるんです。自分だけの問題じゃなくて世の中の問題でもあるんだけど、例えば今、ネットで書いているサイトでは原稿料が大体1000字1万円。要は1文字10円ですね。ネットニュースは単価でせいぜい1万円から3万円なんだけど、それはそれで大事なわけです。やはり、多くの人に配信されて読まれるし、世の中を動かすかもしれない。読者にとってみれば、無料だったら雑な文章でもOKなのかと言えば、全然関係ない話ですからね。
一方で、有料のメールマガジンもやっていたんですよ。お手軽な値段で、可能性はもちろん感じているし、チャネルの1つなんだろうけど、率直に有料メールマガジンについてすごく複雑な心境なんです。これ以上何を書けばいいのという思いと、書く時間もないっていうのと、読者数が増えないこと。結局映画とか音楽を含めたコンテンツのジレンマですよね。出した本を電子書籍化しても、売れたのは数百円ですとか言われて、売れた試しがないですしね。

読者視点での電子書籍についての議論が足りない



常見陽平氏: キュリエーションが盛り上がってるとか、ノマドワーカーが盛り上がってるとか、電子書籍が盛り上がってるって言っても、表す数字が出てこない。村上龍さんが電子書籍を出しましたけれど、その後の結果って語られてない。メールマガジンもホリエモンは圧倒的に売れてて、発行部数まで公表しているけど、メールマガジンの発行部数を口外してる人ってあまりいないんですよ。確かに売れてる人はいるけど、それはもともとブログでも売れてる人みたいな人たちです。時々、ITメディアが、壮大な「ごっこ遊び」に見えるところもあるんですよ。

――電子書籍の普及に足りない部分があるとするとどこなのでしょうか?


常見陽平氏: 何が足りないかが僕にとって、なぞなんですよ。電子書籍って言い出したのってもう10年以上前だと思うし、そのころも携帯のコンテンツとか、色々立ち上がってた気がします。毎回、普及するためには何々が鍵みたいなことを言う。著作権が鍵とか端末の普及が鍵とか。
でも率直に言ってよく分かんないですね。個人的にはまだ紙の方が便利で、今のところ使うまでもない。やはり電子コンテンツならではの圧倒的価値がないとダメだと思います。例えば、何でそれまでガバガバ飲めてたお水を、ペットボトルで1日何本も買うようになったかと言えば、水道水がまずかったり、ペットボトルが便利だったり、圧倒的に付加価値があったわけですよね。コンテンツのラインナップとか、明らかにそっちの方が安いとかがないと変わらないのではないかとも思います。わざわざ電子書籍で読むだけの価値があるのか、そもそも本の価値ってなんだろうという問題もある。
1つ言えるのは、電子書籍論でいつもおかしいと思うのは、誰が得するとか、アメリカではこうだとか言うんだけど、読者の立場から語られてないという問題ですね。今出版社が調子が悪いことの源だとも思うんですけど、どんな本が誰に対して売れてることを正確に説明できる人っていない。電子書籍は、コストを減らして最適化するツールもあると思うんだけど、単なるリプレイスの議論になってしまっている。電子書籍にするとどんな人が新しく買ってくれるのとかを、丁寧に見てかないと単に置き換わったという話にしかならないと思う。普及しないのが悪いとか、電子書籍の世の中になるというあおりもいいけど、今のところは読者も著者もかわいそうなんですよ。



――最後に、常見さんの今後の展望についてお聞かせください。


常見陽平氏: やはり後に残るものを書きたいです。日本人が本当に、誇りを持って働けるようになるための本を書いて、今後は政策提言もできるようになりたい。書く内容も今後は、じわじわ範囲を広げていきたいなと思います。やはり「若者×働く」周辺がメインかなと思うんですけど、若者と言いつつ同世代とかそれ以上の世代をネタにしていきたいですね。働くことの周辺にあるカルチャーみたいな話も広げて、労働社会学の歴史に残る本、若者雇用の議論の流れが変わるような話を書きたいなと思ってます。
それと歴史を動かすネットニュースを書きたいです。ネットニュースって日々炎上しながらも、毎日消費されている。政治とか経済の流れが変わるネットニュースが書けたらいいなと思ってます。
それ以外の活動では、トークライブに出る機会を増やしていきたいですね。3年以内に深夜ラジオのパーソナリティーになって、社会現象を起こす番組を作りたいと思っています。あくまで、夢ですけどね。でも、いつかきっとと思ってますよ。

取材場所:B&B

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 常見陽平

この著者のタグ: 『考え方』 『働き方』 『若者』 『幸せ』 『スタンス』 『著者』 『ロングセラー』

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