電子コンテンツへの期待と悩み
――常見さんは電子書籍は利用されていますか?
常見陽平氏: タブレットはiPad2を持ってるんですが、今は妻の検索専用機になってます。僕自身電子コンテンツでは、日経と朝日の電子版くらいですね。メルマガで購読しているのは大学のプロレス研究会の後輩でもある中川淳一郎君のくらい。研究でいうところでは、海外の論文をPDFで買えるので結構買っています。電子書籍は昔勝間和代さんの本をネットで買ってみたんだけど、それ以来買っていないですね。あと電子コンテンツでは、毎週『キン肉マン』が更新されるのを楽しみにしています(笑)。
――電子書籍の可能性についてはどうお感じになっていますか?
常見陽平氏: 率直に電子書籍の可能性があるかないかで言えば、あると思いますよ。電子書籍なら、Amazonで在庫がなくなったり、売り場に行ってもないとか、海外にいるんだけど買えないとかいう時に便利だなと思います。時間があって読み物が欲しい時、電子書籍は便利ですよね。あとは今日も学術書を持ち歩いてるんですけど、重い。こういうのを持ち歩けるんなら楽だなと思います。とはいえ、やはり僕にとって読みやすいのは今のところ紙の本ですね。日本の本は装丁を含めてすてきです。
――常見さんは電子メディアでのご発言も多いですが、書き手として電子書籍等に期待はありますか?
常見陽平氏: やはりコンテンツと値段が釣り合うかですね。物書きの立場で「食えるか」どうかの危機感は正直あります。今、自分の書いたものの換金化をどうやるのか悩んでいるんです。自分だけの問題じゃなくて世の中の問題でもあるんだけど、例えば今、ネットで書いているサイトでは原稿料が大体1000字1万円。要は1文字10円ですね。ネットニュースは単価でせいぜい1万円から3万円なんだけど、それはそれで大事なわけです。やはり、多くの人に配信されて読まれるし、世の中を動かすかもしれない。読者にとってみれば、無料だったら雑な文章でもOKなのかと言えば、全然関係ない話ですからね。
一方で、有料のメールマガジンもやっていたんですよ。お手軽な値段で、可能性はもちろん感じているし、チャネルの1つなんだろうけど、率直に有料メールマガジンについてすごく複雑な心境なんです。これ以上何を書けばいいのという思いと、書く時間もないっていうのと、読者数が増えないこと。結局映画とか音楽を含めたコンテンツのジレンマですよね。出した本を電子書籍化しても、売れたのは数百円ですとか言われて、売れた試しがないですしね。
読者視点での電子書籍についての議論が足りない
常見陽平氏: キュリエーションが盛り上がってるとか、ノマドワーカーが盛り上がってるとか、電子書籍が盛り上がってるって言っても、表す数字が出てこない。村上龍さんが電子書籍を出しましたけれど、その後の結果って語られてない。メールマガジンもホリエモンは圧倒的に売れてて、発行部数まで公表しているけど、メールマガジンの発行部数を口外してる人ってあまりいないんですよ。確かに売れてる人はいるけど、それはもともとブログでも売れてる人みたいな人たちです。時々、ITメディアが、壮大な「ごっこ遊び」に見えるところもあるんですよ。
――電子書籍の普及に足りない部分があるとするとどこなのでしょうか?
常見陽平氏: 何が足りないかが僕にとって、なぞなんですよ。電子書籍って言い出したのってもう10年以上前だと思うし、そのころも携帯のコンテンツとか、色々立ち上がってた気がします。毎回、普及するためには何々が鍵みたいなことを言う。著作権が鍵とか端末の普及が鍵とか。
でも率直に言ってよく分かんないですね。個人的にはまだ紙の方が便利で、今のところ使うまでもない。やはり電子コンテンツならではの圧倒的価値がないとダメだと思います。例えば、何でそれまでガバガバ飲めてたお水を、ペットボトルで1日何本も買うようになったかと言えば、水道水がまずかったり、ペットボトルが便利だったり、圧倒的に付加価値があったわけですよね。コンテンツのラインナップとか、明らかにそっちの方が安いとかがないと変わらないのではないかとも思います。わざわざ電子書籍で読むだけの価値があるのか、そもそも本の価値ってなんだろうという問題もある。
1つ言えるのは、電子書籍論でいつもおかしいと思うのは、誰が得するとか、アメリカではこうだとか言うんだけど、読者の立場から語られてないという問題ですね。今出版社が調子が悪いことの源だとも思うんですけど、どんな本が誰に対して売れてることを正確に説明できる人っていない。電子書籍は、コストを減らして最適化するツールもあると思うんだけど、単なるリプレイスの議論になってしまっている。電子書籍にするとどんな人が新しく買ってくれるのとかを、丁寧に見てかないと単に置き換わったという話にしかならないと思う。普及しないのが悪いとか、電子書籍の世の中になるというあおりもいいけど、今のところは読者も著者もかわいそうなんですよ。
――最後に、常見さんの今後の展望についてお聞かせください。
常見陽平氏: やはり後に残るものを書きたいです。日本人が本当に、誇りを持って働けるようになるための本を書いて、今後は政策提言もできるようになりたい。書く内容も今後は、じわじわ範囲を広げていきたいなと思います。やはり「若者×働く」周辺がメインかなと思うんですけど、若者と言いつつ同世代とかそれ以上の世代をネタにしていきたいですね。働くことの周辺にあるカルチャーみたいな話も広げて、労働社会学の歴史に残る本、若者雇用の議論の流れが変わるような話を書きたいなと思ってます。
それと歴史を動かすネットニュースを書きたいです。ネットニュースって日々炎上しながらも、毎日消費されている。政治とか経済の流れが変わるネットニュースが書けたらいいなと思ってます。
それ以外の活動では、トークライブに出る機会を増やしていきたいですね。3年以内に深夜ラジオのパーソナリティーになって、社会現象を起こす番組を作りたいと思っています。あくまで、夢ですけどね。でも、いつかきっとと思ってますよ。
取材場所:B&B
(聞き手:沖中幸太郎)
著書一覧『 常見陽平 』