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世界中の本好きのために

宇多丸

Profile

1969年東京都生まれ、早稲田大学卒。日本のヒップホップ・シーンを代表する"キングオブステージ"こと「ライムスター」のラッパーであり、またラジオ・パーソナリティとして、自らのTBSラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」でギャラクシー賞DJパーソナリティ賞を受賞するなど活躍中。

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一度使い始めたら、多分「電子書籍バンザイ!」ってなると思う


――電子書籍は使われていないということですが、現在、パソコンとかタブレットとか、外に出られる時は何か電子機器は持ち歩いていますか。


宇多丸氏: いやぁ、それがね、本当は持ち歩いたほうがいいんでしょうね。iPadかMacBookの薄いやつか何か、あった方がいいのかなって思い始めていますけどね。だったら外でも仕事できるのにって。別にアナログにこだわっているわけではないんですよ。

僕がさっき言ったローテクとか、ハイテクについていくのが遅いのって、単に引越しが面倒くさいとかそういうのに近いもので。「引越したら便利じゃん!」みたいなことなんだろうな、と思うんですよね。

だって僕、「初期はインターネットなんていらねぇよ、そんなもの(笑)」って言ってたんですよ。今はもちろん、そんな馬鹿な事、無いじゃないですか。そして、「何でそんな事を言っていたの?」って言われたら、「うぅん…偏見?」としか言えない(笑)。

例えばパスモとかスイカとかも、「あんなもん、先払いっていうのは本質的にこっちが損してるんだからイヤだね」とか言って、ずっと避けてたんですよ。でも、いざ、つかってみたら「便利だねぇ!! 本当便利だねぇ…」って言ってる(笑)。

――電子書籍に関しても十分その可能性が……。


宇多丸氏: すぐ「電子書籍バンザイ!」ってなると思いますよ。例えば今、歌詞書きはテキストデータでやっているんですけど、台本ノートは手書きであるように、使い分けしてくんじゃないですか。本だって、例えば新書とか、情報さえ入ってればいいみたいなものは電子書籍でいいけど、「印刷からして凝っている」とか、「ページの厚み、モノとしてのボリュームそのものにメッセージがある!」みたいな本とかは、やっぱり残していくしかないでしょう。

あと辞書とかも、今やすっかりネットでちゃちゃっと検索するのが主流になっているかもしれませんけど、物によってはやっぱりページをめくりながら大づかみ出来る方がいい。だから紙の辞書は紙の辞書で全然手放せないし。

特に映画本なんかは、例えば『ヒッチコックの映画術』という分厚い本が今でもありますけど、やっぱりその、ドンッていう重たい存在感が大事なんですよ。ちなみにこれは、僕が映画を分析的に見たりする事の面白さに目覚めた本でもあります。パっと開くといろんな図版が載っているのが楽しいんですよ。ずーっとヒッチコックとトリュフォーのやりとりが続いてくんだけど、ページをめくるとバーン!と『サイコ』のシャワーシーンの全カットが見開きで載ってたりとか。何かああいう感じがね……。

だから、仮に僕が電子書籍を使用するようになっても、やっぱり『ヒッチコックの映画術』とかは絶対に紙で残しておきたい本ですよね。あと、絶対に電子データ化しきれない、しかし実は大切な要素として、「僕が実際に読み古してきた感じ」というのもあるじゃないですか。『ヒッチコックの映画術』は今も真新しいのが本屋に並んでいますけど、やっぱり僕が中学の時からずっと読んでいる『映画術』というのは、ここにしかない。

――そうなんですね。電子書籍でもいろいろできると思うんですが、もし出すとしたら電子書籍ならではの本ってどんなものだと思いますか。


宇多丸氏: やっぱり、例えば参考文献とか出典元の本にそのままリンクが行けるという事じゃないでしょうか、紙には出来ないというところでは。

あと、音楽や映像との絡みとかですかね。例えば映画の本だったら、実際にその場面を見せながら、「このシーンのこういう演出に注目してください」という解説ができたりしたら、かなり強力ですよね。まぁ、実際にやるとなると権利関係のクリアが異常にめんどくさくなりそうですけども。

OTONA TSUTAYAのように過去の資料をうまくデータで保存したい


――今後について伺わせてください。今後の予定などございましたら、お伺いできますか。


宇多丸氏: 本に関して言えば、とにかく出さなきゃいけない予定の本が僕のせいで滞りまくっていて。要はシネマハスラー本の2巻目なんですけど、それをまずは何とかしないと、という状況です。他にも色々ご依頼頂くんですが、「それが片づかない事には……すみません!」、という感じが続いちゃってます。ありがたい事なんですけどね。

――そうなると集中型という感じですか? これをやるときはコレ!っていう。


宇多丸氏: う~ん。…時間が許すなら本当はそうしたいんですけどね。少しずつは進めているつもりなんですけど、やっぱりね、皆さんが思っているよりあの本(シネマハスラー本)は、結構大変なんですよ。一度話したことを再構成するというのは、本当にすごく大変で。だったらゼロから書いた方が楽なんだけど。特に初期に比べると、どんどん論旨、情報量が多くなっているから、文章が削れなくなっていて。それで、まとめるのが本当に難しくなっているという感じですね。

今、まとめているものはかなり前に放送した分なので、自分としてはもうちょっとやりようがあったのになぁ…という回がたまにあったりするのも、ちょっとモチベーションが落ちる原因かもしれないですね。あ、でもそれなら、今度のは新しい順からやればいいのか? うん、それはちょっと考えてみてもいいかも……ただ、いずれにしろ「自選」で作っちゃうとこのコーナーは意味がないんで。要するに当たる映画も選べないけど、僕の評論の出来がそれぞれというのも、このコーナーの醍醐味だから。いいのだけ選んじゃったらフェアじゃない、と思っていて。ということで、とにかくなるべく早くシネマハスラーの新刊を出すこと、これがとりあえず今一番やりたいことです。

あと、代官山のTSUTAYAにちょっと刺激されて、「ポパイ」とかの古雑誌コレクションを、もうちょっと綺麗に保管出来ないかなと思っています。図書館ぽくね。昔の「ポパイ」とかって、綴じがすごくもろいじゃないですか。あれが前からずっと悩みのタネで。読めば読むほど崩れて行っちゃうんで、これはどう保存したものかと思っていたんですが。

そうしたら、代官山TSUTAYAのラウンジ「Anjin」が見事な保存の仕方をしていて。ものすごくキレイな合本状態にしてあるんですよ。まるで、広辞苑みたいな感じですね。ただこれ、普通の家庭じゃ出来ないと思うんで…。まぁ、一冊一冊にビニールカバーをかぶせていくとか、そういうことなんだとは思うんですが。本もそろそろ整理しないとなぁ。引越していったん遺跡状態を脱したにもかかわらず、本棚のキャパシティを超えて、やっぱり遺跡は出来始めちゃっているので。もう新書や文庫は、全部電子化したいぐらいですね。

僕は、そもそも本を捨てるのにはすごく抵抗があって、それで溜まっちゃうということもあるんです。せめて古本屋に売るようにはしたいと思ってますけど。ただ、大手チェーンとかは一定期間売れないと裁断処分しちゃうって話を聞いて、本やCDを。

僕らとしては、それはやっちゃダメなんだけどなって思うんですよ。本、雑誌、レコード、CD、なんでもいいですけど、後から価値が変わるものじゃないですか。残す価値の有る無しを、その時点での俺たちが判断しちゃダメっていうか。後世の人たちのために、どんなものでも最低限残してはおかないと。とは言え当然、保管コストの問題はある。

だから、電子データ化というのは、どうせ捨てられてしまう物を救うという意味でも、大事な事業かもしれないですね。人の持ち物をダウンサイジングするという目的だけじゃなくて。



古い資料や本をいまの時代の判断で処分するのは、実はすごくもったいないこと


――今後、読者とクリエイターが直接交流できるような場が生まれるといいですね。


宇多丸氏: その前提としても、やっぱり文化的なアーカイブとしての電子書籍はとても意義があるかもしれませんね、例えば広告とかは、つい最近まで、多くが文化として捉えられていなかったために「保存しておく」という発想がなかったという問題があります。テレビCMとか、雑誌の広告もそうですし。で、それに関連して僕の友人が言っていて「ああ、そりゃそうだな…」と思ったのが、ネットのバナー広告とかって、今は時期が終われば消えちゃうもので、誰も何も、そこに文化的価値を見出していないじゃないですか。あれだってテレビCMとか雑誌の広告と同じで、あの頃この頃こういうホームページがあって、こういう広告やっていましたとか、もしかしたら後世でみたらとても有意義なものになるかもしれない。

広告だって、立派な歴史の記録なわけですよね。だからその友人はやっぱり国会図書館的な、要するに国がやれとは言っていて。ああ、確かにその通りだなぁって。まあ、実際やろうとしたら大変だとは思うんですけど。

とにかく、残す価値があるものかどうかを、その時代の人間が勝手に判断しちゃダメだっていう気がする。何でもそうです。家が汚くなるやつの発想なんですけどね(笑)。

だって、例えばそれこそスフィンクスでもいいんですけど、鼻が壊されちゃってるのとか、現代の僕らからすれば「なんちゅうもったいない事をしてくれたんだ!」って思うけど、その時代の人にしてみれば、「前時代の野蛮な信仰の遺物、邪魔だ!」とか「こんな物とっておいたってしょうがないでしょ」とか、ごもっともな理由があったわけですよね。いま、僕らがやっているのは、まさにそれと同じ事なのかもしれませんよ。チラシをなんの気なしにくしゃっと丸めて捨ててるのとかね、未来人が見たら「なんと文化意識の低い野蛮な連中だろう!!」って(笑)。チラシだって千年経てば博物館に飾られる歴史的資料ですよ! かといって、全員がモノを捨てないというわけにはいかないから、やっぱりある程度、公的事業として体系づけて保存してもらわないと、ということになるんですよね。

―― 一見単なるゴミに見える古書や古雑誌を、いかにデータベースとして残していくかの能力も、今後求められてくるかもしれませんね。一時期「断捨離」なんて言葉もはやりましたが、なんでもかんでもそのまま捨ててしまう……という文化も考えものですよね。今日は本当にどうもありがとうございました。

(聞き手:沖中幸太郎)

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