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西成活裕

Profile

東京大学大学院博士課程修了。工学博士。車、人、インターネットなどの流れに生じる「渋滞学」やビジネスマンから家庭の主婦の生活にある無駄を改善する 「無駄学」を専門とし、学術的なフィジカルレビューレターズ(世界最高権威の米物理学専門誌)などに論文掲載を多数行っている。その中でも著書の「渋滞学」は講談社科学出版賞と日経BPビズテック図書賞を受賞し、話題となる。現在は、「ストレスや渋滞そして無駄のない社会づくりに貢献したい」という思いのもと執筆活動だけではなく、日本テレビ「世界一受けたい授業」をはじめ、メディアへの出演や講演活動を行い、一般の人にも分かりやすく伝えている。

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合理的でも、100年後に潰れたら意味がない


――今の地球上においては人間が知性の頂点にいますが、その知能が逆に身を滅ぼすということでしょうか?


西成活裕氏: そうですね。だから、その時に長く続いているものは何かということを考えたいですね。私は会社の講演にもよく呼ばれるんですが、この前もある会社で、御社は何年続いていますかと聞いたんです。まあ30年とか、50年とか。そこで、300年続いている企業ってなぜ続いているか知っていますかと聞いてみる。例えば京都の和菓子屋はなぜ1000年も続いているか。調べてみると色々な共通点があるんです。顧客はあえて減らす、とか。

――減らすんですか?


西成活裕氏: 減らすんですよ。今いる顧客を大事にして、品質を保って、ずっと生きているんです。売れても店舗拡大もしない。こういう会社が1000年残るんですよ、と言うとみんな「はー…」と言うわけです。今は売れたら、店舗拡大しようというのが普通ですよね。設備投資をしよう、もっと増産しようと。では、これは正しいんですかと。それをやった所で好調な売り上げ何年も続きません。好景気の波はずっと続くわけじゃないですから。だから長期的な視野で見て、何が本当に正しいのかということをやりたいんですよ。みんなにも考えて欲しいんです。そうすると、先代から続いている会社の経営者はみんな、「先代が言ってたなあ」って言うんですね。やっぱり長く生きるというのはそういうことなんだよね、最近忘れてたよって(笑)。

――人間に関しても同じことが言えるんでしょうか?


西成活裕氏: そうですね。1000年続いているナントカ家ってありますからね。そういう家には色々な知恵があるので、そういう所から学ぶべきだと思うんですよ。今は情報の変化が本当に激しいので、それに振り回されると、追従していくコストがすごく掛かるんですね。だから、そういうことが本当にいいのか考えてくれと言いたくなるわけです。何が長期的な意味で持続可能かと。そこが一番大事なんじゃないかと。100年後に潰れたら何もならないわけですよね。それを今の日本の政治に言いたいんだけど(笑)。100年の計を考えて行く人がいないとダメですよ、本当に。

――考え方が短期的すぎますか?


西成活裕氏: ええ。ただ、もう会計制度が短期的になってきているんですよね。アメリカ版の会計が入ってきて、4半期で業績が出ないともうダメだとかね。そんなことじゃなくて、株主だって自分の会社を育てたいと思ったら、その会社の株を買って10年位は「まあ悪い時もあるよ」って思わないと。そうして育てる位のメンタリティが欲しいですよね、本当は。それが投機対象になると、途端に社会が分裂してしまう。本当にファンダメンタルから遊離しているという所が、私が一番気になって仕方ない所ですね。



アメリカは、ある意味で合理性を極限まで推し進めているんですよ。まあ、アングロサクソンの血ですから。でも日本はそれと対極にあったはずなんですよ、小泉政権前までは。もっとグチャグチャしていて、それでも色々なバランスを取って、色々な所が擦り合わせをしてできていた。和というものですね。それがアメリカ人にとっては逆に理解できない。合理的に変えてくれと言ってきた。こういう風にした方がいいじゃんって。日本人もそれが分かりやすいから、ある時から旧態依然たるものに対してすごく嫌悪感を持っちゃったんですよね。そうすると年功序列なんてものはおかしいじゃないかと。それを壊した挙句に非正規雇用が増えて、今は逆に大変なことになっているんですよね。
だから、分かりやすさのために、ある時一気に日本の良さを壊しちゃったんですが、その時に日本は、これは日本の文化なんでしょうかという風に留まるべきだったと、私は今でも思っているんです。1回こうなってしまうともう取り返しがつかないですよ。

部分+部分≠全体という、日本の価値観を世界に


――これから先々、色々な面で日本らしさというものを伝えないといけないと思うんですけれども、どういう風に伝えればいいと思いますか?


西成活裕氏: 私はそういう講演が多いので、色々な例を持っています。例えば人工林と自然林の話です。人工林って日本のあちこちにあって、特に東北地方に多いんですけれど、メンテナンスが凄く大変なんですよね。間伐しなければいけないし、ちょっとでも気を抜くとすぐにダメになってしまうんです。だけど自然林は、人間の手が入らずに全てが調和していますよね。メンテナンスフリーなんです。それはやっぱり一朝一夕ではできないわけです。それに比べたら、人工林はコストさえ掛ければどんどん作ることができる。だから人工林をどんどん増やしているわけですね。果たしてどちらが賢いんですかという感じです。自然林という、全てが調和してできている構造は壊しちゃダメなんですよ。森を守るという意味でももちろんですが、全てが調和しているというのは日本が一番得意だったはずなんですね。この価値観は逆に欧米系、特にアメリカ人にはなかなか分からない。

例えばプラモデルと生物の違いなんですけれど、プラモデルってパーツを組み合わせるとできるじゃないですか。こういうものは誰にでも分かりやすい。だけど生物は、胃と心臓と腸をここに並べて人間を作ってと言ってもできないですよね。絶妙なバランスでできているわけです。つまり部分と全体の違いです。部分を集めてイコール全体になるというのがプラモデルです。でも部分を集めたものと全体は違って、全体の方が更にプラスアルファがあるんですよ。これが生物。日本人というのは、この違いを理解できるんです。部分の総和は全体じゃないというのを理解できている国民なんですね。これを新しい価値観として世界に出すべきなんですよ。生物と機械の違いって何ですかと。生物と機械をイコールだと思っているから、アメリカ人はロボットをいっぱい作るんですが、ロボットと我々人間はやっぱり違うじゃないですか。そこの差が分かるのは日本人だと思うんですね。これが新しい日本の付加価値だと私は思うんですよ。その価値観を世界に出せれば、イスラム圏はそういう考えが理解できると聞いたし、他にも色々な国が味方につくと思うんです。
それを経済学では、藤本隆宏先生が 「組み合わせと擦り合わせ」と呼んでいますが、組み合わせがアメリカ、擦り合わせが日本ということですね。そういう対極軸みたいなキーワードを、経済学だけじゃなくて色々な所で作っていくべきなんですよね。

昔、ホロン革命とかホーリズムというのがありましたが、あまりそういう言葉にはとらわれずに、とにかく全体を見て、全体は部分の寄せ集めじゃないよということです。会社だって社員が10人いて10人の和ではないですよね。その10人がいることで、100人でもできなかったことができるわけですよね。そういう部分と全体の違い、これを今後のテーマの1つにしたいんですよね。

(聞き手:沖中幸太郎)

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