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世界中の本好きのために

西成活裕

Profile

東京大学大学院博士課程修了。工学博士。車、人、インターネットなどの流れに生じる「渋滞学」やビジネスマンから家庭の主婦の生活にある無駄を改善する 「無駄学」を専門とし、学術的なフィジカルレビューレターズ(世界最高権威の米物理学専門誌)などに論文掲載を多数行っている。その中でも著書の「渋滞学」は講談社科学出版賞と日経BPビズテック図書賞を受賞し、話題となる。現在は、「ストレスや渋滞そして無駄のない社会づくりに貢献したい」という思いのもと執筆活動だけではなく、日本テレビ「世界一受けたい授業」をはじめ、メディアへの出演や講演活動を行い、一般の人にも分かりやすく伝えている。

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進む電子化で変わった、論文との付き合い方


――先生は教授というご職業柄、学生さんとの交流の機会も多いわけですが、最近の若い人は本を読まれているようですか?


西成活裕氏: 人によると思うんだけど…、特に私の場合は理系に属しているので、学生は比較的専門書、数学や物理の難しい本を読んでいますね。当然勉強のためにそういう本を読む時間が長いと思うんですよ。でもその中でも、自分は誰々の小説が好きだとか、小説を読んで頭をリラックスさせるという人も結構いますね。学生を見ていると、気分転換として本を読むというのが多いと思います。小説がカバンにポンッと入っている学生も結構いますから。

専門書に関して言えば、理系というのは、この分野はこの本だというのが何となく決まっているんです。例えば、数学だと高木貞治先生の『解析概論』だとか。この分野のこの内容だったらこの本…というのは、大学の理系では代々語り継がれているんですね。それをまず皆さんバイブルとして手に入れる。あとは先生に、どの本がいいですかと聞いて選ぶのが一番多いと思いますね。

数学というのは100年前の本だろうが1年前の本だろうが、基本的に内容は同じなんですよ(笑)。1+1=2というのは1000年前から一緒ですから。そうすると現代の本がいいというわけではなくて、やはり本質を分かりやすく捉えた説明だとか、いい例が入っているとか、色々な意味で、新しいものがいいとは限らないんですよね。ただ、古い本は入手しづらくなってきていますので、図書館とかで頻繁に貸し出しされていたり。そういう形で伝統的な本を揃えていくという感じですね。私もこの前、自分で持っていた本が、どこか別の大学から貸出依頼を受けました。たまたま読んでいなかったので貸したら、すごく喜ばれましたよ。「この本、東大にしかなかったんですよ」って。私が自分の研究費で買った本で、図書館に登録していたんです。その本が2週間、他の大学に旅をして帰ってきたという出来事があってですね、データベース化がどんどん進んでいるんですね。



あと、我々は本だけじゃなくて論文。専門論文が電子化されているんです。昔は図書館に行って、すごく分厚いデカい本を抱えてきて、コピー機の前でバーッと開いてですね、開いた所のシワを押しながらコピーしていたものですけれども、今は全部電子化されてきましたので、そういう苦労は全くなくなりましたね。図書館にアクセスすると、電子ジャーナルの一覧というのが出てきて、読みたいジャーナルのページとか年号を入れると、PDFでポッと出てくるんです。それをダウンロードしてプリントアウトしたり、iPadで読んだりできるんですね。うちの研究室は今、ペーパーレスを推し進めていて、一昨年に研究費があたったのでiPadを15台買って全員に支給したんです。ゼミの資料は全部iPadを使っていますよ。

――学生の勉強方法や論文の形も、ここ数年で随分変わったんじゃないですか?


西成活裕氏: iPad自体がネットに繋がっていますから、最近の論文は参考文献をクリックすると飛べるようになっていたりするんですよ。それをそのまま “ポチッ”でダウンロードできる。今までの論文は、読んでいる途中に参考文献の数字があって、最後に数字に対応した参考文献が書いてあるという感じでしたが、電子ジャーナルだと、その参考文献の数字の所がリンクになっていて、パッと押すとそこに飛べるようになっていたりして。だから論文の見方は全く変わりましたね。いくらでも論文を仕入れて大事な時にはそれを読んだりグラフを拡大したり。それに最近はAdobeだとコメントが書けます。あれは凄いですよね。学生も3、4割は完全に移行して使いこなしていますよ。会議中にiPadでガタガタとしていて、サボっているんじゃないかと思ったら、ちゃんとメモっているんですよ。アイディアとかもiPadのメモに入れていて。

――もし学生時代にiPadのようなものがあったら、どうなっていたと思いますか?


西成活裕氏: まず、本棚のイメージががらりと変わりますね。今までは図書館でコピーした論文をファイルした、莫大な数のボックスがあったんですが、iPadを使い始めた頃から新たなボックスがなくなったんですよ。だから、いいかどうかはまた別として、とにかくスペースという意味では全く気にせずに関連文献をどんどん増やせるし、もしも学生時代にiPadがあったら、本当にすっきりした部屋になったのかなと。

それに検索は圧倒的に便利になりましたよね。文献の内部のキーワードで、例えば「渋滞」「ジャム」と入れると、それに関連している本とか論文がバーッと出てくるなんて、コピーをしている時だったらあり得ないわけですよね。ここにあったような気がするなと延々と探している時間がもう必要ないですからね。

便利だからこそ、デバイスにはもっと頑張って欲しい


――研究以外に、小説など普段の読書でiPadを使うことはありますか?


西成活裕氏: それにはiPadじゃなくて、スマートフォンを使っています。青空文庫ってアプリがあって、『銀河鉄道の夜』とか無料なんですよ。ああいう小説ってたまに読みたくなるじゃないですか。暇な時は短いのを、例えば20分電車に乗る時は駅でちょっとダウンロードしてバーッと読みますよ。ただ電源がすぐなくなるんですよ。気が付くと電池の残りバーがどんどん少なくなっていって。「今日午後からすごく大事な電話が来るからこれで終了」なんて、やめないといけないんですよね。その辺がイライラします。もし電源の問題が何もなければ非常にいいと思いますね。

紙の本は電源がいらないから永遠に読めますし、そういう意味では何の問題もないんですよね。iPadは電源が1週間位持つからいいんですけど、デカすぎてポケットに入らないので、やっぱり使うシーンが限られます。今、電子ペーパーの開発が進んでいますから、すぐには変わらないかもしれないですが、デバイスの進歩とともに色々使いやすく変わってくるとは思いますけどね。

あと、私がデバイスに望んでいることがもう1つあるんです。会議や研究の資料を見ていると、ページを比較するということがよくあるんですよ。紙の本だとページをずらして見比べられるじゃないですか。だけど電子書籍は、ページはめくれますが、何ページと何ページを同時に見るということができない。この前会議中に、「何ページと何ページのデータを比較して下さい」というのがあったので、隣の人とペアを組んで、その人がこのページ、自分がこっちのページと、iPadを2つ並べて見たんですよ(笑)。そこの所はまだまだデバイスに頑張って欲しいなと思います。持ち運びとかは圧倒的に便利ですからね。

今までとこれからの研究姿勢を決めた2冊


――先程、人生観が変わる本に出会うこともあると仰っていましたが、様々な本を読まれてきた先生にとって、今でも影響を与え続けているような、人生の転機となった本というのはありますか?


西成活裕氏: 悩むところなんですけどね。学生時代に読んだんですが、村上陽一郎先生の『科学者とは何か』という、新潮選書から出ている本があるんです。大学の初めの頃かな。当然、自分は科学者になりたいと思っていた時に、『科学者とは何か』という本に出会って、「おーっ!何だろうな」と思った。読んでみたら、自分にとっては結構衝撃的な内容でした。「もっと広い視野で、色々なことが分かった上で科学をちゃんとやる、研究が人類にどう影響を与えるかということを広い視点で見なさい、自分の専門だけにとらわれずに色々なことを勉強しなさい」みたいなことが書いてあったんです。要するに、蛸壺になりすぎていて科学者というのはちょっと変だ、みたいなことですね。

その頃の自分の中では、自分の専門を極めて、できる限り深く掘っていって、それに関しては世界で俺しか知らないというのが科学者だと思っていたんですね。でもやっぱり自分の専門だけで、パンドラの箱を開けてしまって、責任感がないような科学者ではいけないと。例えば原子爆弾を作っちゃったりして、取り返しのつかないことになる可能性もあるわけですね。そこから私は科学者と社会の関係というものを考え始めて、今に至るんです。やっぱり科学的なこともやりつつ、その成果を社会にちゃんと還元したい。その研究姿勢の元になったのが『科学者とは何か』という本なんですよね。

それと、もう1冊挙げさせていただくと、『スモール イズ ビューティフル』。これは今でも私のバイブルなんです。E・F・シューマッハーという経済学者が書いて、講談社学術文庫から出ています。今でも常に枕元にあって、ボロボロになるぐらい書き込みがある、一番読んでいる本ですね。これからの経済がどうあるべきか、というような話です。もう30年以上前に書かれた本だと思うんですけれど、地球というのは有限だという視点で、地球環境を考えた経済学を説いているんですね。そこで彼が提唱しているのが、日本に注目しようということで『仏教経済学』なんですね(笑)。要するに人間のスケールに合った、自然と矛盾しない調和した生き方を目指すべきだと。原点に帰ろうという思想ですね。私はそういうのがすごく好きなんです。人から離れた経済学が今、色々な問題を作っちゃっていると思っているんです。人間に基づいた、人間がベースになる、自然に逆らわない生き方を、いかに追求していくかというのがテーマなんですね。私は生物学もずっとやっているんですけれど、何億年も生きている生物というのは、何億年も生きられた理由があるわけです。やっぱり自然の摂理にちゃんと合わせて、無理していないんですよ。矩を越えないというか。だけど人間というのはどこかで越えちゃっているじゃないですか。『スモール イズ ビューティフル』には、このままだと人類は持たないよという警告がいっぱい書いてあるんですね。こういう警告本は、イケイケの経済学者には耳が痛いのかもしれないけれど、非常に大事かなと思っていて。私はいつか、そういう仕事をしたいんです。

著書一覧『 西成活裕

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