BOOKSCAN(ブックスキャン) 本・蔵書電子書籍化サービス - 大和印刷

世界中の本好きのために

細谷功

Profile

1964年12月7日、神奈川県鎌倉市出身。東京大学工学部卒業。卒業後、株式会社東芝にて原子力技術者(約8年間)を務め、その後、ビジネスコンサルティングの道へと進む。コンサルタントとしての専門領域は、・業務改革(新製品開発、営業・マーケティング、生産領域)・戦略策定(技術領域、システム領域等)・グローバルERP導入、・プロジェクトマネジメント・チェンジマネジメント等と幅広い。著書に『地頭力を鍛える』『アナロジー思考』(東洋経済新報社)、『Why型思考が仕事を変える』(PHP新書)、『象の鼻としっぽ』(悟桐書院)等があり、思考力に関連した講演やワークショップ等も企業や学校、各種団体向けに多数実施している。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

アメリカの電子書籍は、現在Kindleが主流


――細谷さんご自身、電子書籍は利用されていますか。


細谷功氏: Kindleを利用しています。最近、Kindleはマーケットとして、かなり完成度高くなってきているような気がしますね。

――普通の書籍と電子書籍だと、どちらのほうが利用する割合が高いのでしょうか。


細谷功氏: まずは雑誌に関しては、かなりの割合で電子版を利用する率が高くなってきています。その理由は、やはり「いつでもすぐ買って読めること」。中吊りやCMなどで見出しを見た瞬間に、iPadなどの電子媒体でパパパっと買える。これは、雑誌のようにすぐに読みたいメディアに対しては、一番のメリットですよね。検索性も高いですし。

新聞に関して言うと、以前から何度か電子版と紙との間をいったりきたりしていたのですが、最近、また電子に戻って、それが現在定着しつつありますね。

そして、書籍はなどの単行本というものに関しては、まだやっぱり持ち歩いていますよ。常に10冊くらいは持ち歩いている感じなんですけど。

――10冊! すごい数ですね…。


細谷功氏: 電子版を取り入れたことで、「慢性の肩こりが解消できるかな?」と思っていたんですけどね…。でも、結果的に何が起こったかというと、日本語の本は全く減らずに、「iPad」とか「Kindle」という「ちょっと重い本」がさらに一冊増えたという感じでした(笑)。

なぜ5 冊も10冊も持ち歩いているのかというと、仕事の参照図書なんです。たとえば、色々なトピックが出てきたときに、「さぁ、このトピックやろう」と思ったら、そのトピックに関連するものをガーッと引っ張ってくるんです。そして、いっぺんに10冊とかまとめ買いして、それを常に読むんですけど、全部を端から読むわけではないんですよ。「10冊全部読んでいるのか」と言われると、下手すると半分ぐらいはまったく読まなかったりする。こうした使い方をする本に関しては、本当は電子の方が圧倒的に有利なのですが、日本語ではまだコンテンツが非常に少ないので、全部の本を持ち歩かざるを得ないんです。

反対に、本当にカバートゥカバーで読むのであれば、紙の形状で持ち歩いているほうが、読みやすいとは思いますよ。

日本で電子書籍が発展するには、ユーザー側がそろそろ「まとめる」必要がある


――今後、日本において電子書籍はどういった使われ方をしていくと思われますか。


細谷功氏: なんでもそうなんですけど、物事には「発散」、すなわちダイバージェンスという時代と、「収束」を意味するコンバージェンスの時代がある。発散から収束に向かう課程で、製品ライフサイクルには、アーリーアダプター(Early Adopter)、いわゆる「新しい物好き」がいる。

電子書籍は、いまインターフェイスもいろいろと存在しています。アーリーアダプターたちが使っているうちは、色んな機能があって、ある者はアプリから、またある者はウェブから入る、というように、いろいろと入り口が違うんです。



さらにインターフェイスの種類がいろいろとあるわけですが、「新しい物好き」はこういうものの比較対象も楽しむんですよね。「この中で、これがいいよ!』って回りに発信すること自体が、この人たちの楽しみなわけだから。いよいよ商品が大衆化しようとしたときには、ユーザーインターフェイスがちゃんと統一されていなければいけない。今は、個別の機能や、出版社、端末の種類など、いろいろと差別化ポイントがありますが、今度はこれをまとめていく作業が必要。そういった流れを経てはじめて大衆化されたといえるんですね。

最終的には、全ての電子書籍がポータル化していくことが必要ですね。ユーザー視点で見ると、今は提供者がいっぱいいて、色んなデバイスが出されていますが、これをユーザー側の方でまとめなくちゃいけない。多分この流れが電子書籍でも起きないと、ぐっとブレイクポイントにいかないような気がします。

――ハードひとつにしても、いろいろありますもんね。


細谷功氏: 電子書籍もそうですけど、入り口が全く違います。まず、端末が違います。iPadから入るのか、iPhoneから入るのか。それとも、Kindleから入るのか。これは便利な方に行きますよね、外でiPhoneを使っても、家に入った瞬間にiPadで次のページが読めるとかね。

あと、アプリにしても、リーダー形式のアプリから行くものもあれば、雑誌のポータルみたいなところからもあれば、Wifiのストリーミングからもあれば、ダウンロード型もある。とにかく、色んなものがある状態です。

それから電子書籍の保存形態も、ストリーミングやローカル保存など、ユーザー側が選んでやらないといけないという状態が今の状態。それがメーカー側にすれば、差別化のポイントになるということなんで、それをどんどんまとめていくことだと思います。

色んな業界で、この現象は起っています。たとえば、パソコンのOSしかり、ビデオのVHSとベータの話もしかり、現在のブルーレイとHDもしかりで、結局、最初のうちは差別化するから色んなものが出されていく。でも、結局統一された瞬間にマスにワーっていくというのは、すべてにおいてそうなっていると思うんですよね。

――現在、電子書籍市場に一つひとつあふれている差別化ポイントを、キレイにまとめていけば、大衆化=マス化に繋がりますよね。


細谷功氏: たとえば、アメリカではKindleが事実上の標準(=デファクト)になりつつあるようですから、もうアメリカはマスの状態に近づいているようですよね。Kindleには読みたい本は全部あるので、アメリカでも大衆化への過程はもちろん経たんでしょうね。でも、やっぱりAmazonの強さというのが圧倒的にデファクトとしてあるので、ベンチャーなども出たけれども、あくまで傍流にしかなれなかったというところでしょうか。

一方、日本は完全に本流が枝分かれしていますよね。国道の真ん中が大渋滞しているような感じです。アメリカでは高速道路みたいなものがバーンと通っていて、一般道では色んな人が色んなことをやってる。でも、今後、アメリカのような時代になっていくというのが、日本の電子書籍業界の流れのような気もします。

紙と電子がワンセットで売られるサービスに期待


――ところで、細谷さんご自身は、どんなデバイスが生き残るとお考えですか。


細谷功氏: iPadですね。1ユーザーとして、こうなったらいいなっていう単なるわがままを話すとですね(笑)。うちの本棚がなぜ溢れているかというと、単純に本そのものをとっておきたいというのが2、3割。あとは検索とか本書いたりするときに参考文献として読むかもしれない、と思ってとってあるのが6、7割くらいです。

もしも、「紙を買った時には、セットで電子が後でついてきます」というサービスがあると便利ですよね。クラウドなんかに置いといて、鍵はちゃんとかかっているんだけど、アクセスコードだけは買った人にだけもらえるとか。そういうのがあるとユーザー的にはすごくいいですよね。逆の発想で電子が全部あるんだったら、簡単製本キットみたいなものを作ってしまっても面白いですよね。

――実際本屋にあるらしいですよ。私はまだ実物拝見してないんですけど。


細谷功氏: 表紙とか装丁とかも全部自分でカスタマイズできるようにしちゃって、ハードカバーにするのかソフトカバーにするのかとか。デザインも5種類くらい作って、そこから選べるとかね。本当に高くするんだったら、金文字かなんか入れちゃうとか。

――できるとすごく面白いですよね。所有感が大事ですよね。電子化においても所有感がちゃんとあって、いつでもまた紙にできたりするようなサービスがあれば面白いですよね。


細谷功氏: 電子化によって何が変わるか、当たり前の話も含めてなんですけど、デメリットとしては、パラパラめくりができなくなる。

本をめくるという行動は、それこそパピルスの時代とかただの紙だったということを考えれば、人間のDNAに限りなく染みついているのではないかと思いますしね。インターフェイスがいつ統一されるのか、という所が、「本とはなにか?」という問題にかなり近いのかもしれないですね。だから、人間が知識なりを吸収するという行為は、この「めくる行為」と実は密接に脳の中で繋がっているのかもしれないですね。

――例えば、「葉っぱの中に何があるんだ?」と、探求するような行為に似ているのかもしれないですね。


細谷功氏: めくるとは、そういうことなのかもしれないですね。

雑誌の記事や本の章売りなど、文章のバラ売りがすすむ?


――話が変わりますが、例えば雑誌の場合、立ち読みで気に入ってもらえたとしても、買われずに終わっちゃう可能性も高いと思うんですが、電子化によってその場で買えたとしたら購買というのは増えると思いますか。


細谷功氏: いわゆるロングテール化だと思うんです。購入の頻度が増えるのは間違いないけど、その代り単価は下がる。掛け算した時にどっちにいくかというところだと思うんですね。今までは、雑誌という形で一つの不連続なポイントがあり、書籍という形で不連続なポイントがあった。

つまり、千円ちょっとの本を買うか、立ち読みで済ませるかという話だったのが、今度は連続的に変化しはじめています。例えばオムニバスの本とかがあるけども、あれは「この本には10人の著者が入っています」というものだったけれど、これをバラ売りできるような形ですかね。それぞれ、4、50ページのコンテンツで「○○さんが選者になりました」というだけで、それがプレミアムになるとか。

――誰が選んだ、泣ける話50冊みたいな感じでしょうか。


細谷功氏: そうそう、そういうやつですね。だからそうなると作り手としても4、50ページくらいのオムニバスコンテンツもいっぱい作るとかっていうのもありえるかな。思考力系の本とかだったら、単なる本ではなくて練習問題みたいなのをつけて、アプリにしてしまって『電柱何本あると思いますか?』って聞いたらば、電柱とは。みたいな話からはじまり、各国のいろんな電柱の絵が出て来るとか、電柱とはこういうポリシーで立ってますとか。マニアックな人にとってみるとこの間隔は風向きがどうで、この強さがどうで決まってますみたいな感じですかね。そういううんちくが色々出てくるとかね。まぁ、それはWebでやっている発想と同じですけどね。
今後は、1冊の本なり雑誌なりが、どこのポイントでも切れるようになってくるような気がします。つまり、立ち読みというのものだと、全く買わないか、全部一気に買うかのどちらかになってしまいます。だけど、一個一個の記事が買えるようになれば、立ち読みなんだけども、「まぁこの記事は買ってみようかな?」という人たちが出てくるんじゃないでしょうか。

――今は初めにある程度先にページ数が決まっていて、その中に記事を落とし込んでいく書き方が主流ですが、ページ数や文字数などの制約がなくなる可能性が高いということですね。仮に、本来伝えたいことが10ページで収まる場合、わざわざ長くかかなくてもいいし、その反対もありうるわけですね。


細谷功氏: そうですね。だから、著者として考えた場合、今までは単行本を想定して1冊200ページのものを書くか、5ページの雑誌連載を書くか、極端に言うとどちらかなわけじゃないですか。あるいは、2ページのブログを書くとか。そういう不連続のポイントだったものが、今後は50ページものでもよくなる。

今までだと学術論文のようなものなら、ひとつにつき20~30ページで、論文集みたいなもののなかに入っていることが多いんです。でも、「じゃあ、30ページの本を売ってますか?」というと、ほとんど売ってないですよね。本屋に並んでる本も、単行本であれば、200ページ位はある。

だから、今後は、もしかするともっと「薄い」本が多くなってくるかもしれないですね。20ページの本もあれば、30ページ、40ページ、50ページの本もある。だから、作る方にしてみても書籍のような本格的なものもあれば、ちょっと予告編みたいなものを「まず30ページ」というような形で出しておくこともできる。その30ページの後に、「全部のバージョンは来年ね」ということで。

本は映画館の映画同様、「時間をとってもらう」メディア


――とにかく細分化され、かつ物理的制約を受けずに様々なものがどんどん出てきそうですよね。ちなみに、今は読者カードやAmazonのレビューなどで読者の顔をある程度想像できると思うんですが、もっと読者の顔が見えた場合の書き手のスタイルに変化は生じますか。


細谷功氏: 多分、Webとかブロガーとかはそれを今やっていると思うので、だんだんそれに近づいていくのではないでしょうか。あと、もうひとつ思うのは、逆に「こういう構造が起きるが故に、ちょっとした不連続なところがあるんだ」ということにもこだわりたいかなというのがあります。

やっぱり、書籍の場合、当然50ページ100ページが必要になってくるので、「ブログのような普通のコンテンツとは違うんだ。短いものとは違うんだ」と思わせたいですね。テレビと映画の関係に似ていると思うんですけど、要するにテレビって短サイクルになっているわけですよね。お茶の間で簡単に観れて、チャンネルも簡単に変えられちゃう。ネットの世界もそうです。

ところが、一方、映画はちゃんと映画館に行きます。本も読者が本を取りだして「さあ読むぞ」といった瞬間に、この本は「この人の時間を占有します」という「宣言」をするわけですよ。テレビのように簡単にはチャンネルを変えられない。つまらなかったらすぐリモコンをおけばいいんだけども、電車の中でこうやって出してしまったら、そこそこつまんなくても降りるまで出したまま持ってるわけじゃないですか? そういう意味で「本は時間を占有する」という権利を得られるわけですよ。ネットだったらピッとクリックされたら終わりですから、チャンネルを変えられるのと全く同じですよね。

DVDが簡単に手に入っても、映画館にちゃんと行く人がいるっていうのは、映画として一つのストーリーを語ってほしいから。本としても、やっぱりある哲学とかストーリーを提供しない限り、チャンネルを変えられちゃうかなっていう気がするんですよね。逆に言うと、作り手としてはそれを意識する必要があるかな? という気はしています。

今後、著者に求められるのは「どこかへ行ってしまった人を連れ戻す」こと


――そうすると、今後は、作り手側としても、「すぐにチャンネルを変えられないように」と、意識を変えざるをえない部分がありそうですね。


細谷功氏: 著者の立場からいくとどうやって「どっか行っちゃった」人を連れ戻すかっていうことなんですね。Webだったら戻ってこなくてもいいんですけど、本だとどっか行っちゃった人が戻ってこないと困るので、あくまで「戻す」って事をするためにそれなりに本の求心力というか哲学みたいなのがないといけない。

それはさっきの不連続なことをあえて起こすという事をやっておかないと、単に連続的な変化だと、行ったらもうおしまいよというところがあります。それからお客さんというのも例えば電子化になって、広告モデルみたいなのが出来ると、これもテレビと同じですけど、実際に見ている視聴者とお金払ってくれる人が違いますという、極端に言うと全てコンテンツがタダになるというモデルだっておそらくありえるんじゃないかな?って思うんです。

NHKみたいに有料コンテンツ型と民放みたいなものがでてくるという。実際に読んでる人とお金を払う人が違うという状態は、今まで本を書いている人は経験していない世界がやって来るというか。

――コンテンツがタダになるっていうのは十分ありえますよね。そこからの派生物で収益化を図る…とか。


細谷功氏: プロモーションビデオなんかもほんとにチラ見せじゃなくて、完全にフルコーラス入ってたりしますもんね。

――それによってファンになって、応援するという意味での収益だったりとか。本に関してもそういった形になるかもしれません。


細谷功氏: そう思いますよ、よく出る話は、「タダが当たり前」だと思う世代がどんどん増えていきますと、いわゆるデジタルネイティブは基本的にもう読み物とかはタダだと思っているんです。それは確かに恐ろしいんですけど、考えてみれば自分の世代だって「テレビ番組はタダだ」と思ってるよなと。「あれは作るのにどれだけお金や知恵や手間がかかってるんだ?」という話ですけど、テレビ番組に個人が金を払うなんていう発想は我々の世代だって最初からもう全くないですよね。テレビ業界が成り立っているっていうことは、そういう発想でいくっていうのが十分ありだなっていう風に。だから我々としても逆にそれでうまく成り立たせるようにしていかないと。

本の中にも電子と紙というものがあります。電子でもいろんなアプリがあって。Kindleですら履歴についてはリコメンデーションとかいろいろ言ってきますけども、もっと言ったら全部自分の行動パターンを総合的に統合把握した上でリコメンデーション出してほしいですよね。逆にある意味恐ろしいところはありますけど。

Amazonでも日本のサイトで買った履歴とアメリカのサイトで買った履歴とリンクしてないですから、リコメンデーションする人に「自分の癖を教える」という行為、つまり知的活動の連続性を把握した上でリコメンデーションしてくれると有り難いですね。テレビ番組も同じポータルからリコメンデーションが来るとか。

たとえば今回やっているテーマに沿って、このテレビとこの電子書籍とこの紙を見てテーマに沿ってやってくださいよっていうのが出てくるっていうのは、ユーザー視点で見たら一番。コンバージェンスっていうのはそういうことで、すべてがユーザー経験につながってくるところまでいかないと、ダメじゃないかな? さらに自分の知的活動はバーチャル以外の活動も含め、全部統合管理されているといいですよね。書店の紙で買ったものの履歴も本当はここに入れておいてほしいですよね。

一冊だけではなくて、読んでいる人の購読情報も、大体この本のユーザーは2章のところまで読んでいて3章のところでやめたっていう履歴が残っていればいい。たとえば、テレビ番組。放送して30分でいきなり視聴率が落ちたら、「あぁ、ここがつまんなかったんだ」ってわかるじゃないですか。Webのアクセスがまさにそうですよね。ああいうのが本1冊の中でできるとか。著者としては、ああここが面白かったんだなって。そこまでわかると面白いかな。

――必然的に変わりますね。読み手も書き手も。




細谷功氏: ソーシャルブックマークっていうのは、その一部をやっていますよね。あれも大きなお世話だっていう人も、「おぉ、この人いいこと言ってるな!」っていう人もあれば、『ちょっとここに線引いてあること自体読み方違うんじゃない?』って言いたくなる人もいるじゃないですか。

余計なことももちろんあるんだけども、オンとオフができればいいわけで、そういうものをシェアするとか、読み手にとってのログもあるし、書き手にとっての視聴率情報的なライフログっていうのが取れていくと。本も文字ベースとか、千単位で履歴がとれていくっていう世界がやってくるんじゃないですかねかな?

――そんな時代が来るかもしれませんね。


細谷功氏: ユーザー視点というのは提供者の区切りではなくて、あくまでユーザーが「どういうふうにやっていくか」によって分けるべきだと思います。ユーザーのニーズに答えていけば。この流れでいくとユーザーの視点に向かっていくというところじゃないかな? と思うんですけどね。こんなのが考えたことです。

今回のお話を伺っていろいろ考えていて。こんなに話していますけど、著者としてみたら、改めて考えてみるとこういう視点でやらなくちゃいけないんだよなと気づかせて頂き、すごくありがたかったです。断片的にいろんな人が言ってる話なんですけど、大きな構図で考えてみるとこんな感じなんじゃないかと思います。著者として目指すところは、この人の本を読むんだったらこの部屋に行こうとか。映画のように、劇場に行って他のものは遮断してでも時間をとってくれる作品を作るというのが、著者として目指す姿ですよね。その為には、哲学とかストーリーとか連続性の世界を持たないといけないんですよね。

――その人の時間をいかに占有できるかですね。


細谷功氏: 電子書籍でも紙の本でもネットでも、時間をとるものすべてがライバルになりうるわけで、時間を占有させるべく、どうがんばれるかという話ですよね。それが細分化されてきているがゆえに対策がちょっと違ってくるんでしょうね。

出版社とは別に、個人編集者やアマチュアが本を作る時代がくる


――今、電子書籍化によって、プロとアマの垣根が、出版するという最初のハードルとしては低くなってきているように感じます。それについてはどうお考えですか? また、今後、出版社はどのような形態をとると思われますか?


細谷功氏: 今までは名刺にプロって書いてあるくらいのものだったけど、今はもう30%プロの方も40%プロの方もいますよね。

版元に関していえば、もっとそれぞれの「芸風」が出てきてもいいと思うんですけどね。要するに、なんらかの付加価値、世の中に発信するという点では、個人と法人という境目はあいまいになってきてると思うんですね。

そうした時代に「会社であるメリット」というのは、ある設備投資がいるとか大きなまとまった人とお金がいるっていう場合。これは、集団力で対応できますから。でも大量な人、物、金がいらずにただのクリエイティブな機能とかだけが必要なのであれば、もしかすると個人、出版人、編集者という付加価値の出し方でむしろ個人がやるっていう方向にいく可能性がある。

逆に出版社としてやるとすると、人、物、金がいることによってなんらかの形で差別化しなくちゃいけない。今までは印刷するという行為に人、物、金が必要だったわけですけど、あとはどこに人、物、金を導入するかっていうね。ソーシャルなんかでやってしまえば、人を集めるっていうのは逆に必ずしも会社組織じゃなきゃいけないのか、疑問です。

――例えば、あるプロジェクトの為に精鋭が集まって、そのプロジェクトを完結するまでで終了という事も可能ですものね。


細谷功氏: ただ、そうなるとその一冊の本を作るのに人はいっぱいいるけれども、求心力は一人でいいかもしれない。そのプロジェクトを立ち上げる人がいれば、あとは個人の契約関係においてやってしまうというのはありえますよね。個人で立ち上げると言った場合には、その人のブランドなんかが差別化ポイントとなるというか。

――そうなると危惧されているのが、「出版界全体の活性化としてどうなのか?」という点です。つまり今度は出版社の方へ経験が蓄積されないという意見も聞いたりしますね。


細谷功氏: たしかに、経験の蓄積というのはありますよね。そういうのをどうするのか。紙が電子になる事自体は、バリューチェーンというかビジネスプロセスの過程で、製造業の製造という機能は海外に行っちゃいましたっていうのと似ていると思うんです。企画の力とか流通とか販促とかそういうものにおいては、単に真ん中の部分が抜けただけなので、出版社の機能って基本的には生きると思うんですね。

あとはそれに+αで電子、紙という軸のほかに、例えば個人化がどんどん進むとか、ソーシャルみたいな軸が入って来たりすれば、さらに別のチャレンジがどんどん出てくると思うんですね。

――個人のレベルで一緒に編集人とやっていけば面白いことになりそうですね。なお、これから5年10年後ってデバイスはどんな風になっていると思いますか? 


細谷功氏: 目をピッと動かしただけでページがめくれちゃうとか。あと疑問に感じた時は、目玉が右上にあがるとかあるじゃないですか? そうなった場合は、クエスチョンマークで出て来るとか、そのくらいのインターフェイスが出てきたらすごいですよね。

ただ、「本当にそれを使いたいか?」というとイマイチそうは思わなくて。技術者が研究している部分では面白いとは思いますけど、「それを本当に使うか?」といったら使わないかもしれませんね。話のネタにするんだったらいいですけど。

――デジタルネイティブ世代になるとまた意識は変わって来るのかもしれないですけど、我々世代にとってはどうしてもまだ抵抗がありますよね。


細谷功氏: そうですよね。さらにテレビもどう変わるか気になりますね。こたつがテレビになってみんなで囲んで観られるとかね。

――それは、すごく面白いですね。


細谷功氏: 私、もともとは技術者なので、かつては図面を書いてたんですよ。20年くらい前ですけど。A1サイズの大きな図面を100枚とかまとめてチェックするんですよね。一個ずつみるんですけど、そのとき思ってたのが、机がディスプレイになったらチェックとかがみんなで一緒にできるのになって。

その発想からさっきコタツがテレビのスクリーンだったらって言ったんですけど。そうなっているとボードゲームとか、マージャンとかもそのままできちゃうみたいな。そんな時代になったらテレビも4人観てたら映像が4層になっていて、同じものが見る人によって微妙に違う風に見えているとかね。そうするとみんなで観ていて、おぉ面白いなっていってみんな笑う時は一緒に笑える。テレビとかもいろんな考え方があるのではないかと思いますね。

本はなくてはならないもの。無人島で「食糧」がないより「本」がないほうがキツイ


――最後に、細谷さんご自身に影響を与えた本を教えて下さい。


細谷功氏:  折りに触れて読み返しているっていう点で1冊あるのは今NHKのビジネス英語の講師をやっている杉田聡先生が書いた英語の名言集です。

転職するときとか、いろいろな方向性で悩んだときにはよくその本に戻ります。いろいろあって自分に自信がなくなっているときに、「自分と同じような考え方の人に触れたい」という気分で、読んだりします。

電子書籍の話題に結びつければ、名言集なんかもリンクが貼ってあって、それにまつわるいろんなものが出てきたりすると面白いかな?と思います。例えば、その言葉を言った人の名前がありますけど、名前だけで終わらせるのではなく、「その人はどんな人?」とWikipediaみたいなのが立ち上がるっていうのもいいかもしれない。

――リンクで検索できる……というのは電子書籍ならではの魅力ですね。ちなみに、細谷さんご自身にとって、本とはどういう存在ですか?


細谷功氏: なくてはならないものであるのは間違いないですね。無人島に行って、食糧がないより本がない方が多分辛いんじゃないかって思う(笑)。まぁちょっと大げさにカッコつけていうとそれほど不可欠なものですかね。

退屈するっていうのが一番困るので。冒頭で、僕が常に本を10冊は持ち歩いているって言ったのも、例えばどなたかに会いに行った時に、20分空き時間ができたとして、どうしても何か欲しいわけですよ。そういう意味では電子書籍っていうのはすごく良くて、さっとiPhoneやKindleを出すと本が読める。しかも片手で全部読めちゃうしね。通勤だろうが何だろうが5 分でも空き時間があったら、本でもWebでもいいから読みたい。友みたいな存在であったり、自分の考えを整理する時にはフィールドであったりするんですよね。そんな大事な存在なんです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 細谷功

この著者のタグ: 『英語』 『コンサルタント』 『海外』 『哲学』 『コンサルティング』 『組織』 『考え方』 『可能性』 『紙』 『マーケティング』 『こだわり』 『ビジネス』 『テレビ』 『研究』 『新聞』 『本棚』 『お金』 『雑誌』 『世代』 『装丁』 『日本語』 『クラウド』 『リーダー』 『メリット』 『書き方』 『アプリ』 『マネジメント』 『ベンチャー』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
ページトップに戻る