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岡田正彦

Profile

1946年、京都府に生まれ。新潟大学医学部卒業。1990年より同大学医学部教授。 専門は予防医学、医療統計学で、病気を予防するための診療をおこないながら、日本人におけるがんや血管障害などの危険因子を探る調査にも取り組んでいる。 1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」 受賞。 著書に『信じてはいけない医者 飲んではいけない薬 やってはいけない健康法 医療と健康の常識はウソだらけ』(カンゼン)、『死ぬときに後悔しない 医者とクスリの選び方』(アスコム)、『がん検診の大罪』(新潮社)など多数。

Book Information

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真実に向かって



岡田正彦氏: そもそも親が医者だったことから、この道に進むことになりました。小さい頃から数学や理科が好きで、理屈で答えが出るような仕事をしたいという想いと、親の仕事の話が符合しました。医学がそうした研究をするかっこうのテーマだと思ったのが、一つの大きなきっかけだったような気がします。医学部に入って医学の勉強以外に私が最初にしたのは、数学やコンピュータを独学で学ぶことでした。卒業後は、そういう分野の研究をしたいと思っていたのです。

――問題意識を持ち、予防医学や統計などに携わるようになったのは。


岡田正彦氏: 研修医の頃です。研修は丁稚奉公の世界で、一から十まで先輩に習います。その中で、薬の処方を見ていて違和感を感じました。同じ病気、同じ症状なのに、人によって処方の内容が全く違う、と。地域が変わるとまた違う。そこに疑問点が浮かんできました。医学は当時も今も、経験が大事だと言われていますが、その時感じたのは、人の経験はあまりあてにならないということでした。

人間は印象的な事が一つあると、すべてがそうだと思い込む傾向があります。ある薬を処方してすごく効いた患者さんがいれば「この薬は素晴らしい」という情報がインプットされてしまいます。ある薬を飲んですごく副作用が出ると、「これは危険だ」と心底思いこんで二度と使わないというのも一緒です。実は副作用は滅多にないことかもしれない。だとすると、経験でやる医療は少しおかしいと思いました。何かもう少し平均的な、個人の経験に左右されない真実を見つける方法があるのではと思い始め、勉強をし始めました。



――その中で、画期的な手法を見つけられます。


岡田正彦氏: 今から25年ぐらい前でしょうか。世界中の様々な論文を読んでいるうちに、薬を評価した論文がたくさん載りだして。その中に「ああ、これだ!」と思う手法があったんです。経験でも、過去に起こったことの分析でもありません。

まず大勢のボランティアを募って、年齢・性別はもちろん、血圧や喫煙の有無、学歴、収入…、様々な要素をコンピュータに入れ、差が出ないよう均等な二つのグループに分ける。そして、片方に調べたい薬を飲んでもらい、もう片方は何も飲まない。人間ですから、思い込みで検査値が変わる可能性もありますので、片方には偽薬(プラセボ)を飲んでもらい、5年、10年と追跡して、結論がどうなったか調べるという手法です。

ポイントは、均等に分けた二つのグループを用意すること、その数は数千人から数万人であること。さらに5年10年の長いスパンで追跡すること。それ以前の、日本の薬の調査は、対象がせいぜい数十人だったんです。しかも、せいぜい半年、長くても1年の追跡しかしていなかった。一方、新しいスタイルは、均等に比べる、大勢で見る、長い間追跡するという条件を満たす調査だったんです。

「その薬を飲んで本当に健康で長生きをしたか」ということも調査していました。専門的には、寿命は計算が難しいので、ある調査期間、何人の方が亡くなったかを比べる。健康で長生きしたくて薬を飲むわけですから、長生きしていなければ意味がない。薬を飲んで血圧は下がったけど、みんな死んじゃったでは意味がない。そのあたりまできちんと評価している論文が出始めてきたんです。以来、私は、その類の論文を読みあさってきました。そして、結論として、私が本に書いてきたような事で間違いないと。自信をもったので皆様にお伝えしつつあるんです。

――医療への先生の情熱を感じます。


岡田正彦氏: 知ってしまったんですよね。知ってしまった事は黙っていてはいけないかなと。研究者の任務は、一部税金を使って、実験・調査をして、得た結論を社会に還元することです。普通、研究というと、凄い薬を発見したとか、薬の元になる物質を発見したとか、こんな素晴らしい効果を見つけたとか、ポジティブな話が研究成果として高く評価されてきたわけです。
私はその医療を超えた現代科学の危うさを、結果的に研究してきたので、その情報を還元しなければ、研究者としてまっとうしたことにならないかなと思ってやっています。

「知ってしまった」ことを形に


――探究する中で「知ってしまった」ことを書籍を通じて世の中に伝えられています。


岡田正彦氏: 最初は、欧米で今までとは全く発想が違うエビデンスを求めるための調査研究が始まった時、その概要と結果をまとめた本を書きたいと思いました。最初に書いたのは1999年ですが、その時は、自分で勝手に原稿を書いて、出版社に送りました。ある出版社に、これなら出してあげるといわれ、出してもらったのが最初です。

その後、その本を多くの方が読んでくださって、執筆依頼も来るようになりました。その時に私に向けられた批判は、一般書に書く前に、なぜ学会に発表しないのかということ。一見、まともな反論ですが、それはできないのです。私の話は、基本的にはすでに外国の学会、あるいは論文で発表された話なのです。それを私がもう一度別の学会に発表するわけにいかない。それに、私が申し上げた事は、医療医学のかなり広範な所に関係していますから、そうしたあらゆる分野に関係した研究発表をする学会はないのです。

――初期の頃と本のテイストに変化が感じられます。


岡田正彦氏: 最初に書いた本は、否定が中心でした。でも、あれもダメ、これもダメと否定されるだけだと困ってしまいますよね。自分で読み返してみて、これでは読者はどうしたらいいか分からないなと感じました。そう思って、次は、どうすればガンが予防できるかとか、そうした話を書いていこうと思いました。ちょうどその頃欧米を中心に、生活習慣を調べて、どんな習慣の人が長生きをしているか、病気になって早死にをしているかの追跡調査が出てきたんです。そういう中から、少し希望が見えてきて…。

例えば、酒は体に悪いとみなさん思っていますが、酒を全然飲まない人って早死になんです。飲みすぎる人はもちろん悪いですよ、肝臓も悪くなるしガンも増える。ほどほどに、毎日お酒を飲んでいる人が、実は一番病気が少なくて長生きしている事がわかったんです。そんな感じで、様々な生活習慣と将来の健康状態がわかってきました。これからは、そういう話を中心に知って欲しいなと。ガンは遺伝だと思っている方が多いですが、違います。遺伝はせいぜい5%。95%は遺伝ではないので、予防できるのです。そのためのエビデンスもさまざま出てきていて。私が世界中の色々な情報を集めたところ、今現在、約7割のガンは予防法が分かってきています。それは明るい話題ですよね。薬をやめて、がん検診をやめて、こうしましょうっていうのを、これから皆さんにお伝えしたいですね。

――新潟スタディーでは、健常者約2,000人の健康状態を追跡調査しています。


岡田正彦氏: 私が退職する間際に出た、良い結果の一つは、人間は何時間寝ると一番ハッピーになれるのか。私の調査では6時間でした。毎日6時間寝ている人が一番長生きで健康なんです。色々な背景因子を調べ、それらを統計学で削除して、純粋に睡眠時間と健康状態が分かるような計算をして求めた結果です。6時間が一番長生きしているという事プラス、寝すぎている人はかえって病気になるという事を見つけまして。それを論文にして発表しました。国際動脈硬化学会の専門誌に出したのですが、これがことのほかウケまして…。こういう話は前から少しずつあったけれども、ここまで厳密に統計処理して証明したのは、この論文が初めてだと言われて。その学会のホームページの一面に論文が載ったり、編集長の特別コメントが載ったりしました。

著書一覧『 岡田正彦

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