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岡田正彦

Profile

1946年、京都府に生まれ。新潟大学医学部卒業。1990年より同大学医学部教授。 専門は予防医学、医療統計学で、病気を予防するための診療をおこないながら、日本人におけるがんや血管障害などの危険因子を探る調査にも取り組んでいる。 1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」 受賞。 著書に『信じてはいけない医者 飲んではいけない薬 やってはいけない健康法 医療と健康の常識はウソだらけ』(カンゼン)、『死ぬときに後悔しない 医者とクスリの選び方』(アスコム)、『がん検診の大罪』(新潮社)など多数。

Book Information

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最適な医療を形に



医学博士で予防医学と医療統計学を専門にする岡田正彦さん。高齢者、超高齢者が置かれている医療の現状を変えるため、積極的に活動されてきました。「知ってしまった事実を伝えなければいけない」という岡田先生に、現代医療の問題点や解決策、また発表の場における独自の発想の原点などを伺ってきました。

顕在化する医療の問題


――こちら(水野介護老人保健施設)でのお仕事について伺います。


岡田正彦氏: 私のいるところは、2000年から動き始めた介護保険制度の下にできた介護老人保健施設の一つです。病院を退院したけれども家に帰るほど回復はしていないという方々のリハビリや、継続治療をする場所です。基本的には三ヶ月ほどで社会復帰、自宅復帰をしてもらうのが趣旨となっています。ただ、介護保険の適応は65歳以上で上限がありません。必然的に超高齢の方々が多くなるわけです。そうなると、家に帰れない長期滞在の方や、家に帰れる見込みがたたない方が多くなります。

最近、新聞やテレビで、介護難民や自宅介護の大変さが報道され、問題が浮き彫りになってきています。超高齢ですと、行き着く先は老衰、命の終わりが待っているわけで、最期をどこで看取るのかも大きな問題となってきます。「自宅で最期を迎える」というのが、国が考える理想の姿ですが、それをサポートするシステムが全くない。結果的に、こうした施設で最期を迎える方が非常に多くなっているのです。私の実感としては、多くの日本人が死に場所を求めてさまよっているような感じを受けています。

――先生のご専門は予防医学ですが、ここではどのように生かされているのでしょうか。


岡田正彦氏: 予防医学ではもともと高齢の患者さんが多いのですが、今までのイメージでは、せいぜい65、70歳ぐらいでした。それが今では、80、90歳の方が非常に多くなってきています。これまでの医学・医療の教科書には出てこない世代です。今、諸外国を中心に「エビデンス(科学的根拠)」という言葉が流行っていますが、超高齢を対象にしたエビデンスは皆無です。日本の高齢化社会は理解しているつもりでしたが、こちらに勤務するようになって肌で実感しています。未知の世界が多くあって、医療制度も根本から変えていかなければいけないと考えているところです。

やはり一番気になるのは、私が「薬漬け」と呼んでいる問題です。様々な病院から患者さんが来られますが、ほぼ皆さん薬を過剰に摂取しているように思います。若い方の薬漬けにも反対ですが、高齢、超高齢になればなお一層です。薬はたいてい肝臓で分解され、腎臓から外に出ていきますが、高齢者はどちらも機能が弱っていますから、飲んだ薬がどんどん体の中にたまっていくので、効きすぎるんです。例えば血圧の薬を飲めば、血圧が下がりすぎる。糖尿病の薬を飲めば血糖値が下がりすぎる。そうした方が多くいらっしゃって、「薬漬け」の弊害を日々実感しています。

なるべく薬を減らして、リハビリで元気になっていただく方針を患者さんのご家族にお伝えすると、9割以上の方々が賛同してくれます。薬の量をどこまで減らすか、試行錯誤しながらやっています。「これまで色々な病院を回るごとに薬が増えても、減ったことはない」と言われることが多く、世間一般の方々の薬に対する認識は、だいぶ変わってきたと思います。一方で、病院の専門家に薬を減らそうという認識がないとも感じます。症状が五つあれば五種類。検査値の異常が十あれば、十種類薬を出すという発想が、昔も今も変わっていないと感じます。

「薬漬け」の根深い問題


――どうしてそのようなことが起きてしまうのでしょうか。


岡田正彦氏: よく「病院のドクターが薬をたくさん出すのは、寄付金や謝礼をたくさんもらえるからですか」と聞かれますが、一般病院ではそういった事はまずありません。「薬は出せば出すほど病院は儲かるんですよね」という間違った認識からくる質問も多いのですが、薬は院外薬局から出ていて、病院は処方箋を書くだけです。ですから、薬をたくさん出して儲かる仕組みはないのです。それなのに、どうしてこのような問題が起きるのか。色々なドクターと話していて感じるのは、皆心底、薬が大事だと思い込んでいるということでした。儲けようとか、誰かに言われたからではなく、本当に必要だと思って出している。だからこそ、風潮を変えていくのは大変だなと思います。

――皆さん、それぞれ信念を持って携わっているのですね。


岡田正彦氏: ただその信念の元になる情報が間違っていると大変なことになります。数ヶ月前に高血圧治療薬の論文の捏造をめぐって刑事事件がありました。薬の効果、副作用の部分で、データを操作したのではないかと言われています。日本ではその事件をきっかけに議論が高まっていますが、欧米では、そういった事件は日常茶飯事なのです。特にアメリカでは、その手の訴訟事件が数えきれないほどある。つまり、世界一流と称される学術論文に載ったデータでさえ、操作があったかもしれないということです。さらに、外国の薬を評価した論文は、英語で書かれているうえ、高度な分析処理、統計学を使った分析処理が行われていて非常に難しい。

日々忙しいドクターたちが、難解な論文を毎日読むことはできませんし、それが業務ではありません。文献数も、今や天文学的数字で、ものの本によりますと2000万件を超えているのだそうです。ですから、原著論文を読まずにサマリーだけ読むことになります。しかしサマリーは文字数の制限がありますから、この薬はとてもよく効いたという事しか書いていません。実は亡くなる人が増えているとか、本当に大事な情報が抜け落ちているのです。そこで認識を誤ってしまうのです。その繰り返しで、正しい情報が第一線のドクターに伝わらず、良い面だけがよりいっそう強調されて、ドクターの知識が偏ってきてしまっていると感じますね。日本のドクターはおしなべて真面目です。だからこそ、一度根付いた発想を切り替えていくのは大変なのです。

著書一覧『 岡田正彦

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