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疋田智

Profile

1966年生まれ、宮崎県出身。東京大学文学部美学藝術学科卒業後、東京放送 (TBS) に入社。現在は情報制作局プロデューサーを務める。 自転車に関する著述活動で知られ、雑誌連載、ラジオ、インターネットなど幅広く活動している。「自転車ツーキニスト」を名乗り、自転車で通勤する人を意味するこの言葉を広めた。メールマガジン「疋田智の週刊自転車ツーキニスト」は、2006年の「メルマ!ガ・オブ・ザ・イヤー」総合大賞を受賞。 著書に『自転車の安全鉄則』(朝日新書)、『だって、自転車しかないじゃない』(朝日文庫)、『自転車ツーキニストの作法』(ソフトバンククリエイティブ)、『ものぐさ自転車の悦楽 折りたたみ自転車で始める新しき日々』(マガジンハウス)など多数 。

Book Information

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「2020東京」の手本になるロンドンの自転車政策



疋田智氏: 当初、「自転車通勤の楽しさを伝えよう」という気持ちで書き始めましたが、そのうちだんだんと日々の自転車通勤で見えてくる色々な地域の問題点が浮かび上がってきました。日本の自転車事情は、道路も法律もうまくできておらず、また人々が法律をそもそも知らないのです。三冊目の本を書いた時にオランダ、ドイツなどに行ったのですが、海外の自転車事情を見てみると、日本とは雲泥の差。自転車が交通の主役として扱われていて、誰もが自転車に乗っているのです。例えばデンマークでは、通勤の自転車率は52パーセントもあります。半分以上の人が車や電車ではなく、自転車で出勤しており、そういうお国柄もあって、自転車のための色々なインフラができているのです。しかし、自転車事故は日本の方が多く、デンマークの数倍。先進国の中で一番自転車事故死者数が多いのも日本、という事実も見えてきました。

――執筆のモチベーションがだんだんとシフトしてきているんですね。


疋田智氏: 途中からですが、そういう気持ちが私の本を書くモチベーションになっています。だから初期の私の本は楽しいことばかり書いていますが、最近は不愉快なものも多くなっています(笑)。これからは、新しいインフラ、教育、そういったものに働きかけていくことが大切だと考えています。そのヒントになるのはロンドンです。元々イギリス人というのは、あまり自転車に乗らなかったんです。ヨーロッパの中でも自転車分野では後進国中の後進国で……、おばちゃんの三割ぐらいは自転車に乗ることすらできなかったんですよ。

2012年のロンドンオリンピックでは、「エコ」をテーマに、キーワードは「自転車」だと、市長のボリス・ジョンソンが自転車政策を推し進めました。最初のうちは、でたらめな自転車レーンなどがあふれ、混乱していました。しかし、だんだんとデンマークなどを手本にして、インフラや教育の整備に着手しました。駐輪場を増やし、自転車レーンを縦横無尽に敷きました。自転車教室では規則から楽しみ方まで色々なものを学ばせるようになりました。またシェアバイクという誰でも乗れるレンタル自転車を、6000台も置きました。そうして2012年のオリンピックに間に合わせたのです。自転車人口はどんどん増え、シティに勤めている証券マンは、みんな自転車通勤に。自転車先進国とまでは言わないですが、ヨーロッパの標準程度にはなっているはずです。2020年に日本もオリンピックを控えていますが、ロンドンは大きな参考例になります。

――2020年の東京オリンピックにも「エコ」は大きなテーマとして掲げられています。


疋田智氏: 東京はまだまだ車が多すぎますし、渋滞も起きています。ただ、東京は世界に冠たる地下鉄網とそれに乗り入れる鉄道網が発達していて、ここはもうエコシティの資格、大アリです。この公共交通と、自転車こそが、エコシティの両輪なんですね。となると、自転車に力を入れさえすれば東京はすぐにでも最高レベルに追いつけるわけです。また「エコ」だけでなく、大きな課題でもある「医療費」の側面でも効果は大きいのです。ドイツには、「トラック一杯分の薬より一台の自転車」という有名な格言があります。自転車に乗っているだけで、ずっと健康になれると。以前、ドイツのミュンスターを訪れたとき「自転車を使うようになってから、町の医療費がどんどん減っていった」と聞きました。少子高齢化が進み、医療費がひっ迫している日本は、特に「医療費削減」が国家のテーゼです。そこに一番効くのが実は自転車。

日本の医療費というのは今、年間約40兆円程度かかっています。その中の大きなパーセンテージを占める部分、実は高齢者医療だけではなく、生活習慣病の予防と治療のために使われているんです。そういった中で、日本の国民病と言われる生活習慣病(糖尿病)に一番効くのが自転車なのです。ものすごく低く見積もっても、6000億円ほど浮くそうですよ。また、自転車に乗っているというのは常にバランス感覚を取るので、小脳と延髄が活性化します。心肺機能も強化されるので、循環器系の病気にかかりにくくなる、さらには血管が柔軟になることによって、脳梗塞、心筋梗塞などにも効果があるという説もあります。その他、健康に良いという自転車の話は別のテーマでインタビューができるほどいっぱいあります(笑)。ですから、もうそろそろそこに気付いて、踏み出した方がいいのではと思います。自転車に変えるだけで、健康に良いのはもちろん、エネルギーもずいぶん削減できると思います。

自転車エバンジェリストとして


――効能に気づき、踏み出すために疋田さんはどんなことを。


疋田智氏: 「医療費削減だ、健康だ、エコだ」と大上段に構えて言うだけでは、やはり伝わりません。やはり「自転車って気持ちいいよ、楽しいよ、便利だよ」というのを伝えることによって、「エコ」も「健康」もあとでついて来るということがあると思います。ですから、それを伝える自転車エバンジェリストとしてこれからも活動していきたいですね。ただ、自転車の数が増えるだけでは足りないんです。自転車ムーブメントが広がっていくためにはそのためのインフラ、法整備、ルール・マナーの周知徹底がますます重要になってきます。

そのはじめの一歩が「自転車は左側通行を」と、もうこの一点突破です(笑)。右側通行だと、正面衝突を起こすだけではなくて、出合い頭の事故の元になります。出合い頭事故は、全自転車死亡事故の半分以上を占めているんです。おおまかに言って年間に300人程度が右側通行が主因で死んでいると推測されます。自転車の右側通行はかくも怖いのです。自転車が左右デタラメに走って、逆走や歩道走行をしていたら、必ず事故が起きます。自転車が左右デタラメに走ってる国なんて、少なくとも先進国の中ではどこにもありません。楽しさの前提として、「事故のない、少ない社会」というのがありますが、そこを伝えていくことが、今からの私の役目の一つだなと思います。

――自転車を理解した町づくり、道路整備はまだまだ不十分ですね。


疋田智氏: 歩道の中に相互通行の自転車道が作られていたり、車道にあってもぶつ切りになってたり、自転車が右側通行になってしまう場所があります。いずれもよろしくない。そこで新たな試みを始めているのが、福岡県です。福岡は、それまで長い間、自転車で1番走りにくい町の一つだったんです。ところが最近、話が変わってきています。自転車専用レーンを、車道の左端に一方通行で作っているんです。それから、バス停をアイランド形式にして自転車が通れる道を作ったりしています。

すごいのはグレーチング=側溝の蓋です。通常の自治体は、ほとんどの場合、溝を縦にしていますが、それだとロードバイクのタイヤは落ちてハマってしまいます。福岡はきちんと考えられていて、横にしているんです。こういう例を見ていると、乗る側の私たちの啓蒙活動も大切ですが、そのインフラを整備する自治体に働きかけるということも同じく重要になっていますね。

(聞き手:沖中幸太郎)

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