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世界中の本好きのために

佐藤良孝

Profile

1956年東京都生まれ。1981年創形美術学校造形科卒業、1982年同研究科造形課程修了。同校教職員を経て1990年イラストレーションとシステム開発の制作会社「彩考」を創業。 2000年~2005年足利工科デザイン専門学校非常勤講師。 医学専門書籍等のメディカルイラストレーションを中心に、博物館用マルチメディアシステムの開発、3DCG、公共施設での展示画像、画像データベースのシステム開発など幅広い制作活動の実績をもつ。 著書に『体表から構造がわかる人体資料集』『骨と筋肉がわかる人体ポーズ集』(廣済堂出版)などがある。

Book Information

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世の中に無かった本をつくる


――『骨と筋肉がわかる人体ポーズ集』が出されることになったのは。


佐藤良孝氏: 最初の本『骨と筋肉がわかる人体ポーズ集』は出版社側の発想で、私に依頼があり、一緒に作りました。美術解剖にはずっと興味を持っていました。メディカル・イラストレーションという分野では、当然、筋肉や骨、体表に焦点をあてて描くことが多くあります。美術解剖学として、筋肉や骨の本は過去色々出ていますし、描き方の本のようなものもでていましたが、そのものの動きについて注目した本はなかったので、それを描こうということになりました。できあがった本は評判になって、翻訳版も出ました。

それで、次はこちら側からの発想として、体表解剖をテーマとした2冊目の『体表から構造がわかる人体資料集』を出版しました。体表解剖学について書かれた良書は、古い本には何冊かあります。しかし、最近はまとまった本がありませんし、美術解剖学の世界から見ても、体表解剖という切り口でまとめられた本がなかったので、自分で書いたのです。ドクターの方などからも読まれているようで、「絵を論文の引用に使いたい」との依頼のメールを頂きました。

――アナログとデジタルの技法、それに想いが重なって出来上がっていくのですね。


佐藤良孝氏: 書籍の電子化は、否応なしにどんどん進んでいくと思います。今のところ私は試しに使ってみる程度です。将来の風景はどうなるかまだ誰もその明確な答えを持っていないのではないでしょうか。電子書籍がもっと浸透してきた時に、どういう形が1番いいのか議論されるようになるのかなと思います。私たちが1番気をつけなくてはならないのは、著作権とか、作り手がものを作れる環境を維持するということ。いい作り手がいなくなると良いものはできなくなりますから、作り手が安心して仕事ができるような状況になってほしいと思います。

イラストレーションの世界においては、「メディカルの分野はまだいいよね」と言われます。一般のイラストレーターやカメラマンはもっと酷いと聞きます(笑)。作り手が生活できなくなってきている状況も多いですし、これをそのままにしておくのは良くないと思います。結局、良いものはできなくて、良いものが何であるのかも分からなくなるようなことになるのではないかと思っています。

イラストに限っていえば、解像度やプロセスなど、技術的にはある程度円熟してきていると思います。アナログとデジタルの両方をやってきた私から見ると、デジタル技術は1つの大きな方法ですがそれだけではないと思います。アナログでもデジタルでも、要するに1番ふさわしい方法でモノを作るという感覚ですね。

知的好奇心が開いてくれた本の世界


――読み手としてはいかがですか。


佐藤良孝氏: 実は、中学に入るまで本をあまり読みませんでしたし、漢字も嫌いでした(笑)。それが、中学に入って知的好奇心が芽生えたのか、急に本を読みたくなったのです。少しずつですが読むようになって、高校に入ると友達はたまたま文学少年や少女が多く、彼らと話をする中で「知らないとカッコ悪い」という気持ちと、知的好奇心とで、とにかくあらゆる本を乱読しました。

最初は面白い本を読もうと思って、北杜夫や筒井康隆、星新一の本などを読んでいましたね。北杜夫の本は本当におかしくて、ケラケラ笑って読んでいました。作中にでてきた旧制高校に憧れて、西田幾多郎の『善の研究』や阿部次郎の『三太郎の日記』などといった旧制高校生の必読書や三木清の『人生論ノート』などを、哲学っぽくて難しいながらも読みだすわけです(笑)。まだ若く、青年期特有の背伸びをしているような時代で、普通のことと思っていましたけど、そうではない人も多いようです。

とりあえず、分かっても分からなくても難しい本や小説を読んだりして。読んでいて分からないことがあると、また次の本を読んでみるというように、色々な本を読みましたね。
小説や哲学関係以外では、日本人論をよく読んでいたと思います。樋口清之さんの『梅干と日本刀』、山本七平さんの『日本人とユダヤ人』、『「空気」の研究』。あるいはそこから、人類学や生物学にも少し興味を持ちました。SFに凝った時もありますし、学生の時には、メルロ=ポンティやサルトルの読解をやりました。一生懸命読んでいて、面白かったです。授業なので先生がいますから、質問されていいかげんなことを言うと突っ込まれるので、ちゃんと読みこんでいくわけです。そういうやりとりをした時間が、非常にいい経験になっているのかなと思います。

――色々な経験が、仕事にも活かされていくのですね。


佐藤良孝氏: 私は絵を描く人間なので、「空間とはなんなのだ」という漠然とした思いがありましたが、オットー・フリードリッヒ・ボルノウの『人間と空間』という本を読んで、「空間についてこんなに考えている人がいるのか」と非常にショックを受けて、その本は特に印象に残っています。それに、三木成夫の『胎児の世界』という本は、今でもたまに読み返すことがあります。これは今の仕事にもつながるような内容ですね。

――こちらにある『法隆寺とパルテノン』は。


佐藤良孝氏: この本は、田中英道さんが書かれたもので、鎌倉時代、奈良、京都の美術品や彫刻を、西洋美術との対比の中で評価した本です。私は洋画の教育を受けたので、日本美術はあまりよく分かっていません。日本画の技法も知らないですし、水墨画などを自分で描いたり研究したこともないです。また、日本美術と西洋美術、それぞれに研究者がいてはっきり分かれていて、関連性を語られるものは少ないのです。特に日本美術の解説は、具体性がなくて読んでもよく分からず不満を持っていました。我々は世界でも一級のものという評価をされている日本美術を継承する立場にいるわけです。この本に出会って、日本美術を再評価でき「こういう見方があるのか」と非常に印象に残っています。

――佐藤さんにとって、「本」はどういう存在ですか。


佐藤良孝氏: 仕事に関わっているものであり、自分を育ててくれた先生のようなものだという気がします。それに、自分でも本作りを経験してみて、本当に命を削るように作るわけですから、どんな本でも簡単にできている本はないと思います。私の本は割と若い人にも読んで頂いています。

メディカル・イラストレーションの今後



佐藤良孝氏: メディカル・イラストをきちんと組織化したいということで、川崎医療福祉大学の佐久間先生が日本で唯一、メディカル・イラストレーションコースを教えています。そこで、メディカル・イラストレーションの分野や、教育システムを組織化して、プロとして活躍できる環境を作るための活動がスタートするので、私も何かできることをやっていきたいと考えています。

今年の7月に芸大で美術解剖学会というのがありました。メディカル・イラストレーションも1つのテーマになって、私も講演しました。私のようなイラストレーターや、佐久間先生などといったその分野に携わる先生たちが講演をしました。講演のお話しは年に1回くらいで、不得手ですし(笑)、拙い短い講演でしたが、若いメディカル・イラストレーションをやっている人などが一生懸命質問してくれました。その中の1人は、「この前の講演をもう1度詳しく聴きたい」と家まで訪ねて来たので(笑)、20分くらいの講演を、その1人のために1時間以上かけてもう1度丁寧に説明しました。非常に熱心な方で、感激して帰っていきました。

――明るい展望を持てそうですね。


佐藤良孝氏: 私はたまたまこういう分野で、色々と試行錯誤してやってきました。ですが、あと2年ほどで還暦になりますので、いつまで第一線で仕事ができるかは分かりません。今うちにいる3人のスタッフにも、さらに成長してもらいたいと思いますし、自分の技術や経験してきたものを次の世代に伝えたいという気持ちは強いです。結局、技術や経験を持っていても、いずれは死んでしまうわけです。すると、何もしなければ自分のやってきたことはゼロになります。そうではなくて、次の世代にその技術を伝えていきたいということです。作品自体はデジタルとして生き残りますがいずれ時代の淘汰を受けます。自分の技術なり経験を、若い人たちが担ってくれたらいいなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 佐藤良孝

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