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佐藤良孝

Profile

1956年東京都生まれ。1981年創形美術学校造形科卒業、1982年同研究科造形課程修了。同校教職員を経て1990年イラストレーションとシステム開発の制作会社「彩考」を創業。 2000年~2005年足利工科デザイン専門学校非常勤講師。 医学専門書籍等のメディカルイラストレーションを中心に、博物館用マルチメディアシステムの開発、3DCG、公共施設での展示画像、画像データベースのシステム開発など幅広い制作活動の実績をもつ。 著書に『体表から構造がわかる人体資料集』『骨と筋肉がわかる人体ポーズ集』(廣済堂出版)などがある。

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デジタル時代の美術論



グラフィックデザイン制作とシステム開発の制作会社「彩考」の代表を務める佐藤良孝さん。メディカル・イラストレーション分野の制作に力を入れられており、デザインフェスタへの出展、美術解剖学会での講演などもおこなっています。美術とデジタルの関係とは。佐藤さんの想いを伺ってきました。

アナログとデジタルのはざまで


――佐藤さんが代表を務める「彩考」について伺います。


佐藤良孝氏: 創業したのは1990年。当時はまだバブルがはじける前で、世の中の景気も良く、起業に対しても楽観的に考えていました。結婚し、子供もできたので務めていた学校を辞めて、「なんとかしなければいけない」と、思って始めたのです。「自分にできることはなんでもやろう」と、美術を専門にやっていたので、イラストレーションと、システム開発の二足の草鞋をはいていました。最初は医学関係に限定していませんでしたが、もともと人体とか絵を描く時でも非常に興味があって、人体デッサンも好きでした。医学関係のイラストを並行してやっていて、徐々にその専門になってきたという感じです。

グラフィックデザインとシステム開発は、どちらも取り組んで25年になります。パソコンが出てきた当時は、そういう仕事も少なかったですし、個人で開発を請け負う人が結構いました。今は企業が開発部を作って、様々な分野で特化してやっているので、技術もどんどん進歩してきています。私はというと、動いているプログラムをメンテナンスするくらいで、現在は紹介の依頼しかやっていません。大変なのでね(笑)。当時はスタンドアローンで……パソコン1台でやるとか、せいぜい社内のLANくらい。まだインターネットがない時代でしたね。

――グラフィックデザインもコンピューター化されました。


佐藤良孝氏: たまたまプログラミングもやっていたので、「いずれはグラフィックの分野もコンピューター化されるだろう」と感じていました。当時のNECの9801というパソコンにグラフィックボードを入れるとフルカラーの絵が描けるようになったのです。100万円近くしましたが、それで無理やりイラストレーションを描いていました。3Dグラフィックスも当時はできたのですがビジュアルなインターフェースなどなく、遅くて遅くて(笑)。
どういう形をどこに置くかプログラムを書いて、それを実行して、朝起きてみると半分くらいしかできなかったことも。失敗したらもう1回やり直し。商売というよりは、新しいことに挑戦していたという感じです。

――全てが試行錯誤の時代だったのですね。


佐藤良孝氏: 当時は、パソコンで描いた絵も、デジタルのまま送ることはできませんでしたから、結局、デジタルの絵を紙に出力して入稿していました(笑)。渋谷の出力センターなどに行って料金を支払ってプリントして、それを出版社や雑誌社に持って行っていました。それでも、当時は面白かったのですが、私は今、逆に手書きの方に戻っています。『骨と筋肉がわかる人体ポーズ集』も8割くらい筋肉の動きは鉛筆でデッサンしました。2冊目の『体表から構造がわかる人体資料集』もほとんど手で描いています。

――佐藤さんの、デジタルとアナログを使ったイラストの技法が気になります。


佐藤良孝氏: 私の場合は、アナログで描いたものをデジタル化して、それをアナログに戻すなど、色々なことをやります。コンピューターが間に入ると、直接的でない部分がどうしてもあります。

もちろんタブレットで鉛筆のようなタッチも描けますが、やはり何かが違う気がします。鉛筆や色鉛筆の、あの紙に引っかかっていく感覚が、筋肉の緊張感などをより表現させるのではないかと感じるのです。
下絵の段階でも、最近は手書きを増やして、最後にコンピューターで処理をします。するとちょっと深みのあるというか、どちらかだけでは表現できないようなことが、効率よくできます。
これを積極的に考えるヒントとして、私が学生の時に学んだ古典技法の中に、テンペラと油絵の具を両方使うミックステクニック(混合技法)という技法があります。絵具の顔料はみんな同じですが、メディウムというか接着剤が違うのです。テンペラは卵を酢や水で薄めたメディウムを使い、油絵の具は乾性油、固まる油を使ってくっつけるということなのです。それぞれかなり性質が違いますが、うまく組み合わせると非常に効率よくできるという方法があるのです。ただし、両方の性質をきちんと知っておかないとグチャグチャになりますが…。このように、違う技法をうまく結び付けると新しい表現や、今までにない効率的な方法がとれるということがあります。私には、デジタルとアナログも、その混合技法のように思えるのです。

――2つの技法を融合して、さらに良い技法や作品を生みだすことができるのですね。


佐藤良孝氏: いいところもあれば欠点もあります。大事なのは特性をきちんと理解して知るということです。
私は今、美術は教えていませんが、美術学校の先生にはそういった色々な技法や知識を知っていてほしいという思いがあります。今は、どうしてもコンピューターの中だけでものごとを考えて、面倒くさいからとアナログなことをなかなかしようとしない。情報も、コンピューターの中からの情報しかなくて、図書館に行かないし、本も読まない。美術を学ぶ人たちには、もっと広く色々なものを吸収して、自分の表現に結び付けてもらいたいと思っています。

著書一覧『 佐藤良孝

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