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世界中の本好きのために

佐藤健太郎

Profile

1970年、兵庫県生まれ。 東京理科大学理学部応用化学科卒業後、東京工業大学大学院にて有機合成化学を学ぶ。 その後、製薬企業研究者からサイエンスライターに転身、東京大学大学院理学系研究科広報担当特任助教を経て再度フリーに。1998年にウェブサイト『有機化学美術館』を開設、有機化学に関連する様々な記事を執筆・公開している。 著書に『ふしぎな国道』(講談社)、『炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす』『医薬品クライシス―78兆円市場の激震』(新潮社)、『「ゼロリスク社会」の罠~「怖い」が判断を狂わせる』(光文社)など

Book Information

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より多くの人に届けるために


――独立された当初は、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。


佐藤健太郎氏: 独立した時は、“自称”サイエンスライターでしかなかったのですが、独立直後にいくつかの化学雑誌から連載の話を頂くことができました。次の本の話も出版社から来ていたので、そういう意味では恵まれたスタートだったなと思います。

――どのような思いで執筆されていますか。


佐藤健太郎氏: 大学で仕事をして、科学コミュニケーション論といったものに触れる機会も少しありました。誰にどのような形で伝えるべきかといった議論はありますが、「どうすればたくさんの人に伝わるか」という話はあまりされていないような気がします。過去のベストセラーを見ても、物理だとスティーブン・ホーキング、生物だと福岡伸一先生の本など、ほかのジャンルには色々あるけれど、化学の本のベストセラーはほとんど見当たらないんですよ。化学は人類への貢献がとても大きい分野なのに、それをきちんと伝えそこねている気がします。

どうすれば化学を面白く書けるか、伝えられるかは、本来非常に重要なこと思いますが、あまり議論されていないように思います。今の世の中、どんなに重要なことであっても、やはり全く面白くもないことに、時間を割いてくれるものではありません。だから、重要な事を伝えたいと思うほど、面白く書く工夫が必要と僕は思うのです。もちろん、真実を歪めない、本質を外さない範囲での話ですが。だから『医薬品クライシス』では、トリビア的なこと、意外なエピソードなども多く盛り込みました。また『炭素文明論』は、「化学分野以外のジャンルの人に読んでもらわなければ、化学の重要さは広がっていかないよな」ということで、歴史ネタを絡めて、自分なりに工夫したりしました。

――サイエンスライターと編集者とのつながりは、他のジャンルの著者とは、また違うのではないでしょうか。


佐藤健太郎氏: やはり編集者には文系の方が多いですから、サイエンスに詳しい理系の編集者がもう少しいてもいいかなとは思います。でも、僕にとって新しい視点や切り口を示してもらえるという意味では、共同作業の相手としては違うジャンルの人の方がいいのかなとも思うのです。編集者は本を作るプロとしての「感覚」がありますので、タイトルの付け方などもずいぶん議論します。『医薬品クライシス』で賞をとることができたのは、タイトルの力も大きかったと思っています。今回の『ふしぎな国道』も、シンプルながらインパクトのある表紙が、ずいぶん物を言っているように思います。

――互いの強みを合わせて、本に仕上げていくんですね。


佐藤健太郎氏: そうですね。会社にいたら、そういう喜びは味わえなかったなと思います。
僕にとって編集者は、パートナーというか、話をしているうちに思わぬ方向に思考が広がって触発されますから、化学の言葉で言うと「触媒」なのかなと思います。自分自身は表に出ないけれど、彼らは経験と知識を持っていて、反応を起こしてくれる存在です。

紙の本の感覚や思わぬ出会いを、電子書籍で再現できれば


――本の電子化をご自身でされたこともあるそうですね。


佐藤健太郎氏: スキャナを買ってきてやってみましたが、なかなかきちんとできあがらないし、結局、あまりやらなくなってしまいました。でも、電子書籍はずいぶん買っています。資料などを読むケースが多いので「グルタミン酸について書いてあったのは何ページだっけ」という時にパッと検索ができたりするし、あと、なかなか手に入らないような本が一瞬で手に入るのもありがたいですね。

この間、高校の時に読んでいた、半村良の『太陽の世界』をKindleで見つけたので買いました。2000年前に沈んだムー大陸の歴史を全80巻で書くというプロジェクトなのですが、18巻で中断してしまい、紙の本としては絶版になってしまいました。今読むと、「こういうところを工夫しているんだな」など書き手としての視点で見ることもできて、覚えている印象とまた違うものを感じました。

研究者はかなり電子書籍に馴染んでいて、論文などの資料は、ほとんどiPadに入れて読んでいると思います。ひと昔前は毎週毎週、分厚いジャーナルが届いていたのですが、保管するスペースもないので、今はPDFをダウンロードして読むという形が定着しています。

――理系の世界では、すでに電子書籍が定着しているんですね。


佐藤健太郎氏: ええ。そういう意味では、専門書もすぐ電子書籍になっていくのかなと思います。アメリカの教科書などはかなり分厚いので、専門課程の教科書は持ち歩けません。今は動画も観られるなど色々なメリットもあるので、教科書は全部、電子書籍に移行しつつあるそうです。だから日本も、いずれそういう形になってくるだろうなと思います。そういう意味では、電子書籍はマンガと専門書の両方の側から少しずつ広がってくるのかなというイメージがあります。

でも、紙の論文にもいいところはあって、パラパラとめくると、目的でないページで有用な情報を得たり、思わぬ発見があったりするのです。やっぱり偶然の出会いというのは、紙の方が多いです。だからパラパラっと眺める感覚や、書店での本との出会いの可能性といったものを、電子書籍でも何とか再現することはできないのかな、と思います。形は変わっていっても、紙も電子も両方あっていいんじゃないかと思います。

――本はどのように購入されますか。


佐藤健太郎氏: Amazonで買うケースも多いですが、本屋で買える本はなるべく近所で買うようにしています。本屋の方が思わぬ発見もあるし、空間としても好きなのです。本屋に行くと、全く知らないジャンルの雑誌を立ち読みすることがよくあります。「こんなに深く広いジャンルがあるのか」「こんな用語があるのか」と、すごく面白いですね。『美しいキモノ』とかボディビルの雑誌とか、「こういう世界があるのか」と驚きます。でも近頃は廃刊になる雑誌が多くて残念です。『NIKITA』とか『小悪魔ageha』なんてすごく面白かったのですが(笑)。

化学への誤解を解く


――化学の本にはベストセラーはないとおっしゃっていましたが、それにはどういった理由があると思われますか。


佐藤健太郎氏: 化学というのは誤解が多いジャンルで、残念ながら嫌われることも多いです。一方で、日本はすごく化学が強く、ノーベル賞もたくさん出ています。日本化学会は4万人ほどの会員がいて、日本最大級の学会です。それだけ化学の層は厚く、研究や技術も進んでいて色々な恩恵をもたらしているにも関わらず、その魅力は理解されていないように思います。化学そのものに興味があるからではなく、消去法で化学科にくる学生も少なくないと聞きます。ただ、それでも化学は就職も悪くないし、産業にも直結しますから、特に宣伝しなくても人や金が集まってしまう面があります。

――人も集まってしまうから、宣伝する必要がないのですね。


佐藤健太郎氏: 天文学などのように、「こんなロマンがあって、こういう神秘に迫っていくものだ」などという宣伝をしないと研究ができないわけでもないですから。反面、それがために化学という学問の中身をきちんと伝える努力がなされず、誤解がはびこってしまったり、今一つ人気がない原因になっているように思うのです。そんなわけで、微力ながら化学の面白さ、重要性を伝える事をどんどんやっていかねばと思っています。

――10月には、『ふしぎな国道』も出ましたが、今後どんな事にチャレンジしたいと思われますか。


佐藤健太郎氏: サイエンス関連の依頼で講談社の編集者が来られたのですが、自分の趣味の話をしているうちに、今度は国道の本ということになりました(笑)。

新たなチャレンジとしては、本になりにくい情報を電子書籍の形にできないか、と思っています。雑誌に連載した原稿や、単行本になりづらいと言われた企画などでも、「ちょっと、このことを調べたい」という人にとっては、情報源となり得ると思うのです。いわゆるマイクロコンテンツは電子書籍の方が相性がいいと思いますし、通常の書籍の執筆だけでなく、新しいメディアへの挑戦をしていきたいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 佐藤健太郎

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