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世界中の本好きのために

福澤英弘

Profile

1963年生まれ。上智大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院経営管理研究科修了、ストックホルム商科大学国際経営プログラム修了。(株)富士銀行、(株)コーポレイト ディレクションを経て、(株)グロービスの設立に参加。創業時より企業研修部門の責任者を務める。2007年、戦略実行のための人材・組織能力開発を支援する(株)アダットを設立。 著書に『図解で学ぶビジネス理論 戦略編』(日本能率協会マネジメントセンター)、『不確実性分析 実践講座』(共著。ファーストプレス)、『人材開発マネジメントブック 学習が企業を強くする』(日本経済新聞出版社)、『定量分析 実践講座』(ファーストプレス)など。

Book Information

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自分でやってみなければわからない


――こちらのオフィスは、本棚も少なく、かなりすっきりとされていますね


福澤英弘氏: 本は三か所に分けて置いてます。ここはほんの一部です。私は多くの本を買うので、買った本のことを忘れて同じ本を買ってしまうことも何度かありました。ですから今は、買った本は全部表紙をスマホで撮影し、それをEvernoteで記録するようにしています。始めたのが2011年の11月ぐらいからで、今、330冊ぐらいです。全部、読んでいるかどうかは別としても、年に100冊くらい書籍を買っていることになります。
実は自炊の業者が出始めた5年ぐらい前に、1回だけ自炊をやったことがあるのです。本の置き場には苦労していたので、電子化してサーバーに置いておくのが合理的だし便利だなと思ったのです。でもやっぱりサーバーではなくて、物理的な本に囲まれると、何か幸せになりますね。手触りや形といったモノとしての本が大好きなんです。だから本は増える一方です。雑誌の特集など「コンテンツとしては欲しい」というものは電子書籍が便利です。紙と電子書籍のどちらかというのではなくて、うまく使い分けができるようになったらいいなと思います。

――こちらは、能の本ですか?


福澤英弘氏: 私は昔から、白洲正子の書くものが好きだったのです。彼女は子どもの時から能をやっていて、とても造詣が深く、能の本もたくさん書いています。白洲正子の本はほとんど読んでいて、「白洲正子がのめり込んだ、能ってどんなものなのかな」と思って、15年前ぐらい前から能を観るようになりました。アダットを作った時に、神楽坂にオフィスを構えたのですが、たまたま矢来能楽堂が近くにあったので、せっかくだからと、2007年ぐらいから謡(うたい)を習い始めました。謡というのは声を出してうたうことで、仕舞というのはいわば踊り。それらを統合すると能になります。今年から仕舞も習うようになり、まだまだチャレンジを続けているところです。やっぱり成長したい。だから私は、能だけでなく、ビジネスでもチャレンジを続けていきます。自分が学習することによって、昨日と違う自分に変わっていくのが楽しいのです。だから、お客さんにも「学習しましょう」と同じ気持ちで言えるのかもしれません。

――能を見るだけではなく、実際に習っているのですね。


福澤英弘氏: 私は美術も好きですが、絵も自分でお金を出して買わないと身につかないように感じます。お金を出すからこそ「この絵を買うことが、自分にとっていいものかどうか」と徹底的に考えるじゃないですか。結果的に「失敗だったな」と思うことがあったとしても、そのプロセスがないと、本質はわからない。身銭を切ることで初めてわかることは多い。能で言うなら、自分でするようになると、上手い人のすごさもわかるようになりますよね。白洲正子のエッセイを読んで「なんとなく面白そうだな」と思っても、やっぱり観ないとわからない。実際に観に行くようになると、どんどん能の面白さがわかってきて、それで「自分でやれば、もっとわかるんじゃないか」と思ったんです。実際、仕舞を習い始めてまだ間はありませんが、観ることがこれまで以上に楽しめるようになりました。オペラにしろバレエにしろ、舞台芸術は一般のオーディエンスが自分で体験できるものは、ほとんどないですよね。もちろんクラシックでバイオリンなどを習っている大人もいますが、まだまだ特別な人ですよね。能は唯一、部分的にとはいえ、オーディエンスが実際にできるものなのです。一般の人が謡や仕舞を習うのを、日本では昔から普通にやっているわけで、それによっても能楽師の生活は支えられているんです。能楽界は、文楽や歌舞伎と違って国や企業からの援助はほとんどなしでも成り立っているんですよ。やっぱり能はすごいシステムだなと思います。日本の文化は、身体でやって初めて自分のものになるというもの。能もそうだし、私の中ではやっぱりビジネスも同じ。人から聞くだけではなくて、自分で現場を見るということもすごく大事だと思うのです。

――自分で体験して、見る目を養っていくことが大事なのですね。


福澤英弘氏: そうだと思います。本に関しても、値段を決めるのは読者なのです。見る目のない人は、どんなに素晴らしい作品を読んでも面白くないし眠くなる。でも、そこから何か学習しようといった意識が強くなれば、本の価値も大きくなる。だから値段の高い、安いというのは絶対的なものではなくて、読者の能力によるのです。研修も同じで、同じ研修を受けても「前から知っていることを聞いたから、もういい」という人もいれば、「目からウロコです」という人もいます。それは受け手の学習能力の違いなのです。「こんなのは、もうやったよ」と言う人は、実は本質を全然理解していないから、そこで学習は止まってしまい、成長しないのです。「今まで知りませんでした」という人は、そこでグンと成長することができます。「わかっていなかったということを知る」というのは、すごいことなんです。もちろんコンテンツの良さにもよりますが、それ以上に、受け手がどういうスタンスで挑むかというのが、大きな違いを生みます。本も、どういうスタンスで本を読んでいるかで違ってきます。前者ならば、30円も払いたくないと思うでしょうし、後者ならば、10,000円を払ってでも読むでしょう。ただ、時間は限定されているので、本の選択ももちろん大事です。本当の読者は、外からの知識と自分の経験をインタラクションしますが、本はその材料となります。だから、有益なインタラクションがどれだけできるか、という視点での本の選択という部分も重要になってきます。

――能動的に読書をしないともったいないですね。


福澤英弘氏: そうですね。本は動画やテレビと違って、自分で読まないと進まない。だからこそ、どれだけ問題意識をもって本を読むかということと、そこから学ぼうという謙虚な気持ちを持つことが大事です。出版社は、読者に対してそういう教育をするべきだと私は思います。それをやらないで、“バカでも分かる”というような本を数多く出すから、ますます本が売れなくなるのです。難しいことをわかりやすくという話と、単なるやさしいというのは別の話ですし、そこもきちんと区別しないといけないと思います。学ぶことは最高のエンタテイメントなんです。

新しい切り口を打ち出して、サポートを続ける


――今後の展望をお聞かせください。


福澤英弘氏: MBAシリーズも定量分析も、『人材開発マネジメントブック』も、今までになかった切り口でした。私がターゲットにしているのは経営者、そしてその予備軍です。人事の専門家である必要は全くないけれど、「どうすれば会社が良くなるか」を常に本気で考えている人。そういう人たちに、組織の能力や個人の能力といった切り口で、何らかのサポートをしたいのです。趣味でも仕事においても、既存のものではない方向性の新しい切り口、パースペクティブを常に打ち出していきたいですね。でも私はそういった部分で「第一人者になろう」とか、「独占しよう」という気は全くありません。後からそれを真似する人がいれば、それはそれでいいじゃない、という感じですね(笑)。私にとっては、そのためのプラットフォームを開けたということが、一番の喜びなのかもしれません。

アダットという社名の由来は、インドネシアの原住民の言葉なのです。私もある本で知ったのですが、「寛容に色々なものを取り入れていく」という意味です。私はそのための場を作って、色々な人のノウハウや知識を上手く使って、色々な人が活躍できたらいいなと思っています。拒絶や独占、排他的には絶対になりたくない。常にその正反対に居たいですね。

――チャレンジをして新しいことをやっていく、その連続のように感じます。


福澤英弘氏: それが使命なのかなとも思っています。でも私の場合は、最初からキャリアビジョンなどがあったわけではなく、その時の判断でやってきました。ただ、自分の判断軸に「これ」というものがきっとあったから、振り返れば結果的に一本の筋は通っているように見えるのかもしれません。計画を立てていくようなやり方では、なかなか上手くいかないと思うのです。判断軸を何に持つかということが大事で、私の場合は、既存のものを守るよりは新しいものを作っていくこと。楽な方よりは、チャレンジングな方がきっと楽しいに違いない、というのが判断軸となっているのだと思います。そういった部分では、ブレていないのかもしれません(笑)。

――大事なのは、計画したレールを走ることではなくて、成功に繋がる軸を持つことなんですね。


福澤英弘氏: そうですね。あと、意思決定に関して、合理性と感情と倫理感という3つの軸の話を本にも書きましたが、真善美の3つをどう融合して、意思決定に自分で繋げていくかというところを常に意識しています。研修などでも話すのが、損得の話。会計上の利益は数字で出てきますが、損得というものは、なかなか数字で割り切れない部分があるのです。損得は何と比較するか、どの期間で評価するかという、この2つにかかってきます。例えば「あなたの奥さんは美人ですか?」と聞かれても、女優と比較するのか、自分の母親と比較するのかで、答えが違ってくるわけです。また、長い目で見れば、有名企業に就職できたことが成功だったのか落ちたことが成功だったのか、分かりませんよね。有名企業に入っても幸福そうでない人はいっぱいいますよ。意思決定の際、どんな時間軸でと決めるのはなかなか難しいかもしれませんが、今年どうなるかとか、少なくともここ5年ではどうなるかとか、あるいは30年ではどうなのかというように、あえていくつかの可能性を考えていきます。その期間は案件によって全然違うので、その判断が自分でできるようにならないといけません。この二つの視点は、それぞれの価値観にもよりますし、正解が全くないからまさにアートの世界。でも、「どんな比較対象と期間で評価するのか」という意識を持つことは大事です。それを理解した上で、やっぱり金銭的なこと、目の前の利益や儲けが大事だと思うのであれば、それはそれでいいのです。でもそういったことを考えもしないで、周りに流され右往左往しているのが、多くの人の現状なのではと私は思うのです。そういった部分も伝えていきたいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

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