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世界中の本好きのために

後田亨

Profile

1959年長崎県生まれ。長崎大学経済学部卒。 95年アパレルメーカーから、日本生命へ転職。営業職として在籍した後、2005年より複数の保険会社の保険を扱う(株)メディカル保険サービスへ。2012年より「保険相談室」代表として、執筆・講演・セミナー講師と保険相談を主な業務内容として、売手の都合から離れた情報発信を継続中。 著書『生命保険の「罠」』(講談社)はベストセラーとなった。近著に『保険外交員も実は知らない生保の話』『保険会社が知られたくない生保の話』(日本経済新聞出版社)、『生命保険の嘘: 「安心料」はまやかしだ』(共著。小学館)など。

Book Information

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偶然入ったお店での出会い


――本を出すことは、どのようにして決まったのでしょうか。


後田亨氏: 2002年頃でしょうか、真冬の営業で三軒茶屋をウロウロしていた時、休憩を取るため、外は寒いし、「暖房が効いているところに入りたいな」と、たまたま通りかかったSEPTISというお店に入りました。そこには、ビートルズのレコードジャケットやポール・マッカートニーのベース、ジョン・レノンの靴などが置いてあり、ビートルズのファンだった私は、そのお店の人と意気投合して、メールのやり取りをするようになったんです。ビートルズのアイドルだったエヴァリー・ブラザーズというグループについてメールを書いたら、「そこまで話せる人は、初めて」と言われて、飲みに行くようにもなりました。お酒の場で、飲むたびに私が言っていたのが、「保険の営業をやっているけど、実は一番やりたいのは、保険についての本を書くことなんだ」ということ。

もう40歳を過ぎていたので、最初は、「何を言ってるんだ」とバカにしていたそうなのですが、飲みにいくたびに言うから、しょうがないなと(笑)出版関係の知り合いを紹介してくれたんです。その人は『POPEYE』などでお仕事をなさっていたことがあったそうで、複数の会社を紹介してもらいました。しかし企画は通らず、「ダメもとだから、一番デカいところに行こう」と言われて、講談社に行くことになるんです。その頃、姉歯建築士の偽装問題がニュースになっていたこともあり、「生活関連で疑問が多いことにスポットを当てる企画はどうかな?」ということで、私の企画も2005年に通ったのです。

――紆余曲折を経て、ようやく出版への道が見えてきました。


後田亨氏: でも、2006年に書いた1冊分の原稿は「著者の顔が見えない」などと言われて、全部ボツでした。そして2007年の7月頃には、だんだん後がなくなってきて、一般論より体験談を中心にして書いたらやっと良い反応が帰ってきて、11月に『生命保険の「罠」』が出ました。一昨年、文庫化された時、まえがきに書いたのですが、「あの時だけの怒り」のようなものが詰まっていて、良くも悪くも感情的なので、印象には残る文章でしょうね。

――08年からは、朝日新聞のデジタルサイトに連載をもつことになりました。


後田亨氏: 連載では週に1回、多くの人の目に触れる原稿を書かないといけないというのが、すごい実戦トレーニングになりましたね。去年、実現した日経新聞電子版の連載記事の書籍化では、章立てや目次を考える面白さも味わえました。

連載に限らず、原稿は論理的でないといけないし、データの裏付けなども欠かせないですけど、書籍の場合などは、あえて好き嫌いや感情を入れるのもありかなと思っています。たとえば保険の見直しなど、読者に行動してもらうには、理屈だけではなく感情に訴える部分も必要な気がするんですよね。

――最近読んだ本で、「感情に訴えかけられた」と感じた本はありますか?


後田亨氏:木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』ですね。“プロレス憎し”で書いているのが、ひしひしと伝わってくる。あんなインチキなビジネスに柔道が愚弄されたという、ただならぬ怒りがどんどん伝わってくるんですよ。毒々しいぐらい、感情が強いんですよね。変な言い方だけど、商業ベースに乗らなくても書きたいものを書いている人の文章の方が心に届くんじゃないでしょうか。「そう思いたい」という願望も入っているかもしれませんけどね(笑)。

将来への不安からではなく、相応しいから使うということ


――執筆を通して、伝えたいこととは?


後田亨氏: 保険に関して言えば、自分自身、もっと早く知りたかったということがたくさんあるので、それを伝えたいです。繰り返さないと伝わらないこともたくさんあって、繰り返しに自分が飽きたらマズいので、切り口を変える工夫もしているつもりです。
また、私を先生と呼ぶ人がいますが、「どこが先生?」と強烈に思う自分もいるんですね。謙遜ではなく、本当に知らないことばかりなので。本を出していたら、すぐ先生だとか、専門家だとか言われますけど、専門にしていても知らないことは多いし、間違うことも多いです。そういう実態も伝えたいなと思います。それから、「何かに気付くのは楽しい!」ということですね。

――6月に『保険外交員も実は知らない生保の話』を出されていますが、どういった思いから作られた本なのでしょうか?


後田亨氏: 「将来に対する漠然とした不安」を前提に保険が語られることについて「将来は不透明なのだから不安はあって当たり前じゃないか?不安だ、不安だ、って、贅沢だな」と、ずっと思っていたんです。今日明日生きるのに、困っていたら、そんなことは言えないじゃないですか。そもそも、保険をよく知っている保険会社の人は、不安を解消するために保険に入っているわけではありません。「必要だから、そして安かったから保険に入っている」と言うんです。要は、保険の利用が、自分が備えたいことに相応しいから入っているということ。その“相応しさ”というキーワードが出てきた時に、これを軸に置くことによって、既刊と差別化できると思ったんです。

皆が皆、「不安だから保険(で何とかしたい)」と、同じ方向を向いているような状態は、ほとんど生理的にと思えるくらい気持ち悪くて(笑)、だから「違うだろう!?」と伝えるためのキーワードを見つけた時、「これだ!」と分かった気がする時って楽しいんですよね。

――例えば、どういったことに気付いて、楽しさを感じるのでしょうか?


後田亨氏: 例えばプロレスにしても、別にいつもプロレスのことを考えているわけではないんですけど(笑)、何年も観ていると、レスラーの芸風が変わる瞬間が分かたりするんです。「この人アスリートとしてのピークが過ぎたけれど、守勢から攻勢に転じる時の盛り上げ方などが上手くなって、お客さんに一番ウケているのは40歳を過ぎた今だ」とか、自分だけが気づいた気になる瞬間があって、その瞬間が、ものすごく楽しいんです。他にも「ベテランになると、攻められているふりをして息を整えているように見えなくもない。ひょっとしたら攻め続ける方が力を使う分、疲れるんじゃないか?」と仮説を立てたうえで試合を見るとか。そんなことやっても誰もほめてくれないですけど、検索しても出てこない観戦の仕方で(笑)楽しいなぁと感じるんですよね。

最近、一番“やった!”と思ったのは、40歳の男性が50歳までに死亡する確率と、がんになる確率が殆ど一緒だということに気付いたこと。10年間で大体2%。だけど、40歳の男性が10年間で、亡くなったら500万という死亡保険と、がんと診断されたら500万というがん保険の保険料を比べると、がん保険は死亡保険の2倍なんです。それに気づいた時「がん保険ってボッてるんじゃないか」っていう仮説が立てられるわけですよ。プロレスの楽しみ方に似てますよね?(笑)

――なぜ、がん保険は高いのでしょうか?


後田亨氏: 保険業界の人に聞くと、診断方法が進化することによって、見つからなかったがんが見つかるリスクがある。それを考えると、どうしても高めにとっておく必要があるという説明なんです。だから、がんの方がまだ確率論が働きにくいのです。

プロの編集者を通すことで、書籍の信頼度がアップ


――編集者の役割とはどういったことだとお考えですか?


後田亨氏: 複数の役割があると思います。新しく発見したデータに熱くなって、全体の文脈からどんどん逸脱していくことなどもあるので、それを見張っておく人だったり、あるいは伴走者のように一緒に走ってくれる人。その両方です。あと、目利きの方が多く、自分とは読書量が全然違っていたりします。ブログは誰でも発信できますが、編集者も当人です。でも、書籍はプロの編集者という高いハードルを1回越えないと世に出ないということを経験して、内容に対する信頼度が上がりましたね。
電子書籍の普及で、出版する機会が広がり、多くの人にチャンスが出る分、発信される情報の品質をしっかり見極めることが出来る編集者の需要はなくならないと思います。

――今、力を入れて取り組んでいることは?


後田亨氏: 出版がきっかけになって、マネー関連の有識者の方と接点が増えたら、「日本では金融教育が遅れている」ということをよく言われるんですね。それで「主にお金のことを勉強するセミナーを継続的に開いて行こう」と、去年から横浜サカエ塾をスタートさせました。

――新たなチャレンジは執筆においても見られるんじゃないでしょうか。


後田亨氏: 父が「プロレスのことを書け」とうるさいので(笑)、元気なうちに書きたいですね。何が言いたいかというと、「みんなが言っていることって、どこまで本当なんだろう」という風に色々なことを見ていくと、立つ位置によって敵と味方の見方が変わったりして、結構面白いということ。ネットでは白黒をつけたがる人が多いようにも感じますし、自分より弱い黒を一方的に叩くこともある。でも私は、想像が広がるから、グレーほど面白いものはないと思うのです。プロレスは勝敗が仕組んであるからこそ、「本気でやりあったらどっちが強いんだろう」とか、出ない結論を追って、いつまでもお酒が飲めるじゃないですか(笑)。そっちの方が、断然豊かだと思うんです。白と黒で決まるものごとというのは奥行きに欠けますよね。ものごとの見え方自分の年齢や体験でも違ってくるし、歪むこともある。でも、歪んで見えること自体を面白がることができれば、そっちの方が生きていきやすいというかハッピーになれる気がするのです。だから、仮に下賤なジャンルに見られているものでも、見方によっては尽きないものがあるんですよ、というものを発信してみたいですね。最近、プチ鹿島さんが『教養としてのプロレス』という良書を出されたので、もう機を逃したかもしれませんけど(笑)。

(聞き手:沖中幸太郎)

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