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石川幹人

Profile

1959年、東京生まれ。東京工業大学理学部卒業、同大学院総合理工学研究科物理情報工学専攻中途退学。松下電器産業㈱、(財)新世代コンピュータ技術開発機構研究所などを経て現職。博士(工学)。不思議現象や疑似科学を信じる認知プロセスの研究を専門とする他、日本における超心理学研究の第一人者としても知られる。 著書に『「超常現象」を本気で科学する』(新潮新書)、『人はなぜだまされるのか―進化心理学が解き明かす「心」の不思議』(講談社ブルーバックス)、『超心理学―封印された超常現象の科学』(紀伊國屋書店)、『人間とはどういう生物か―心・脳・意識のふしぎを解く』(ちくま新書)など。

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“現場に近い編集者”書き手と読み手の橋渡し役


――そういった想いを、編集者と共に本にしていくのですね。


石川幹人氏: はい。最初の本である『サイコロとExcelで体感する統計解析』は、私が講義の際に作っていた“講義ノート”が元になって出来ました。共立出版の方が、「講義ノートを本にしましょう。」と言ってくれたのです。統計学の本で、それもコンピューターを使いながら学ぶので、それほど読み物的なものにはなり得ないのですが、そのジャンルのものの中ではかなり読み物的な側面が盛り込めていたので、いい評価でした。

良い編集者の方は、想定読者を代理してくれます。また、原稿を読んで「分かりにくい」とか、「ここはもっと深くやる」とか、「ここはトピックが多すぎるのでちょっとくどい」とか、そういうことも言ってくれます。それから全体の構成の仕方も読み手のことを考えてくれて、「こういう読み手だと、ここまでは深すぎる。この辺だけで留めよう」などということも言ってくれるので、本作りは編集の人との共同作業だと、最近は特に感じています。なんといっても編集者は「読まれる現場」に精通していますので。私自身、松下幸之助ゆずりで、「現場が一番大事」に思っています。

私も学生という現場を持っているわけですが、本の場合、現場は直接教えている学生ではないのです。「講義ノートではこうだけれど、この本はこういう読者層で」というように言われると、ああそうかと思って、手を加えていきます。だから、想定する読者層によって、本のトーンはかなり違ってきますね。ある時編集者に、「この本は高校生向けです。」と言われ、「高校生はこんな本、読まないよ」と思ったのですが、「それでも読みもの好きの高校生が読める感じにして下さい」という熱意をくみ取っていくと、道が見えてくるのです。

――現場に近い編集者が、書き手と読者をつなぐのですね。


石川幹人氏: 書き手である私からすれば、編集者が現場に最も近い存在であり、橋渡しをしてくれる存在ですが、読み手側から見ても、やはり同じように、読書におけるコーディネーター的存在だと思います。今、googleなどで検索すると、情報がたくさん出てきますが、とんでもない数の中から一生懸命調べ当てる必要があり、自分で調べ尽くすことが難しくなっているわけです。そういう時に“お薦めを作ってくれる”編集者という存在は、すごく重要になってくるはずなのですが、まだまだ注目されていないように感じます。また今後、電子出版が普及してコンテンツが増えてくると、編集者の役割はますます重要になってくるでしょう。「この人の編集だから読んでみよう」となるでしょうし、そうなっていくべきだと思います。

――読み手としてはいかがですか。


石川幹人氏:Evolution(生物進化)』という本はいいですね。昔は、「小さい頃はサイエンスの本を読みましょう」ということがよく言われていましたが、それは、「宇宙は広く、いかに人間がちっぽけな存在か」ということを強調しがちなものでした。

しかしながらこの『Evolution』という本は、「人間は偉大だな」と思える本だと思います。『古事記』やユリアスなどの歴史の本より、更に古くからの長い歴史が書かれています。この本を開くと、人間という存在はこういう生物進化の歴史の集大成なんだな、と感じ取れます。そして今、我々がこうあるのも、過去の歴史を背負って、恐竜の時代に生きていたネズミのような哺乳類の祖先から、延々と生き残って歴史を刻んできたのだという、人間の歴史の偉大さを感じることができるのです。我々は、絶滅せずにここまでちゃんと生き続けた動物の末裔なのだという事実を、豊富なイラストによってこの本は直感させてくれます。

――驚きがある本、素敵ですね。


石川幹人氏: 「本流の主張とここまで違うのか」というような異端の書みたいなものも、いいですよね。それから、最近よく見かけるのは宗教、信仰、道徳、美の本質を科学的に究明する良書たちです。人間の信じる心、善なる心とか美しく感じる心などというものは、これまでは哲学的な深遠なものとされてきたのですが、進化生物学や進化心理学の知見を応用して、進化の歴史の中で我々がいかに生き残ってきたかを考えると、「そういう心を持たざるを得ないよね」という話に展開できるのです。だから、こういう路線の人間究明というのが、今のところ、将来有望かなという感じを持っています。

グレーの捉え方を知る習慣を身に付けよう


――書き手として、どんな想いを発信していきたいと思われていますか。


石川幹人氏: 「客観的にある種の妥当さを持っているのにもかかわらず、注目されていないこと」というのを発掘して発信していきたいと思っています。その繰り返しですね。

超心理学―封印された超常現象の科学』では、幽霊を取り上げたのですが、「幽霊はいるの?いないの?どっち?」と言ってしまった場合、この話はもう二者択一になってしまいます。どちらかが正しいという“真実”があるという風に皆が思っているわけです。でも、そうじゃない。

「集団的自衛権は善し悪し」という話でも、それは解釈によって変わり、文脈によって変化する。それは社会的な存在であり、“モノの世界”のように、「現実にある」といった一面では判断できない。けれども私たちは、“モノの世界”のセンスで物事を考えすぎているのです。世の中のことや社会のこと、あるいは人間や心理のことなどは、もっとずっと漠然としていて、それは状況によって、あるともいえるし無いともいえる。

「殺人は良いか悪いか」という問いには、「悪い」に決まっているけれど、戦争に行ったら実際に殺人が行われ正当化されます。どちらかのみの事実が存在している訳ではなく、両方の可能性が共存していることも多くあるわけですよね。

大学では、言論の対戦を通して白黒つけるディベートの訓練を指導してはいますが、なんでも白黒つけるというのはいただけないですね。こういう場合は白だけどこういう場合は黒、というようなグレーの捉え方を知る習慣をもっと身に付けた方がいいですね。実際のところほとんどの存在はグレーなのですが、人間は複雑な思考を避けるためにわざと白黒つけようとするのです。だから、現実はひとつだからどちらかが正しいという発想に、あまり立たない方がいいと私は考えます。そこには抑圧の危険性が伴うからです。だから、どちらの可能性もある「ぼんやりした実在」という捉え方を普及させたいなと思うのです。

(聞き手:沖中幸太郎)

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