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世界中の本好きのために

米津一成

Profile

1959年東京生まれ。「ツール・ド・おきなわ」本島一周サイクリング参加を機にロードレーサーによる長距離サイクリングに開眼。フランス発祥のロングライドイベント「ブルベ」で2006年に200km、300km、400km、600kmを走りSR(スーパーランドナー)の認定を受ける。2012年には代表を務めるWEB制作会社・有限会社青竜社を有限会社ペダルファーへと社名変更し、自転車関連活動を会社業務に加える。 著書に『追い風ライダー』(徳間書店)、『自転車で遠くへ行きたい。』『ロングライドに出かけよう』(河出書房新社)など。

Book Information

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ペダルで漕ぎ出す新たな世界



米津一成氏: 自転車が人生の軸に入ってきたのは、その頃です。オフィスが表参道の骨董通りにあったのですが、終電を逃すことも多く、自宅から安いマウンテンバイクで通うことにしたのです。少し前にカミさんが疋田智さんの書かれた『自転車通勤で行こう』を読んで、当時勤めていた新宿の会社まで自転車で通いはじめていたのですが、その影響をモロに受けたんです。

夫婦そろって自転車に再び乗り出したので、二人で久しぶりに多摩川サイクリングロードに行ったりもしました。そんな自転車体験がひとつひとつ新鮮で、二人で参加できる自転車のイベントがないかと探していたところ、30キロ程度を走る「東京シティサイクリング」を見つけました。でも、せっかく申し込んだのにその年は台風で中止になってしまったんです。それがものすごくショックで。そこで、代わりに11月に開催される「ツール・ド・おきなわ」の本島一周サイクリングに出場することにしました。距離は約300キロ強。30キロの10倍ですから、いま思うと何を考えていたんだか?と思いますが、勢いだったんでしょうね。実際に走ってから、大変な思いをしました(笑)

――30キロから300キロに……(笑)。


米津一成氏: それまでせいぜい近所を走るぐらいでしたから、本格的なロードバイクも持っていなくて……、自転車屋さんに「来月ツール・ド・おきなわの本島一周を走るのですが、お勧めのものはありますか?」と聞いたら、店員さん、呆れていましたね(笑)。そうやって二十数年振りに、ドロップハンドルに戻りました。「そうそう、こうだったよな」という感覚を思い出しました。

「自転車で行ける場所は近所」という自転車乗りの格言があります。自転車に乗り始めて、まず変わったのは、自分の距離感覚でした。『自転車で遠くへ行きたい。』でも、距離のスケール感が変わるということを書きましたが、100キロだろうと200キロだろうと自転車で行けるところは近所になってしまったんです(笑)。東京から北に300キロだと、ちょうど日本海まで辿り着けます。電車の所用時間は決まっていますが、自転車は自分のスキルや経験、あるいはコントロール次第で、何キロを何分で行くか自分で決められるんです。
そうやって距離感が変わると生活自体が変わりますし、それに伴い考え方も変化していきます。



――「ツール・ド・おきなわ」に出たことが執筆につながります。


米津一成氏: 自転車に乗ってなければ、「ツール・ド・おきなわ」に出ることも無かったでしょうし、本も書いていなかっただろうと思います。自転車は私の人生を変えるきっかけとなりました。ツール・ド・おきなわには、都合5回参加しました。前半は本島一周サイクリング、後半は市民レースを走りました。あるときカミさんが、本島一周サイクリングのことを当時のmixiに書き込んだのです。それを見た河出書房新社の編集者の方が、「今までにないテーマだ。面白いので本にしましょう」と声をかけてくれました。

新たなジャンルを発掘する 著者をサポートする存在



米津一成氏: 実はカミさんは出版プロデューサー兼編集者です。だから最初に河出書房新社の方から話があったときは、私はどちらかというと「協力する」という立ち位置だったんです。カミさんがきっと書くなり、著者を探すなりするだろうなと。ところが、「あなたが書いてね」とカミさんに言われて、書くことになってしまいました。『自転車で遠くへ行きたい。』は、おかげさまで七刷になりました。文庫化の話も出て、すぐに続編といった話になりました。

――奥様の後押しもあったんですね。


米津一成氏: 最初は無茶ぶりをされた気がして驚きましたね(笑)。私はそれまで本の世界の人間ではないので、「文章表現においてこれは守った方がいい」ということなど、ベーシックなことが全然分からない。だから身近に編集者がいなかったら精度は如実に落ちていたと思います。「本」は、そうした編集・校閲をしてくれる編集者と、著者と世の中をつなぐマネジメントができる存在がいて、はじめて作られると思います。

書き手として自分がひとつの例だと思うのですが、「小説は何年も読んでないけど、自転車の小説だから読んだよ」というメールをよくいただきます。そういう特殊な分野を持った人が小説を書くといいなということを、自分が小説を書いたことによって、非常に強く感じました。元々の作家が小説を書くのではなく、自分の得意分野を活かして非作家が小説を書くというイメージです。

例えば「弓道」は、すでにSNSなどで1万人規模のコミュニティが存在するのに、月刊誌がないんです。弓道小説が出たら、パイは大きくないかもしれないけれど、確実に万を越す読者はいると思います。そういった特定のジャンルに強くて面白いものを書ける人が、マネジメントを介して、自分に合った編集者に出会えれば、あらたな本が生まれます。既存のジャンルやカテゴリーだけでは、発展しません。本という形にして、世の中にさまざまな彩りを与えてくれる。色んな種類の本が増えるというのは、業界だけでなく豊かな社会にとって、とても大事なことだと思います。
その中で電子書籍は、業界を活性化する新たなツールとなり得ると思います。

いつもより少し遠くへこぎ出そう


――米津さんのハンドルは今、どこに向いていますか。


米津一成氏: 今まで私の人生は、大きく舵を切るというよりは、少しずつ興味のある方へ進んできたと思います。そのときは意識していなかった経験が、点と点が結ばれたように繋がっていきました。これからも「ちょっと遠く」の方向に、新たな挑戦をし続けたいと思っています。

まだ著されていない世界を書きたいと思っています。そもそもハウツーの本はたくさんあるけれど、「自転車はとにかく楽しいよ。特にロングライドは最高だよ」と伝える本が殆どないことに気付いたのが、執筆のスタートでした。乗り方の話ではなくて、もう少し手前の話をしないと乗る人は増えない。自転車の楽しさ自体を伝えたいという思いが強いのです。

「あなたの本を読んで自転車に乗り始めた」とか「あなたの本を読んでロングライドに行きたくなった」と言われるのが一番うれしいです。「小説はイマイチだったけど、なんだか自転車に乗りたくなった」でも全然構いません(笑)。良い自転車でちょっと遠出をするようになると、生活も考え方も変わる。そうすると人生観も変わる。これからもそういうきっかけを作りたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 米津一成

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