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世界中の本好きのために

榊原洋一

Profile

1951年、東京都生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部講師、東京大学医学部附属病院小児科医長などを経て、現職。医学博士。育児に関するさまざまな情報の科学的裏づけがないことに気付いたこと、発展途上国の医療の実態を見た経験などがきっかけで、現在は発達障害の臨床的研究、発達障害児の保育、子どもの生育環境とその発達への影響、国際医療協力を主な研究対象としている。国際医療協力の分野では、JICAのネパール、ベトナム、ガーナでの母子保健改善プロジェクトに関わる。 著書に『図解 よくわかる発達障害の子どもたち』『図解 よくわかる大人のADHD』(ナツメ社)、『子どもの脳の発達 臨界期・敏感期』(講談社+α新書)、『脳科学と発達障害―ここまでわかったそのメカニズム』(シリーズCura)など。

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Kindleは老人の友


――かなりご多忙だと思うのですが、今でも書店には行かれるんでしょうか?


榊原洋一氏: 時間が無いので今はほとんど行っていませんが、日曜日に1,2時間くらい大型書店などに行って、見てまわります。読書家と言えるほどでは無いと思うのですが、とにかく、読書は昔から自分にとっての娯楽だったので、かつては図書館や書店に、時間を見つけてはよく足を運びました。例えば、紀伊國屋やジュンク堂といったいわゆる大型書店に行くと、大抵落ち込んでしまう。昔から「本という本を全部読んでやろう」という知識欲のような傲慢さがあって、今はそんなことはとても無理だとわかってはいるはずなんですが、大型書店にずらりと並ぶ沢山の本を見ると、「まだ知らない、読んでいない本がこんなにあるのか」と愕然とするんです。「とても自分の一生の間に、全部読むことはできない」と、落ち込んでしまうわけです(笑)。馬鹿じゃないかと自分でも思うけど、書店に行くとそういう意気込みで、色んなことを知りたいという気持ちになりますよね。

――どのような本を読まれますか?


榊原洋一氏: アメリカに行っている時に、向こうのベストセラー作家の本を読んでみたんです。1つ気付いたのは、アメリカのベストセラー作家の書く文章は易しいということ。日本のベストセラーの感覚とは少し違って、アメリカでは、中学生くらいでも読めるような易しい文章で書いているものが多くの場合だそうです。「結構読めるんだ」ということが分かって以降は、海外の小説も読みやすいものを読むようになりました。最近ではKindleで、海外作家の本を安く手に入れられますよね。英語だと安いし、面白い。英文も易しいから、僕みたいな外国人でも読める。今はダン・ブラウンの『Inferno』を読んでいるのですが、国際的なベストセラーは、「ページターナー」と言って、読まずにいられなくなるような仕組みになっているので僕は電車の中で読むことにしているから、もう電車に乗るのが楽しみで仕方がありません。この間も、僕が学生時代に読もうと思っていて挫折したトルストイの『戦争と平和』が英訳では100円ほどだったので購入しました。結構長いので、3ヶ月ぐらいかかって読み切りました。すごく面白いです。Kindleがあるので、老人ホームに行っても楽しみがあるなと思っています(笑)。

――Kindleなどの電子書籍に抵抗はなかったですか?


榊原洋一氏: 抵抗なんかないですよ。持ち歩かなくていいし、細かい文字が見えなくても、字を大きくできるし、分からないことがあると押せばその単語が出てくるでしょう。
アメリカでの調査では、Kindleが普及してからアメリカの中年男性が本を読む率が4割上がったとか。よく紙の文化がなくなると言うけれど、結局読んでいるのは本であることに変わりは無いわけで、これは福音です。もう無しにはいられない。よくこんなものを作ったなあと思います。この中に何冊も入るわけだから、その時の気分に合った本を読めるのがいいですね。だから本当に老人の友ですよ。また、僕がKindleにしたのは、英語の本の品ぞろえが約150万冊と圧倒的だからなんです。日本はまだ数万。僕のように医者をしていると、例えば小児医学の教科書の2,000ページの本を読むこともあって、それがこの中に入ってる。こんな便利なものはないですね。

――電子書籍、広い意味で論文も含めて、電子刊行物の可能性についてはどのようにお考えでしょうか?


榊原洋一氏: 僕はいくつか外国の雑誌の編集委員をやっていますが、例えばオンラインサブミッションで出す時はみんなインターネットで出すし、最近はオンラインジャーナルがどんどん増えているので、こういった分野の本や読みものに関して言えば、いずれ紙はなくなるのではないかと思っています。
研究関係でも、それをフル活用しています。昔は膨大な資料を集めるには図書館に行かなければなりませんでしたが、今は外国の雑誌のアブストラクトも全部読めますし、大学では契約しているので、フルでたくさんのジャーナルを読めるんです。夢みたいな世界ですよ。私はアメリカに80年代の最初に3年いましたが、論文を書くとなると、半日図書館にこもって、関連の論文をあちこちから探し集めて持ってきて、コピーを取っていることもありました。今はその作業を全くしなくていいのだから、今の人は昔に比べて10倍ぐらい仕事ができなくちゃ、嘘だと思います。

――情報が手に入りやすくなった現代において、必要なこととはなんでしょうか?


榊原洋一氏: インターネットと本の違いはたくさんあります。僕は、本をいくつか出していますが、必ず校閲が入ります。たくさんの目を通して書かれているからこそ、それなりに価値があるのだと思います。個人のホームページだと、全く他人の目が入らずに、勝手なことが出ていることもありますし、それを信じてしまう危険性もあると思いますので、インターネットは情報を選ばないといけません。それに対して本は、しっかり複数の目が入っている。特に校閲係はきっちりと見てくれていますよね。ですから、そういう意味で本になったものは、それなりの意味がある。インターネットの場合には、リテラシーを付けないと内容的な保証がないものまでヒットしてしまう可能性があるので、その危険性を考えて利用しなくてはいけません。

――そこが、出版社、編集者の大きな役割なのかもしれませんね。


榊原洋一氏: 立派な編集者は、社会的な意味合いを持って、それを出していると思う。僕がKindleをすごいと思うのは、古典的な本をすごく安くしている点です。それはある意味、文化財としてそれを多くの人に提供しているということ。本は消費財である以上に文化財ですよね。ですからそれを無料でみんなに配信しているというのは、すごいサービスだと思うんです。文化的な情報のサービスをしていると感じています。



多くの人に読んでもらえることが喜び


――執筆に対する思いをお聞かせ下さい。


榊原洋一氏: 僕の場合、発達障害関係が多いんですが、本という媒体はたくさんの人に読んでもらえる。実際に出版している立場としては、講演会や授業で話す以上の形で読まれているなと感じています。Amazonなどでは読者から色々なコメントが寄せられることがありますが、僕は本を出すと、結構気にして見るんです。数は少ないけれど、こんなに読んでくれているのかと、すごく心に沁みます。「僕の言いたいことを分かってくれている人がいる」というのが分かってすごくうれしいです。実際に対面して話ができる人の数には物理的な制限がありますが、きちんと読んで下さっている人が、日本中のどこかにいるということを知ることができるのは、僕の密かな喜びとなっています。それが本を書くことの良さだと感じています。

―― 榊原先生の使命とは?


榊原洋一氏: 日本の医者は一生懸命やっているのですが、かなり専門的なので、その情報が医者以外の人にどのくらい伝わっているのかという問題があると思います。僕の場合も発達障害を特に専門としていますが、医師、心理の専門家、学校の先生、ご家族、みんな関係しているわけです。私の場合は医学という、一応、理系に足を置いているので、そういう立場から「たくさんの人に見てもらって、理解してもらいたい」という思いがあります。最先端のことというよりは、発達障害について多くの人に知ってもらうこと。心理の分野とも少し見方が違うので、僕が発達障害の心理の教科書を見ると、医学的にはもの足りないと感じる点もあります。ですから、両方の間の橋渡しのような存在になれれば、という気持ちでいますし、自分自身の存在価値はそこにあるのかなと今は思っています。日本の医療は世界的に見ても、結構頑張ってやっていると思うんです。だからこそ、医者自身が十分に発信していないところを、僕が代わりに発信することも仕事なのかなと思っています。

――最後に、今後の展望をお聞かせ下さい。


榊原洋一氏: この大学にはすごく優秀な学生さんがたくさんいるので、日本の優秀な女性が世界中で活躍するお手伝いをしたいなというのが1つです。
僕自身としては、いくつか夢があるんです。小児医療と子どもの発達心理の両方を包含したような本は、実はまだないんです。そういう本を、ある程度のボリュームで書いて、より多くの人に読んでもらえたらいいなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 榊原洋一

この著者のタグ: 『大学教授』 『心理学』 『教育』 『子ども』 『医者』 『発達障害』

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