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春井久志

Profile

1945年、兵庫県生まれ。関西学院大学経済学部卒業、関西学院大学大学院博士課程満期退学。名古屋学院大学経済学部専任講師、助教授、教授を経て、現職。博士(経済学)。専門は金融論、国際金融論、中央銀行論。 著書に『中央銀行の経済分析: セントラル・バンキングの歴史・理論・政策』(東洋経済新報社)、『金本位制度の経済学―イギリス金本位制度の理論と歴史・政策』(ミネルヴァ書房)、近著に『揺れ動くユーロ――通貨・財政安定化への道』『カンリフ委員会審議記録(1918-19)』(蒼天社出版)、『ケインズ全集』、〈第17巻〉(東洋経済新報社)、『富の創造』(すぐ書房)など。

Book Information

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本を手に入れて勉強した、イギリスの金融理論


――大学院ではどのようなことを勉強されていたんですか?


春井久志氏: 私は学部から金融論のゼミに入りました。そのゼミの恩師が小寺武四朗先生という優れた方で、大学院も同じ先生のところに入りました。自分で研究課題を立てて先生に話してみたら、先生が「これは良い」と言ったものがあって、それがイギリスの金融理論だったのです。アラン・メルツァーという人がA History of the Federal Reserve(2003, 2009)という書名の本で、連邦準備制度の歴史を書いています。全部で3冊に及ぶ大著です。その中で18、19世紀に中央銀行というのが徐々に発達してきたということが書かれてあります。イギリスが経済力的にも軍事力的にも世界でトップだったので、中央銀行としてのイングランド銀行も発展していきました。イギリスの有名な経済学者、デヴィッド・リカードの研究者として有名な先生がおられたので質問に行くと、「私は貨幣や金融は専門分野ではないから、自分で勉強しなさい」と言われてしまい、恩師もアメリカ中心なのでイギリスは専門分野ではない。だから、色々な19、20世紀イギリス経済に関する英語の本を古本屋で手に入れて、自分で勉強しました。パルモア学院で勉強した英語がその時、とても役立ちました。

――特に印象に残っている本はありますか?


春井久志氏: 帰国した時に、アメリカで一番よく売れている教科書であるポール・サミュエルソンの『経済学』を神戸丸善で買って、3年生の夏休みに読みました。その本を読破したおかげで経済学がよく分かるようになって、50年近く前に読んだ英文で書かれた教科書なのですが、未だにそこで読んだエピソードをよく覚えています。
すなわち、あるアメリカの村に1人の有能な弁護士がいました。彼は事務所をもっているからタイプを打つ仕事もしなきゃいけない。彼はその村で1番のタイピストでもあったのです。そうすると、彼は「半日は弁護士、残りの半日はタイプを打っている状態が経済学的に望ましいのか?」ということが経済学の問題になるのです。答えは「彼は1日中弁護士として働いて、2、3番目くらいの腕のタイピストを雇うのが経済的に最も効率が高い」のです。元々は、「比較優位の原理」というデイヴィッド・リカードゥの考えなのですが、これは経済学を超える意味を持っている答えだ私は思います。私たちは、ナンバーワンでなければ世の中で役に立たない訳ではないのです。だから、SMAPの歌「世界に1つだけの花」じゃないけれど、オンリーワンになことで、すべての人間が社会に貢献できるし、またその存在価値も生まれるのです。経済の「効率性」の問題だけではないことをこのエピソードから学びました。

――いかに人が幸せに効率よく暮らしていけるかという、とても面白い学問ですね。


春井久志氏: 経済学は人間を対象にした学問です。関西学院のスクールモットーは「Mastery for Service」つまり、奉仕をマスターするということ。一生懸命に技や知識を身につけて、そしてやっと人の役に立つ。それと経済学の本質とは、繋がっているような気がしています。

理論と政策と実態のバランス


――そもそも最初の本を出版するきっかけというのは、どのようなことだったのでしょうか?


春井久志氏: 92年に博士論文を著書として出版しました。それまでも金本位制度についてはその色々な側面について論文や本が書かれていましたが、金本位制度の全体像を示すものというか、個々の研究成果を総合的に繋ぐ著書はありませんでした。『金本位制度の経済学』の副題にあるように、「イギリス金本位制度の理論と歴史・政策」つまり理論、政策、制度を含めて1パッケージなのです。金本位制度については3つの異なった見方があります。1つは金本位制度はこんな風に機能するのですよという、歴史的に実証されていない「神話」のようなもの。もう1つはこのように働けば上手く機能する、という「理想像」です。最後に、それが実際にはどのように機能したのかという「現実像」です。これら3つの金本位制度観を整理して、包括的に説明したものを著書として出版しました。

――執筆する上で大事にされていることはありますか?


春井久志氏: 私は理論、政策、実態のバランスが重要だと考えます。どれか1つでも欠けていたとしたら、全体像が分からない。だから、その3つの要素はどうしても入っていなければならないと思っています。

――今後の出版のご予定は?


春井久志氏: 2009年に単一通貨ユーロができて10年目だったので、それをテーマに関西学院で国際シンポジウムを開きました。現在、副総裁の中曽さんは、その当時は金融市場局長で、リーマンショック後の世界の金融システムの混乱を収拾するために中央銀行家同士でネットワークを組んでいました。欧州中央銀行(ECB)の金融市場局長のパパディア氏もパネリストの1人です。第一次世界大戦後にヨーロッパで誕生したBISは今ではアジア太平洋事務所を有していますが、そこの代表であるネモローラ氏もパネリストでした。そういう人々がシンポジウムに来てくれました。そのシンポジウムに関する著書『揺れ動くユーロ――通貨・財政安定化への道』という本が今年2月に蒼天社出版から出ます。あとは、全30巻にのぼる大著『ケインズ全集』は東洋経済が少しずつ出しているのですが、私はその第17巻を翻訳して、今年の連休明けに出版されます。それから今までにも『マクミラン委員会報告書』の翻訳本は出ているのですが、その証言録のごく1部しか翻訳されていません。それで今度は「カンリフ委員会の審議記録」の全部を翻訳して出版することにしました。それが2014年1月に出版された『カンリフ委員会審議記録』(全3巻、蒼天社出版)です。また、30年来の友人(Forrest H. Capie)であるシティ大学(ロンドン)教授が著した『イングランド銀行史、1950年代~1979年』(Cambridge University Press, 2010)を現在数人の研究者で翻訳し、1年以内に出版する予定です。それも日本経済評論社から近いうちに出版される予定です。

著書一覧『 春井久志

この著者のタグ: 『大学教授』 『英語』 『経済』 『海外』 『教育』 『経済学』 『グローバル』

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