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世界中の本好きのために

河野哲也

Profile

慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(哲学)。防衛大学校人間文化学科助教授、玉川大学文学部人間学科助教授等を経て、現職。 専門は心の哲学、現象学、倫理学、応用倫理学。 著書に『意識は実在しない 心・知覚・自由』(講談社選書メチエ)、『エコロジカル・セルフ』(ナカニシヤ出版)、『道徳を問いなおす リベラリズムと教育のゆくえ』(ちくま新書)、『暴走する脳科学 哲学・倫理学からの批判的検討』(光文社新書)等。『知の生態学的転回3 倫理:人類のアフォーダンス』(東京大学出版会)等、編著や翻訳・監訳も多く手掛ける。

Book Information

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本に憑りつかれる


――小さい頃はどのようなお子さんでしたか?


河野哲也氏: 勉強に関しては、親からはあまりうるさく言われなかった気がします。僕はスポーツが好きで、どちらかというとその記憶が大きいのですが、ただ、本を読むのは好きだったと思います。明確に「これを読んだな」と記憶しているのは、小学校3年生以降に読んだ本だと思います。

――どのような本を読まれたのですか?


河野哲也氏: エドガー・アラン・ポーの『黒猫』と『アッシャー家の崩壊』という子供用の文庫本を読んで、とにかく強いインパクトを受けました。親は本や勉強道具の類いは自由に買っていいという方針で、好きなものを自由に読める環境だったんです。それで近くの本屋さんで面白そうなものはないかなと思って探していたら、「何か、おどろおどろしい表紙の本があるなあ」と目に留まりました。『黒猫』も怖かったのですが、『アッシャー家の崩壊』は尋常ならぬ怖さで、今でもたまに夢に見るほどの強烈なインパクトがありました。おそらくそれを読んだがゆえに、推理小説や怪奇小説というジャンルを子供の頃にどんどん読み進めたのだと思うんです。あの本はいまだに好きなんですが、もしかすると憑りつかれているのかもしれませんね(笑)。だからこそ中学や高校の時も、心理学やフロイトなどが好きになったのではないかと僕は思うのです。心理学や哲学を好きになって、今も心の哲学と言われているものをやっています。

――そこが出発点だったのですね。


河野哲也氏: あともう1つ、子供の頃に読んで印象に残っているのが、小沢正さんという方の『砂のあした』という本です。これは子供用のSFシリーズで、小学校4年生ぐらいの頃に小学校の図書館で借りて読みました。やはりこれも、とにかく恐ろしいSFでした。原子力の事故が原因で砂が自己増殖しはじめて、世界中砂だらけになっていくんです。そのとき同時に、主人公の男の子も含めて、小学校での誘拐事件が増えるんです。それは未来からきた誘拐犯のしわざなのですが、結局その未来では、砂に適応できる「砂人間」だけが生き残るんです。それで「砂人間」になる素養を持った人間を、人類を救済するために未来に送り込む、という内容でした。それを読んだ時に、強烈なインパクトを受けました。未来は現在とは完全に切れていて現在が滅んでしまうといった後戻りできない感じがありました。SFはたくさんありますが、児童向け文学で、ああいった完全破滅型はあまりなかったような気がします。人類は別の種として存続するというのはハッピーエンドなのかはよく分からない結末でしたが、とても恐ろしいんだけど、ある種の広々とした解放感もあって、いまだに僕に影響を与えていると思います。

この世界に必然性はない


――哲学の道へ進んでいった経緯はどういったものでしょうか?


河野哲也氏: 何か人生の悩みなどをきっかけに哲学を始める人もいると思います。でも、僕の場合は単純に、いくつかの謎を解けないままきた少年といった感じかもしれません(笑)。中学1、2年の頃は、わりと物理学や宇宙論などが好きだったんです。ある時考えたのが、光の速度はなぜ秒速30万キロであって20万キロとか40万キロじゃないんだろうということでした。それをしばらく考えて、何々キロというのは人間の尺度で測っているだけであって、これが40万キロになっても、ほかのものとの関係性が保たれれば何も変わらないじゃないかという結論に至ったんです。しかし、さらに考えてみると、重力も光も、もしかしたら人間もいない、別の設定の宇宙というものもありうるんだろうなと考えるようになりました。そうすると、この世界に必然性というか、別に「こう」である必要はないなと思ったんです。それが不思議で父に話してみたら、「それは哲学っていうジャンルじゃないの?」と言われて、父から渡されたプラトンの本を読んでみたら「あ、これだ」と思ったんです。その本は僕の疑問に答える内容ではありませんでしたが、読んでみると本当に面白くて、岩波文庫や新書、講談社ブルーバックスさんの宇宙ものをひたすら読んでいくという日々が始まりました。本を読み、残りの時間は剣道をするといった感じで、受験勉強はそれほどした記憶がありません。

――大学時代はどのように過ごされたのですか?


河野哲也氏: 哲学をやろうと最初から決めてたのですが、哲学を活かす商売というのはないかもしれないと思い、大学に入る前から学者になろうと決めていました。ただ、勇気は要りました。心理学も好きで、カウンセリングなどの心理学を活かす仕事はたくさんあるだろうとは思いましたが、「自分をごまかさないで哲学に行こう」と一歩を踏み出しました。背水の陣を敷いて行かないといけない、と思ったんです。

――その行動の原動力はなんだったのでしょうか?


河野哲也氏: 好きだからだと思います。野球選手が野球をやっているのと変わらないと思うんです。ただ覚悟を決めて「中途半端になってはいかん」と思いました。それはどのような道でも同じです。学生にも「一生懸命やればいい」と言っています。いつ死ぬか分からないから、好きなことをやって、うまいものはうまいと言い、「もしかしてまずいかもしれない」と思っても、1回食べてみればいいんです(笑)。

著書一覧『 河野哲也

この著者のタグ: 『大学教授』 『チャレンジ』 『哲学』 『心理学』 『原動力』 『教育』 『子ども』

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