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世界中の本好きのために

池尾恭一

Profile

1950年、神奈川県生まれ。1973年慶応義塾大学商学部卒業。慶応義塾大学大学院商学研究科修士課程・博士課程などを経て、現在に至る。商学博士(慶應義塾大学)。主な著書に『消費者行動とマーケティング戦略』(千倉書房)、『日本型マーケティングの革新』(有斐閣)、『モダン・マーケティング・リテラシー』(生産性出版)、『商業学:新版』(共著、有斐閣)、『日経で学ぶ経営学の考え方』(共著、日本経済新聞社)、『ネット・コミュニティのマーケティング戦略』(編著、有斐閣)、『戦略的データマイニング』(共著、日経BP)などがある。

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マーケティングを激変させる3つの現象


――最近の、マーケティングに関する変化では、どのようなことが注目されていますか?


池尾恭一氏: 日本のマーケティングに関して、ここ数十年劇的な変化を迎えているのではないかと思っています。変化には大きく3つあります。日本のマーケティングには、もともと1つの極めて強力なパターンがあって、例えばメーカーの立場から言うと、メーカーが販売会社や卸業者とか小売店を囲い込む。トヨタがディーラーを囲い込む、松下が系列支店を囲い込む、資生堂が花椿チェーンの店を囲い込む。そういった囲い込みをベースにしたマーケティングが日本の経済成長を支えてきたわけです。そういった囲い込みが崩れている、といった変化が1つ目。私はオープン型と呼んでいるんですが、自動車はまだ変わっていませんが、電機屋さんは、系列店からヤマダ電機のようなお店に変わっていく。化粧品も色々な会社の商品を扱うようなお店に変わっていく。そういう風になると単に販売経路が変わるだけではなくて、マーケティングのやり方そのものが大きく変化します。



――囲い込みの崩れが、マーケティングの変化へとつながっていくのですね。


池尾恭一氏: もう1つは、供給の民主化による変化です。例えば、私が本を書こうとすると、出版社は編集会議を開いて、出すべきか出さざるべきかを検討する。そこをクリアして本ができても、今度は取次店が扱うかどうかを決定する。そして今度は小売り屋さんの仕入れ係が仕入れるかどうかを考え、次に店長さんがどこに置くかを考える、といったスクリーニングを経ていきます。このスクリーニングはすべてその道のプロが行うわけで、そういったプロが作ってプロがスクリーニングをかけていくという流通の仕組みを、我々は3000年以上かけて作ってきた。自費出版をするとなると、それ自体にもかなりのお金がかかりますし、このスクリーニングを通過するのも大変で、したがって、本は、簡単には出せなかったのです。ところが今は、誰でもPDFで本が作れてそれをインターネットで売れるわけです。また、プロが作った本を中古で売っている人もいます。素人が作り、素人が流通させるような仕組みが出てきたのです。クリス・アンダーソンという方は、これを供給の民主化と呼んでいます。こうした民主化された供給に、従来型のマーケティングの仕組みではなじまない部分があるわけです。
3番目はグローバルマーケティングのあり方です。日本は、明治以来、常に欧米に対するキャッチアップでやってきた。貿易構造を見ても、日本の輸出産業は欧米に向かって自動車・電機製品を売っていくのが中心だった。ところが今、先進国の経済成長率よりも新興国の成長率の方が上です。ただ、新興国の経済水準は、確かに急激に上がっていますが、そうはいっても、日本から見ればまだまだ貧しい。つまり、今までは日本よりも豊かな国に物を売るのが中心だったけれど、今はむしろ日本よりも豊かではない国に売ることが大切になってきた。これが、3つ目の変化です。
これらの3つの変化に日本のマーケティングは現状では十分に対応しきれていないわけで、それをどうしたらいいのかというのを、自分の専門領域で考えています。

オンラインとオフラインをどう組み合わせるか


――出版業界はどのように変わっていくでしょうか?


池尾恭一氏: 消費者の本の読み方が全く変わるんじゃないでしょうか。音楽を考えてみると、屋外で音楽を聴く時に、ウォークマンからMDウォークマンになってもそれほど大きく変わりませんでした。そこでは、どういう曲をウォークマンに入れて持ち歩くかということが、我々にとって大きな関心でした。それが今はiPodになって、数千曲が入るので、選ぶことというよりも、むしろプレイリストが重要になってきた。そして、挙げ句の果てにクラウドの定額制で自由に音楽を聴くようになりました。ゲームはタダで遊ばせるけれど、別のところでお金を払ってください、という形になってきた。映画でも、ビデオオンデマンドが出てきた。こうなって、消費者の音楽やゲームや映画への接し方も大きく変わりました。だから今後、本だけが変わらないということは考えにくいです。本を自分で買ってハードディスクにダウンロードするというやり方自体が、この先は古くなるでしょう。すでに青空文庫のように、自由に読める世界もあるわけなので、本自体に課金するというのとは違う形のビジネスが出てくるのかもしれない。ただ、現段階では書籍の電子化は思ったより遅いと感じています。アメリカでも遅いですね。しかし5年10年のスパンで考えれば、変わってくるでしょう。

――紙の本、あるいは書店はどうなっていくでしょうか?


池尾恭一氏: 書店は色々と考えなければいけないでしょうね。私は圧倒的にネットで買うことが多いのですが、では本屋には全く行かないかというと、そんなことはないです。O to Oと言うのでしょうか、オンラインとオフラインをいかに組み合わせて快適な環境を作り上げていくかが、非常に大切なのだと思います。本屋には本屋なりの役割があるでしょうし、補完的なものになっていくと思います。ただネットがあるということは間違いないので、ネットを前提として、どういうことが起こっていくかを考えなければなりません。

著書一覧『 池尾恭一

この著者のタグ: 『大学教授』 『海外』 『経営』 『マーケティング』 『ビジネス』 『書店』

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