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世界中の本好きのために

高橋伸夫

Profile

1957年、北海道小樽市生まれ。小樽商科大学商学部卒業。筑波大学大学院社会工学研究科退学、学術博士(筑波大学)。東京大学教養学部助手、東北大学経済学部助教授、東京大学教養学部助教授などを経て現在、東京大学大学院経済学研究科教授。主な著書に、『ぬるま湯的経営の研究』(東洋経済新報社)、『組織の中の決定理論』(朝倉書店)、『できる社員は「やり過ごす」』(文藝春秋)、『日本企業の意思決定原理』(東京大学出版会)、『経営の再生』『鉄道経営と資金調達』『超企業・組織論』(有斐閣)、『虚妄の成果主義』(日経BP社)、『組織力』(ちくま新書)、『殻』(ミネルヴァ書房)などがある。

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「引用される」英文ジャーナルを目指す



高橋伸夫氏: 一念発起して、我々が出しているABASという英文のジャーナルをリニューアルして、年間25本ほど論文を出すことにしました。今までは10年間で40本ぐらいしか出なかったんですけども、電子ジャーナルで世界中の人が読めるし、実績さえ積めば、例えばトムソン・ロイターがやっているWeb of Scienceのデータベースに載る可能性がありますので。去年は、結局24本。ほぼ目標通り出して、今年は前倒しで25本を出し終わっています。

――WEBによって、研究論文のあり方は変わっていますか?


高橋伸夫氏: 学問の世界だと、本と論文はかなり違っていて、昔は私も学術書志向で書いていたのですが、基本的に学会自体がジャーナルの論文を引用するパターンがメインになっていると感じています。今ジャーナルは、サイテーションインデックス(引用索引)で、どのくらい引用されたかということを調べ、ジャーナルの売り込みのために使っています。「このジャーナルには価値がありますよ」と出版社側が言うための、格付け用なんです。だからジャーナルの評価項目の中にインパクトファクター(雑誌の影響度を測る指標)もあれば、掲載論文数みたいなものもあるし、全部ミックスしてランキングをつけるわけです。そこに私は可能性を見出したのです。

――どのような編集方針を立てられたのでしょうか?


高橋伸夫氏: 今までは「これが一流誌」というのが決まっていて、私もそういったところを狙って出していましたが、時代は変わりつつあります。例えば、海外の一流誌はインパクトファクターが高いから、ぜひうちのジャーナルを買ってください、投稿してくださいと言うわけです。だから「研究者が面白いと思って引用してくれるものを出しましょう」という方針を打ち出しました。権威づけのためにどうしなくてはならない、ということは取っ払って、他の研究者が引用したくなるような論文を載せる。「あまり長いのは読みたくないだろうから短くしよう」といったように、「引用されるジャーナル」にしたいと思っています。サイテーションさえ取れれば、ランキングも上がっていく可能性があるので、「価値がある」と思い直して編集しています。

――日本人の研究者が英語の論文を書く際、どのような問題がありますか?


高橋伸夫氏: 英語で書いた論文で、普通に読んで意味が分からない時は、理由が2つあります。英語が下手だという理由と、もう1つは内容が論理的ではないという理由です。内容が論理的じゃないと、そもそも日本語でも分からないわけです。英語にする前に日本語でチェックしないと、上手くいかない。翻訳する人もあまり分からずに訳していますから。日本語の段階で論理構造だけをきちんとしてもらって、それから英語に直すというプロセスに私は変えました。



私が執筆者に対して思っているのは、日本の会社の事例は素直な英文にはならないし、日本的なコンセプトがきれいな英語になるわけがないということです。ネイティブが首をかしげても、その言葉をそういう意味で使っている、ということさえ分かってもらえればいい。翻訳した後で、英文校閲も付くので、英文校閲で直されてきても、「私は、この単語を使いたいんだ」と戦えばいい。ネイティブの人が書く英語の論文じゃなくて、日本人が書く英語の論文だからこそ、英語にそういうザラツキ感もあってしかるべきです。そういった英文ジャーナルABASを去年の暮れからニューバージョンで出し始めました。今、年間掲載論文数だけでいうと、国内で出している経営関係の英文誌で一番多いのではないでしょうか。

電子の利便性で失われる本との出会い


――ジャーナルと電子書籍は親和性が高いのではないでしょうか?


高橋伸夫氏: そうですね。ジャーナルは、電子書籍化しやすいんです。なぜかというと、ジャーナルは昔から、皆がコピーして読んでいて、今はそれをPDFで読んでるだけで、全く同じなんです。そもそも製本状態で読んでいない。元のジャーナルはもちろんありますが、そこに書き込みしたりはしないで、必ずコピーをとる習慣があるので、電子書籍化が自然なんです。本はジャーナルとは少し違って、コピーしながら読む人はまずいなくて、書き込みしながら読むというパターンが普通です。Eジャーナルは、学者の行動パターンとマッチしています。

――電子化には、デメリットもあるのでしょうか?


高橋伸夫氏: 弱点があるとするならば、論文が冊子で手に取られることがなく、単体で売られてしまうという点です。例えば、私が1日中駆けずり回って探した、1936年に出た、ライトという人が書いている有名な学習曲線の論文があります。航空工学のジャーナルに載っている論文で、図書館で調べたら、東大にあるというので、そこで1936年の冊子を見つけたのですが、感激したのは、その同じ号に載っていた当時の東大教授が書いた論文でした。ゼロ戦などを作る前なんですが、当時の日本の航空工学はこれほど世界レベルだったのかと感心しました。電子化すると検索して見つけてしまえばそれでおしまいですから、そういうことがなくなってしまう。必要な情報は何も失われてないけど、付帯情報といったものが失われる。そこがちょっと難点です。

――冊子として発刊された歴史自体が、情報なのですね。


高橋伸夫氏: 私は自腹で買う本代がものすごいので、本だけは道楽だと思うこともあります。洋古書は、本当に熱中して注文する時があって、リアルな古本屋にも掘り出し物はあるんですが、時間が掛かるのでほとんどネットです。特に、紀伊国屋の洋古書のウェブサイトはすごい。例えばノーベル経済学賞ももらっているSimonの『Administrative Behavior』という本。日本語の題が『経営行動』っていう有名な本ですが、奥付には初版1947年版の前に、1945年版があると書いてあります。本の中には準備版があると書いてあるが、それが45年版だとはどこにも書いていない。第2版は1957年なので、紀伊国屋のネットの洋古書コーナーで2000円くらいで1950年に出版されたものを買ってみると、なんとカバーのバックフラップに45年版が準備版だと書いてある。図書館の蔵書はカバーを捨ててしまうので、そういった情報が残らない。
アメリカの大学は、古い本は全部放出してしまう。アメリカの図書館の放出本もたくさんあって、昔は手に入らなかった本がどんどんネットで売りに出ています。私も見たことがない本が出ていて、「こんなものまで放出しちゃっていいの」というようなものがたくさんあります。紀伊国屋の洋古書はすごいと思います。どういう履歴で回って来たんだろうと想像する面白さもあります。

――WEBによって新たに本との出会う機会ができたのですね。


高橋伸夫氏: 一昔前だと、図書館になければ、もうどこにも見つかりませんでした。でも今ではインターネットで丹念に探すとヒットすることがあり、そのままダウンロードできるものもあります。最近、ある本の翻訳をやり始めたのですが、参考文献が900本くらい載っている。気になったのでインターネットで検索すると、題名から人名まで間違いだらけだと分かってしまう。論文自体もまた、Eジャーナルで取得できて、さらに引用内容の間違いまで分かるので、ある意味怖い時代になっています。

著書一覧『 高橋伸夫

この著者のタグ: 『コミュニケーション』 『アドバイス』 『経営』 『研究』 『研究者』

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