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世界中の本好きのために

小川孔輔

Profile

1951年、秋田県生まれ。1974年東京大学経済学部卒業、1976年同大学院経済学研究科修士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校留学を経て、1986年より法政大学経営学部教授。現在、法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授(マーケティング、マーケティング・リサーチ担当)。日本フローラルマーケティング協会会長、MPSジャパン創業者・取締役。著書に『誰にも聞けなかった値段の秘密』(日本経済新聞社)、『ブランド戦略の実際』(日経文庫)、『当世ブランド物語』『花を売る技術』(共に誠文堂新光社)、『マーケティング情報革命』(有斐閣)、『しまむらとヤオコー』(小学館)などがある。

Book Information

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走り続けることで、新しいものが見えてくる



小川孔輔さんは、マーケティングを研究、指導する経営学者です。総合的なテキスト『マーケティング入門』は、日本における同分野の教科書としてスタンダードになっています。そのほか、個別企業へのインタビュー、リサーチをもとにした論文や書籍、経営者の評伝の執筆でも活躍されています。幼い頃から本に親しみ、著者として「書き続けること」を重視する小川さんに、執筆へかける想いをお聞きしました。

仕事と趣味、スケジュールは常に埋まっている


――普段のお仕事の内容についてお聞かせください。


小川孔輔氏: ここにある僕の手帳を見てもらえば分かりますが、仕事や遊びの予定が詰まっていてぐしゃぐしゃになっています(笑)。

――きれいに整理されていますね。


小川孔輔氏: 仕事の種類を色分けシールで分けています。黄色が授業や学生指導など、学校に関係する仕事で、マネジメントはオレンジ。また今は、日本マーケティングサイエンス学会の代表理事、学会長をやっていて、ブルーがその学会関係の仕事です。それから赤が野菜や花に関する仕事、グリーンがコンサルです。あとは自分の趣味であるマラソンで走った距離を書いています。走り終わった後、パソコンでエクセルに転記して、今日まで年間でどのくらい走っているか分かるようになっています。ちなみに今日で1400キロぐらいです。

――全く休みがないように見えます。


小川孔輔氏: 空いていると仕事を入れてしまいますから、休まないですね。土曜日、日曜日は比較的、休みが多いのですが、ほぼマラソンをしています。去年は41レース走り、東京マラソンの後、1週間おいて京都マラソンに参加するという過密スケジュールもありました。またプライベートで走りに行った時も、そこで遊んだり、仕事をしたりしています。

本を「ツケ」で買った少年時代


――読書との関わりを含めて、幼少期のお話をお聞かせください。


小川孔輔氏: 僕は秋田県の能代市という人口が6万人ぐらいの街で生まれて、家は新興の呉服屋でした。近くには一丁堂さんと鴻文堂さんという2軒の本屋があり、いつもツケで本を買い、後で父親が払っていました。そのため、小学生、中学生の頃、両方の本屋さんで、並んでいる本を自由に持ち帰ることができ、とても幸せでした。サインすらいらなくて、「孔輔ちゃんが来て、なんとかっていう本を買っていきました」と家に電話がかかっていました(笑)。この2件の本屋さんにとって、僕は最大の読者だったと思います。

――お父様には、本をたくさん読ませたいというお考えがあったのでしょうか?


小川孔輔氏: 親父は本好きでした。特に歴史ものが好きで、吉川英治の剣豪小説や歴史小説が親父の寝室にはずらっと並んでいました。親父は小学校しか出ていなかったので、知識を得たい、勉強したいという気持ちがあり、東京電機大学の夜学を出てから三菱重工に勤め始めました。ですから、子どもたちにも勉強させたかったのでしょう。
僕は中学校から高校生の頃はだいたい、年間100冊読んでいました。1週間に2冊ぐらい読んでいたので、親は、当時で年間15万とか20万ほどのお金を書籍に使っていたと思います。ちょっとしたお稽古事以上でした。

――どのような本を中心に読まれていましたか?


小川孔輔氏: 世界文学全集、日本文学全集を、いわゆる古典に近いものから読んでいけば、定番の作家は全部入っていますので、1番から順番に読んでいました。外国ではドストエフスキーやパステルナークなど、ロシア小説が好きでした。ロシアの小説って長くて複雑で、家系図が入っていたりしますが、そういうところが好きで、実は自分の『しまむらとヤオコー』という本にも家系図を入れたんです。
ちゃんと分かっていたかどうかは、今考えると怪しんですが、細かいところは気にしないでどんどん読み進め、文豪といわれる人たちが書いた定番の小説は、高校までに全部読み終えてしまいました。大学生になると、芥川賞と直木賞の受賞作品を読み、どちらかというと、いわゆる大衆文学に興味が向きました。直木賞の作家は今でも読んでいます。ミステリー系はあまり得意ではなく、エンタメ系のものをよく読みます。本当にお恥ずかしい話ですが、大学院生の時は経済学・経営学に携わっていましたが、持っている本は小説の方が多かったです。古本屋さんにもよく行きました。

――蔵書もかなり多いのではないですか?


小川孔輔氏: 1980年にアメリカへ留学したので、全部古本屋に売って、ゼロになりました。僕は読書家ですが愛書家ではありません。ものすごい量を読むので、やっぱり捨てる本はすごく多いです。BOOKOFFの坂本(孝)さんとは友達ですが、BOOKOFFが出てくる前は本当に大変でした。どんどん買って、置くところがないので捨てたり売ったり「ところてん式」です。

経営者の話を「料理する」技術


――執筆をされるようになったのはいつ頃からでしょうか?


小川孔輔氏: 子どもの頃からものを書きたいというのはあったのですが、有名でもなんでもない人が書いたものは誰も読んでくれませんし、小説を書く才能があるというわけでもないので、人と違う専門がないといけない。それで学者をめざしたわけです。30ぐらいを過ぎてから、本を読むというより、自分で取材をして書くようになりました。30までの本読みは学習過程で、それ以降の30年間は全然違った生き方です。研究者になって、ビジネスの世界で読んでもらえるものを作るという目標を立てて、32歳で留学から帰ってきて具体化してきました。知名度がないうちは、書いたものをすぐ読んでくれるわけはないので、1冊の本ではなくて、トータルで人に勝つために、とにかくたくさん書くしかありませんでした。

――ご自著では、経営者から直接聞き取られたお話が活かされていますね。


小川孔輔氏: 企業経営者の方とお友達になったのは、面白いというのはあるけれど、いずれものを書くための、いわば料理の素材探しでもありました。
今は、僕がインタビューされていますが、普通はインタビューをする立場にいる人間です。僕は、インタビューの時は録音をしないんです。一般的な意味で記憶力が良いわけではなくて、学生の名前は1年経っても覚えないのですが、インタビューの細かい数字とか、その時に相手がどういう表情だったとか、すごく細かいところを覚えています。興味のあることだけは非常にはっきりしていて、どうでもいいことはすぐ忘れてしまう。物書きとしては非常にプラスの性格というか能力だと思います。

良い編集者と組んだ時、良い本ができる


――企業に関する本だけではなく、マーケティングの網羅的な教科書も手がけられていますね。


小川孔輔氏:マーケティング入門』ですね。2009年に出ているんですが、完成までに10年かかっています。アメリカの代表的なテキストブックは、コトラーのものだと思いますが、800から1000ページです。日本人の研究者とアメリカ人、ヨーロッパ人の一流研究者の大きな違いは2つあって、1つはボリューム、もう1つは体系性です。
アメリカ人が書くような800ページの本は、日本では複数の人が書いた本はありますが、僕は1人で書く事を目標にしました。1人で厚い本を書くためには、時間とパーツを組み立てる作業が必要です。得意分野と不得意分野があるので、全部カバーするのはすごく難しい。自分が不得意な分野は人と共同研究をします。例えば、僕は戦略とかが得意ではないから、東大の新宅(純二郎)君と一緒にやることで、戦略の穴が埋まるわけです。

――連載や個々の研究を1冊の本にされる時も、特別な作業がありますか?


小川孔輔氏: 『ホワイト企業の事例研究』の本が来年あたりに出ると思うのですが、準備にすごく時間がかかっています。準備は料理の仕込みです。生地を練ったり、おいしいお魚を探したりするような仕事をずっとやっています。僕はライターでもあり、エディターでもあり、プロデューサーでもある。でも、仕事の仕方はいつも共通です。目標を定めて、そのために何を準備しなきゃいけないかを考えています。まず組む相手を探して、出版社を探してきてお金も探してこなければならないのです。

――本作りには出版社、編集者も関わってきますが、編集者はどういった存在でしょうか?


小川孔輔氏: 我々の調教師です。技術の劣る編集者と、できる編集者の違いははっきりしていて、それは、我々と一緒に働いてくれるかどうかです。ただ本を出すという仕事だけやっている人は、あんまり良い仕事をしない。良い本は、良い編集者と組んだ後にできています。直木賞や芥川賞をもらう先生たちも、陰に、良い編集者がいるのだと思います。僕が恩義を感じている人は、一番初めに出した本でもある『 POSとマーケティング戦略』の編集者(伊藤真介さん)で、本当に鍛えられました。何回も書き直しさせられて、連載第1回の時は、7回も書き直したんです。『しまむらとヤオコー』は連載の時と単行本の時、2人の編集者(千田直哉さんと園田健也さん)がいなかったらできなかったと思います。

近くにいる読者が一番厳しい


――書き直しをすることは苦しいことではないですか?


小川孔輔氏: たしかに苦しいです。50を過ぎた大学教授が、編集者に7回も書き直しさせられるのは屈辱でもあります。でも、とにかく本を出したい。感情の問題じゃなくて、結果として良いものができればいい。編集長に「小川先生はマーケティングの先生としては一流かもしれませんが、ライターとしては駆け出しです」と言われました。それはその通りで、「あなたが小川孔輔、so what?」って言われるに決まっているのだから、ゼロからやらなければなりません。
かみさんからは「99年くらいの文章より、今の方が読みやすい」って言われるんです。うちの娘や、かみさんは全部読んでくれているわけではないですが、物語的な類の本は全部読んでくれていて、娘とかみさんに「面白くない」って言われたら書き直します(笑)。娘が高校生の時に書いた本で、「お父さんこれ、面白くない、長い!」と言われてバッサリカットしたこともあります。今は、編集者や仲よしのガールフレンドたちが読んでくれています。ブログでも、面白い記事があるとメールをくれます。やっぱり近くの読者が一番厳しいですから。

――書くことのモチベーションは何でしょう?


小川孔輔氏: 書くことが好きだから。美しい文章を書くことは楽しいです。自分が経験したこと、私はこう感じましたよということを相手に伝える、これが本を通してできるということは、とても幸せなことです。もちろん疲れますが、ブログも本も、何でもいいから書き続けることが大切。それはマラソンと同じです。僕はほとんど毎日走っているのですが、休むと筋肉がなまります。僕だって二日酔いの朝とかは眠たいですが、「よっこらせ」と起きて走る。嵐じゃない限りは走っています。ペンも書かなくなるとなまります。良い文章ばかりではなくて、つまらないものもありますが、それでも書き続けます。



――昔の作品を読み返すことはありますか?


小川孔輔氏: テキストに使っているものは読み返しますが、それ以外は、昔の仕事だから読み返しません。タカラトミーの富山幹太郎さんが、「おもちゃ屋は後ろを振り返らない」とおっしゃっていました。常に新しいものを考えていないといけない。やったことは、必ず次の仕事に役立つ。それと同じだと思います。後ろを振り返っている暇はないです。

仕事の本は電子、趣味の本は紙


――ブログのお話がありましたが、ディスプレイ上のテキストには本との違いはあるでしょうか?


小川孔輔氏: テキストで文を書いていますが、最近変化があって、空白を含めて、書いた文章の絵面が気になるようになりました。例えば、よくブログで行間を2行とか開ける人がいますよね。僕は、それはあんまり好きじゃなくて、読んだ時に絵面的に見てきれいで、このまま本になってもおかしくないようなイメージで作っています。だいたいA4にすると1ページちょっとになるよう、1回のブログを構成していて、これが一番読みやすいと思っています。見て美しくなるように文章を書く。しかも僕の場合はブログに写真を貼り付けていません。今どき写真を貼り付けていない人は珍しいと思いますが、絵がない世界の中でどれだけ相手に伝えられるかというのもチャレンジです。僕のブログは、言ってみればすでに電子書籍です。カテゴリーを潰せばエッセイ集になりますから。

――電子書籍についてはどのようにお考えですか?


小川孔輔氏: 僕は小さい頃から活字が好きで、紙も好きなので、どうしても電子書籍には馴染めません。手触り感の違いというのも理由の1つです。電子書籍がなぜ読みにくいかといったら、紙の新聞と電子の新聞の違いでもありますが、一覧性がないことにあります。

――大学での指導の現場ではお使いになることはありませんか?


小川孔輔氏: 教育のツールとして電子媒体というのは、僕のところではまだ利用していないですね。ただ、ネットで授業中に検索するということはよくやります。常に学校のパソコンはオン状態です。分からないことがある時、いつも検索しています。海外の企業の売り上げ規模がどれほどなのかなど、分からない情報はすぐGoogleで調べます。逆に言うと、学生も僕も、図書館に行かなくなったとは思います。
それと、電子媒体が有効に機能しているのはジャーナル(学会誌)です。紙のジャーナルは読まなくなりました。しかも、ジャーナルをダウンロードするのではなくて、中の論文だけを読んでいます。なんといっても、検索機能があることが電子媒体の利点です。仕事で読むのと、趣味、楽しみで読むのとは全然違う世界です。

――紙と電子が対立し合うものではないということですか?


小川孔輔氏: そういう対立項はないと思います。買い物する時にネットと店で買い物をすることには、それぞれの良さがありますよね。それと同じです。仕事で使うのと遊びで使うのはちょっと違うので、使い分けですよね。

――今後のお仕事の展望をお聞かせください。


小川孔輔氏: ビジネス書で書かなきゃならない本が3冊あります。さきほどの『ホワイト企業の事例研究』という本と、サービスの本と、それからフィールドワークの本や調査の本ですね。それから、日経で2つ企画があって、今不定期連載をしている『マクドナルドの時代は終わった』を本にすることと、それからあともう1冊ビジネス書。あと、小説っぽいものだと、BOOKOFFの坂本さんの自伝を書くという作業があって、これは2年ぐらいかかると思います。ロック・フィールドの岩田さんにも実は書かせてくれと言っていて、準備をしています。事業をやっているので、そこからまた出てくるテーマもあるでしょう。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 小川孔輔

この著者のタグ: 『大学教授』 『経営』 『マーケティング』 『研究』 『モチベーション』

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