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赤池学

Profile

1958年、東京生まれ。1981年筑波大学生物学類卒業。1983年静岡大学大学院中退。 社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。「生命地域主義」「千年持続学」「自然に学ぶものづくり」「農業立国」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組み、2011年より(社)環境共創イニシアチブの代表理事、(公)科学技術広報財団の理事も務める。グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP AWARD最優秀賞、KU/KAN賞2011など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。

Book Information

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紙の本と電子書籍の補完関係を


――本への想いや電子書籍に関するお考えをお聞かせ下さい。


赤池学氏: 実は、今までの話はことごとく本や出版、電子書籍などと関係している話です。執筆とものづくりをやっている僕らにとっては、本は装丁やグラフィックやロゴタイプの全てがデザインされるプロダクトであって、価値もそこに宿る。データとしての書籍は、電子化することによってメリットを作り込むことができますが、逆に、さっき言った「センスウェア」という感性で愛することも、実は捨てがたい価値で、それを電子書籍が担えるかと言うと担えないと思っています。だからやっぱり紙の本というのは残り続けると思いますね。

うちには本が7、8千冊ぐらいあると思いますが、個人的に、山川惣冶の『少年ケニヤ』とか『少年王者』とか、手塚治虫などの昭和の初期の時代のものとかを買い集めてきました。古本はまさに今言った感性価値の象徴です。そういう価値を電子書籍が補完できるかというと、絶対に無理です。キッズデザインの観点からいくと、背表紙を含めて子ども達が日常的に眺めたり、パラパラ読んだりできるということは、極めて教育陶冶性の高い環境です。データとして書籍名が出てくるデジタルの世界で同じインパクトを子供達に与えられるかと言うと、これもちょっと難しい。

――ご自身では、電子書籍はお使いになっていますか?


赤池学氏: 個人的にはほとんど使っていません。ただ、僕は教科書の改訂に伴って、東京書籍さんと主に高校理科の教科書の企画・編集・執筆をずっとやってきましたが、東京書籍さんのICT事業本部がデジタル教科書を作っているので、今その仕事をお手伝いしています。僕のかつての専門分野である生物の教科書なら、DNAがどう複製されてアミノ酸やタンパクを作っているのかといったことは動画で見るのがいいに決まっている。効率的に学習しようと思えば、電子書籍には限りない便利さと可能性があると思います。電子なら、紙の教科書から例えば化学メーカーの工場に飛んでいくとか、製鉄工場の現場に飛んでいくということもできる。実際に、いろんなメーカーさんが教科書製作に参画をするようなネットワークが生まれてきています。僕や仲間のメーカーがなぜ教科書に参画したかと言うと、CSV、公益事業になるからです。自社の持っている知的財産を教育のためにつないでいくというチャーミングなソーシャルウェアビジネスだと思っているからです。

――デジタル教科書に今後の課題などはありますか?


赤池学氏: 紙の教科書には検定があるので、出るまでに短くて3年ぐらいかかります。そうすると載っている情報も全部浦島太郎になってしまう。本が学校で採択される時には、最先端の技術情報はどんどん陳腐化していくんです。ただし、すべてデジタル教科書で勉強ができるようになるかと言うと、これもまた違う。僕らもそうだったけど、やっぱり赤線を引いたり、書き込んだりといった積み重ねが学力につながってくるので、一般の出版と補完し合える関係を作っておかなければいけません。ローテクな教科書を作っているからデジタル教科書も作れるんです。ベースが分かっていないとやっぱり型破りはできないということです。

合理化・最適化社会から自律化・自然化社会へ 


――今後、本あるいは出版社の役割はどうなるでしょうか?


赤池学氏: 広告を若い頃から学んできて、今現在も開発に関わった商品をどうプロモーション、コミュニケーションするかというデザインコンサルもやっていますが、そこで最終的に重要なのは、商品で言うとネーミングなんです。出版が担える上位の価値は言葉作りだと思っています。広告の世界だとビジネスブームワードと呼びますが、例えば、僕は嫌いだけど「低炭素社会」とか、千年持続学会の研究者の一人、沖大幹教授が提唱した「バーチャルウォーター」とか「仮想水」とか、社会のフラッグシップになる言葉を、書籍を通じて世に提起できるかということが、出版の一番重要な価値だと思います。
例えば、「燃料電池」と聞くと、普通の人は「乾電池なの?」と思ってしまいますが、小社がコンサルをして「エネファーム」、家の中にエネルギーの牧場ができるという言葉を提案しました。そういう言葉のインパクトってすごくあるんですね。ですから、社会に対するフラッグシップを打ち立てられる書き手や人材を、いかに発掘して育成するかということです。これが出版社と編集者の一番の役割だと思います。

――今後の社会ではどのようなフラッグシップとなるワードが考えられますか?


赤池学氏: 20世紀までは「合理化社会」で、利便なシステムがあらゆる領域に渡って整備されましたが、環境汚染を含めた負の遺産を溜めてしまった。日本を含む先進国は、この社会モデルとは異なる社会進化の模索に入ったわけです。それがエネルギーで言うと「エネルギーベストミックス」みたいな「最適化社会」です。しかし、全体最適というのは相当難易度の高いソリューションで、結果、部分最適に陥りやすくなる。そして、東日本大震災で、エネルギーの合理的な組み合わせについて専門家も国も答えを持っていないというのが、日本国民にバレバレになってしまった。最適化社会はあの瞬間に崩壊したんです。これからは、情報技術がどんどん成熟して、情報による民主化が起きてくるので、個人も企業も地方自治体も、自ら問題意識を持った情報を世界中から深くかき集めてきて、それをベースに個人も企業も社会も自ら計画をして行動をしていくようなアクションが加速してくるだろうと思っています。

僕はそれを「自律化社会」と呼んでいますが、その胎動は既に起きています。例えば今スマートコミュニティの実証事業が横浜、豊田、けいはんな、北九州で行われています。北九州は製鉄工場が水素を副生してくるので、水素を使った燃料電池の住宅やエコカーを作って独自の水素社会型のまちづくりをしています。たぶんこういうことがいろんな領域で自律的に起きてくる。いわゆる金太郎あめみたいな開発じゃなくて、自然のメカニズムとか生態系サービスとかを、ものづくりやまちづくりに取り込んでくる。それを僕は「自然化社会」と呼んでいます。

著書一覧『 赤池学

この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『デザイン』 『ものづくり』 『原動力』 『子ども』 『ユニバーサルデザイン』 『子育て』

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