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世界中の本好きのために

高殿円

Profile

1976年生まれ。武庫川女子大学文学部卒業。2000年に第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。『トッカン -特別国税徴収官-』(早川書房)『剣と紅』(文藝春秋)『メサイア 警備局特別公安五係』(角川書店)、や、漫画原作を務めた『魔界王子 devils and realist』(一迅社)など、映像化された作品も。 その他の著書に『カーリー』シリーズ(講談社)、『銃姫 -Phantom Pain-』(講談社、漫画原作)、『プリンセスハーツ』シリーズ(小学館)など。

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電子書籍は、埋もれている作品に命を吹き込む


――高殿さんは電子書籍についてはどのようにお考えでしょうか?


高殿円氏: 絶版本がなくなるかもしれないという点で、本当に素晴らしい媒体だと思っています。1回絶版になると同人誌で続きを出すしかないので。私もあるシリーズが打ち切りにあって同人誌で続きを出したこともありますが、同人誌を出すのは本当に大変なんです。自分で編集して、印刷所に出して、イベントに運んで売るというのを全部やらないといけない。昔は地方の方から、「イベントに行けないから通販してください」と言われて、死にそうになりながら、1日で500冊送ったことを今でも覚えています。今でも熱心にお手紙をくださって、字を見たら「ああ、この方だ」と思う方などもいらっしゃるので、その方のために通販もやめたくないと思うんです。でも今は子どもがいるし、家に本を置くところもない。「やりたい」と思うのと「もう体力的に無理だ、物理的に無理だ」って思うのが半々です。なので最近は、「電子で出せば」という話が仲間内でもよく聞かれるようになりましたね。本という媒体が行き渡らなくて、読まれなかったものを電子で個人的に出せるようであれば、売れなさそうなマニアックな本でも出せる。たとえば歴史物はあまり出版社の方は書いて欲しいとはおっしゃらないのですが、私は、書きたいという情熱がもともとそこから始まっているので、できればマニアックなものを書きたい。ニッチなものを出すには今まで同人誌しかなかった。それが電子で出せるかもしれないことに大きな可能性を感じています。

――昔の本が、新たな読者層から違った読み方で評価されることもありそうですね。


高殿円氏: そうですね。今年の3月に、『カミングアウト』で、JR東日本のブックエキスプレスが主催しているエキナカ書店大賞をいただいたのですが、あれはもともとソニーさんで出たものが絶版となり、徳間さんが引き取ってくださったという二次文庫なんです。それをブックエキスプレスさんが面白いと言ってくださったわけです。
もうひとつ、『オーダーメイドダーリン』という、うちの主人を改造する本があるのですが、出版当時はまだ「婚活」という言葉がなかったんですよね。それが婚活ブームといわれるようになって、有川浩さんが読売新聞でこの本を勧めてくれたら、びっくりするくらい増刷しました。もう何年も前の本なのに「婚活」というジャンルができただけで再評価してもらえる。私はそういうことが何度もあって、昔エンターブレインから出した『カーリー』という少女小説も講談社文庫さんでは重版がかかった。そういう本はもっとたくさんあるのではないかと思います。電子書籍で、そういう本にもう1度スポットライトが当たる可能性があるのはうれしいですね。

ジャンルを超えた作品を構想



高殿円氏: 最近すごく面白いなと思ったのが、DVDを買う時にiPodや携帯などに入れられるデジタルコピー版が付いてくること。ナンバリングされているので、そのデジタルコピー版だけじゃ絶対に譲渡できない。こんな風に本も1冊買ったらプラス200円などで電子版が付いてくるようになればいいと思います。出版社のサーバーに携帯でアクセスできれば、もっとみんな気軽に買えるし、著作者さんも本を買ってもらえていれば文句はない。でも、電子版だけを読んで本を売ってしまうようなことは絶対にあってはいけないと私は思います。

――確かに、新古書市場に紙の本だけが流通してしまうと著者への還元が一切なくなってしまいますね。


高殿円氏: 「ブックオフ問題」というのもありましたが、印税1割で食べていくのは日本の人口がギリギリなんです。人口はどんどん減っていくのに、著者に還元できなくなるシステムが確立されていくと、いわゆるクリエイターが食べていけなくなってしまう。だから版権をハリウッドに売れないか等、版元側もいろんなことをやってると思うんですが、日本はエージェントなども海外と比べて極端に少ない。でも例えば、本を1冊書く時に、英語化して電子配信するということも含めて契約したら、ユーザーがもっと増える。ありがたいことに私でも台湾の方などから、おそらく翻訳ツールで訳したたどたどしい日本語でファンレターをもらうこともあります。日本のコミックカルチャーというものが好きだからそこまでしてくれるわけです。だから、外国の方にももっと読んでもらえるようになればいいと思っています。そのためには翻訳は必須ですね。

――出版社の役割も変わっていくでしょうか?


高殿円氏: 出版社さんはエージェントになるべきだと思います。翻訳部門をもって、作家さんを海外に売っていく努力をしていけば、日本にエージェントがない状態も解消されるし、よく言われる「電子になったら出版社なんていらない」ということも防げる。編集者と同じように翻訳できる人も出版社にいればいい、ということです。いとこがアメリカで暮らしていて、「どうしてアメリカで売らないの?」ってよく聞かれていました。「1人でやるのは大変なんだよ」と言ったら、「アメリカでは個人で出版している人はたくさんいる。電子を使うんだ」と。それから3年経って、日本でもついにという感じです。

――最後に、作家としての今後の展望をお聞かせください。


高殿円氏: 何か「これ」というものはないですね。歴史作家と名乗るほど歴史物ばかり書きたいわけではないですし、SF作家と名乗るほどSFが書けるわけでもありません。ちょうど『トッカン』を評価していただいて、漫画の方も『魔界王子』である程度評価をしていただいたので、また別ジャンルで評価していただけるようになりたいです。
でも理想は、英語で自分の作品を書いて自分で海外に売り込めるようになることかな? 海外用の作品を、死ぬまでに一度やってみたいですね(笑)

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『漫画』 『女性作家』 『チャレンジ』 『子ども』 『小説家』

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