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鈴木亘

Profile

1970年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学経済学部卒業後、日本銀行入行。退職後、大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了、2001年経済学博士号取得。大阪大学社会経済研究所助手、社団法人日本経済研究センター副主任研究員、大阪大学助教授、東京学芸大学准教授などを経て、現職。専門は社会保障論、医療経済学、福祉経済学。主な著書に『だまされないための年金・医療・介護入門』(東洋経済新報社、第9回・日経BP・Biz Tech図書賞)、『生活保護の経済分析』(東京大学出版会、第51回・日経・経済図書文化賞)、『年金問題は解決できる! 積立方式移行による抜本改革』(日本経済新聞出版社)などがある。

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日銀で感じた「組織の壁」


――日銀時代はどのようなお仕事をされていましたか?


鈴木亘氏: 4年いましたが、しょせんドン・キホーテだった気がします。日銀は巨大な組織で、100年経っても変わる素質がゼロというかんじでした。消費税を3%から5%に上げる時期に、私は景気予測の主任をやっていて、どう計算しても「景気は悪くなる」という結果が出るのだけれど、上司たちは「悪くならない」と言う。日銀の景気分析のチームには2チームあって、1つは、消費や投資とか設備投資など、コンポーネント毎に1人ずつエコノミストを配置して、それをまとめるといったAチーム。Bチームの方は、コンピューターで予測する方で、私はそっちにいました。人間は、鉛筆をなめつつ、景気が良くなるというシナリオを書けるんだけど、コンピューターでやっている方は人間を介さないから「どう考えても景気が悪くなる」という結論にしかならないから、「何を言ってるんだ」と思いました。

――日銀には「景気が悪くならない」という分析結果を出さなくてはならない、何かがあったのでしょうか?


鈴木亘氏: 金利を上げたかったんです。「円卓(まるたく)会議」で、理事会が金利を上げる時期を探っているという「天の声」が聞こえて、そっちの方向を描かざるを得なくなる。でも私の性格上それはできないので、上司の覚えが悪くなったりしたのだと思います。
もう1つ、私がいた調査統計局でやったのが、「バブル反省プロジェクト」。要するに、バブルが終わって景気が悪くなったことの総括で、上の方から「調査統計局が、やりなさい」という話があったのですが、誰もやらない。きちんと分析せずに「日銀は正しかった」などと言うと怒られるし、でも「日銀のせいです。この理事がこう言ったのが間違いです」と言ったら、それはそれで怒られるから、どっちに転んでも大やけどをすることが決まっていました。私はその時、京都支店から戻ってきたところで、何も分かっておらず、「鈴木君、やらないか?」と言われて、火中のくりを拾ってしまいました。2年くらいやって、ずいぶん苦しみましたがバブルが起きたのも、崩壊させたのも、「財務省も悪いけど、日銀も半分ぐらい悪い」というのが結論でした。でも、それを誰も認めたくないので、たなざらしになったのを見て、そういう煮え切らない組織にいてもしょうがないと思って辞めました。外から言った方がまだ言うことを聞くんじゃないか、という気持ちもありました。

役に立つ知識は、発信してこそ価値がある


――日銀を辞められてから、大阪大学の大学院に進まれますが、社会保障に関する研究を本格的に始められたのはその頃でしょうか?


鈴木亘氏: そうですね。金融やマクロ経済学を分析すれば、自分がやってきたことなので食いつなげるとは思ったのですが、その時に、日銀に潰されるだろうということを考えました。日銀を批判せざるを得ないから、前の上司たちを敵に回すことにもなるし、そういうのにうんざりした気分もありました。もう1つ思ったことは、この分野には多くの天才がいるので、「自分が1人出ていっても大したことはできないな」ということでした。そこで視野を広げてみると、社会保障の分野には先生もいないし、大学院生たちは見向きもしない。でも重要な問題が山積み、といった状態でした。
社会人を4年やっているので同期の大学院生達と世代が違うということも良かったと思います。経済学には「数学を使う奴がトップだ」という価値観があって、山頂の空気の薄いところで数学を使って生きてる連中がトップ。財政や金融がその次で、医療経済学に関しては、もはや経済学かどうかすら分からない。私は一度社会人になっているので、そもそもアウトサイダーのようなもので、そういった価値観は関係ないということも、ラッキーだったと思います。

――学術研究だけではなく、一般向けの書籍などで提言されるようになったのはどういった想いからでしょうか?


鈴木亘氏: アカデミックな世界には、いっぱい知恵がありますが、ギルド社会なので外に出そうという気はあまりないと思います。仲間内だけで難しいことをやって喜んでいて、なぜ役に立つ知恵を外に出さないのかとずっと疑問に思っていました。大学時代の先生たちも、経済学を実践するというタイプだったこともあります。財務省の言いなりではない選択肢を用意して、新書など、高校生が分かるような感じで書かないと意味がない。学者としての業績にはなりませんし、出世したければ世の中と向き合わないほうがいいのかもしれませんが、私はそれでは意味がないと思っています。

――財政の問題は、世代間などで利害が衝突することも多いですね。


鈴木亘氏: 今回消費税を上げても、社会保障に全部使うことになりますから財政再建にはなりません。でも高齢者の負担を上げると言ったら「大反対だ」と大騒ぎになります。財政危機は絶対起きると思いますが、高齢者たちなど、いま既得権を持って「補助金よこせ」と言っている人たちも譲らなければならないのです。高齢者と若者の利害対立は特に深刻ですが、保険料が上がることに反対している人たちも、払える人が払ってくれないと、あなたの孫たちがどういうことになるか、ということを理解すれば「申し訳ないな」と思うでしょう。「来年から保険料の自己負担が上がるよ」と言ったら誰でも嫌だと思うので、その背景をちゃんと説明してあげないといけないのです。

著書一覧『 鈴木亘

この著者のタグ: 『大学教授』 『経済』 『考え方』 『価値観』 『教育』 『経済学』 『景気』

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