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世界中の本好きのために

荒井一博

Profile

1949年長野県生まれ。イリノイ大学大学院修了(Ph.D.)。パデュー大学客員助教授、クィーンズランド大学客員教授、一橋大学大学院経済学研究科教授を経て、現職。教育の経済学の研究はわが国において先駆的で、『教育の経済学』『学歴社会の法則』The Economics of Educationなどの著書がある。雇用制度の研究ではゲーム論などを使って文化的要因も分析し、『文化・組織・雇用制度』『雇用制度の経済学』『終身雇用制と日本文化』『文化の経済学』などを著わした。『信頼と自由』や『自由だけではなぜいけないのか』などの自由に関する著書もある。『ミクロ経済理論』や『ファンダメンタルミクロ経済学』などの教科書も高く評価されている。

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図書館でも貸出料を取るようなシステムを


――電子化の流れの中で、今後の図書館に関してはどうお考えでしょうか?


荒井一博氏: 出版物や情報は指数関数的に増えていくんですが、それに対して図書館のスペースには限りがあります。既にあるような形の図書館を物理的に拡大し続けることはもう不可能で、どうしても電子化せざるをえないと考えます。多くの大学の図書館は初めから大きく設計されたものではなく、建て増しを繰り返してきているので、かなり使いにくくなっています。若干極端にいうと、これからはコンピュータが図書館になるので、大きな建物は不要になります。電子化された書籍や雑誌を必要な人に配信するという電子図書館になるんじゃないかなと思います。複数あるいは多数の大学が一つの電子図書館を共有することも十分ありえます。

――図書館における経済的な問題はありますか?


荒井一博氏: 伝統的な図書館というのは、人々の所得に比べて本の価格が高かった時代の産物で、人々に無料で新しい知識を与えて社会を良くしたいというのが、図書館のもともとの哲学だったと私は考えます。これは経済学的に説得力ある説だと思います。しかし、そうなると利用者は情報や知識を得ているのに、著者や本の製作販売者に十分な報酬を払っていない、といった問題が起きていることになります。後者にもっと報酬があればよりよい活動ができると思います。経済理論的にいえば、そういうことになります。そのため図書館は、本を貸し出す時に、電子書籍も含めて、本の貸出料をある程度徴収するようにするべきだと私は考えます。例えば電子書籍の場合に貸出料として200円前後を徴収すれば、出版社や著者も恩恵を受けて、現在よりもっと優れた書籍を出版できるようになると思います。携帯電話に月何万円もかける人さえいるので、それと比べれば大した金額になりません。月に何十冊も読む人はそれほどいないと思います。出版界は長らく不況にあるといわれていますが、その一因は図書館の制度にあると私は考えます。

日本のことを考えてくれる人に届けたい


――基本的にどのような姿勢で本を書かれていますか?


荒井一博氏: いちばんの基本には、「日本が良い社会になるのに自分の著書が少しでも貢献できたらいいな」という思いがあります。日本の人に「どのようにしたら日本が良い社会になるか、魅力的な社会になるか」を考えてもらいたいと念じて本を書いています。それとは別に、優れた日本語で文章を書いてみたいという思いもあります。当初はそのような考えを持っていなかったのですが、著作を重ねるうちに次第にそのような思いが高まってきました。日本語の可能性を追求したいと考えています。そのため、原稿を編集者に渡す前に自分で大いに努力し工夫をしています。
本の書き手は文化の形成に大きくかかわっているので、それなりの自覚をもって執筆をすべきです。日本社会の文化的水準を下げ日本人を堕落させて金を儲けるというような本も少なくありません。多大な税金を投入して教育の行われている大学の出身者である大学教師のなかにも、そうした書籍を多数書いている人がいます。私はそういう本は書きたくありません。

――ものを書くということは、荒井さんにとってはどのような行為ですか?


荒井一博氏: 一言でいえば「自己の存在を表現すること」です。著書を通して、自分はどういう人間でどういうことを考えているのかを伝えることです。日本を思い日本をよくしようと考えている読者を想像しながら、彼らに訴えるように書いています。売れ行きがよければそれに越したことはありませんが、それよりも日本のことを考えている人たちに自分の考えを伝えたい、と思いながら書いています。
私が文化的側面を強調し、社会で支配的となっている考え方に注意するよう警告を発してきたのもその一環です。ほとんどの経済理論は世界で同様に成立すると暗黙のうちに主張され広く信じられていますが、実際はそんなことがありません。また、経済理論自身にも現実を大きく歪めて表現したものが少なくありません。平易にいえば、一見明快であるが大きく誤った経済理論が少なくないのです。単純な経済理論には特に注意が必要です。ロマン・ローランが「芸術には真実を嘘で包み込むような面がある」というようなことを言っていたと思いますが、学問も同様で芸術以上に深刻だといえます。経済学的な主張のなかには、実際に適用すると日本の経済社会を悪化させてしまうものが少なからず存在すると私は考えます。さらに、今日の世界を覆っている欧米的思考では、人類が今後200年ももたないと私は考えます。人類の存続を長く保障するのは、伝統的な日本人が理想としてきた思考にかなり近いものであると私は信じます。真剣に日本を思う人たちに、経済学的な論理を使ってこうしたことも伝えたいと考えてきました。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。


荒井一博氏: これからも色々なものを書いてみたいと思っています。エッセイなどのアイディアもあります。地理や文化人類学に対する関心がまだ残っていて、可能なら紀行文も書いてみたいと思っております。あとは青少年向けの本なども機会があれば書いてみたいと考えています。私は長らく成人を対象に文章を書いて来ましたが、われわれの将来を託す青少年に話しかけることも必要かなと考えるようになってきました。今後は自由な時間が増えるので、新しいことをやってみたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 荒井一博

この著者のタグ: 『大学教授』 『経済』 『可能性』 『研究』 『教育』 『国語』 『留学』 『書店』 『バイク』 『富士山』

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