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世界中の本好きのために

池内了

Profile

1944年兵庫県生まれ。72年京都大学大学院理学研究科物理学専攻修了、理学博士、国立天文台教授、名古屋大学教授などを経て、2006年より総合研究大学院大学教授、現在は同大学理事。著書に『科学の考え方・学び方』(岩波ジュニア新書、1997年講談社出版文化賞科学出版賞受賞)、『科学の限界』(ちくま新書)、『生きのびるための科学』(晶文社)、『科学と人間の不協和音』(角川新書)、『疑似科学入門』(岩波新書)、『物理学と神』(集英社新書)、『寺田寅彦と現代』(みすず書房)など多数。最新刊に『現代科学の歩き方』(河出書房新社)がある。

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電子書籍は3次元、そして4次元に


――電子書籍についてもお伺いします。池内さんはご自分の本が電子化して読まれることに特別な思いはありますか?


池内了氏: 僕自身は、読まれる分においては、どんな読まれ方でもいいと思っています。ただ、僕の個人的な趣味でいえば、紙の方が好きだし、電子書籍はなかなか自分の頭の構造と合わない気もしています。個人の好き嫌いとは別に、読者が僕の本を電子書籍で読むか、紙で読むかは、どっちでもいいことで、とにかくたくさん読んでもらうことが大切なのです。

――紙の本の方が優れていることはどのようなことがありますか?


池内了氏: 例えば、教科書は紙でないとだめだと思います。線を引いたり書き込んだり、行ったり戻ったりが簡単にできなければいけません。人間というのはアナログ的な認識をしていますから「だいたい本のこの辺りに書いてあった」などと覚えているわけです。参考書類は横に置いて、また次の本を置いてという風にたくさん並べながらやった方がいいと思います。

――電子書籍の可能性にはどのようなことがあるでしょうか?


池内了氏: 僕は図鑑を監修したこともありますが、きれいな写真を使うものは電子書籍だと非常にいいと思います。例えば『泡宇宙論』だと、泡が動いていくような動画なども入れたり、星ができるまでの絵を順に並べて動くようにしたり。だから、電子書籍は単純に紙の本を電子書籍にすればいい、というものではない気がします。紙ではなかなかできないことをプラスアルファして、2次元ではなく3次元的な、あるいは時間を入れた4次元というような工夫をすればもっと豊かになるはずです。文章は同じ内容でも表現形としては違うものになる可能性がありますし、そうするべきだと僕は思っています。ただ、僕がそのような本を作るのに協力しろと言われた時に、協力するかどうかは別ですが。
小さい頃からテレビを見ている人たちは、動画などを自由に扱いますし、研究発表の時にも、PowerPointを上手に使います。絵が動いたり、クローズアップになったり、遠景で見たりという、そういうセンスに若い人は優れている部分があると思うので、そういう形態で作っていくのが合っているのかもしれません。僕は文章で感動を与えられるものを目指したいし、それが一番いいものだと思っていますが、動きも含めた本ができるのも又面白いのではないかとは思います。

本の存在を知る方法を確立すべき


――電子書籍の登場で出版業界はどのようになっていくでしょうか?


池内了氏: 今の出版業界は新書戦争が長い間続いていて、やたらと数が出ていますが、あれだけ数が出ていたら、どれだけいい本が出ているのかも分かりませんし、大したことがないものもたくさん出ているだろうと思います。だから本を慎重に選ばなくてはいけませんが、選ぶにしては数が多過ぎて時間が足りないし、置くスペースがないから、返本もどんどんしていくことになる。無駄なことをしているな、という感じがしないでもありません。
電子書籍は書店を通さなくてよいのがメリットですが、本を探すのに電子的に本がズラリと出てくるようになるので、人々がその本をどれほど知ることができるか、ということ重要だと思います。本屋の場合は手に取って見ることができるのですが、リストをずらずらと並べてあるだけでは、なかなか良い本を見つけることができません。本屋での立ち読みのように、WEB上で立ち読みできる要素を取り入れないといけないと思います。本を買う時は、いつもテーマを持って探すわけではなくて、漠然と何か面白そうなもの、という探し方もありますから、その時にどれだけヒットするか、どれだけ選んでもらえるようにするかが工夫のしどころです。ですから、そういった意味でも電子書店の役割と工夫を考えないといけません。

――本作りにも、書店作りにも、電子書籍ならではの工夫が必要ということですね。


池内了氏: 電子書籍になると、多様な内容の本ができやすくなります。例えば、1つのテーマで、「大人用」「子ども用」ということもできるかもしれません。電子書籍の出版社はそのようにバラエティに富んだものを準備して、それをどう読ませるか、どう組み合わせるか、などを考えることが必要になるでしょう。他方、紙の本には紙の本の意味があるわけで、紙の持っている雰囲気というのを大事にしなくてはなりません。ですから、紙と電子は住み分けが必要なのだと思います。

「サイエンス・ディテクティブ」を描きたい


――最後に、今後の展望をお聞かせください。


池内了氏: 僕は来年の3月に、大学の理事の任期満了の時期を迎えますが、その段階で、公職に就くのはやめようと思っています。僕自身は、宇宙論の研究者を7、8年前に辞めて、科学技術社会論という新しい分野に取り組み始め、その分野での実績を残さないといけないと思っていますので、科学技術社会論のきっちりとした本をライフワークとして出したいと思っています。すでにみすず書房と約束しており、3巻ぐらいで出そうと思っていて、今一生懸命まとめています。宇宙の本をたくさん書いてきて、「科学と社会」に関してはあちこちで書いてきましたが、今までは断片的だったので、1つの集大成としてそれをまとめ直す作業です。あとは小説にもチャレンジしようかなと思っています。

――どのような内容になる予定ですか?


池内了氏: 1つ考えているのは「サイエンス・ディテクティブ」、科学探偵です。『ガリレオ』シリーズはこの前テレビでもやっていましたし、僕も読みましたが、かなり高度な科学知識を使っています。僕はあれほどの科学の知識は使わずに、科学をアナロジーとして使うということを考えています。アームチェア・ディテクティブ、安楽椅子探偵のように、科学に関わるヒントから、現実に起こった事件を解決するような話ができないかと思っています。人間は誰でも1冊の本は書けると言われますが、さらに70代は自分の人生を見直す本、自分の生き方を書いていきたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 池内了

この著者のタグ: 『出版業界』 『可能性』 『紙』 『研究』 『宇宙』 『書店』 『天文学』

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