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世界中の本好きのために

さくら剛

Profile

1976年生まれ、静岡県出身。中京大学中退。 「『中程度』の引きこもり」生活を送っていたが、アメリカ合衆国やへのインド旅行、南アフリカ共和国から中華人民共和国までのほぼ陸路による旅行記を自身のサイトに書き連ね、最終地の北京からの帰国後『インドなんて二度と行くかボケ!』(アルファポリス)を出版。 以降、自身の海外体験を扱った旅行記をはじめとする著書を多く執筆している。 その他の著書に『三国志男』『感じる科学』(サンクチュアリパプリッシング)など。 近著に、初の小説『俺は絶対探偵に向いてない』(ワニブックス)。 インターネットラジオ「さくら通信」配信中。
http://sakuratsushin.com/

Book Information

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一度の「やりきった」体験で、人生が変わる



さくら剛さんは、インドや中国、南米等での体験を赤裸々につづった旅行記が人気の作家です。著作への高い評価の理由は、なんといっても「笑える」ことにあります。自らの引きこもりや、失恋の体験もギャグとして発信する、さくらさんの笑いの原点を探りました。また、表現者、また旅行者として見た、電子書籍の可能性についても興味深いお話を伺うことができました。

漫画とゲームに明け暮れた少年時代


――旅行についての著作が人気ですが、普段のお仕事はどういった形で進められているのでしょうか?


さくら剛氏: 旅行記を書く場合、旅行をする期間と、部屋で執筆する期間があります。作家というと、締め切りまで徹夜して書くようなイメージがあるのかもしれないですけど、僕はそれでは頭が働かなくて、思いっきり寝ないとだめです。そうすると、なぜか1日1時間くらいずつ起きる時間がずれていく。10時に起きた次の日に11時に起きて、その次は12時と、何カ月もそういう生活を送っています。

――24日で1周しますね。


さくら剛氏: そうですね(笑)。だから夜の10時に起きてしまう日もあって、気分が落ち込みます。夜だと行ける所も限られてくるし、人とも会わずに部屋にこもって書いているので、かなりしんどいですね。

――今日はさくらさんの創作のルーツに迫ってみたいのですが、幼少期はどういったお子さんだったのでしょうか?


さくら剛氏: 根暗でしたね。1人っ子で、人との触れ合い方がよく分からなくて、漫画ばかり読んでいました。

――どんな漫画がお好きでしたか?


さくら剛氏: 好きだったのは『少年ジャンプ』系で、小、中学校ぐらいに『ついでにとんちんかん』という漫画の連載があって、それが僕のギャグの原点です。面白いことを考えるようになったきっかけはあの漫画だと思っています。それと小学校高学年ぐらいでファミコンが登場して、もうオタク街道まっしぐらです。ファミコンがあれば友達と遊ばなくても平気ですから、ずっと家に引きこもってファミコンをやる日々でした。スーパーマリオとか、スペランカーとか、当時は新しいものを買ってもらえないから、同じゲームを何回も何回もやっていました。ドラクエⅠは発売日に買いましたが、ドラクエは自分の成長と共にありまして、シリーズ全部やっています。リアルな友達よりも、ドラクエの戦士とか僧侶が友達でした(笑)。

3日でフラれ、旅に出た



さくら剛氏: 当然、僕は女の子にもモテなかった。学生時代は「それでいいや」という感じでした。社会人になると、気に入った女の子を遊びに誘ったり、細かく戦略を立てるようになりましたが、いいところまでいっても、最後は僕の根暗さが見破られる。オタクでも、いいオタクはいますけど、僕は「ゲームオタク」で、女性には何の魅力も感じられないタイプのオタクです(笑)。オタクであることを一生懸命隠しているんですけれど、コミュニケーション力のなさとか、いざという時の頼りなさとか、おどおどする感じでバレるんだと思います。そういう時に横からサッカー部出身とかの男が出てきて一気に彼女をかっさらっていく(笑)

――旅行に出会われたきっかけはどういったことでしたか?


さくら剛氏: 大きなきっかけは彼女にフラれたことです。その彼女も「付き合おう」となってから3日ぐらいでフラれた。その彼女が旅好きな人で、中国に留学に行ったんです。付き合って3日目ぐらいに「中国に行くから、さようなら」みたいな感じで、嫌だったから中国に逃げたのかなと思うぐらいのタイミングでした。最初に食事に誘った時点で断られるならダメージが少ないのですが、山のてっぺんまで登ったところで突き落とされるとダメージがデカい。それなら最初から仲良くしないでほしいくらいです。その時に、「自分はこのままじゃだめだ」と思った。女の子だけの話じゃなくて、友達作りであったり人付き合いであったり。僕は言ってみればサッカー部の友達が欲しかったんだと思います。でも、他人の目からしたら、こんなやつと友達になりたくないだろうし、ましてや女の子だったら絶対付き合いたくないだろうと。で、ちょっと苦しい所に身を置かないといけないということで「旅」に行きついたんです。

――最初の旅行ではどちらに行かれましたか?


さくら剛氏: その彼女を中国まで追いかけて行こうとしたんです。でも、中国にいきなり行くのではなくて、そこにたどり着く前に一人旅の中で自分を成長させていきながら中国を目指そうとしました。世界地図を見て、陸路で中国から一番遠い場所が、南アフリカ共和国だったので、スタートを南アフリカにして、そこから中国を目指して旅が始まりました。

――すごい行動力ですね。


さくら剛氏: 恋愛のパワーってすごいですね。中にはストーカーになったりする人もいますが、ストーカーになるのも、ものすごいエネルギーがいる。エネルギーが負の方に行くとそうなる。パワーを正の方に何とか転じようとして始めたのが旅だったと。まあ、言い方を変えれば壮大なストーカーでもあるとは思いますが(笑)、海外に行って良かったと思います。もし負の方にいったら、逮捕されるぐらいになっていたかもしれないですから。

旅は「はぐれメタル」並の経験値が得られる


――本を出版されるきっかけはどのようなことでしたか?


さくら剛氏: 帰ってきて最初はホームページで旅行記を書いていて、それを本にしたいなと思って、出版社を回って持ち込みをしていました。それは実らなかったけれど、出版社が開催していたコンテストみたいなものに応募して、投票制みたいなものだったんですけれど、その投票で1冊目の本が出版に至りました。

――『インドなんて二度と行くか!ボケ!! …でもまた行きたいかも』ですね。インパクトのあるタイトルで、話題作となりましたね。


さくら剛氏: タイトルは編集者に勝手に付けられましたが、最初に見た時はものすごく嫌でした。「本のタイトルってこんなのでいいの」と思いました。しかも長いし(笑)。その後は幸いにも、トントン拍子にほかの編集者の方から声をかけていただくようになって、特に自分で売り込みをせずに今まできたので、結果的に良かったですね。

――表現者として旅行によって得たことはなんでしょうか?


さくら剛氏: 旅に出ると、出来事がものすごく多い。人との出会いという点でも、トラブルという点でも。ドラクエに例えるならば、日常経験がスライムだとしたら一人旅は、はぐれメタルです。一気に経験を積めるから、自分を成長させるためには有効な手段かなと思います。「自分探しの旅」という言い方がありますけれど、確かにそういう側面はある。ただ、多くを求めてはいけない。僕も変わった点もあるけれど、変わらなかった点もすごくあって、根本的には変わっていないですから。

変われないなら、このままの自分で行くしかない



さくら剛氏: 僕は甘やかされて育ったので、寒いのとか暑いのとか苦しいのとか、全部苦手で、そして人ともしゃべれなかった。アフリカ大陸を縦断すれば、暑いのも平気だし、人ともどんどんコミュニケーションを取れるようなやつになるんじゃないかと思ったんですけれど、向こうに行ったら行ったで、暑いのは嫌だった。人との会話にしても、コミュニケーション力は全然つかなかった。現地の人のお宅に招かれたり食事に誘われたりしますが、スーダンの人と日本のオタクでは共通の話題が何一つない。ドラクエの話もできないし、そもそも言葉が通じない。結局海外で感じたのは、日本で引きこもれる環境ってすごく幸せだということです。日本に帰ればトイレも風呂もあるし自分の部屋があって、何不自由なく暮らせる。ブロードバンドは常時接続だし、ゲームもある。日本での引きこもりの素晴らしさを海外でしみじみ感じました。旅で出会う日本人って、みんな「日本に帰りたくない」って言うんですけど、僕は毎日一刻も早く帰りたかった。だから帰ってきて、引き込もれることの幸せを感じて、引きこもりがひどくなったような感じです。その点では結局成長してないです。



――最も変わった部分はどういったところですか?


さくら剛氏: アフリカ縦断やアジア横断の旅を1年以上しても、自分が変わらなかったということは、今後の人生は、もうこのままの自分で行くしかないんだという悟り、気付きを得たことだと思います。今みたいに引きこもりを売りにすることで、外に出て行けるようになった。この仕事は人とすごく会いますが、初対面の人に本来の姿を出して黙っていても全然話が進まないので、無理やりしゃべるようになりました。昔は根暗で、友達もあんまりいなくて、モテなくて、しかもそれを隠してかっこつけるような感じだったんですけれども、今はそれを前面に出して開き直れるようになったというのが成果です。旅行記でも、ブログを書いている人は、自分をよく見せたいというのがすごく伝わってきて、読んでる方は面白くない。人がかっこつけている姿ってムカつきますものね、やっぱり。

電子書籍は旅のスタイルを劇的に変える


――さくらさんは電子書籍を利用されていますか?


さくら剛氏: タブレットを持っていないので使ってないです。ただ、7月に僕の旅行記全部を1シリーズまるまる、アフリカから中国まで電子書籍化するようです。僕の旅行記は、電子向きな気がしています。もともとホームページから出ているということもあって、写真とかフォントとか、ネット的な見せ方をしているので。電子書籍だと、ページをめくった所で、面白い写真をバーンと出して、それに突っ込みを入れるとか、「写真ネタ」がやりやすい。紙の本だと、ページをめくって見開きでバーンと出したいのに、調整がうまく行かずに左側のページに出る場合があるんです。それだといまいち効果が薄い。前の文章を読んでいる時点で次のネタがちょっと見えちゃう。電子書籍で1ページずつ作れれば、より面白く見られるかもしれないな、と思います。

――読者として電子書籍に期待されていることはありますか?


さくら剛氏: これはもう皆さんおっしゃることだと思いますが、旅という視点で考えると、持っていく荷物が減るのはいいと思います。紙の重さというのは半端じゃない。長旅だと持っていく本の冊数が多くて、中国に行った時には吉川英治の『三国志』を8冊まとめて持っていきましたし、『地球の歩き方』も各国分ある。本を持っていくのは旅の宿ってやることがないからです。エチオピアの宿に泊まった時なんか、周りに何もないから瞑想ぐらいしかやることがなかった(笑)。だから本をたくさん持っていきたい。人によっては文庫本を50冊ぐらい入れて運んでいる人もいました。それがタブレットに全部入るとしたら、荷物が劇的に減ります。そのメリットはデカいと思います。

――逆に、紙の本の方が良い面はあるでしょうか?


さくら剛氏: 旅先で紙の本を持っていると交換ができる。同じ宿で知り合った旅行者と読み終わった本を交換して、その本の巻末の余白に、自分の名前とどこで交換したかということを書く。それを見てみると、アジアを本が何往復もしていたり、何人もの手を渡ってすごい距離を旅している本に出会ったりして面白い。一緒に旅をした本はボロボロになるんですけれど、そのボロボロさが感慨深かったりするので、それも紙の本の良さかなと思います。あと、ケニアのナイロビとかでタブレットを持ちながら歩いていたらもう一瞬で強盗に襲われると思います。装飾品を身に付けたら襲われるので腕時計もしてはいけないくらいですから。強盗も石でいきなり頭を殴ってきたりします。「ツーリストアタック」という強盗もあって、いきなりタックルをガーンとして、ぶっ倒れている間に荷物を取っていく(笑)。知り合いの人はそれで肩の骨を折って帰ってきました。こちらとしては、ちゃんと脅してくれれば素直に渡すから、体だけ無事で帰してくれと言いたいですが・・・(笑)

「笑い」を作り上げるセンスを試したい


――さくらさんは、旅行記を通して伝えたい想い、メッセージはありますか?


さくら剛氏: 僕と同じように、ニートとか引きこもりで苦しんでいる人が「こいつでできるなら自分でもできそうだな」と思ってくれればいい。行ってみたら案外できちゃうものです。最初の一歩、決断をするまで、航空券を買うまでが難しい。その1歩は自分で踏み出すしかない。そして、何か1つやりきると「やりきるクセ」が付くと思います。「やりきらないクセ」が付いている人は何を言ってもだめで、何か1つだめな人って全部だめだったりする。ダイエットにしても、1個やりきったら次のこともやりきれると思う。「自分ってやりきることができる人間だったんだ」ということに気付いたら人生がすこし変わるのではないかなと思っています。
30年前とか『深夜特急』の時代だったら海外旅行も難しいと思うんですけれど、今は簡単です。女の子でも一人で世界一周をしている人がたくさんいます。それに、ほかの国に比べれば、日本は何か1つやりきるのは簡単です。発展途上国はやっぱり生活がすごく苦しいし、ハングリー精神がものすごくて,みんなグイグイ前に出て行く。だから競争が激しいと思う。でも日本は、苦しくても案外生活できているし、そんなに頑張らなくても、日々の生活に困ることがない。何かを成し遂げようとする時の頑張り度が、ほかの国より少なくて済むお得な国だと思います。ちょっと頑張れば成功に近づけるという点ではいい国だなと思います。

――最後に、今後のお仕事の展望をお聞かせください。


さくら剛氏: 僕が旅行記でやりたかったことは「笑えるもの」を作るということです。だから必ずしも旅行でなくても良くて、笑わせる材料の1つとして旅行があった。最近は、科学の本や小説を書いています。旅行記のジャンルは直木賞のような賞もないし、ドラマ化するようなものでもない。広がりようがあんまりないですから、もっと多くの人に目にしてほしいので、ほかのメディアに展開できるようなジャンルを書いて、自分のセンスをどこまで受け入れられるかというのを試してみたいです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 さくら剛

この著者のタグ: 『ゲーム』 『漫画』 『旅』 『作家』 『きっかけ』 『変化』 『笑い』

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