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世界中の本好きのために

加藤嘉一

Profile

1984年、静岡県生まれ。 高校卒業後、単身で北京大学留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。 「中国で一番有名な日本人」と呼ばれ、2010年、中国の発展に貢献した人に贈られる「時代騎士賞」を受賞。2012年夏、9年半過ごした中国を離れ渡米、ハーバード大学ケネディースクールフェロー2012〜2013、ニューヨーク・タイムズ中国語版コラムニストを務める。 日本での著書に『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)、『中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)など。2013年夏、「加藤嘉一中国研究会」を発足。
【公式サイト】http://katoyoshikazu.com

Book Information

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「個」として行動する姿を示したい



加藤嘉一さんは、国際的に活躍するコラムニスト。ファイナンシャルタイムスやニューヨーク・タイムズの中国語版や著書、ブログなどでの国際問題についての発言が、日本、中国をはじめ各国で注目されています。意外にも加藤さんは、18歳で北京大学に留学するまで1冊も本を読んだことがなかったそうです。研究や執筆のために膨大な本を読み、重要性を認識するようになった今も、読書と独特の距離感を保っています。

読書ゼロから、1年300冊へ。


――つい先日までアメリカにいらっしゃったそうですね。


加藤嘉一氏: 帰国して3日ぐらいです。ハーバードケネディスクール(公共政策大学院)を拠点に、米中関係の研究や中国問題に関する執筆に取り組んでいます。もうしばらくはハーバードを拠点に研究や執筆をやっていくと思います。アメリカ社会を知るいい機会でもありますから。

――これまでの読書についてのお話をお聞かせください。


加藤嘉一氏: 単刀直入に申し上げると、私は高校を卒業するまで教科書や参考書以外は1冊も本を読んだことがありませんでした。英字新聞は英語の勉強で読んでいましたが、文学作品やノンフィクションなどは全く読んでいませんでした。

――それには何か理由があったのでしょうか?


加藤嘉一氏: 別に本を排除していたとか、意地でも読まないとか、そういうことではなく、単純にお金や余裕がありませんでした。僕は駅伝をやっていたので、時間がなかったというのが最も大きいです。最初に読んだ本は、18歳の時に留学した北京大学の中の古本屋で買った、日本円で200円ぐらいの、北京大学の学者が書いた日本経済についての本だったと思います。それからは猛烈に本を読み始めて、年間平均300冊は読みました。18歳で中国に行くことを選んだのは、おそらくこれからの人生を考えてもベストチョイスだったと僕は思っています。でも、このチョイスは本を全く読まずになされました。幼いころ、日本の閉そく感に苛立っていたり、英語が好きで国連職員になりたいという気持ちもありましたが、それも本とは関係がない。僕が本を読まずに選択したことが、いいか悪いかを証明するのはもっと先の話でしょう。

――北京大学に入学されてから、たくさん本を読まれるようになったのはなぜだったのでしょうか?


加藤嘉一氏: 北京大学の学生は強者ばかりでしたから、勉強しなければヤバいという危機感からです。また、20歳からテレビに出て発信するようになったので、勉強して知識を吸収しないとダメだと思いました。当時イラク戦争が起こっていましたが、中国人学生や、世界約100カ国から来ている留学生と、英語で国際問題について議論しました。時事問題について議論する時に必要なことは、異なる言説に異なる言語で触れることです。例えば、日中関係がなぜ今こんなに悪いのかと考える時、少なくともいつ国交正常化したか、その時にどういう交渉が行われたかなどを多言語で検証し、歴史的なアプローチをする必要がある。知的な蓄積をしていかなければいけません。

読書は「学びの三位一体」の1つ。


――加藤さんは日本語、中国語、英語を使われていますが、本は何語で読まれること多いですか?


加藤嘉一氏: 私が初めて読んだ本は中国語ですが、古典もほとんど中国語で読んでいます。アダム・スミスの『国富論』や、マルクスの『資本論』、ミルトン・フリードマンも中国語です。だから中国語を読むスピードが日本語の2倍速い。日本人の中国語速読選手権があったら結構強いと思います(笑)。それを今、ハーバードで英語で読み直している。僕の読書体験は日本語が最後なんです。幸い、周りにたくさん日本の駐在員の方々がいて、本をくれたりしましたので、日本の本にもそれなりに触れ合う機会があったのですが、北京大学、大学院で読んだ本の割合は中国語が7割、英語が1.5、日本語が1.5という感じです。

――ご著書も多くが中国語で書かれていますね。


加藤嘉一氏: 文章を発表したのも最初は中国語です。日本語でも2005年の段階で、『週刊東洋経済』と『AERA』に書かせていただきましたが、中国語による執筆・読書の方が圧倒的に多かった。多くの人たちは、中国はなんだかんだいっても社会主義で、本だって検閲されているから思想的に偏りがあるのではないかと疑問に思うかもしれません。だから常に疑ってかかり、可能な限り異なる言語でチェックをして、中国人とだけではなく、外国人とも議論するように心がけました。例えばマルクス主義や、毛沢東思想や、鄧小平理論はイデオロギーですから、周りの北京大学生は適当に読んでいました。ただ、僕にとっては新鮮だったし、必修の授業だったので、暗記する勢いで読みあさりました。

――加藤さんにとって読書とはどのようなものでしょうか?


加藤嘉一氏: おそらく人間にとって一番楽しいことは「学び」です。学びたいと思う気持ち、知的好奇心は、一番豊かな、素敵な心だと思うんです。そして自分にとって「学び」とは何かと考えた時、1つ目は読書、2つ目はコミュニケーション、3つ目が旅です。本を読むだけではなく、異なる風景を見て、異なる空気を感じて、異なる言語で人とコミュニケーションをとること。読書は、先人の研究や思想に触れることで、知的なベースになります。そしてコミュニケーションと旅によってそれを消化して、知的な蓄積をダイナミックなものにしていく。例えば1冊の本をめぐって僕の理解とほかの人の理解は違いますし、中国語で読んだ場合と英語で読んだ場合でも違う。コミュニケーションによって生まれる関心や、欲望、渇望はこんな本を読みたいという形で必ず返ってくる。



自分にとってこの3つは、どこが起点でどこが終点ということではなく、三位一体なのです。読書は、人間にとって一番楽しくて豊かな「学び」における欠かせない1つの要素ですね。自分にとって本を書くことと本を読むことの難易度はそんなに変わりません。1冊の本をしっかり読むことは、自分の考えを外に発信するのと同じくらい難しい。書くことと読むことは表裏一体なのではないでしょうか。私はマラソンをやっていますが、走り始めれば汗をかく。汗をかけば水分が欲しくなるように、発信して、吸収しての繰り返しなのだと思います。

日本「ガラパゴス化」のすすめ。


――加藤さんの本の読み方、読書スタイルをお聞かせください。


加藤嘉一氏: 割り切って読むことができないタイプで、斜め読みのようなことができないので、読むのは遅いです。新書を読むのに、少なくとも5時間かかりますが、本当は2日くらいかけてじっくり読みたいです。ハードカバーであれば、基本的には2、3日かけて読みますが、仕事の関係で目を通さなければいけないという本もあるので、1日に同時に2、3冊ぐらい目を通しています。書斎にこもって読むタイプではなくて、ベンチで読んだり、歩きながら読んだり、旅先で読んだりします。

――最近はどのような本を読まれていますか?


加藤嘉一氏: 今読んでいるのは、僕と1文字違いの加藤周一さんの、『日本人とは何か』です。米ニューヨーク・タイムズの中国語版でコラムを書き始めたのですが、僕自身が今年、日本を出て10年という節目の年ということで、日本・日本人を見つめ直すテーマにしようと思っているんです。その取材で、最近ガラパゴス諸島に行きました。よく「日本はガラパゴス化している」と言われるので、日本について考えるにあたって、ガラパゴスに行って自分なりの感性で理解しておきたかったのです。帰ってきてからは、「日本ガラパゴス化」に関する本を読んでいます。

――ガラパゴスではどのような気付きがありましたか?


加藤嘉一氏: 今、『週刊プレイボーイ』で連載していて、今週は記念すべき連載第100回なんですが、その今週の一言が「日本よ、ガラパゴス化せよ」。「開放的、オープンなユニークさを持とう」というメッセージです。ガラパゴス化という言葉は、日本人が内向きであるとか、グローバルからかけ離れているなど、後ろ向きな意味で使われることが多いです。でも、私がガラパゴス諸島で見たものはどれも美しい光景でした。どこの店に行ってもWi-Fiがあるし、人々はグローバルスタンダードで物事を考え、心がフラット&オープンで、多くの島民が英語も話せる。ガラケーなど、そういう意味でガラパゴスという名前を使うのはガラパゴス市民に失礼です。日本もいい意味でガラパゴス化できればいいなと思いました。

真実は現場にある。本は過大評価しない。



加藤嘉一氏: 僕が日々取材するうえでの合い言葉が「真実はいつも現場にある」です。先に本を読んでしまうと、偏見が入ってしまうから、僕はなるべく本を読む前に現場に行きたいのです。多くの人たちは物事を考える時に現場に行かず、ただ本から二次情報を得ています。僕は中国に行く前に中国に関する本は1冊も読んでいなかったのですが、それが功を奏しました。新しいことに挑戦する人は、挑戦する前に関連本を読まず、身体で感じるプロセスから入った方がいいと思います。
本を書いてきた人間として、本を1冊作ることの大変さはすごく分かるのですが、本に踊らされてはダメだと思うんです。できる限り現場に行って、それを見て感じた上で、他者が書いた言説を吸収して、自分なりの考え方を形成していくというのがベストなやり方だと思っています。先ほど僕が言った三位一体における三者はどれも同じぐらい重要で、読書そのものを過大評価してはいけないと思います。頼りすぎることによって逆に失うものもありますから。

――加藤さんの言論は、「三位一体」で学んだもののアウトプットなのですね。


加藤嘉一氏: 中国について書く時も、中国共産党の発表の引用よりも、その場に行って人と話をして、身体的に理解した上で書くように心がけています。今中国はとても注目されていて、色々な人が本を書いています。その中で僕の本のエッセンスは、自分で現場に行って直接話を聞いて、中国語で中国の人たちに発信した上で、日本語で日本の人たちに発信しているということ。自分は、過去に10年間中国・中国人と付き合って、これからも一生中国に関する本を書き続けるし読み続けると思うんですが、現場感覚を大切にしていきたいと思っています。僕の本を読んだ人たちが中国を好きになるか嫌いになるか、それは読者個人の自由だけど、一番望むのは、「私も実際に現場に行って確かめてこよう」と思ってもらえることです。特に若い世代、高校生、大学生の中に行動派の読者を生み出すことに、少しでも貢献できればと思います。

電子書籍は読書のチャネルを増やす。


――加藤さんは電子書籍を読まれることはありますか?


加藤嘉一氏: 僕は、ITが苦手で、電子書籍を読んだことはないです。若干保守的かもしれませんが、本というものは紙で読むものだというタイプで、電子辞書も使いません。旅をする時にかさばるから電子書籍に入れるという人も多いと思いますが、僕の場合、筋トレになるからいいと割り切っています。ただ、電子書籍が世の中に出回って、本と向き合う形態、チャネルが広がるのは素晴らしいことだと思います。特にスキャンの場合、知的財産権などの問題が出るでしょうが、新しいものが出る課程では必ず摩擦はある。ダイナミックに図書市場が多様化していくことを支持します。

――電子書籍の可能性についてはどう思われますか?


加藤嘉一氏: 自分の願いは、紙と電子がお互い足を引っ張り合うのではなくて、いい意味で競争して一緒に発展していくことです。あくまで紙「と」電子であって、「VS」になってはいけません。自分の本も電子書籍になっていて、電子と紙、どっちの方が読まれているのかよく分からないんですが、ありがたいことです。
日本だけではないですが、若い人たちを含めて本を読まないと言われています。問題は本を読まない理由なのですが、ひょっとすると、若い人はインターネット上であれば読みたいと思っているかもしれない。電子書籍の登場によって、グローバルに起こっている「本読まないブーム」が少しでも好転すれば素晴らしいし、電子書籍のミッションはそういうニッチなところにあると思っています。

――出版業界はどのように変化していくとお考えですか?


加藤嘉一氏: フリーの編集者が増えていくと思いますし、そうあるべきです。会社にいるということは、守られている一方で、束縛されることもありますよね。それぞれの個性で、需要に応じてフリーでコンテンツを作り、著者と読者との関係を新しい形でマネージングしていく人たちも出てくるだろうし、出ていかなければいけないと思います。
一方で、自分自身は紙の本がない社会は想像できませんし、出版社の伝統的な形態というのは残るでしょう。電子書籍が出てきて、どう取捨選択するのかは出版社によると思うんですが、出版社の、本を作って販売するというミッションはいつの時代も受け継がれていくでしょう。

――加藤さんにとって編集者はどういう存在でしょうか?


加藤嘉一氏: 僕は編集者という職業を心から尊敬していると同時に、自分にはできないと思っています。特に書籍の編集者は、想定的にですが、新聞やテレビのデスクより優秀だと思います。僕が日本で出した単著処女作の編集担当者は、加藤貞顕さんという僕の兄貴分で、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』を作った人なんですが、行動範囲や視野がとても広く、フットワークが軽い。人に会って、本を読んで、企画を上げて、PR戦略を立体的に考えて、営業も説得してというように、とてつもない膨大な量のことを同時にやっておられました。スペシャリストとジェネラリストの両方のエッセンスを同時に保持していないとできない仕事だとそばで見ていて感じました。
僕がいつも言っているのは、著者とは赤ちゃんのようなもので、読者と編集者に支えられなくては生きていけないということです。編集者が「こうしたらいいですね」や、「締め切り迫っていますよ」など、まさに手取り足取り面倒を見てくれる(笑)。彼らは本を作るプロだから、読者が今何を求めているかということも分かっている。ここには罠もあって、編集者は往々にしてキャッチーなタイトルを作ろうとするので、「いや、そういう意味ではなかったんですが」というケースも時にはあります。編集者は読者と著者をつなげてくれる架け橋としての役割を果たされているのは確かで、偉大な存在です。僕らの言論は、編集者によって世の中向けにパッケージングされなければ読まれません。だから、少なくとも書籍をめぐっては、編集者こそ真の発信者と言ってもいいかもしれません。

――編集者に特に必要な能力はなんでしょうか?


加藤嘉一氏: 僕は編集力よりも企画力だと思います。テレビ局の周りには本屋が多いですが、テレビの人は往々にして新聞や活字メディアから情報を授かって番組を作っています。日本は大手新聞局と大手テレビ局がつながっているという、ある意味社会主義的な形態ですが、ともかく本を見て初めてテレビ番組ができることが多いと思います。テレビの人を卑下しているのではありません。僕が言いたいのは、書籍はあらゆるメディアにおける企画の起点になっているということです。そういった仕事をされている本の編集者というのは知的にも人脈的にも、フットワークや行動力、人間力、突破力も含めて尊敬できる方が多い。著者も大事にしてくれる人が多い。直筆で手紙を書いてくれたりするのを見ると、気合が違うと感じます。

世界で一人でも多くの日本ファンを。


――加藤さんをいつも「行動」に駆り立てているものはなんでしょうか?


加藤嘉一氏: 僕の原動力は、「2つのK」で、孤独感と渇望感。僕が中国からアメリカへ拠点を移す中で考え、僕なりの生き抜き方をまとめた拙書『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)でもピンポイントで言及しましたが、僕は自分が好きだと思ったことは一度もない。好きだと思ってはいけないと心に決めている。どれだけ本を読んでも知的に成長したと思えない、執筆していても筆力が上がったと思えない。自分のあり方にまだまだ納得できない。このコンディションは一生続くだろうし、この孤独な渇望感が「行動」につながっているんだと自覚しています。来年30歳になりますが、だんだん社会のことを知るようになってくると、あらゆる場面で、1人では何もできないということを感じます。もし僕が良い仕事をしたとしても、先人が積み上げてきたものに1ミリ上乗せするぐらいの話で、自分にしかできないことなどというものもない。もちろん加藤嘉一にしかできない分野を作っていきたいし、「make a difference」を小学校のころから心がけています。ただ、一方で「簡単にこれは自分にしかできないなんて思ってはいけない」「理想は掲げていくが、足元を見ていかなければいけない」という思いも強くしています。

――最後に、加藤さんの今後の展望をお聞かせください。


加藤嘉一氏: 当面のミッションは、自分は中国問題をずっとやってきたので、中国問題を日・英・中という自分ができる言語で発信し、議論の場を創造していくことです。大学、メディアなど舞台は多種多様ですが、グローバルに中国を発信していくというのが1つ。次に、次世代に対して背中を見せてあげたいというのが2つ目。僕はいろんな失敗をしてきた。挫折もいっぱいした。そういう僕のもがいている姿、苦しんでいる姿も含めて、行動で示して、若い人たちがこれからセカイへ打って出るための防波堤になれればと思います。3つ目は、日本人としての魂を世界に見せたいです。日本はソニー、トヨタ、キヤノンなど、企業レベルではグローバルに活躍しているし、世界中で尊敬されていますが、イチローさんや村上春樹さんのように、「個」として国際社会で勝負して、活躍している日本人は少ない。僕はひとりの発信者として世界で1人でも多くの日本ファンを作れるように汗を書いていきたいと思います。それと同時に、日本の人たちに「日本人は外国からこう見られている」という側面を訴えていきたいです。自分にはそういったコミュニケーターの役割が向いていると思っていますし、日本語・中国語・英語という三ヶ国語を駆使して、信念を持って発信していきたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 加藤嘉一

この著者のタグ: 『出版業界』 『可能性』 『現場』 『取材』 『コラム』 『中国語』 『学び』 『ガラパゴス』

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