「がむしゃらさ」でスタートダッシュに成功
――起業したばかりの時はどういった状況でしたか?
古川武士氏: その時はブランドが決まっておらず、いかだで船出はできたという感じです。貯金も70万くらいしかなく、それまで寮に住んでいたので、5万円ぐらいのアパートを探しました。苦しくなったらマックでバイトをすればいいやと思っていました。
――事業が軌道に乗ってきたと感じられたきっかけはありましたか?
古川武士氏: 起業当初は、月に2万円のクライアントが1名で、2ヶ月目ぐらいになると、やはりお金がなくなる。そういう時は、自分の中のたがが外れると言うか、発想や行動の軸も変わります。もっともっと行かなくてはと、起業家のプレゼンなどがあれば、前に出ていくようになって、ある企業から一次面接の面接官を代行してくれないかと言われたのです。後に一緒に本を書いたジェイソン・ダーキーという研修会社の社長との出会いがありました。僕が参加したプレゼン大会で彼もプレゼンをしていて、「うちの研修を一緒にやってくれないか」と声をかけられたんです。
――現在のお仕事にもつながる企業研修を始められたんですね。
古川武士氏: でも、当時は研修講師をしたことがなかったので、スキルもない。彼に「全く丸腰ですよ」と話をしたら、「いいんだ」と。彼が求めていたのは、プロの研修講師ではなくて、手あかがついていないまっさらな人、つまり彼のスキルを丸コピーできる人だったのです。
研修という仕事がそこで始まりました。コーチングのクライアントも、起業家1000人にブログ経由で、「無料でいいから請けさせて欲しい」と書いたら、100人ぐらいからメールがきて実際に70人ぐらいにコーチングをした結果、20人ぐらいクライアントがつきました。採用面接の仕事も始まり、意外にお金の苦労はなく、今までの8年を見ても非常に安定してやっています。
――当時を振り返って、なぜ起業当初に数々の受注ができたのだと思われますか?
古川武士氏: プロの講師だとそうではないのかもしれませんが、僕はがむしゃらに教えていたので、むしろクライアントが、僕を育てたいと思ったのかもしれません。もちろん研修でも結果も残してその相乗効果で、どんどん仕事を任せていただいたという感じでした。それが起業してからの第1ステージですね。
「職業アイデンティティ」で再び葛藤
――順風満帆な滑り出しでしたね。
古川武士氏: でも次のステージで困りました。お金は不自由しない、研修コーチは楽しいし、自由なライフスタイルも手に入った。ところが「自分って何なの?」という職業アイデンティティみたいなものが出てきたのです。「日立製作所の古川です」と言えば、アイデンティティは保たれますが、独立するとそうではない。「僕はコーチです」と言っても、コーチは世の中にたくさんいまして、「何のコーチですか?」と聞かれた時に、明確に答えられない自分がいる。コーチングは、申し込んでくれた人たちが自分で答えを見つけていく手伝いをしていくことなので、テーマも違えば対処法も違うので、なかなかセールスとして伝わらないのです。安定が手に入ると、次の段階として世の中にどう貢献したいのかとか、自分のミッションとは何なのかというようなことを考えるようになりました。
――「習慣化」のブランドを見つけるためには苦労がございましたか?

古川武士氏: 「セールスコーチ」や、ベンチャー企業向けのモチベーションコーチなど色々と考えました。でも、ベンチャーにモチベーションがなかったらそもそもダメですし(笑)、セールスマンにはコーチングの費用を払うお金などないのです。「朝礼コーチ」なども考えたんですが、2年ぐらい試行錯誤をしていました。
自分のブランドを作るには3つの輪が重なることが必要です。1つは求められていること、もう1つは世の中にお金を払う人がいて、もうかること。そして自分のやりたいこと。この3つの輪にはまるテーマに悩んでいたのですが、ある時、脳の中で臨界点が来て、ウォーキングしている時に、「そうだ、本を書こう」と直感が湧いたんです。それを自分の当時のコーチに話をした時に「習慣化」というアイデアが出てきたんです。でも、「習慣化っていいですよね」などと言いながら、他のテーマで書こうかという話もしていたので、すぐにそれだ!と100%ピンときていたわけではないと思います。でも外から見てコーチが、「習慣化って面白いよ」と言ってくれたので、自分の中でドスンと落ちた感覚がありました。
「実践」までの障壁を徹底的に取り除く
――そこでデビュー作の『 30日で人生を変える 「続ける」習慣』が完成したわけですね。
古川武士氏: 本を書くために習慣化のメソッドを作り検証して、自分のクライアントの研修などで試していると、継続できたという良いリアクションがありました。続けることを通じて、人生を変える、結果を残していくということにつながっていくんじゃないかなと思って書きました。そして個人のブランドとして「習慣化コンサルタント」としてやっていこうと思うようになりました。最初の本は4万部ぐらい売れているんですが、ブランドの軸が決まると、次から次に出版の依頼も、メディアの取材も来るし、自分が発信したいことも発信できる。自分のアイデンティティも確立していきました。
――「臨界点」という言葉もありましたが、独立の際も本を書く際も、たまっているものが一気に噴出する瞬間があるのですね。
古川武士氏: もやもやする時間は無駄ではなくて、実はエネルギーがたまっている状態で、どこかでパン!と解決策が見つかる瞬間がある。悩みがなく、考えるのを止めたら、エネルギーも湧きません。「ししおどし」のように水がたまっている時は何も変化が起きていないけど、実はカコーン!となるためのエネルギーをためている段階なのです。
――古川さんが本を書かれる際に、最もこだわっていることはどういったことでしょうか?
古川武士氏: 僕が大切にしているのは、とにかく「実践すること」です。実践をしないと、知的好奇心を満たしただけに終わってしまうので、実践するまでの障壁を徹底的に取り除くというのが僕のポリシーです。例えば、ワークシートを自分で作るのが面倒くさいからやらない人が多いので、僕の本では全部ダウンロードできるようにしています。今度の本では、1時間ぐらいの音声も無料でダウンロードできるようにして、それを毎日聴いてモチベーションを上げられるようにしています。
著書一覧『 古川武士 』