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辰巳渚

Profile

1965年福井県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部地理学科卒業後、株式会社パルコ、株式会社筑摩書房にて雑誌・書籍編集者として勤務。その後フリーのマーケティングプランナー・ライターとして独立。著書『「捨てる!」技術』(宝島社新書)は100万部のベストセラーとなる。2008年から家事塾主宰、2013年6月から、南青山にて「辰巳渚のくらしのこと学校」がスタートする。近著に『人生十二相~節目を生きる日本の知恵~』(イーストプレス)。
【HP】http://tatsumi-nagisa.com

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目と耳、皮膚感覚にこそ個性がある


――本の企画になるような題材を見つけて、形にするためにはどうすればよいでしょうか?


辰巳渚氏: 何より、自分の目で、耳で、皮膚の感覚で、何かをつかみ取るということが大事だと思っています。あとは行動しなければ始まらない。企画を売り込むこともそうですが、私は、行動して100に1つ何かがうまくいけばそれは大したことだと思っていますから、ダメでもあまりめげないことです。全ては自分と社会との関係性の中で起きることで、私が面白いと思っていることが、たまたま相手と一致すればいいのですが、そうでないことは幾らでもある。たまたまタイミングが悪かった、組み合わせが悪かったなどということは仕方のないことです。私も、相手をなんとか説得しようとしていた時期もあるのですが、今はそれでは何も伝わらないと思っています。偉そうに言えば、私は、いろいろなことに早く気が付く自信があるので、気が付いてない人に対して無理に説得するのではなくて、気が付いてもらうための素材をたくさん出すという姿勢でいます。それによって、私が気が付いたことを面白いって言ってくれたらうれしいという感じですね。

――辰巳さんのそのような姿勢がよく表れているのが、本のあとがきにメールアドレスを載せて、内容に賛同する方だけではなく、違和感を持った方の声を募集していることですね。


辰巳渚氏: 違和感はとても大事なんです。平田オリザさんが、「会話が、知っている人同士の楽しいおしゃべりだとすれば、対話は、知らない人との価値や情報の交換と言える。知っている人同士でも、価値観が異なると、それは対話になっていく」ということをおっしゃって、なるほどと思いました。一人一人が違うのは当たり前で、むしろ価値観が違わなければ対話にならないということです。あと、養老孟司さんが「考えに個性なんかない」ということをおっしゃっています。学問でもアイディアでも考えは共有するからおもしろいと思ったり、理解したりしているわけです。言語だって共有しているから話せば通じます。そう考えると、本当にオリジナルな「考え」を持った人なんて病的な場合を除けば、たぶん、いない。では個性とは何なのかと言うと、体なのだ、と。例えば、他人の指を自分に付けるわけにいかない。体が固有であることこそが、個性というわけです。さっきのお話に戻ると、社会の仕組みや価値観を共有しながらも、「私の体」に立脚して、目で見るもの、体で感じるもの、昨日はなかったけれど今日はある感覚についてきちんと受けとめて、それを相手に伝えれば、みんなそれぞれ違う体に基づいて現実を見ているから、「あ、自分はそれはこう思う」「自分には見えていなかった」といった違いが必ずあるはずなんですよ。その違いをすり合わせていくのが対話であり、本などの情報によって学ぶ作業なんですよね。そこに、発信することの面白さもあり、できることの範囲もあるのだと思います。

手作業によって養われる感受性


――今は、本はどういった時に読まれますか?


辰巳渚氏: 一番読むのは移動の間です。読むのはほぼ小説で、駅や空港の書店で買うことが多く、資料として読むものはネットで買う、とはっきり分かれています。資料はネットでキーワードに引っかかった本をまとめて買ってしまうこともあります。小説は家でゴロゴロしながら読むこともあって、子どもにもいつも、「お母さんまた本読んでる」と言われます。私はよく、家事は自分をニュートラルにする作業だと言っていますが、小説やエッセイの読書も脳のクリーニングと言うか、まともな自分に戻る感じがしますね。

――電子書籍は利用されていますか?


辰巳渚氏: ないです。官公庁の統計のようなものはデータで蓄積することはありますけれども、本自体をデータで持つということはありません。音楽もデータではあまり聴かないのです。データ整理自体が面倒臭いことと、昔の人間だからかもしれませんが、アルバムであることが大事な感じがして、好きな曲だけ好きな時に聞くっていうのはあまりスタイルとして合わないんです。CD1枚を流して、アルバムの曲順まで含めてしっかり聴いています。それと、本もそうですが、ピンポイントですぐ取り出せるのがいいとは思っていなくて、本を探す時間や、CDのケースをパカッと開ける作業などが好きなんです。やっぱり体の感覚、作業も含めて本を読むという行為だと思うのです。脳への入り方も違う感じがして、例えば『舟を編む』に、本の「ぬめり感」と言う表現がありましたが、紙の質なども本を読む時にきっと大事なんだと思います。ただ電子データを決して拒否しているわけではありません。本には小説のように楽しんで読むものと、ビジネス書、専門書などのように、情報のために読むものがあって、そういうものはデータになっていると助かりますよね。

――辰巳さんは市場分析など大量のデータを処理する分野がご専門でもありますね。今後活用されていかれますか?


辰巳渚氏: そうですね。ただ、月刊アクロスにいる時、編集長にグラフをいちいち手で書くことを仕込まれたんです。1か月分の新聞の中からデータ系のものを集めて、自分なりにグラフや図表にしてサマリーを載せる欄を新人のころにやらされていたんですね。すごく時間がかかるわりに誌面は少ない仕事でしたが、先輩は、「この欄を任せられるのは、編集長が見込んでいるっていうことだよ」とはげましてくれましたが、どうだったんでしょうね(笑)。要は、データをどのような形にすると伝わりやすいだろうかと考えることが大事なんですね。例えば出生率なら、低下しているだけじゃなくて、女性の就業率と合わせてみると説得力が出るんじゃないかなど、データを関連付けて読み込んだり、データの取捨選択をしてどう見せるかを工夫したりする練習になったのです。手作業でやるということにも意味があるんじゃないでしょうか。今だと、どうしてもコピペすれば済むということになるのですが、手でやることは、学問的にもこれから評価されていくジャンルなんじゃないかという気がします。もちろん、手で書く訓練を積んだ上で、実際にはたくさん仕事をするわけですから、デジタルも上手に使えばいいとは思います。でも、プロセスにどれだけ労力をかけるかで、観点なり個性なりが生まれていくと思うので、最初の基礎の部分、断片的に見えていたものを統合していく作業は省略できない。そういう手間を惜しまずにやるからこそ、怠けるところは上手に怠けてやっていけるのだと思います。

著書一覧『 辰巳渚

この著者のタグ: 『ライター』 『考え方』 『価値観』 『マーケティング』 『独立』 『フリーランス』 『家事』 『違和感』

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