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飯尾潤

Profile

1962年神戸市生まれ。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。埼玉大学大学院政策科学研究科助教授等を経て現職。この間に、ハーバード大学客員研究員や、政策研究大学院大学副学長なども経験した。政治学・現代日本政治論を専門分野とし、日本政治を対象にその具体的な現れ方の分析、政治制度の運用や政治主体に関する考察をすすめている。雑誌・新聞に政治状況についての寄稿・コメントを行い、時にテレビの報道番組にも出演している。著書『日本の統治構造』(中公新書)でサントリー学芸賞、読売・吉野作造賞を受賞。

Book Information

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完ぺきを求めず、今よりもちょっと良くする


――飯尾さんが本を書く時、内容について気をつけていることはありますか?


飯尾潤氏: ひとつモットーにしているのは、「すべて」ということは言わないこと。すべてがわかっているような顔をすると、世界を狭くしないといけなくなる。そうするとゆがむ。私はさっきお話したように大学で相対主義的な勉強をしたので、いわゆる世界が全部設計できるという考え方に対しての反感がある。世の中には未知なことにあふれているし、人間の努力ではどうにもならないこともある。政治も完全なものはないけれども、今よりちょっとよくするために、どうするかという考えです。政治は「可能性のアート」だといいますが、人間が暮らしていくということの、非常に重要なポイントだと思っている。今私が感じているのは、世の中の人たちが、完ぺきを求めすぎて、完成するために小さなことに集中して全体が見えなくなる。ズレが起こるのは当たり前です。みんながこうあらねばならんというのには、私は抵抗します。向き不向きがあるし、世の中にそれぞれの役割があるわけですから。

――大学での先生や仲間との出会いが今の研究につながっているのですね。


飯尾潤氏: そういう点では、いい教育を受けたと思っています。先生たちは専攻と関係ないことを、すごくたくさん教えてくれましたから。例えば先生たちの中に、私に読むべき本として、柳田國男をあげられた方がいた。柳田國男の『先祖の話』は、お葬式のことなどから始まる話ですけど、柳田國男の民俗学の知識は、日本人が、人と人がつながっていくのに、どういうことをしてきたかということを教えてくれました。また、仏教の古典を参考文献にしている人がいて、例えば日本のみんな死んだら仏様になるという考え方は、修行して覚るに至というもとの仏教とは大違いですよね。われわれの物の考え方が、甘いというか、緩やかというのか、おっとりしていることがわかってくる。私より若い世代になると、たとえばアメリカで流行している学説をまねるような勉強をすることが多かったけれど、私はたまたまそういう教育を受けました。それには意味があると思っています。

勉強は「手間がかかる」もの



飯尾潤氏: ちょっと感じていることは、社会のエリートは、やっぱりある程度共通の教養を持った方がよくて、ちょっと日本はそれが弱いということです。高等教育機関の、とりわけ教養学部のような教育のレベルが日本は弱い。西洋の学者と話していると、ちょっと変人と思われる人でも、どんな専門分野でも、シェークスピアぐらい読んでいるというような、ある共通の理解がある。日本人だったら、現代語訳でいいから源氏物語ぐらい読んでいるとか必要ですね。「日本の良さを見直す」とかいっている人も全然読んでいません。原文で読むのはものすごく難しいから、原文でとまでは言いません。政治学だと、プラトンの話や、トゥキディデスの話をする時に、一度でも読んでいれば、後になってほとんど忘れていても思い出すようなことがあります。日本のエリートというのは、受験秀才が多すぎて、教養の部分を切り捨てて、話の膨らみが少ない気がします。勉強は手間がかかるということが大切で、思考力というのは、そういうことと関係しているのではないかと思います。

――学問が複雑化、細分化するとますますそういった傾向が強まっていきますね。


飯尾潤氏: 理系でも社会科学をいくらか知っているとか、文系でもいくらか自然科学について知っているということがあるということが、専門の勉強する時も糧になると思います。私は大学で、博士論文の指導をしていますが、主として中央省庁の官僚たちが自分の専門のことを書くわけです。今日指導したのは、一人は植物検疫か何かの専門家ですが、虫の話なんかはもちろん向こうが専門家ですが、それを国際的にどのように管理しているかという話を聞いて、彼を指導すると、私も虫の種類についてわかる。これが世の中というもので、それはTPPなど政治の問題とも密接に関係して、それをどう考えるのかということとつながる。私は自分の論文ではほとんど数式は使わないけれど、基礎的な数式は意味がわかるぐらいではありたいと思っています。もちろん程度問題で、私も数式のたくさんある論文は読みたくないのですが(笑)、思っていても、逃げ出さないというのが大切です。

今回出した本も、個々の政策のつながり、例えば治安問題と教育問題はすごくつながりがあるということを書きました。ほかにも書きたかったことも多いけれど、編集者に「百科事典みたいになって、読んでもらえなくなる」と止められました。原稿もずいぶん削ったので、上面をなでただけだと言う人もいると思いますが、私はそれでもよいと思っていて、例えば、総理大臣が知っておくべきことはこういうことだと思っている。政策の細かいことより、大づかみのポイントが大切で、それは一般の有権者も、あの政策は良いとか悪いとか言う時にも使えます。政治は人任せではうまくいかない。みんなが小さなことだけを考えていると、結局全体としては回らない。自分の小さな利益をあきらめると、もっと大きなことが得られたりするということが多いので、そういうことを考えるきっかけになればと思っています。ある意味で、政策とか政治についての一般教養です。情報はたくさんあるけど、それを整理するやり方、補助線を加えるお手伝いをしたいと思っています。ただ、私も迷いの連続です。今回の本も、実は章ごとにうまく整理できているところと、わざとオープンにしているところがあります。

著書一覧『 飯尾潤

この著者のタグ: 『大学教授』 『政治』 『知識』 『情報』 『つながる』

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