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世界中の本好きのために

小黒一正

Profile

1974年生まれ、東京都出身。京都大学理学部卒業後、同大学院経済学研究科修士課程を修了。2010年には一橋大学大学院経済学研究科博士課程を修了(経済学博士)。1997年に大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を歴任。公共経済学を専門とし、世代間衡平や財政・社会保障を中心に研究している。著書に『Matlabによるマクロ経済モデル入門 』(日本評論社)『2020年、日本が破綻する日』(日本経済新聞出版社) 『人口減少社会の社会保障制度改革の研究』(中央経済社)など。

Book Information

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来るべき大転換期のために、良いシステムを作るための素材を提示したい



1974年生まれ、東京都出身。97年・大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て、2013年4月から法政大学経済学部准教授。経済学者(博士)で、専門はマクロ経済学、公共経済学、財政学、社会保障、世代間格差の問題など。フィールズ賞数学者・広中平祐氏が設立した「NPO法人数理の翼」メンバーで、世代間格差の改善を目指す「ワカモノ・マニフェスト策定委員会」メンバー。「2020年、日本が破綻する日―危機脱却の再生プラン」、「マクロ経済モデル入門」など著書多数。常に本質を追ってきたという小黒一正氏に、日本の抱える問題と、解決の糸口を伺った。

日本の抱える問題を学生に分かりやすく


――今年4月から法政大学経済学部で准教授をされています。どんな講義をされていますか?


小黒一正氏: 日本経済論と経済政策論を担当しています。少子高齢化や人口減少など、日本が直面している問題を、学生に分かりやすく教えています。今、アベノミクスと言われていますが、財政政策や金融政策が、実際の経済との関係でどんな効果を持つのか、どこまでが本当に効果のある話で、どこからが効果のない話なのかということまで話をしたいです。

――もともとは教育畑ではなく官僚のご出身ですね。大学は理学部でらっしゃいました。どんな学生時代を過ごされましたか?


小黒一正氏: 数学者の広中平祐氏が創始した「数理の翼」というセミナーに高校時代に参加しました。全国から高校生を集めて最先端の数学・科学を教えてくれるというものです。

――簡単に参加出来るセミナーではないですが。


小黒一正氏: 自分がどういうことをしたいのか文章を、もっともらしく書いて投稿したら入れました。もともと数学もそれほどできたわけではなく、単に好奇心でちょっと見てみたいと思いました。参加者の中には数学オリンピックで金メダルや銀メダルを取ったようなすごい人がたくさんいましたね。

――どんな高校生だったのですか?


小黒一正氏: 高校は、一橋大学のそばにある国立高校でしたが、面白い学校でクラスが3年間同じでした。クラスメートに現在はイスラム思想の第一線研究者となっている変わった生徒がいまして、その友達は高校時代から読んでいる本がとにかくすごくて、授業中に先生に向かって「その説明、間違っている」とか言うんです。その友達の刺激を受けて、本も読むようになりました。

――小黒さんは、どんな本を読まれましたか?


小黒一正氏: 大学の物理の参考書や数学の本を借りて読んでいました。セミナーに行ったのが確か1年生か2年生の夏だったので、それ以降にそういった本を読むようになりました。

――大学は京都大学へいかれましたね。


小黒一正氏: 京都大学は1年で全部専攻科目が取れる。自由な学校でしたので、サッカーやアメフトなんかの部活にハマッている学生は全然単位を取らなかった。時間を自由にしたいからと、普段麻雀ばかりしていてテストだけ受けて単位を集める生徒もいました。僕もすごく良い先生の授業には出ましたが、それ以外は授業に出ないで本を読んだり麻雀をしていました。

「How」より「What」が重要


――大蔵省へ入省しようと思ったきっかけは何ですか?


小黒一正氏: 就職活動を始める随分前に、大蔵省の人が来て説明会をするというチラシをたまたま見て、行ってみたら話が面白くて、「働いてみようかな」と思いました。国家公務員はそんなに難しくないと思います。当時、倍率が30倍と言われていましたが、実質は10倍くらいしかなかったのではないかと思います。大蔵省の仕事は、法律を作ったり、政治家の政策を考えたり、政策の調整をするのが仕事でした。当時、毎年20名ほど採ったのですが、一人くらいは理系の人がいました。理系出身者で有名なのが早稲田の野口悠紀雄先生や東大卒の高橋洋一先生です。当時の京都大学にも吉田和男先生がいて、出身は経済学部ですが、実は工学博士を持っているので、理系みたいなものです。

――勉強はどんなふうにされるのですか?


小黒一正氏: 僕の勉強法は、非常に効率が悪いと思います。分かるまで読み続けるというものです。大蔵省にいる人たちは、本当に頭が良い。例えば、今から10年前の何年何月にこの政策の意思決定がありましたと、決定プロセスを全部順に説明出来るような人がいる。普通は記憶しきれないでしょう。大蔵省には法学部の人が結構多くて、話を聞いているだけで意図せずに細かいことを全部覚えられるような人がいました。そこから考えると、僕のやり方は、あまり効率的じゃない。もともと理系の人間なので、物事には必ず原理があると思う。だから、本質が何なのかをずっと考えます。そこが分かるまでは、すごく非効率な勉強の仕方になる。だから、細かいところは忘れてしまってコアな部分だけ覚えている。物理学で言えば最初はニュートンの力学方程式、熱力学、量子力学、原子量など色々出てきますが、なぜそういう数式になるのかが、実は結構コアな部分です。そこの意味を理解するまでに、時間がすごくかかる。

――常に本質を見るのですね。


小黒一正氏: 僕が大蔵省にいた時期は、1997年から2001年度にかけて行われた大規模な金融制度改革「金融ビッグバン」といった制度改革を手がけていたころでした。現場で議論を見ていると、色々な意見が対立している中で、そこから抽出出来る最大限を取るというような話になった。本来ならAとB、どちらか選んで決定すれば良いのに、何か別のCが出て来るという感じになっていました。その中にいながら、「日本の抱えている問題の本質がここでは見えてこないな」と思いました。何がコアなのかじっくり考えている時間はないし、本当に議論をするなら解決策が見えてこなければいけないのに、それを考える時間もなければ場もないのが現状だった。何とかならないかなと考えているうちに、自然と教育の方へ目が向くようになりました。
僕は基本的にあまりポジションを重視していない。組織に入ったら社長になりたいと言う人がいると思いますが、僕は先に目的があって、だからこのポストが欲しいと思う。手段と目的なら、目的の方が重要だと思います。WhatとHowなら、Whatが重要。結果、今、ここにいるという感じです。

今の100倍の容量のiPadが欲しい


――電子書籍はお使いになりますか?


小黒一正氏: iPadでは容量が足りないくらいです。本当は、持っている本を全部入れたい。そうすれば、自分で気になった時にどこでも見られる。分厚い本を持ち歩く必要がない。それが可能になったら良いと思います。iPadの欠点は容量が今最大で64GBでしたっけ。最近128GBまで増えましたが、それでも足りない。100倍くらいの容量のものを作ってくれないかなと思います。

――特に専門書を読む機会が多いと思いますが、そういう意味では電子書籍の可能性は大いにあると思いますか?


小黒一正氏: あります。専門書になればなる程重たい。洋書も結構多い。1,000ページもある本を持ち歩くには非常に便利です。もう一つ便利なのは検索ができること。「そういえばどこかに書いてあった」という時にすぐ見つけられる。

――本の自炊はご自身でされるのですか?


小黒一正氏: 自分でやっています。裁断機も持っています。テキスト化して、PDFで入れるのが前提条件ですね。業者が一括で、例えば300冊くらい表紙も全部取り込んでくれたら良いですね。ニーズはすごくあると思います。学会があって海外へ行く時も、100冊持っていけるわけですから便利です。あとは、自宅で本棚を置くスペースが多いファミリーや、一人暮らしなら本がたくさんあっても気にしないと思いますが、結婚したり、子どもができたりで家が手狭になった時に、本のスペースはなくなってきます。それを電子の書棚に全部電子化してiPadなどに入れられれば、物理的なスペースができるので革新的だと思います。

――書き手として、ユーザーが紙の書籍を購入し後、電子化して読むことに対して何か特別な考えはありますか?


小黒一正氏: 違法コピーを気にする人はいると思いますが、僕はあまり気にしません。自分の書いている新書でも、Kindle版があるし、もともと値段も安いので。Amazonは、電子書籍に対応している本が、日本は圧倒的に少ない。最初から電子化されていた方が助かりますが、どうしても古い本は電子になっていない。なるべく速やかに電子化出来るような状態になってくれた方がありがたいです。

――電子化に抵抗がないのは、もともと論文などを電子で読まれていたからでしょうか?


小黒一正氏: 今、論文は全て電子化されています。昔は紙ベースの専門雑誌のみでしたから、必要な部分をコピーしなければいけなかった。今は電子で探して、契約して、そこからダウンロードして見る。便利さが全然違います。

問題解決のソリューションを伝えたい


――執筆について伺いたいと思います。


小黒一正氏: 執筆速度はそれほど速くないです。気をつけているのは、ソリューションをきちんと作った本にすることです。問題だけを書くのではなく、解決の方向を「完ぺきではないですがありますよ」ということを伝えたい。それを伝えたいという思いがないと、執筆が進まないです。批判されることもありますが、「色々と考えるとこの方向しかない」という思いがあって。完ぺきな文章ではないですが、なるべく落とし込んでいきたいと思っています。
私の研究領域は、基本には現実との関係があり架空のものではない。ですから、先に課題があって、それをよく見ようとする努力をしています。そして、それを分かりやすく説明する。難しい学術論文を、普通の専門家以外の方が読んだ時にも分かるように書かなくてはならないのが結構ジレンマです。そうすると、少し厳密性が落ちてしまうので、そのせめぎ合いが非常に悩ましい。
論文ではテクニカルワードがあって、プロならば知っていなければいけない話がありますが、それも知らない人向けに書いていかなければいけない。でも、そういう言葉を省きすぎてしまうと、うそではないですが、違う世界になってしまう。ただ、結局解決のソリューションにたどりつく方向に話を作っていく必要があるので、そこの部分で悩みますよね。なるべくうそにならないよう書くにはどうしたらいいか、いつも考えています。

――小黒さんが書きたい、伝えたいと思うものは何ですか?


小黒一正氏: 40年周期説というのがあります。今、NHKの大河ドラマ「八重の桜」でもやっていますが、明治維新が始まる前、江戸幕府がおかしくなり始めた。そこから日露戦争までの約40年で日本がピークになる。その後、下り坂になり、最後は太平洋戦争に突入して負けるわけです。そこまでが、また40年。戦後は、やはり約40年で高度経済成長がピーク、その後バブル崩壊も含めた下り坂の一番影の部分です。
今、われわれが直面している少子高齢化は、どの先進国よりも速いスピードで進んでいます。人口動態の動きをずっと追っていくと、江戸幕府で2~3千人前後でしたが、その後、明治維新を境に急激に人口が増えていった。その中で作り上げられた年金システムに、今苦しめられています。人口が増加すると見込んで作られた時限爆弾のようなものが、どんどん成長していっている状況です。
1千兆円という政府の借金もすごいです。この状態がずっと続くと思う人はいないわけで、それをどうやって処理していくのか考えるのが、まさにわれわれのテーマです。私だけではなく、皆で考えて何か良いソリューションを考えていかなければ、そのうち本当に立ち行かなくなります。特に今の大学生は、これから社会人になり、そういう問題に直面していくわけです。

――そういう意味で小黒さんは、一番メッセージを伝えなければいけない世代に近いところにいるのですね。


小黒一正氏: 高齢者も含め全員が、「将来の日本に何を残すのか」を考えることが1つのキーワードです。財源は限られるので、「困っていない人が困っている人を助ける」という視点も組み合わせながら政策の方向感をつけていかなければ、限界が来るのは明らかだと思います。
だから、どこかの時点で、ルールが全部変わってしまうと思います。今はまだ、耐えているところです。人口増を前提に作られた社会システムが、レイバーマーケット(労働市場)もそうですが、高齢者がどんどん増えていく。今度65歳定年義務化になって、昔ならば引退していた世代が働き続ける。すると、企業の賃金は限られているので、働き盛りの人の賃金カーブがスラット化させられるという問題に直面していきます。
人口減少や少子高齢化が進んでいく状態がもう当たり前で、それに適合した社会システムに変わってくという大転換点が起こると思います。その時に、どういうシステムが良いのかを考えていく素材を提供していくことが重要だと思っています。

批判に負けないことが大事


――本は、紙と電子どちらが残ると思いますか?


小黒一正氏: 紙は紙で有意義です。例えば論文も、良いものを見つけたら電子媒体で保存しておきますが、もう少し深く考えようと思ったら、紙に直接書いた方が便利で、実際に書くことで思考を刺激したりする。学ぶには、紙がいいわけです。ですから、使い分けはあります。電子がもっと進化して、紙と同じことができるようになれば、全部電子版にします。

――おそらく政策でもそうですし、新しいことをしようとすると批判はつきものですね。


小黒一正氏: 基本は負けてはダメです、良いものを作っている時は。批判される時もありますが、良い批判は取り入れて改善して、よりよくなるきっかけにします。
大体、重要な改革が始まると批判されるものです。実際の流れは止められないので、バブル期は証券会社だって株の売買をずっと証券取引所で人がやっていましたが、今はもう電子化されている。それを止められなかった。アメリカで始まってきて、日本ももうやらなきゃダメだという感じになった。そういった流れに逆らうことはできない。あとは、誰かがそれをきちんとプッシュしていけるかどうかだけです。だから、最初にやった人は偉いですね。



――最後に、今後の展望をお聞かせください。


小黒一正氏: 高齢化、民主主義との戦いをテーマとした本を書きたいと思っています。人口動態が高齢化していく中で、政治の意思決定やメカニズムは変えざるを得なくなってきている。一票の格差もそうですが、地方に高齢者が多くなって、どうするのかという問題もあります。そうした問題も包含した中で、これから日本はどうしていけばいいのかについて考えていく本を書きたいと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 小黒一正

この著者のタグ: 『大学教授』 『勉強法』 『本質』 『目的』

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