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浅野健一

Profile

1948年、香川県高松市生まれ。72年、慶応義塾大学経済学部卒業、共同通信社入社。編集局社会部社会部記者、ジャカルタ支局長、外信部デスクなど歴任。94年から同志社大学社会学部メディア学科・大学院社会学研究科メディア学専攻博士課程の教授。2002~03年、英ウエストミンスター大学客員研究員。人権と報道・連絡会(連絡先:〒168-8691 東京杉並南郵便局私書箱23号)の世話人。『抗う勇気』(ノーム・チョムスキーとの対談、現代人文社、2003年)『メディア「凶乱」』(社会評論社、2007年)『裁判員と「犯罪報道の犯罪」』(昭和堂、2009年)『記者クラブ解体新書』(現代人文社、2011年)など著書多数。
浅野ゼミHP http://www1.doshisha.ac.jp/~kasano/index.html

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完ぺきな情報はない、必ずバイアスがかかる


――メディアの状況が、報道の内容にどのような影響を与えているのでしょうか?


浅野健一氏: 今のメディアの議論の仕方は100対0なんです。正義か悪かの単純な二元論で、理性が働かず情緒で取材し報道しています。朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の問題で言えば、日本人の遺骨が3万人くらい朝鮮にあるって言っていますよね。それを日本に返して、反対に、強制連行や徴用で日本に来て炭鉱や、あるいは兵隊で死んだ朝鮮人の遺骨が日本や海外にいっぱいあるわけですよね。向こうに遺族がいるっていうの分かってる人がかなりいるんですね。それを、朝鮮に返さないといけない。それも絶対報道しない。拉致の議論はあっても、戦争のために日本に来た朝鮮人の人がいっぱいいて、帰った人と、帰ってない人もいる。そういう問題もあるわけでしょ。それは絶対に取り上げない。また金正日さんが急逝したのに、弔意を全く表しない日本の総理大臣や外相って何なんでしょう。小泉純一郎元首相と飯島秘書だけが朝鮮総連に出向き、弔意を表明した。それはどちらが正しいのって言ったら、やっぱり小泉さんが正しいですよね。どんなに嫌いな人でも隣の国の元首が死んだんですからね。でも、日本のメディアは100対0なんです。1対99もない。
光市の事件の少年も、本当に殺意はあったのかという争点に関する議論が「1」もないわけです。英国人英会話講師の事件でも被告人のIさんにしても、女性が死んでるから、殺人だと決めつける。間違いなく強かんと傷害致死ではあるんです。だけど、殺人かどうかっていうのはまた話が違うでしょ。どうせ死んでるんだから殺人なんだっていうのは違うんですよ。殺意があったかどうか、計画性があったかが問われて、量刑も変わってくる。いくら自動車で人をはねて、ひき逃げしても殺人ではないんです。それでも光市の事件で安田弁護士たちが殺意はなかったっていう証明を一生懸命しようとしたら、卑怯者とか言われバッシングを受けているわけでしょ。弁護士はどんな凶悪な事件でも、法律と証拠に基づく公正な裁判を求めて、被告人のために弁護するのは当然じゃないですか。

――メディア情報の受け手となる市民は、どのようなことを心がけていけば良いのでしょうか?


浅野健一氏: 市民の側は、記者クラブメディアから、どういう仕組みでニュースが読者・視聴者へ流れて来てるのか、どういう人たちが取材して記事を書いてるのかを、知ってほしいですね。これは子どものころからメディアリテラシー教育が必要ということでもあります。例えば、上から写真を撮ったらみすぼらしく、謝っているみたいに見えるし、下から撮ったら逆に偉そうに、居直って見えるわけですよね。テレビは四角い枠内しか映らないから、大きな教室で多数の学生が皆居眠りしていても、まじめな学生だけを写しオンエアしたら同志社大学の学生は皆まじめになるわけです(笑)。テレビってそういうもんなんだっていうことを教えなきゃいけないんですよね。外国では、子どもに実際に写真やビデオを撮らせてそれを教えているわけです。逆に言えばメディアを信用するなってことですよ。また、テレビの画面には匂いがない、風がない。だから、実際にシリアで今どんなことが起きてるかという時に映像だけでは伝わらない。死体の匂いが伝わらないから。それを見て全てが分かったと思ってはいけない。もちろん、僕が書いても絶対に真実は伝わっていないんです。僕がチェルノブイリで1週間実際に見たものを書いても、僕のバイアスがかかっている。どんなに立派な人でもそうです。家の中でもそうじゃないですか。どんなお父さんでも何か絶対問題はある。完全なお父さんも、完全なお母さんもいないんです。人間って間違うものだから、NHKだから、朝日新聞だからと言って信用するなと。ネットだってそうです。このネットは立派な人たちが作ってるからといって、信用してはいけないんです。このメディアはどのような情報を取って載せてるかということを理解して、できるだけ多様なメディアに接することですね。

「記者クラブメディア対SNS」の構図がはっきりしてきた


――良質な報道を増やすために、市民が積極的にできることはあるでしょうか?


浅野健一氏: 新聞とか雑誌とかインターネットも含めて、情報を取ってる人は皆、情報の消費者です。女性が資生堂の化粧品を買って、肌が荒れたら、ちゃんと肌が荒れないものを作れって抗議する。だから、朝日新聞も記事を書いてる以上は、できるだけ多くの正しい情報をちゃんと提供しろ、っていう消費者の感覚を持つことだと思うんですね。民放テレビやネットなどの無料のメディアだってバナー広告とかで、自分たちが広告料払ってる様なもんですから。カスタマーとして、間違えてたら文句を言う。もうひとつは、良い記事があったら褒めてあげるっていうことかな。共同通信ってそんなに直接読者からは電話がないんですけど、それでも読者から反応があるとすごくうれしい。今大学生はこういう記事が好きなんだとか分かるでしょ? だから、メールでもはがきでも、電話の一本でも良いから「今の番組良かったから、もうちょっと良い時間に放送したら良いんじゃないですか」とか伝えることが大事ですね。

――最近では、ブログやSNS、Twitterを使って自分で情報を発信することが容易にできるようになりましたが、ネットメディアの可能性はどう感じていますか?


浅野健一氏: それは大きいと思いますよ。SNSの普及ってまだ3、4年でしょ?インターネットもせいぜい、十数年ですよね。だから、これは一種の革命ですよ。SNSで情報発信できるようになって、マスメディア以外からも情報を取れる。それはすごく希望ですよね。僕は「記者クラブメディア」対SNSと言ってるんです。あるいは、記者クラブメディア対民衆のメディアって言うかな。これはくっきり分かれますよ。東電福島原発の事故のあとにFace bookなどで、広河隆一さん、森住卓さん、綿井健陽さんらが、3月12日から現場に入って、14、15、16日と発信しました。放射性物質が放出して危険だから逃げるべきだと警告した。それで、既にメルトダウンが始まってるとかいう情報をちゃんとネットで取れた人が約8パーセントいるらしいですよ。ただ、日本はもうひとつネットジャーナリズムが伸びないんですよね。右翼的なネットメディアはあるんだけど。本当に正しい方に力を入れるネットメディアは少ないです。

――災害時は流言が飛び交ったりということもありましたが、ネットでの情報発信には危険な面もあるのではないでしょうか?


浅野健一氏: ネットの怖さもあります。情報を発信する時には、人の名誉を侵害してはいけないし、デマを流してはいけないとかね。小学生がネット上でいじめられたり、裸の写真を子どもたちが流したり、人権侵害でもめてますよね。それってそういうことをやった時の影響を知らないんですよ。それは教えないと分からない。そういう教育を小学校からやるべきだと思います。

――先ほどから、子どもに教えることが重要であるということを繰り返しおっしゃっていますが、やはり教育は非常に重要なポイントですね。


浅野健一氏: スウェーデンの立派なジャーナリストとか法律家の人たちに言われてはっとしたんですけど、人権意識であるとか、人間が皆平等だとかいう倫理みたいなものは、金をかけて教えないと分からないって言うんですよ。だから、障がい者の子どもたちと障がいのない子どもたちが、一緒にキャンプをやって1週間位一緒に暮らす。そういう努力をしてるんですよ。肌の違いとか、男女で絶対に差別してはいけない、誰でも障がいを持つことがあるとということことを徹底的に教え込んでるんです。人とお金をかけて、しかもずっと続けないといけない。どこかでやめちゃうと、すぐだめになるって言ってます。もしその努力をやめたら、移民は出て行けとか、ナチズムみたいなものに一晩で変わるって言います。はっとしましたね。日本国憲法が言う、国民の「不断の努力」によって、人権や民主主義を保持しなければならないということですね。

著書一覧『 浅野健一

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